「安くて便利」をどう超える?容器のリユース『Loop』に学ぶ循環型消費のつくり方
国内外の大手メーカー等と協働し、日用品の容器を再利用する仕組みを構築。ごみを出さないショッピング体験を世界で拡大する『Loop』。の道のりから、環境問題に向き合う事業の秘訣を学ぶ
オーストラリアの慈善団体Minderoo Foundationの調査によると、2019年の使い捨てプラスチック廃棄量は世界全体で1億3000万トン。日本は、中国・アメリカ・インドに続く第4位のプラスチックごみ輩出国だ。また、同団体では使い捨てプラスチックの生産メーカーや、メーカーに融資・投資している機関のランキングも公表している。環境問題に対する企業責任はより一層問われる時代になっていると言えるだろう。
そうした現代社会にあって、ごみを出さない購買・消費システムの展開に取り組むのが『Loop』だ。食品や洗剤などの日用品を、使い捨て容器ではなく耐久性の高い容器に入れて販売。使い終わった容器は回収・洗浄し繰り返し使う循環型の仕組みを構築している。2019年にダボス会議で発表され、アメリカ・フランスでビジネスをスタート。翌年にはイギリス・カナダにも拡大、2021年より日本でもスタートした。
流通・小売パートナーにイオンリテール、国内外の大手食品メーカーや消費財メーカーもパートナーとして参画しているこのモデルは、どのように実現しているのだろうか。日本法人であるLoop Japan合同会社の代表、エリック・カワバタさんに話を聞いた。
リサイクルだけでは、環境問題を根本的に解決できない
そもそも『Loop』のビジネスアイデアはどのような経緯で生まれたのだろう。注目したいのは、『Loop』の母体が、リサイクル事業を手掛けるテラサイクルという会社である点だ。テラサイクルがリサイクルしているのは、これまでリサイクルが不可能と思われていた商品。医療用のゴム手袋やたばこの吸い殻など、従来なら焼却・埋め立て処分されてきたものすらもリサイクル対象とする。
そんな、様々なごみを「リサイクル」してきた会社の次なる一手が、「リサイクルしない(リユースする)」だったのはなぜなのだろう。米国に本社をおくテラサイクルの日本法人代表も兼任するカワバタさんはこう語ってくれた。
「私たちが本質的に目指しているのは、世の中から“捨てるという概念を捨てる”こと。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現です。だからこそ、テラサイクルではリサイクルをする経済合理性がなく廃棄されていたものすらも再生してきました。しかし、約18年に渡る活動を経て見えてきたのは、“リサイクルだけ”では根本的なゴミ問題の解決に至りにくいことです。
たとえばプラスチック容器を溶かして再形成しても、元と同じ強度にはなりません。着色された容器を透明に戻すことも難しい。100%元通りにはならず、真の意味で循環はしていないのです。だからこそ、リサイクル以外のアプローチが必要だった。それが、同じものを繰り返し使うリユースを現代に復活させることでした」
カワバタさんが“復活”と語るように、リユース自体は特別新しい概念ではない。日本でも、かつては飲み終わったビール瓶や牛乳瓶を回収して繰り返し使うことが主流だった時代がある。しかし、現代においてリユースは生活習慣から消えつつあるという。
「使い捨てが圧倒的に安くて便利だからです。使い捨ての習慣は、アメリカで1940~50年代に大量生産・消費モデルの中で生み出され、あっという間に世界中に広がっていきました。回収して洗浄するような手間がかからず、ガラスやアルミよりも軽いので物流コストも安い。画期的な発明だったのです。
また、使い捨ての象徴であるプラスチックは、原料の石油価格次第で新品よりもリサイクルの方がコスト高になってしまう現象が度々起こっています。こうしたコストの問題や便利さをどうやって超えて行くかが、『Loop』が挑戦していることの一つです」
「日本は環境意識が低い」はある意味で正しく、ある意味で間違い
では、『Loop』が5カ国目の進出先に日本を選んだのはなぜだろう。というのも、日本は商品の過剰包装に訪日外国人が驚いていることを筆頭に、環境問題への意識の低さを指摘されることが多い。リユース事業を育てていくフェーズの『Loop』が、一見すると事業が育ちにくいように思える日本でサービスをスタートするのは、どのような理由があるのだろうか。
「確かに、海外の方が個人レベルの問題意識は高いと我々も実感しています。例えば、店舗に設置している使い終わった容器を回収するボックス。フランスなら“リユースステーション”とだけ表記すれば多くの消費者は用途を理解してくれました。しかし、日本はこのボックスの目的や使い道を丁寧に記載しないと仕組みが理解されにくかった。一般消費者のリユースに対する関心はまだまだ低いのが現状だと思います。
ただ、それが企業も同じかと言えば、私は決してそうではないと感じています。実際、日本の大手各社に『Loop』のプラットフォームへ参加いただけないかと話持ち掛けた際、担当者のみなさんは最初からポジティブな反応を示してくれました」
Loopの話を聞いた各社は、以前から「自社製品のパッケージが最終的にどのように処理されていくのか」を非常に気にしていたという。また、企業の社会的責任として、ごみの削減や環境に配慮した素材の工夫なども続けていたそうだ。「だからこそ、『Loop』を前向きに受け止めてくれたのでしょう」とカワバタさんも指摘する。
