【コレカラ会議】学校と職場がかわる『オンライン行動学』のコレカラ
教師・上司の役割は「共師・共司」へ
リクルート内の多種多様な事業領域を横断し見渡すことで、世の中のさまざまな「兆し」を見つける「コレカラ会議」。初回のテーマは「学校と職場が変わる。オンライン行動学のコレカラ」です。リクルートマーケティングパートナーズ スタディサプリ教育AI研究所の小宮山 利恵子、リクルートスタッフィング スマートワーク推進室の平田 朗子、リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所の古野 庸一が、それぞれの立場からコロナ禍における学校と職場でのオンライン行動について語ります。モデレーターはリクルート経営コンピタンス研究所の岩下 直司です。
学校と職場では、オンライン化の進展によって変化が起きていましたが、コロナ禍でその動きが加速をしています。特に、教師や上司の方々に求められる役割は大きく変化をしており、生徒や同僚との関係性構築・マネジメントにあたっては、新たな期待役割が求められています。
コロナ禍における学校と職場でのオンライン行動について、各事業領域から見える兆しを、3名の話者が語りました。
立ち遅れた日本のオンライン教育がコロナ禍で進展
小宮山 リクルートマーケティングパートナーズ スタディサプリ教育AI研究所の小宮山と申します。今日はよろしくお願いいたします。
教育現場では、オンライン教育の普及に伴い、先生の「伴走者」としての役割が加速しています。2020年は小学校の学習指導要領の改訂、そして3月には新型コロナウイルスによる全国の小中高校での一斉休校、4月に小中学生ひとり1台PCを整備するという「GIGAスクール構想」を本年度中に前倒しする方針が決まるなど、まさに激動。日本のオンライン教育はOECDのグラフで見ても遅れていましたが、このコロナ禍で一気に拡大してきており、例えば愛知県では全ての県立高校で『スタディサプリ』が導入されています。『スタディサプリ』の伸びは著しく3月以降の自治体経由での申し込みの新規利用生徒数は40万人を超えているんです。
「優秀な先生」の定義がガラリと変わる!? 先生の役割変化
こうしたオンライン教育の拡大に伴う学校教育の変化は5つほど挙げられます。
- 個別習熟度学習の普及
- 評価軸が変わる
- 学校や先生の役割が変わる(再定義が必要になる)
- 学校内外で地続きの学びができる
- 教科学習の授業時間数が減り、その分探求学習の機会は増える
今日は1と3についてお伝えできればと思います。まず①の「個別習熟度学習の普及」ですが、小中学生にひとり1台PCが配られると個別習熟度学習ができるようになります。今までひとりの先生に対して生徒が35人とか40人だったのに対して、1対1で向き合うことができるようになるということですね。それに伴って、③に挙げたように「学校や先生の役割が変わる(再定義が必要になる)」と考えます。
また「優秀な先生」の定義が変わってきます。例えば「教え方がうまい」といった従来の概念は通用しにくくなるでしょう。それは先生の役割が「教える」ことから「伴走する、コーチする」ことに変わってくるからです。今までは1対35、1対40という一斉授業で、かつクラスの中でも生徒の学力に差があったため、先生はどこにあわせて授業をすればいいかの判断が難しかった。しかし生徒がひとり1台PCを持つようになると、個別の学力に合わせた学習内容の組み立てができるようになります。
「教えない授業」へのシフトのなかで、先生に求められる「観察力」
佼成学園高等学校の事例をご紹介します。こちらの学校では、生徒は事前に動画を視聴し宿題に取り組んできます。その上で、授業ではペアワークで他の同級生と学び合い、プレゼン動画を撮影して発表、ベストプレゼンターを決めます。先生が教えない授業なんです。ここからも先生の役割が「教える」ということから「コーチング」にシフトしつつあることが分かっていただけるかと思います。
このように、先生の役割が「教える」ことから「コーチ、伴走する」ことになると、先生にますます必要になってくるのが「観察力」ではないかと思います。同志社中学校では、今年は「自由研究」にオンラインを通じたインタラクティブなやりとりを増やしました。そんな中、「鉄道と歴史」に取り組んだのが、鉄道が好きな中学1年生Aさん。資料の読み込み方から視点の広げ方まで複数回の先生によるオンラインコーチングで、世界の鉄道の歴史や、鉄道が果たした役割などをまとめ24ページにもなる大作ができあがりました。インタラクティブなやりとりの中で生徒の興味関心を引き出し、個性を活かした研究まで導いた好事例だといえるでしょう。
