働いた分の賃金を即時に受け取れる、リクルートの「賃金のデジタル払い」とは?

働いた分の賃金を即時に受け取れる、リクルートの「賃金のデジタル払い」とは?

給与は手渡しもしくは銀行口座への振込が一般的ですが、最近、デジタルマネーでも受け取れるようになっていることをご存知でしょうか?リクルートと株式会社三菱UFJ銀行が共同出資する子会社の株式会社リクルートMUFGビジネス(以下、RMB)も2024年12月13日、賃金のデジタル払いを手掛ける資金移動業者として厚生労働大臣からの指定を受けました。本指定により、リクルートが提供する給与支払サービス『Airワーク 給与支払』とRMBが提供する決済ブランド『COIN+(コインプラス)』※1の連携が完了。2025年1月16日より、給与を即払いでデジタルマネーにて受け取ることができるようになりました※2。本サービスの実現に向けて舵を取った、RMB 取締役COOである西脇源太と、リクルートの渡辺和樹に「即払い」という機能や賃金のデジタル払いについて話を聞きました。

※1『Airワーク 給与支払』は、毎月の振り込みがラクになる給与支払サービス。給与を1クリックで振り込めるほか、申請に応じて給与の即払いにも対応できる。『COIN+』は、RMBが提供する決済ブランド。決済手数料は0.99%(税抜)と比較的安価。送金アプリ『エアウォレット』に決済機能として組み込まれている。
※2『Airワーク 給与支払』を利用する全ての事業者を対象に、2025年1月16日よりサービス提供を開始

賃金のデジタル払いとは?

― キャッシュレス決済の普及は生活のなかで感じますが、従業員の給与をデジタルマネーで支払う・受け取る仕組みがあることは、まだそこまで認知されていないと思います。まず賃金のデジタル払いの概要を教えてください。

渡辺:賃金のデジタル払いとは、従業員が銀行口座ではなく、キャッシュレス決済サービスなどのアカウントを介してデジタルマネーで給与を受け取ることができる制度です。

ご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、日本の法律上における賃金の支払方法の原則は、「通貨(現金)を手渡しで支払うこと」となっています。それが、特例として労働者の同意を得た場合には、銀行口座と証券総合口座に振込で支払うことが可能となっており、今では銀行振込による給与支払いが広く実施されています。

このように給与は現金手渡しもしくは銀行振込で受け取るものでしたが、2023年4月に「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」が施行。厚生労働大臣の指定を受けた、一定の要件を満たす資金移動業者の口座への資金移動によって、労働者への賃金のデジタル払いが解禁となったのです。

― いつの間にかそんな法律が施行されていたのですね。

渡辺:キャッシュレスマネーの普及や送金サービスの多様化が進むなかで、賃金のデジタル払い・デジタル受け取りのニーズが増えてきたことが、2023年の法改正の後押しになったと考えられます。ただ、現時点で賃金のデジタル払いのメリットについては、世の中的に答えが出ている段階ではありません。

そこで、私たちはデジタル給与を受け取ることに明確なメリットを持たせたいと考え、給与の“即払い”での対応をすることを決め、この度2025年1月から、即払いを可能にしたサービスの提供を開始しました。

賃金のデジタル払いについて話すリクルート従業員の渡辺和樹
賃金のデジタル払いについて話すリクルート従業員の渡辺和樹

働いてすぐ給与を受け取れる“即払い”で、デジタル払いの価値を高めたい

― 給与の即払いとはどういうことでしょうか?

