【中編】対談:2人の17歳CEOが語る、ビジネスと教育と日本の未来
17歳にして、アプリや学生向けサービスを展開する浅部佑さんと三上洋一郎さん。日本版『WIRED』の若林氏が聞く、10代で起業した理由。
中学生で起業し、ビジネス業界で一気に注目を集めた、株式会社NEXTRIYA代表の浅部佑さんと株式会社GNEX代表の三上洋一郎さん。現在、学業と事業を両立させている17歳の2人。中編(全3回)となる今回は、『WIRED』日本版の編集長・若林恵氏とともに、現在の日本の教育について切り込む。
若林恵(以下・若林) 三上さんは、高校を辞められたのですよね。
三上洋一郎(以下・三上) 今年の4月に辞めました。あまり楽しくないと思って(笑)。大学に行かないことに関してはリスクが大きいかなと思うんですが、高校に行かないことに関してはあまりリスクを感じていなくて。高等学校卒業程度認定試験を経て、来年度に大学を受験しようと思っているんですが。
若林 浅部さんはどう思いますか?
浅部佑(以下・浅部) 確かに専門的なことを学ぶのであれば大学には行ったほうがいいかなと。僕は高校を辞めるとは両親に面と向かって言えないですが、通う意味はあるのかな? と思うことはありますね。
三上 高等学校卒業程度認定試験を合格して、自分の学力が伴えば東京大学でも慶應義塾大学でも行けるわけですしね。
若林 大学では何を学ぶんですか?
三上 学部ついてはまだ決めていませんが、経営者だから経営学を学ぶよりも、自分が目指しているもの、自分と違うことをやっている人と出会うことほうがに魅力的かなと感じるんです。いずれにせよ、今の事業は大学へ行っても継続します。僕らが将来的にやりたいことが生まれた時に、プラットフォームを使って実現できる形にしておきたいんです。 もっとも、経営とは何かを改めて体系的に学ぶことも大切だとは考えています。
17歳の目に映る、日本と海外の教育環境の違い
若林 僕らみたいなおじさんや専門家やメディアが、今の教育について議論する場面はあるけれど、17歳の2人は今の日本の教育についてどんなことを感じますか?
浅部 僕は幼少時代をアメリカで過ごしているので、日本に帰ってきてその違いにショックを受けました。一番大きな違いは、日本は考えなくても進んでいく授業が多いということ。アメリカでは課題について事前にそれぞれが考えて、それを授業で発表していく。つまり、言葉を共有していくのが学校や授業という場ですが、日本は知識を得る場であって発信する機会が少ないなって。
三上 僕もサマースクールでイギリスやカナダに行ったことがありますが、浅部さんと同じように日本よりも考えることが多かったなと思います。それと、単純に日本よりもおもしろい先生が多かったですよね。授業中に冗談を言ったり、教科書に添うだけじゃない内容の講義だったり。ただ、日本の教育って世界的にも決して悪くなくて、大学を卒業すれば65歳まで保証されるような仕組みになっている。でもそれは今までの話であって、終身雇用が崩壊し始めている今や将来のことでいえば、大卒であることは担保にはならないわけですよね。もっといえば、海外の優秀な人材と戦わなければならなくて、そういうことが日本の教育の良い悪いの議論に繋がっているのかなと思います。
若林 終身雇用って2人にとってはあまり関係ないかもしれないけれど、周囲の友人や同世代の子たちはどう考えているんだろう? 良い学校を卒業すること=安定・安全だ、って考えが根強く残っていると感じますか?