先生に必要な「観察力」には、オンラインとオフライン、それぞれに特徴があります。オンラインでは「学習する時間帯」や「学習進度」が見えやすいですから、そこから「生活習慣」や「強み・弱み」「興味・関心」が分かります。もちろんオフラインでは、生徒の「表情や言葉」などから「心や体の健康状態」を把握したり、「服装」を見ることで「家庭環境」を類推することができます。このように、これからの先生の役割は「教える」から「コーチ」へと変化していき、そのなかで「観察力」がますます必要となってくるのではないかと考えています。
期せずして予測が当たった派遣社員が「週3日出社、2日テレワーク」で働く世の中
平田 リクルートスタッフィング スマートワーク推進室の平田と申します。よろしくお願いいたします。私からは派遣テレワークの成功例から見えてきた「小さい」「見える」「双方向な」職場環境のマネジメントについて、人材派遣の立場からお伝えできればと思います。
今年1月、リクルートホールディングス主催の「トレンド予測発表会」で、「出勤オフ派遣(※1)」というキーワードを発表しました。週に3日はオフィスに出勤、残りの2日はテレワークで勤務するというような働き方で、今後こういった働き方が増えるのではないかと予測していたのですが、期せずして新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から、テレワークは大きな流れとなり、今や当たり前化しつつあります。
4ヶ月で1%→48%へ。コロナ禍で急増した派遣スタッフのテレワーク
こういった状況下では、対面でのマネジメントができないので、離れていてもメンバーが常にモチベーション高く自律的に働けることが大事なんです。テレワーク下でうまくマネジメントをされている企業を複数社取材させていただいたところ、3つのマネジメントの工夫が見えてきました。
まず1つ目は「自主的なルール設定が可能になる小さな単位の組織化」、2つ目が「業務内容の更なる見える化」、そして3つ目が「双方向なコミュニケーションが取れる環境づくり」です。
では、この3つについて語っていく前に、派遣テレワークのこれまでの流れについてお話させていただきたいと思います。当社のデータになりますが、元々2020年1月時点で、派遣スタッフのテレワーク導入率はわずか1%でした。それが4ヶ月後の5月末には48%の方がテレワークを実施しており、つまりふたりにひとりの方がテレワーク環境下にあったということです。また同時期に派遣先企業に取ったアンケート(※2)では、今回、コロナ影響で初めてテレワークを導入したという企業が全体の約80%を占めていました。
そのため、実施前は派遣スタッフ、派遣先企業も急に始まったテレワークに多くの不安を感じていたことがアンケートから分かりました。例えば派遣スタッフでいえば「自宅環境でもきちんと仕事ができるのか」という点において不安が大きかったようです。ただ、実施後のアンケートを見てみると、なんと「在宅の方が生産性が高い」という方が3割。「どちらともいえない」という方と合わせると6割の方が問題なかったと回答しています。そして派遣先企業の方も、「きちんとマネジメントできるのか」といった不安を抱えていた方が過半数。しかし実施後は、3割の方がむしろ「業務効率は良くなった」と答えており、「どちらともいえない」を併せると約8割の方が問題なかったと回答しています。
派遣スタッフのテレワーク導入成功企業における具体的な事例
では、なぜ大きな問題なくテレワーク導入を進められたのでしょうか? ふたつの事例をお話させていただきます。
アクゾノーベルコーティング株式会社では、緊急事態宣言下で学校や保育園が閉鎖になるなか、皆が同じ時間に出勤するということが難しくなりました。そこでチームごとに自分たちに都合が良いようにルールを決められるようにしたところ非常にうまくいったそうです。他の企業でも会社としてデフォルトのルールはあるものの、進め方などはチームに任せているという声が数多く聞かれました。これはまさにひとつ目の「自主的なルール設定が可能になる小さな単位での組織化」だと思っております。
