誰もがどんな環境でも学べる『スタディサプリ』に。元教員に聞く新機能開発の裏側

誰もがどんな環境でも学べる『スタディサプリ』に。元教員に聞く新機能開発の裏側

大学卒業後は私立中学校に理科教員として勤め、コンサルティング企業への転職を経て、2021年にリクルートに入社した白石雅久。オンライン学習サービス『スタディサプリ』のプロダクトマネジメントを担当し、2025年2月には新たな学習補助機能として「生成AIを活用した字幕表示機能」の開発を担当した白石に、プロダクト設計に込める想いについて聞きました。

中学教員からリクルートに。その理由は?

― 元々は、中学校の先生だったと聞きました。

白石雅久(以下白石):祖父が教員だったこともあり、幼少期から馴染みのある職業でした。学部卒業後は、母校だった私立中学校に理科教員として2年勤務していました。

教員だった頃は、実はビジネスの世界に全く興味がなかったんです。ですが、進路に悩む生徒さんに向き合うなかで、自分は彼らに道を示せるほど社会を知らないなと痛感して…。「自分はこのままでいいのだろうか」と悩みが生まれてきた時に、恩師だった職場の先輩に「まだ若いんだから、学校以外の世界を勉強してみたら」と後押ししてもらったこともあり、転職を決めました。

― 一度学校の外に出て、どんなキャリアを積んで、リクルートに?

白石:まずは世の中にどんな事業があるか幅広く知りたいと思い、コンサルティング会社に入社し、さまざまなクライアント企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を3年担当しました。次第にビジネスの面白さに目覚め、アドバイザーではなく主体者として事業に携わりたいという意思が芽生えるようになって、これまでの教育現場の経験、DX推進の知見を活かせる環境を探したのがきっかけです。

― そこで出会ったのが『スタディサプリ』だったんですね。

白石:教員時代から存在は知っていて、2012年に当時は珍しかったオンライン学習サービスとして誕生して以降、10年間で全国にサービスが普及したことから注目していました。

そして、今では、学校向け『スタディサプリ』は、全国のうち約半数の高校で利用いただく規模※1となりました。ここで自身が主体者として新しい機能を率先して提案し、現場でより早く実現するための推進を担える環境はやりがいがありそうだなと思ったんです。

※1 学校向け『スタディサプリ』は、全国の高校約5,000校のうち2,322校で導入いただいております(2024年3月時点)

リクルートのオフィスでインタビューに答える白石雅久

― 白石さんはこれまで『スタディサプリ』をどんなプロダクトにしたいと考えてきましたか?

白石:「どんな生徒でもどこでも使える『スタディサプリ』であること」が、すごく大事だと思っていて。私は教員時代、さまざまな生徒さんの学習指導を担当してきました。そこで実感したのが、一斉授業の形式では理解に時間がかかる生徒さんでも、決して勉強が苦手という訳ではないこと。

だからこそ、本来学ぶ力を持っている生徒さんが、例えば文字が読めない、音が聞き取れないといった理由で、授業をうまく理解できない状況はなんとかして解決したほうがいい。その打ち手のひとつとして、教材のアクセシビリティを改善することはできないだろうか、とは当時から思っていました。

― 実際、入社後にそうしたアクセシビリティの向上に取り組んできたのでしょうか?

白石:2021年から『スタディサプリ』が高校向けに提供する「到達度テスト」のDX※1を担当した際にも、実際に社内でも同様の声を受け取りました。特にデザイナーから色覚特性やディスレクシアにも配慮したデザインを求める改善提案があり、こうした観点は「教育環境格差の解消」というプロダクトの理念とも合致していることから、何かプロダクト全体のアクセシビリティ向上のために働きかけられることはないか、とアプローチを模索するように。そうしたなかでの第一歩が今回リリースした「生成AIを活用した字幕表示機能」です。

※1 『スタディサプリ』上に新しくオンラインテストのプラットフォームを導入し、従来紙で提供していたものをCBT方式(Computer Based Testing:デジタルデバイス上で出題・解答する方式)に変更した

新たな学習補助機能「生成AIを活用した字幕表示機能」とは?

― 今回、新たに追加した「生成AIを活用した字幕表示機能」とは、どんなものですか?

白石:『スタディサプリ』が高校生向けに配信している講義動画のうち、「数学Ⅰ・A」と「情報Ⅰ」の3科目の基礎レベルの講座において、生成AIを活用した字幕の追加が可能になりました。※2これによって、デバイスの音声が聞き取りにくい環境にいる方、音声を聞き取ることが難しい方も学習できる状態を目指しています。

※2 まずはインターネットブラウザ版のみでの提供。追加費用はかかりません。

『スタディサプリ』生成AIを活用した字幕表示機能の画面イメージ

― 実際、どんなシーンで使うことを想定していますか?

