【前編】地方創生のカギは「課題を提起する力」。高知大学 須藤順×博報堂 大家雅広

【前編】地方創生のカギは「課題を提起する力」。高知大学 須藤順×博報堂 大家雅広

文:友光だんご 写真:斎藤隆悟(写真は左から大家さん、須藤さん)

地方創生に教育現場から関わる高知大学の須藤順氏と、企業の立場で関わる博報堂の大家雅広氏に聞く「地方創生って何ですか?」

医療ソーシャルワーカーからキャリアをスタートし、企業の経営コンサルティングやまちづくり支援に携わりながら、高知大学地域協働学部の講師も務める須藤順氏。大学では学生とともに地域に入り、現地の人や地元企業・大企業を巻き込みながら地域活性化に教育の現場から取り組んでいる。

一方、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局に所属する大家雅広氏は、企業向けのイノベーション支援やブランディングに加え、地域自治体の支援にも携わっている。教育機関/民間企業、高知/東京という異なる立場から地方創生に取り組む二人に、地域課題を解決するためのヒントを尋ねた。

ー まず、お二人が地域課題に取り組むようになったきっかけを教えて下さい。

須藤順(以下・須藤)大学を出たあと、数年間は民間病院で医療ソーシャルワーカーをしていました。しかし、次第に目の前の課題をただ解決していくだけではなくて、課題が生まれる構造自体を変えたいと思うようになったんです。そんなとき、海外の文献ではソーシャルビジネスや社会起業家という「地域や社会の課題を構造から解決する起業家」の存在が台頭しており、「これだ!」と。その後、教育を軸に、ソーシャルビジネスや社会起業にも関わる今の仕事につきました。

大家雅広(以下・大家)意識的に取り組むようになったのは、地域の仕事に「人と仕事をしている」実感を覚えたためです。博報堂では大企業のクライアントが多いのですが、業務規模が大きくて自分自身の仕事の手応えが希薄に感じてしまうこともあるんですね。金沢出身で、地域に貢献したいという気持ちも元々あったので、現在は対企業と対地域の両軸で仕事をしています。

なぜ地方創生は必要なのか

ー そもそも、どうして地方創生は必要とされるのでしょうか。

須藤 「これまでの画一的なモデルが機能しなくなったから」ということが大きいと思います。日本社会全体が高齢化し、人口規模や首都圏のマーケット機能という、今までの前提条件が崩れ始めた。すると、ただ単に国のような大きな存在が作った枠組みを地域にあてはめるやり方では、もう回らないんです。これからは、地域ごとの課題に適合した方法論を、地域に住む人たち自身が考えていかなければいけない。

須藤順

大家 自分自身で考えなければいけないということは、これからの時代、自治体だけでなく企業にも当てはまると思います。

須藤 その通りですね。

大家 僕が普段仕事をするとき、相手が企業でも自治体でもスタンスは同じで、こちらで解決策をいきなり出すのではなく、課題を見つける手伝いをするということを心がけています。

須藤 国も画一的にお金をばらまくんじゃなく、自治体がもってきたプランに応じてお金を出すような流れを感じます。地域側が試されている時代でもありますよね。

いいまちづくりには「エコシステム」が重要

ー 大家さんは企業側の人間として地域に関わることが多いと思いますが、地域に求められる姿勢や思考として、具体的にどのようなものがありますか?

大家 よく「3つの視点をつくる」と言うんですが、一番大事なのは「問い」で、課題意識をどれだけ持てるか。次に「つなぎ合わせる」で、何かあったときにリソースや人をつなぎ合わせて、ゆるやかなネットワークをいかに作れるか。最後は「形にする力」で、すぐ形にしてフィードバックを得るサイクルを早く回す。この3つが重要だと思います。

大家雅広

須藤 つまり、多様な構成員が互いに協力しながら、既存の枠組みを超えて広く共存・共栄していく「エコシステム」をつくりだすということですね。

大家 その通りです。いいエコシステムを作ることが、いいまちづくりにもつながります。うまくいっていない企業や地域は、この3つのどこかが必ず欠けているんです。例えば過去の栄光にしがみついているとか、トップの影響が強すぎるとかで「問い」が新しく立てられていない、といったように。エコシステムに見立てた途端、いろんなものが回り始める感覚があります。

ー エコシステムを意識するきっかけとなったプロジェクトはあったのでしょうか。

大家 オーストリアのリンツ市で行われる、テクノロジー・アート・社会をテーマにした世界的クリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」です。5、6年前から一緒に仕事をしています。毎年行われるアルスエレクトロニカフェスティバルでは、世界中のアーティストや研究者が集まって議論し合い、参加者各々の知識を更新する仕組みができている。これって「文化を起点としたエコシステム」なんじゃないかと気がつき、さまざまな例に応用するようになりました。