渡辺:通常、働いた月の翌月に1ヶ月分の給与が1回だけ支払われるケースが多いですよね。しかし、給与を受け取る側にとっては、「必要な時に手元にお金がない」という事態を防ぐために、給与を受け取るまでのタイムラグが少なく、欲しい時に受け取れると嬉しいはずです。例えば、就職・転職したてのタイミング。初任給まで1、2ヶ月待たねばならず、苦しい思いをされた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか? しかし、それが普通だと思っているから、皆さんどうにか工面されてきました。ところが、スポットワーク(スキマバイトなど)やギグワークの台頭により、最近では特に若年層において、給与は即日で受け取れるものといった感覚が生まれ始めています。

そこで今回、『Airワーク 給与支払』の“即払い”を開始しました。即払いは、働いた分の給与を本来の給与受け取り日よりも前に、いつでも好きなタイミングで受け取ることができるサービスです※3。従業員の方は、即払い申請した給与を、銀行口座とデジタルマネーのどちらで受け取るかを選べ、申請から最短 10 分で給与を受け取ることが可能になります。当月労働分の給与が翌月まとめて1回で支払われるという現行習慣とは異なる、新しい給与受け取りの選択肢です。

※3導入企業は、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する従業員との間での労使協定締結、従業員への説明・同意取得が必要となります

― 便利な分、手数料などもそれなりにかかりそうですが…

渡辺:確かに銀行の振込手数料上昇なども報道されている昨今で気になりますよね。そこはかなり調整をし、即払い手数料は1回につき110円(税込)でご提供させていただいています(2025年1月時点)。また、『エアウォレット』経由で決済ブランド『COIN+』を利用すると、口座連携した金融機関と何度でも無料で入出金もできるため、デジタルマネーで受け取った即払い分の給与を好きなタイミングで銀行口座に出金することも可能です。

給与の即払い機能の概念図

リリースまで約2年。前例がないゆえの長い道のり

― 給与をデジタルマネーで受け取れるのは他社サービスにもありますが、リクルートの賃金のデジタル払いはそれとは異なるのですよね?

渡辺:“即払い”での賃金のデジタル払いに特化しているというのが、特徴です。もともとの賃金のデジタル払いは、即払いを前提としているものではなかったのですが、私たちは欲しい時に何度でも給与を受け取れる即払いにこそメリットがあると考え、今回即払い機能前提で厚生労働省への申請を行いました。

― となると、サービス開発で大変なこともあったのでしょうか?

渡辺:即払いという前例のないサービスでの申請であったことや、リクルート、RMB、三菱UFJ銀行の3社が関わるスキームで申請をしていたことなどもあって事前審査に時間がかかりましたが、必要な時間であったと認識しています。保証時の対応など多岐に渡り様々なケースを想定し、労働者保護に資する内容になっているか確認し、双方の見解をすり合わせながら、審査を進めていただきました。

西脇:審査がいつ終わるのか分からない状態が続いていたので、精神的にもタフさが求められましたね。何とか無事にサービスをお届けできることになって本当に良かったです。

賃金のデジタル払いについて話すリクルートMUFGビジネス取締役COOの西脇源太
賃金のデジタル払いについて話すリクルートMUFGビジネス取締役COOの西脇源太

― どうしてそこまで即払いにこだわったのでしょうか?

渡辺:やはり本当に役に立つサービスを作りたいという想いが強かったです。「賃金のデジタル払いが法律で認められたなら、デジタルマネーで給与を受け取れると世の中的に何が嬉しいんだろう? 何が便利なんだろう?」という自問に対して、「即払い」の実装しか考えられませんでした。今まで通り月に1回受け取れるだけであれば、デジタルマネーを月に1回、銀行口座からチャージする手間を削減するのみになってしまう。それよりも、賃金の即払いを求めてスポットワークに人が流れ、採用難に苦しんでいる目の前の事業者や、給与日まで苦しい思いをする従業員の方が少しでも減れば…、そんな想いがありました。

― なるほど。ただ、今回のデジタル払いへのサービス着手は、リクルートが展開しているマッチング事業とは少し遠いイメージもあるのですが、どのような位置づけなのでしょうか?

