ユーザーファーストと環境貢献を両立。『スタディサプリ』の環境担当に聞く、事業を通じた環境負荷低減への挑戦
温暖化、気候変動などの環境問題が年々深刻化している現代。企業活動においても、CO2をはじめとしたGHG(Greenhouse Gas=温室効果ガス)の削減が強く求められています。
以前から「事業サービスを通じた環境保全活動」を掲げてきたリクルートでは、ISO14001※に基づく環境マネジメントシステムなどを活用し、事業領域ごとに環境担当を配置。事業担当者の視点でサステナビリティを追求するにはどのような発想が必要だったのでしょうか。『スタディサプリ』を有するまなび事業で環境担当を務める依田和人に、これまでの道のりについて話を聞きました。
※環境マネジメントシステムの国際規格
ファーストステップは「既存の事業活動を“環境視点”で捉え直す」
― 依田さんはどのような経緯でまなび事業の環境担当を務めるようになったのですか。
依田和人(以下、依田):リクルートでは、事業単位での環境貢献活動を推進すべく、事業ごとに環境担当を設けています。私がまなび事業の担当者になったのは、当時発行していた紙の情報誌『進学事典』の編集長だったことが主な理由。紙資源を多く消費し、情報誌を配送する過程でもGHGを排出していますから、まなび事業のなかでも私の組織が一番関係あるだろうということでの任命でした。
― どのような想いで取り組みをはじめたのでしょうか。
依田:本音を言ってしまえば、環境活動に特別な関心があったわけではないんです。と言うのも、私たちまなび事業が目指しているのは生徒に学びの機会・進路の選択肢を提供することや、新たな学習体験によって生徒・先生・保護者に価値を提供すること。もちろん環境に配慮することの重要性は理解していますが、環境貢献に取り組むことが事業の目指す方向性と合致しているのか、半信半疑だった部分がありました。
― 任命されたものの、どう取り組むべきか迷う気持ちもあった、と。その状態からどのように進められたのですか。
依田:まずは、「事業活動を通した環境貢献」とはどのようなものなのか情報収集をしました。すると、多くの場合は「事業内で啓発活動を行う」「環境貢献の指針を策定する」といったところからスタートし、既存の事業活動とは別に追加で取り組む形が多かったんです。しかし私は、このやり方をできれば避けたかった。と言うのも、もし環境貢献活動が事業の目的に直接つながらないのであれば、よけいな手間やコストを払う活動とも捉えられます。事業活動と環境貢献が二律背反になっている構造では前向きに発展しないと思いました。
そこで、まなび事業では新たに環境貢献活動を立ち上げるという発想ではなく、「まずは今の事業活動がどれくらい環境に影響しているか(貢献しているか)」を可視化するところからスタート。プロダクトやサービスを、環境という視点で捉え直してまなび事業の現在地を知ることからはじめたんです。
「より速く、シンプルに、もっと近くに。」することは、環境にも優しい
― “事業を環境視点で捉え直す”とは、具体的には何を行ったのでしょうか。
依田:まなび事業の『スタディサプリ』がユーザーに提供している価値そのものや、提供のプロセスが環境にどんな影響を与えているのかを洗い出してみました。すると見えてきたのは、ユーザーの利便性向上を目的として教育現場や学習体験のDXを推進してきたことが、環境負荷の低減にもつながっていることです。
例えば、『スタディサプリ』は、デジタルプラットフォームとして日々の学習や進路検討の支援を行っており、先生・生徒・保護者のコミュニケーションを一元管理することで利便性を高めています。これは紙の教材や宿題・連絡のプリント類を削減することにもつながる。また、『スタディサプリ』は居住地による学習機会の格差を解消することも目的のひとつとしてスタートしたオンライン学習サービスですが、オンライン学習の機会が広がれば、ユーザーが塾へ通うために車や公共交通機関で排出していたGHGの削減にもつながります。
このように、リクルートが提供するコンテンツを紙からデジタルに移管することによる環境負荷低減に加え、ユーザーが排出しているGHGの削減にも貢献している事実が見えてきました。
― DXを推進することは効率や生産性という価値だけでなく、環境負荷を下げる効果もあるのですね。でもそれは、「今の事業戦略がたまたま環境問題と相性が良かった」ということではないのでしょうか。