浅部 学校の勉強をやっていれば大丈夫、という意識は消えつつあるように思っていて、一方で何かしらのスキルを身につけないといけないというか。自分が社会に出た時に何ができるか? ということが求められていると思いますね。日本の教育って基礎はしっかりしているんですが、アメリカはその基礎さえも受けられない人が大勢いる。その中で、自分が得意な分野でのスキルを伸ばしていくシステムもあるので、日本もそういう視点が必要なのかなと思います。
三上 僕が通っていた高校は医師やお坊さんのお子さんも多くて、親子さんと同じように特定の分野だけ勉強していれば大丈夫だ、という人も多かったんです。そういう意味では、昔ながらの考え方の人が多かったかもしれませんね。
企業ができることは、5%未満のコア層への訴求
若林 例えば、僕がつくっている『WIRED』というメディアは、日本における潜在的読者の数がおそらく600万人ぐらいだと考えています。それは、人口の約5%。なぜ5%かというと、エジソンの言葉で「本当に物事を考えている人間は5%。自分は物事を考えていると思っている人間が10%。残りの85%は考えるくらいなら死んだ方がマシだと思っている」というのがあって、僕らは本当に物事を考えている人間である5%に向けたビジネスとして成立させればいいと思っているんです。2人はその5%に入っていると思うけど、他の85〜95%の人たちとの温度差をどう考えていくべきだと思いますか?
三上 僕らが手掛けている『BridgeCamp』は、日本の学生で意識の高い1%を対象にしていますが、その中で母数を増やしていかなければいけません。僕らのミッションは今後の日本を背負っていく学生をサポートすることなので、そのためにまず1%の人材を育てて、その他を公共機関と一緒とキャリア教育を補っていき潜在数を増やして、全体の5%〜15%くらいまで母数を増やしていこうと考えています。ただ、他の85%をどう押し上げるかについては、企業がやるには限界があるので、国がやるべきことだと思っているんですが。
浅部 僕も同じような考え方で、まず5%〜15%の人達を育てて、そこで85%をどう押し上げていくのかを考えなければならない。三上さんが言うように、いきなりその部分を1企業がやるのには限界があるので、まず1%の人達をどう伸ばして、世界で活躍できるような人材に育てていくのかが重要になってくるのかなと。そう考えると、日本の留学制度を充実させたり、世界で学んでもらえる環境を構築することかなと。結果的に、それらで得たものを日本に持ち帰ってもらえればメリットも大きいですから。
三上 海外に行ったきり、日本に戻って来ない人も増えていますよね。
浅部 今はまだ同年代の人たちにあれこれ言える立場ではないので、いずれ自分も日本の力になれるよう頑張りたいですね。
プロフィール/敬称略・名称順
※プロフィールは取材当時のものです
- 浅部佑
- 株式会社NEXTRIYA 代表取締役
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1998年生まれ。2013年に『アプリ甲子園 2013』にて、iPhoneアプリ「SoundGuess」が優勝。『Mashup Awards9』でU-18 賞を受賞。2013 年11 月「株式会社NEXTRIYA」(ネクストリア)を設立。代表に就任。
- 三上洋一郎
- 株式会社GNEX 代表取締役
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1998年生まれ。2011年4月、当時中学2年で学生団体GNEX を結成。サムライインキュベートからの支援により、2013年3月に法人化。中学・高校生を対象としたクラウドファウンディングサービス『BridgeCamp』を展開。
- 若林恵
- 『WIRED』日本版 編集長
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1971年生まれ、ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学 第一文学部 フランス文学科卒業。大学卒業後、平凡社に入社。『月刊 太陽』の編集部スタッフとして、日本の伝統文化から料理、建築、デザイン、文学などカルチャー全般に関わる記事の編集に携わる。2000年にフリー編集者として独立し、以後、『Esquire日本版』『TITLE』『LIVING DESIGN』『GQ JAPAN』などの雑誌、企業や大使館などのためのフリーペーパー、企業広報誌の編集制作などを行ってきたほか、展覧会の図録や書籍の編集も数多く手がけている。また、音楽ジャーナリストとして『intoxicate』『MUSIC MAGAZINE』『CD Journal』等の雑誌で、フリージャズからK-POPまで、広範なジャンルの音楽記事を手がけており、近年では音楽レーベルのコンサルティングなども行っている。