西脇:今回即払いを可能にした『Airワーク 給与支払』は、『Airレジ』『Airペイ』をはじめとした「Air ビジネスツールズ」というリクルートの業務・経営支援サービスのうちのひとつです。「Air ビジネスツールズ」は2013年に『Airレジ』からスタートして以来、予約・受付管理、人材採用、シフト管理など、事業運営のアナログな業務にかかる手間、時間、コストを削減するようなサービスを提供。合わせて、資金調達や請求書管理など、大切なお金の流れをサポートするための金融支援にも取り組み、サービスの幅を広げてきました。いずれのサービスも本来お店が力を入れたい業務にかける時間やコストを創出する一助になればという思いでお届けしています。

「Air ビジネスツールズ」では、AirIDひとつで利用できる多様な業務・経営支援サービスを展開している
「Air ビジネスツールズ」では、AirIDひとつで利用できる多様な業務・経営支援サービスを展開している

西脇:「Air ビジネスツールズ」には、お店の決済サービス『Airペイ』や資金調達サービス『Airキャッシュ』など、既にファイナンスの要素を持つサービスがありますが、今回の賃金のデジタル払いの実現により、お店の売上が従業員の給与として支払われるまでのお金の循環をつなぐ最後のピースがつながったと言えます。そして、従業員の方が、『COIN+』で受け取ったデジタル給与を、今度は消費者として別のお店で『Airペイ』でキャッシュレス決済をする…というように、各サービスが連動することで、事業者・従業員・消費者、どの立場の方にとっても価値を感じていただけるようになるのが、私たちの目指す理想の姿です。

もっと便利で自由な未来を目指して

― 事業者の方だけでなく、従業員や消費者にとっても意味のある形を「Air ビジネスツールズ」全体で目指しているのですね。最後に、本サービスを通じて、世の中に提供していきたい価値や目指したい未来について聞かせてください。

西脇:まだ立ち上げ期ではあるので、給与を短スパンで細かく受け取れる、『Airワーク 給与支払』および『COIN+』をもっと広めていきたいです。実際に海外では、給与の支払いサイクルが短く、複数回に分けて給与を受け取ることが一般的な地域もあります。日本でもニーズにあわせながら、事業者様にとっても従業員の方にとっても、使い勝手の良い給与支払い・受け取りになるお手伝いができれば。あわせて、皆様の大切なお金を扱うサービスをご提供する以上、利便性や満足度の向上と同時に、セキュリティ面での安全性も担保できるよう、引き続き入念に対策を講じていきます。

渡辺:賃金のデジタル払いは、事業者様にも採用面などでプラスとなるメリットはありますが、やはり働き手である従業員側のメリットが大きいサービスです。働き手の身になると、心理的に「自分の方が立場的に弱い」と感じてしまうことは往々にして起こり得ます。そうすると「急な事情で給与を少し早く受け取りたい」「給与を何回かに分けて受け取りたい」というような要望はどうしても言いづらかったりします。

だからこそ、誰か第三者が事業者に「早く何回かに分けて受け取れる方がいいですよ」と説得しにいかなければ変化は生まれない。私たちのサービスモデルは、BtoBtoC(Business to Business to Consumer)で、事業者様に導入をしていただくことで、利用されるカスタマーの方が増えるというモデルなので、従業員の方の想いを代弁しながら、事業者側のニーズも汲んだ提案をすることが、私たちが貢献できること、サービスの真の価値なのではないか、と思っています。従業員の方が感じている不便や不利などの困りごとを汲み取り、その解消のために、今後も時間がかかったとしても、しっかり汗をかいて取り組んでいきたいです。

賃金のデジタル払いについて話す西脇源太と渡辺和樹

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

西脇 源太(にしわき・げんた)
株式会社リクルートMUFGビジネス 取締役COO
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 SaaS領域プロダクトマネジメント室 新規決済プロダクトマネジメントユニット ユニット長

戦略コンサルティング会社で幅広い業界を対象に戦略構築等に関わった後、2015年に株式会社リクルートライフスタイル(現・株式会社リクルート)に入社。旅行情報誌『じゃらん』の関連サービスや新規事業検討に携わった後、RMBに出向し、取締役COOに就任

渡辺 和樹(わたなべ・かずき)
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 HRSaaSプロダクトマネジメントユニット ペイロールプロダクト部 部長

2013 年4月に株式会社リクルートコミュニケーションズ(現・株式会社リクルート)入社。HR領域における採用支援業務、新規事業開発などを経て、業務支援領域における新規事業開発を担当。2024年に参画したリクルートペイメントでは「法人口座開設仲介」を推進し、現在に至る

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