消費者側を見てみても、島国ゆえに限られた資源を大切にしてきた“もったいない精神”は、リユースに対する親和性があるはずだとカワバタさんは考える。ただ、品質に対する目が厳しいのも日本の特徴。小さな傷やへこみですら許されないことを当たり前の基準にしてきた国では、容器を繰り返し使うことを敬遠されてもおかしくない。
「実は、私やパートナーのメーカーもそう思い込んでいたんです。中身に問題がなくても容器に傷がついていたら、ユーザーが嫌がるのではないかと。それで、日本で昔からビール瓶などを洗浄している会社に聞いてみると、『そんなクレームは一度も聞いたことがない。洗って再利用されるものだと消費者も理解しているからなのではないか』と言うんです。『Loop』のユーザーも、これがリユースのプラットフォームだとしっかり理解いただいているからこそ、再利用の容器も抵抗なく使っていただけています」
使い捨ての「安くて便利」を超えるユーザー体験を提供できるか
消費者の視点で考えると、他にもリユースパッケージを選ぶハードルは存在する。例えば価格。返却すれば容器代は返金されるとはいえ、その分従来のパッケージよりも割高になる。そもそも使い捨て容器は「安くて便利」という圧倒的なメリットを前提に広まった歴史がある以上、単に「環境に良いから」だけではない付加価値が必要だ。
「『Loop』商品の主な購入動機は、『環境に良い』だけでなく、『デザインが良い』というものもあるんです。使い捨て容器は一度きりのものなので、なるべくコストを抑えることが優先されるのに対し、リユース容器の場合、例えば同じ容器を10回使うなら、使い捨ての10倍コストをかけられるかもしれない。そこで、私たちは耐久性の高い素材を使うのと同時にデザインにもこだわりました。これは特に日本市場で重要視しています。日本の消費者はデザイン性を求める人が多い。また海外とは住宅事情が違い、収納スペースも限られるので、人の目に触れるところに置いても恥ずかしくないものにすれば喜ばれると考えました」
たとえば、パートナー企業の1社ロッテは同社の主力製品「キシリトールガム」でステンレス製ボトルを開発。インテリアとしても馴染むデザインは、使い捨てパッケージではなかなか得にくいユーザー体験の一つだと言える。一方、見た目の印象だけでなく、実用的なメリットを『Loop』に感じている人もいるという。それは、使い捨ての「便利さ」とも勝負できるものだ。
「ごみが減ることは地球環境に良いだけでなく、“楽”なんです。素材ごとに分別したり容器を洗ったりすることや、ごみ収集場まで捨てにいく頻度も減りますから。アメリカのあるユーザーは、『Loop』製品を積極的に使うことでごみが減り、家がすっきりしたとSNSに投稿してくれたほどです。今、日本では1人が1日に900gのごみを出していると言われています。その中には食品や飲料、日用品の容器や詰め替え用のパッケージも多く含まれている。『Loop』でごみを減らせたら、暮らしを変えていくこともできるはずです」
2021年末現在は、首都圏のイオン30店舗及びECサイトで実績を重ねている段階の『Loop』。主戦上はBtoCではあるものの、並行してホテルやレストラン、オフィスなど、BtoB向けの展開も検討中だという。なぜなら、『Loop』のプラットフォームを大きな需要を見込めるBtoBにも広げることで、オペレーションコストが自然と下がり、多くのメーカーが参加しやすくなる。それは結果的に個人ユーザーへ提供できる価値の拡大にもつながるからだ。
「例えばホテルのアメニティを全部屋『Loop』のリユース製品に変えられたら、ごみの削減になるだけでなく、環境負荷の低い運営を行っているとしてホテルのブランド価値向上にも寄与できるかも知れません。そうした企業への価値提供も『Loop』に参加するメーカーとユーザーを増やす一助になる。それぞれの取り組みが循環することで、『Loop』というプラットフォーム全体を育てていくことが私たちの目標です」
捨てるという概念を捨てる。『Loop』が目指すのはまさしく循環型社会の実現であり、実店舗販売、EC、業務用…と様々なチャネルでごみを出さない購買・消費習慣への共感が広がっている。ただし、『Loop』が選ばれているのは必ずしも「ごみを出さないから」だけではない。オシャレで、便利で、心地よい。環境問題に向き合う事業の持続可能性を高めるためには、「環境負荷が低い」だけではない価値を付加し、ユーザーに選ばれ続ける仕組みをいかにつくるかこそがポイントではないだろうか。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- エリック・カワバタ
- Loop Japan アジア太平洋統括責任者/日本代表
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ワシントン大学ロースクール修士課程修了。東京大学大学院法学政治学研究科に特別研究生として在籍、複数の投資銀行などでリーガル・カウンセルを歴任。2008年よりカーボン・フリー・コンサルティングでボランティアとして働きはじめ、2009年にはオーシャン・グリーン・アソシエーションを共同創業。2013年米国テラサイクルに参画し、2014年テラサイクル・ジャパン日本代表に就任。16年テラサイクルチャイナ、17年テラサイクルコリア設立。2019年より現職。