対談:LINE, Indeed - 億人を惹き付けるサービスから見る世界との戦い方 - 1
世界4億9000万人が利用する「LINE」と月間で世界1億5000万人が利用する求人サイト「Indeed」。その世界との戦い方とは?ファシリテーターに「NewsPicks」編集長の佐々木紀彦氏を迎えた特別対談。
世界各国で無料通話・メールアプリを展開する「LINE」の田端信太郎氏と、世界55カ国以上で展開し、急成長を果たす転職・求人情報検索サービス「Indeed」の出木場久征氏、それぞれの事業における実情や今後の動向まで、全4回に渡りお伝えする。
田端 信太郎(以下、田端) この対談って、リクルートのコーポレートサイトに載るんでしたよね? 思いっきり公式見解になりますね。
出木場 久征(以下、出木場) 公式見解になるんですか?
佐々木 紀彦(以下、佐々木) そこをあえて代表発表っぽくしないことを、この対談のおもしろさにできればと。 今日の趣旨としては、田端さんに元リクルートの方としてリクルートを大批判していただく、とか(笑)。
出木場 僕も乗っかる可能性があるかもしれない。まずいですね(笑)。
佐々木 個人とマネジメント両方の立場を踏まえながら、「グローバル」「テクノロジー」「社会的課題」の3つのテーマを織り交ぜつつ語っていただけたらと思っています。
佐々木 まず「LINE」ですが、現在ユーザー数がまもなく5億人ということで、スペイン語圏などでも大成功している。「LINE」が世界でこれだけ成功している理由はどこにあると思いますか?
田端 スマートフォンが普及するタイミングとか、いろんな意味でラッキーなところもあったと思います。 正直な話でいうと「Google Play」とか「Apple App store」というプラットフォームがなかったらこんなにも盛り上がらなかった。 そういう意味では、いまどきのスマホ企業のグローバル展開というのは言語依存もしないので県境を越えるみたいなもの。 それでいうと、営業や事業活動、広報やプロモーションだけならまだ空中戦の域。 本当の意味での地上戦がグローバルにできているかというと、そこは全然チャレンジの途上だと思っていて。
佐々木 他の企業が掲げているグローバル展開とは違うということですか?
「Indeed」買収時にやったことは、しっかり地上戦も仕掛けるということ
田端 どちらかというと、人工衛星から写真を撮っているだけみたいな、良くも悪くもビジネスとしてのレイヤーが違うんです。 一回も出張に行ったことない国でも、アプリとプラットフォームの掛け合わせの中でどんどんランキングが上がったりするし、 「What's up」のように社員数が我々の10分の1でもユーザー数が多かったり。 社員が数十人の会社でも数億ユーザーいるというのは一昔前は考えられないことで、面白いことだと思ってます。
出木場 逆に、国内では地上戦をしてるというイメージなんですか?
田端 国内では結構やってる意識はありますね。そうはいってもリクルートの「Hot Pepper」や、 楽天さんがやってる地方のEC業者のためのサービスのような地上戦はまだできていないですが。
佐々木 そういう意味でいうと、出木場さんはテキサスに住んでCEOをしている。 まさしく地上戦を世界でやっているということだと思うんですけど。
出木場 今現在、月間約1億5000万のユニークユーザーがいて、世界55カ国以上、28の言語でサービスを提供していますが、 ユーザーはアメリカが約4割で全体の比率もグローバルのほうが多くなっています。 ただ、買収した当時はまさに空中戦の状態だったので、まずやったことは地上戦を仕掛けるということでしたね。 買収したときは拠点としては2カ国しか展開してなかったですが、今は9カ国にオフィスがあります。でももちろん、空中戦もあります。 SEO、SEMとかね。 アプリも今は30カ国においてビジネスセグメントで1位なのですが、例えば南アフリカでも1位で、ユーザーは250万人います。 ロシアも450万人とかいるんですがどちらも僕は行ったことないです。
田端 スタッフの方は現地へ行ってます?
出木場 いや、それほど行ってないです。 今はアイルランドにインターナショナルのHQを置いていて、そこからヨーロッパの国々やブラジルなどに営業を掛けています。 逆に、ドイツのように顔を見て営業しないとなかなか発注していただけない地域もあるので、今一生懸命現地にオフィスを出していっています。 国によって異なるのが実態ですね。
利用者が一番という"ユーザーオリエンテッド"の姿勢が鍵に
佐々木 「Indeed」も買収後からかなりのスピードで成長してるじゃないですか。 その要因はどのあたりにあると思われてますか?