白石:具体的には、単純に「音が聞き取りづらい環境」、例えばバスなどの公共交通機関での通学時などで、学習したい時を想定しています。単語帳や教科書を捲るような感覚で、隙間時間などに手軽に学習したい時に、字幕さえあればイヤホンをつけずとも学習することができます。また、この機能の実装により、聴覚障がいのある方にも『スタディサプリ』のコンテンツを利用いただけるようになりました。

『スタディサプリ』は基本的に画像と音声による動画コンテンツであるために、音が聞き取れる状況にない時には学習の質が下がってしまいます。そうした時にも使えるプロダクトにして、『スタディサプリ』を利用できる人を増やしたい、というのが、私たちの思想です。

教室内で高校生が『スタディサプリ』を活用して学習する様子

― それにしても「生成AIによる字幕」という機能自体は、各動画プラットフォームでは既にー般化しています。なぜ『スタディサプリ』は、今になって取り組んだのでしょうか?

白石:以前からアクセシビリティ向上に取り組みたいと考え、さまざまな機能の開発を検討してきましたが、特に字幕機能に関しては、生成AI技術の進歩によって後押しされたところが大きいです。

― 生成AI技術の進歩? 一般的な字幕は、ほとんどが生成AI技術によるものだと思いますが、何が違うのでしょうか。

白石:『スタディサプリ』は教育コンテンツである以上、字幕の正確性が特に重要です。大量の教材に対して人力での対応が現実的ではないという前提のなかで、いかに高品質な字幕を提供できるかが課題でした。

そこで、生成AI技術の検証を重ねるなかで、字幕作成のみならず、誤りの修正やコンプライアンスチェックにも生成AIを活用できる可能性が見えてきて。独自の運用体制に落とし込んだことで、生成AIによる字幕提供が可能になりました。

― 試行錯誤を重ねるなかで、教育プロダクトとしてリリースできる品質に達したと確信できた瞬間は?

白石:教育現場の先生方から直接フィードバックをいただけたことが、大きな転換点になりました。それまでビジネス検討を開始し、いかに字幕精度を向上するか模索していたなかで、実際にろう学校の先生にβ版を試していただきました。すると、それまで現場で使用されているものよりさらに品質が高いということが分かり、ぜひ早期に実装してほしいといったご意見をいただいたんです。生徒の皆さんが置かれている学習環境を良くすることに少しでも貢献できるならば、早く世の中に出すべきだと確信を得て、急ぎ開発を進め、2025年2月のリリースに漕ぎつけました。

特に印象に残っているのは、先生方にその進捗を報告した時の反応です。元々は1、2年後に実現されることを想定しての発言だったそうで、もう半年後には使えることにとても喜んでいただけたんです。その時は胸いっぱいの嬉しさでした。

オフィスでスマートフォン越しに談笑するリクルート・白石雅久

白石さんにとって『スタディサプリ』はどんな環境?

― 現在は、プロダクトマネジメント職として教育業界に関わっていますが、どんな時に面白さを感じますか?

白石:生徒に限らず、先生ひいては学校現場に、これまでになかった新しい学びの体験を提供できた時です。

― 新しい学び?

白石:2021年から2024年にかけて取り組んだ「到達度テスト」のDXを例に挙げると、従来の紙のテストをオンライン化することで、生徒さんが翌日には結果を受け取り、記憶が鮮明なうちに自身の実力を把握し、次の学習に活かせるようになりました。

私自身、教員時代は、黒板で授業をし、紙のテスト採点が当たり前でした。当時はここまで教育現場でデジタル化が進み、学びの形が変わるなんて、想像もしなかった。現場の当たり前を変える難しさを知っていただけに、実現した時の嬉しさはひとしおでした。

今後も社会の変化に応じて、率先して新たな学習体験を考え、教育現場にご提案していけたらと思っています。

― 教育にかける想いは、教員時代から変わらない印象を受けます。

白石:そうですね、より多くの生徒さんの学習体験に関与し、結果的に明るい未来へ進んでいく手助けをしたいという根本的な想いは変わっていません。

教員時代を振り返ると、特に理科の授業では実験を通じて学ぶ楽しさに目覚める生徒さんが多くいたんです。授業の設計次第で、生徒さんから「理科は苦手だったけれど、実験をやってみるとすごく楽しかった」という声を引き出した瞬間や、ちょっとした雑学を起点にした学びを経て、そこで身につく思考に純粋に興味を持ってもらえた瞬間に立ち会えるのが何より格別で。教員の仕事で一番面白かったところです。

そして今は、自分が構想し設計したプロダクト・機能が、高校生の皆さんの学習環境を変え、ひいてはその後の人生に影響を与えることができるかもしれない。教員時代とは異なるアプローチですが、今の私にとって、最も夢中になれる、そして貢献できる環境が『スタディサプリ』にあるのだと感じています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

白石雅久(しらいし・がく)
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 販促領域プロダクトマネジメント室(まなび) まなび教育支援プロダクトマネジメントユニット 小中高プロダクトマネジメント部 高校戦略グループ

理科教員、テクノロジーコンサルタントを経て2021年に入社。以来現部署で『スタディサプリ』のプロダクトマネジメントを担当

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