須藤 サイクルを回すことは重要ですね。

地域にフラットな「場」を作る

ー 須藤さんの教育現場での地域への取り組み内容を教えてください。

須藤 僕が講師をしている高知大学地域協働学部では、徹底したアクティブラーニング型教育で、課題解決よりも「課題を定義する力」・「学び続ける力」をもつ学生を育てています。例えば、学生が地域に入ってヒアリングする中で、声にならない課題意識や欲求をうまく引き出す練習をしてもらっています。さらに、地域の人にも教育の場に入ってきてもらう。なぜなら、地域には自立してもらわないといけませんから、地域の人にも学ぶ意欲を持っていただくためです。だから、私たちがやっているのは社会人教育・地域教育でもあるんですね。

須藤さんが行っている実習の様子
須藤さんが行っている実習の様子

大家 課題をどう更新し続けられるかは、地域において重要だと感じています。例えば、地域が自分たちの魅力に気づく必要があるんですが、こと自治体において、その魅力に自ら気づく力を養う仕組みがなかった。学ぶ場を作る必要がありますし、僕らへの依頼も、そうした内容が多いです。

ー 「場を作る」ということについて、実例があればお伺いしたいです。

大家 トヨタさんと4年くらい進めている「くるま育」というプロジェクトがあります。これまでのクルマやモビリティの常識を取っ払って、まちや生活のことを再考するためのプロジェクトです。そこで「そもそもクルマってなんだっけ」「モビリティってなんだっけ」と、大人や子ども、学生、自治体、企業にも一緒の場に入ってもらって、俯瞰して考えるという内容です。

須藤 今までにない視点で街を見ることになるので、いろんなものが再編集されて見えてきますね。

大家 広島県尾道市や石川県金沢市でくるま育のワークショップをおこなったんですが、みなさんそれぞれの視点が新しくなって、地域について未来志向で話すきっかけになっていました。いろんな世代や立場の人がぶつかるフラットな場を作ることで、街の新陳代謝を起こせるんです。

くるま育ワークショップの様子
くるま育ワークショップの様子

須藤 今まで、地域で開かれるワークショップには合意形成型のものが多すぎたんですよね。立場は関係なく、一人ひとりが考えを表出できる場を作らないと、飛躍的なアイデアも生まれません。

たとえば、高知の土佐町では教育を軸にした「土佐町アイデアソン」で地域課題の解決に向けた取り組みを行っています。一方、高知大学では、地域の課題解決に向けたアイデアの場作りに加え、地元企業と若者の関係形成を目指した「仕事創造アイデアソン」を定期的に開催し、若者の地元企業への関心を高めるとともに、企業の若手職員の創造性の育成を図っています。教育に直接関係のある人だけでなく企業の人も巻き込んでいかないと、自分の意見をどんどん出す学生を育てても、地方の企業にそういう人材を受け入れる土壌がまだまだ少ないですから。

大家 同じ場で活動することで、学生が地元の企業について知ることにもつながりますよね。

須藤 そうなんです。面白いことに、イベント後、学生の地元企業に対するポジティブな評価が急激に高まるというデータも実際に出ていて。なぜなら、「単なる地元の会社」から、「知っているお兄さんやお姉さんが働いている会社」というように学生の意識が変わるんですね。なぜ若者が県外に出て就職するかというと、実は、地元企業をちゃんと知らないからという面も大きい。雇用の課題を改善するヒントにもなると考えます。

プロフィール/敬称略

須藤順(すどう・じゅん)
高知大学地域協働学部講師、エイチタス株式会社取締役

博士(経営経済学)。医療ソーシャルワーカーに従事後、医療関連施設の立ち上げと経営に参画。その後、(独)中小企業基盤整備機構リサーチャーを経て、2014年10月より現職。専門は、社会的企業/社会起業家、コミュニティデザイン/ソーシャルデザイン、アイデアソン、起業家育成。近著『アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法』徳間書店(共著)。高知大学「起業部」の運営、全国のアイデアソン支援、自治体の起業家育成をサポート。

大家雅広(おおいえ・まさひろ)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 ディレクター

博報堂で、国内外企業のマーケティング・ブランディング戦略、新商品・サービス開発、イノベーション支援、地方自治体支援などの業務に従事。リサーチとアイディアを往復する、つくりながら考えるプロジェクト推進に強みをもつ。東京大学大学院建築学専攻修士課程修了。

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