出木場 やっぱり僕らは、顧客の利便性や満足度を第一に考えたユーザーオリエンテッドで、 これはリクルートとしてはあんまりない形だと思っていて。
佐々木 リクルートはユーザーオリエンテッドじゃないという(笑)。
出木場 まずい(笑)。
田端 クラウドでバランスとる感じですか?
出木場 バランスを取りにいこうとしてダサくなるケースがあると思うんですけど、僕はたまたまリクルートの中で「じゃらん」を長くやらせてもらっていて、当時はユーザーに振って展開しました。 そういう意味では、それに非常に近くて、今もユーザーオリエンテッドでやらせてもらっているんです。 「Indeed」のモデルを簡単に言うと、どの国でもジョブボードと呼ばれる「リクナビ」みたいなサイトがあって、基本的にはお金を払ったお客さんのジョブ情報だけが出ていますが、うちはWebに出ている求人情報を無料で集めてすべて出します。 コンテンツが圧倒的に他のサイトさんよりも多い。 それがSEOにも反映されるので、一番の強さはそこかもしれないですね。
佐々木 「Indeed」はご存じですか?
田端 そこまで詳しくないですけど、ユーザーオリエンテッドとクライアントオリエンテッドいう比較は面白いですね。 僕が思うに、クライアントオリエンテッドって、営業オリエンテッドとも言えるのかなと。
出木場 そうだと思います。
田端 営業オリエンテッドだとクライアントの意思を優先しすぎて、サービスの企画・コンセプトを営業上説明したトークとの整合性が取れなくなる。 しかも、それを優先する余り、サービス自体がダサくなっていく。結局、抱えているユーザーが多ければ、最終的にクライアントも首を振らざるを得ないんですけどね。
出木場 ユーザーとクライアントとの、バランスの取り方というか。
グローバル市場では、バランスを取って勝てるほど甘くない
田端 僕も営業していて辛いところもあるんです。悪く言えば、うちのエンジニアは営業の都合とか全く無視しますから。 大きなはしご外しは辛いですが、かといって放っておくと営業組織ってユーザーオリエンテッドに対して抵抗勢力になるメカニズムが悪気なく常に働いている。 それはいつも思ってます。
出木場 そこは、優先順位付の中で思い切ってやらないとですよね。 だから、営業やお客さん向きのスタッフは僕に文句を言うこともあります。 でも、我々は優先順位でいえばユーザー向けのバリューしか置いてないですし、クライアントと営業のニーズに応じた開発は基本やらないので。
佐々木 そういう意味では出木場さんがリクルートの今までのカルチャーを創造的に破壊していくというか、最前線にいるという感じなんですか。
出木場 僕がラッキーだったのは、さっき言った「じゃらん」でユーザー向けを優先するということをずっとやらせていただいたから。 営業部長と一晩かけて飲んで「おまえがそこまで言うんだったらもういいよ」みたいなことをずっとやってきて、 「Hot Pepper Beauty」に移ってからは、周囲も自分の意見を少しずつ聞いてくれるようになって。 まさに、スーパー営業オリエンテッドだったものから、少しバランスを戻すのができたのかなと。
佐々木 その経験が「Indeed」にも生かされている?
出木場 「Indeed」は少し行き過ぎてるところがあるので、今はそこをどうするかですね。 ただ、グローバルで戦ってると、バランスを取って勝てるほど甘くはないと思います。 相手は手加減をしてくれないですから。
佐々木 リクルートOBの田端さんから見て、リクルートがグローバルでもっと成功するために必要なことというか大事なポイントはどこら辺にあると思いますか。
田端 そんな大それたこと、僕は偉そうに言えないですよ(笑)。
佐々木 ぜひ、言ってください。 リクルートは今まで、あまりグローバルで成功してきているイメージがないじゃないですか。
サービスやコンシューマーインターネットの分野は手探り状態
出木場 先に僕から言ってしまうと、最初「アメリカ行くんですよ」ということすら周囲にあまり伝えなかった。 というのも、失敗する確率のほうが圧倒的に高く、偉そうにアメリカ進出なんて感じは到底出せなかったんです。 そもそも、アメリカのネット企業がアメリカのネット企業を買収しても、成功する確率は25〜30%以下というデータもありましたし、 日本の企業がアメリカのネット企業、しかも上場前の企業を買収してもうまくいく確率って、すごく低いんじゃないかって言われたんです。
田端 それが2年半くらい前ですよね。
出木場 はい。だから、現時点での成功法も決して明確じゃなく、リクルートに限らず今からどうにか構築していくという会社が多いんじゃないかなって。 もちろん、グローバルでもTOPブランドになっているメーカーさんは素晴らしいですが、我々のようにサービスやコンシューマーインターネットみたいな分野は、まさに手探り。 今からいろんな企業がチャレンジしていく、そういう時代になればいいなとは思いますね。