依田:たしかに、まなび事業は『スタディサプリ』を通して教育現場のDXを推進していく戦略を取っていますが、本質的にはリクルートがミッションに掲げる「より速く、シンプルに、もっと近くに。」にひもづくアクションです。DXという手段に限らず、「より速く、シンプルに、もっと近くに。」を追求することがユーザーの無駄や手間を省き、結果的に資源やエネルギーの使用も抑制できるはずだと捉え直しています。
― 事業で取り組みを推進するために、担当者としてこだわったポイントがあれば教えてください。
依田:担当者だけで環境というテーマに向き合うのではなく、事業全体に働きかけることを意識していました。例えば取り組みをスタートした時点から事業責任者とも進め方をすり合わせ、まなび事業がどれくらい環境に貢献しているのか、トップメッセージとしてポジティブに発信してもらうように。事業に携わる一人ひとりが、「自分の仕事は環境にも貢献している」と感じられる状態をつくっていきました。
そうした積み重ねによって、周囲の協力も得られやすくなっていったんです。ほかの部長やマネージャーにも私の環境担当としての役割が認知されるようになり、ポジティブに協力を仰いだり意見を聞きやすいムードができ上がっていきました。おかげで多様な視点で事業の環境影響を把握することができ、私が普段の業務で管轄している範囲だけでは見えなかった事実も踏まえながら、取り組みに活かせています。
「ユーザーへの貢献」という軸はぶらさない
― 取り組みの結果、まなび事業ではどれくらいの環境貢献ができたのでしょうか。
依田:教育現場で紙運用されていたもののDXを積極的に進めたことで一定の成果が出ており、例えば情報誌『進学事典』のアプリ化によるCO2削減量は、1,822.2t-CO2e※となっています。そのほかにもDXによる効果の定量化に取り組んでいますが、これらは自分たちの努力の結果というよりも、それだけマーケットに改善余地があったのだと捉えていますね。環境担当の私としても、貢献の絶対量ではなく事業活動のなかで環境問題に取り組むプロセスに意義があったと考えています。
※当該情報誌の用紙製造~印刷製本製造~輸送~廃棄リサイクル段階におけるCO2排出量より、アプリの使用維持管理におけるCO2排出量を差し引いて算出した数値であり、ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン株式会社による「独立した第三者保証」を取得している。(評価期間:2021年4月1日~2022年3月31日)
― 事業活動を環境という観点で評価・可視化することは、メンバーの環境への意識を変える効果もあったのではないでしょうか。
依田:自分たちの事業に誇りを持つという意味でメンバーの皆に気づきを提供できたのなら嬉しいです。最初に申し上げた通り、まなび事業や『スタディサプリ』の第一の目的はあくまでもユーザーである生徒や先生により良い価値や新たな機会を提供することだと考えています。「ユーザーの便利を追求することは環境にも優しい」のだと、皆が自信を持って事業活動にまい進できることこそが、環境担当として私が目指したい世界です。
― いわゆる「サステナビリティ部門の人」としてではなく、「事業を推進する立場」としてサステナビリティを担当することで、依田さんはどんな気づきを得ましたか。
依田:事業のなかにいる立場だからこそ、事業と環境をシームレスにつなげる役割を担いやすいのかもしれないと思いました。新しい施策をゼロから立ち上げるのではなく、ユーザーの体験価値を上げながら違和感なく環境にも貢献していく形にこだわれたのは、事業の主体者としてユーザーやマーケットに向き合っているからこそです。そうやって一見距離が離れていると思われがちな事業活動と環境貢献の距離を近付け、皆がポジティブに向き合えるような状態をつくることが、事業活動を通した環境貢献を発展させる鍵なのだと学んだ気がしますね。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 依田和人(よだ・かずと)
- 株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 まなび教育支援プロダクトマネジメントユニット コンテンツマネジメント部
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2010年12月リクルートにキャリア採用入社。以来、まなび事業において、進路領域の情報誌の編集長、プロダクトマネジャーを担当し、現在は教育支援領域のコンテンツの責任者として、一貫して『スタディサプリ』のプロダクトに関わっている