田端 リクルートの、特に国内の強みは営業力だと思いますけど、それと同じことをグローバルで再現するのは無理だと思うんです。 リクルートに限らず大手広告代理店の営業でもいいんですけど、ある意味でのハイタッチのハイコンテクストの手法は過剰サービスで、多分、グローバルでそこまでの対応ってどこもやってない。 ネットに限らずですが、法人営業でそれを成功体験にし過ぎると...ね。 そこはもう気付いてると思うけど、営業じゃなかったら次はテクノロジーってなる。 リクルートは更に、そこから違う軸が必要なのかもしれない。
出木場 いろんな意見があると思いますけど、リクルートって、失敗だらけの歴史です。 過去何年ももがき続けてくれた先輩がいて、それは僕にとってラッキーだったんですけど、そういう先輩のやり方を見せていただく中で、まさしく僕もリクルートの営業スタイルでアメリカで勝負するのは難しいなと。
とにかく"任せる"マネジメントは、世界でも通用する
佐々木 その理由は田端さんと同じ意見ですか。
出木場 海外の営業はそもそもコミッション制だから、営業の概念が違うというか。日本のように固定給とボーナスじゃなく、 半分くらいは売った分だけお金が入ってくるので、やっぱり僕らの意見を営業に押し付けられないですよね。 例えばアメリカだとハンター・ファーマーという図式が多くて、「営業」という職種は基本的に新規獲得しかやらない。 日本だとクライアントが発注してくれた後は、お客さんと長いお付き合いをしていきましょう、となりますけど、アメリカでは、その後ファーマーが営業に代わってその役割をする。
田端 営業文化の違いかもしれませんね。
出木場 ただ、営業スタイルで戦うのは難しいかもしれないけど、長年のもがきの中で僕が教えてもらったのは、"とにかく任せる"というリクルートの強みが世界でも通用するということ。 実際リクルートの海外の派遣事業は「このP/L(損益計算書)の責任を持ってお前がやれ」というやり方でがどんどん業績が良くなっている。 アメリカなんて自由の国だから、一見するとリクルートのようなガチガチなやり方がうまくいくはずないんじゃないかと思いますが、 でも実は逆で、アメリカってレポートライン(報告経路)がきっちりしていて、社長や上司のひと言で動く。 なので、責任を小分けにしてP/Lを渡して頑張れよ、って伝えることで、「社長の言うこと聞かなくてもいいの?」と、新鮮だったみたいなんです。
佐々木 国内のやり方でも、有効なものは移植できるというか。
出木場 これも完全にリクルートの営業の管理手法なんですが、とにかく各責任者に決めてること自体をやってもらう。 仮に僕が違うと思っても、基本的にはその担当領域で一番考えている時間が長い人の判断が正しいと思うから、ということで任せるんです。 それがアメリカでは「そんな社長あんまりいないよ」と珍しがられるので、意外とリクルートの強みはメディアとか営業とかいうより、 50年間やってきたマネジメントスタイルにあるんじゃないかなと、最近はそう思ってやってるんですけどね。
田端 僕からリクルートのOBとして、それとメディア屋としてこうであってほしいなというのをあえて言うと、 例えば「とらばーゆ」とかリクルートの歴史って、結構そのときのある種マイノリティの味方と言うと大げさなんですけど、 抑圧を壊してきたみたいなものがありますよね。例えば、紙媒体だった時の「じゃらん」で実践した鍵付き貸切風呂(※注1)のエピソードもそうだと思うんですが。
出木場 有名な話ですよね。
田端 そういう部類のもので美しく言うと、コンシューマーインサイトというか、 あるいはマイノリティな人材の自立性を支援するようなエンパワーメントをするとか。 もしかしたらアメリカでもやってるかもしれませんが。
出木場 やっている人はやってそうですね。
田端 例えば、「ゼクシィ」の編集長の方が、同性カップルの結婚を応援している記事(※注2)を読んで凄くいいなと思ったんですよ。 それをそのままゼクシィのブランドでやる必要はないのかもしれないですけど、ゲイフレンドリーの結婚式場に特化したサイトみたいなものは、グローバルにあってもいいかもしれない。 アジアの価値観をそのまま受け入れるんじゃなくて「今のままじゃなくてもいいんじゃない?」って、アメリカでも議論が巻き起こるようなことというか。 リクルートっていい意味でアウトサイドだからやれるはずだと思うし、やれるポジションだと思う。別に失うものはないわけだから。
佐々木 価値観のところですね。
バーティカルな部分での勝負だと、「LINE」は「Google」には勝てない
田端 アメリカは保守的だからどこが本当のインサイトかわからないけども、例えば人種に特化したものでもワーキングマザーとかでも、それぞれ価値観や世界観があるじゃないですか。 旅行サイトでも単に安く泊まれればいいのと違う、何かその志の部分はもっと持ち込んでもいいんじゃないかなと。
佐々木 社会が変わるみたいなイメージですか?
田端 それがたまたま、社会は日本じゃなかったとかでもいいですし。人間の欲求って、根本的にはそんなに変わりはないはずなので。
出木場 なるほど。それは逆に、僕にはなかなかない視点で。僕はメディアの概念がなくて、そこは本当に勉強したいなと。
田端 逆に僕は、HR(人材領域)事業の経験は全くないですから。
出木場 もともと僕もなかった。
田端 でも、ないからできる部分はありますよね。
出木場 そう。僕はメディアの概念がなかったから、「じゃらん」みたいにユーザーが検討し始めたら、情報がすぐ来て2〜3時間で決まるくらいがお互いにベストというか、 それぐらいの感じが僕の理想でもあって。今だったら、「Uber」みたいなサービスですよね。 今欲しいと思ったら、すぐ来る、みたいな。だから逆に「じゃらん」時代は、もっとメディア仕立てのほうがいいんじゃないか、ってすごく言われました。
田端 需要自体をつくるような。
出木場 僕が自動販売機みたいなものをつくっちゃったので、おまえが「じゃらん」をつまらなくしたと言われたこともありましたね。 読み物や動画は全部なくしましたから。これはリクルートがどうこうよりも僕の個人的な好みだと思うですが。 効率が良いほうが世の中にとっていいはずだ、みたいな信念が個人的に強くて。 だから、今「Indeed」でやってることは全くそれと同じ。読み物コンテンツとかないのもそういう理由ですよね。
田端 「Indeed」とか「じゃらん」とか「Uber」みたいに、徹底してバーティカルに展開してたら、それはそれであり得るのかもしれない。 そこでいくと、「LINE」の立場でいえば「Google」になかなか勝てる気がしないみたいなところがあるんですよ。 ここはあんまり「LINE」と関係なくて個人的なことかもしれないですけど、メディアの観点でいえば、検索エンジンに放り込ませる単語のニーズ自体をどうやってつくるか。 僕自身は、それができた時点で8割ぐらい仕事は終わっている気がするのかなと。 個人的には検索軸自体をどうやってつくるか、みたいなところへのこだわりみたいなのはずっとあるんです。
※注1・・・鍵付き露天風呂
「じゃらん」のメインターゲットであった20代のカップル向けに、リクルートの広告営業が各温泉宿泊先に"貸切風呂"や"鍵付き露天風呂"の設置を提案。バブル以降、客足が遠のいていた旅館やペンション復活のきっかけとなった企画。
※注2・・・同性カップル結婚式
「ゼクシィPremier」(リクルートマーケティングパートナーズ)の小林隆子編集長が、前身の「ゼクシィAnhelo」時代から同性カップルの結婚式の取材を続け、現在も同性カップルの挙式を継続的に掲載している。
プロフィール/敬称略・名称順
- 出木場久征
- リクルートホールディングス執行役員 兼 Indeed CEO&President
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旅行予約サイト「じゃらん」を始め、数々のメディアのネット化を歴任。2009年に旅行・飲食・美容・学びなどを管轄するCAP推進室室長兼R&D担当に就任。11年に全社WEB戦略室室長、12年4月に執行役員を経て、現在はリクルートが買収した求人サイト、米国IndeedのCEO&Presidentに就任。
- 田端信太郎
- LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当
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NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げ、R25創刊後は広告営業の責任者を務める。その後、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、「BLOGOS」などを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。「VOGUE」「GQ JAPAN」「WIRED」などのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年6月、NHN Japan株式会社に入社、執行役員に就任。広告事業部門を統括。2013年4月、NHN Japan株式会社の商号変更により、LINE株式会社執行役員に就任。2014年4月、LINE株式会社上級執行役員 法人ビジネス担当に就任。現職。
- 佐々木紀彦
- ユーザベース執行役員 NewsPicks編集長
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ユーザベース執行役員 NewsPicks編集長。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。09年7月より復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属。『30歳の逆襲』、『非ネイティブの英語術』、『世界VS中国』、『ストーリーで戦略を作ろう』『グローバルエリートを育成せよ』などの特集を担当。著書に、『米国製エリートは本当にすごいのか?』、『5年後、メディアは稼げるか?』