次にプラス株式会社。元々派遣スタッフはジョブ型ですので、業務内容が比較的可視化されています。しかし、さらに朝晩その日の業務内容をメールで共有することで、工数の把握はもちろんのこと、どのようなことでつまずいているかなどを上長が知ることができ、「業務内容の更なる見える化」が進み、より生産性があがったとのことでした。さらに「双方向なコミュニケーションができる環境づくり」については、テレワークでお互いが離れた場所で仕事をしていても、何かあったらメンバーの方からも声をかけてくれるという関係性の構築がマネジメントには必要になります。そのために、グループ会の場等で「なにか困ったことがあったら言って欲しい」と上司自ら積極的に声かけをした結果、今ではメンバーの方からいろいろなことが発信されるような状態になってきたそうです。
ということで、派遣テレワークを成功させるためのポイントは3つです。また今回、取材に協力してくださった皆さんが共通してお話されていたのは、これらのポイントは派遣スタッフだけではなく従業員においても全く同じだということ。ですので、上長がメンバーをマネジメントされる際もこの3つは重要なポイントになってくるのではないかと思っております。
コロナ禍によって自律行動がより求められる
古野 リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所の古野と申します。よろしくお願いいたします。私からはマネジメントの領域についてお話して参ります。
基本的には元々自律の行動が求められる時代だったのですが、コロナ禍によってどんどん加速化していると思っています。テレワークですと上司が近くにいないですから自分で考えて働かないといけないですし、VUCA、つまり正解がない時代ですから、自分で考えて自分で行動することが求められます。
あるいはワーク・エンゲージメント、つまり仕事に没頭することが求められているのですが、これも人から与えられる仕事ではなかなかやる気が出ない。ですから、自分で考えることが大事です。そして人生100年時代、自分のキャリアは自分で考え自分で切り拓いていくということがだんだん当たり前になってきていて、このコロナ禍において、改めて自身の働く意味や働き方を考え直した人も多いのではないかと思います。
人生100年時代に求められるのは「自ら考え、行動することができる力」
少しデータを見てみましょう。私たちが調査したデータ(※3)なのですが、8割もの社員が「自律的に働くことが求められている」と思っていると同時に、自身も「自律的に働きたい」と思っている。面白いデータですよね。あと、ワーク・エンゲージメントの関係性ですけれど、自律性が高い方がワーク・エンゲージメントも高いという正の相関関係にあるということも分かっております。また、企業人事に聞いたものなのですが、「人生100年時代、どのような能力が求められていますか」という問いに対しては、「自ら考え、行動することができる能力」が最も多い回答となっており、「自律行動」が求められていることが分かります。
「セルフマネジメント」「公共善への意識」「自律支援型マネジメント」が肝
改めて「自律」という言葉を広辞苑で引くと「自分の行為を主体的に規制すること。外部からの支配や制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること」とあります。自分で規範を立てるということは難しいですし、それに従って行動するのも難しい。これも私どもの調査なのですが、自律行動を促進する要因は、「セルフマネジメント」と同時に「公共善への意識」、そして上司の「自律支援型マネジメント」が大事です。「公共善」では、「世の中にためになっているのか」ということ、「自律支援型マネジメント」は「上司が意味付けしてくれる」とか「やり方を任せてくれる」というスタンスが大事です。
富士通株式会社の事例を紹介しましょう。同社では優れたマネジャーはどういう行動をしているのかというのを整理したところ、「コーチ型」、つまり部下に自ら考えさせ、力を引き出していくスタイルということが分かりました。そしてマネジメント行動を変えるために、良いマネジメントとはどういうことなのかを、自分がやっていることと突き合わせながら自らを変えていくというワークショップを行っています。
「ストロング型」から「コーチ型」へ。マネジメントスタイルにも変化
自律行動を促進させるためには、Will、Must、Canという視点でコーチ型のマネジメントを考えた方が分かりやすいと思っています。Mustというのはいわゆる会社から与えられている役割、Canはできることを広げてあげる支援です。そして、一番大事なのはWill、本人がやりたいことを引き出すとともに意味付けを行うことです。
まとめますと、コロナ禍を通じて、より自律行動が求められる時代になりました。上司のマネジメントスタイルもいわゆる命令して頑張らせる「ストロング型」から、伴走して力を引き出す「コーチ型」に変わってきています。
学校と職場における「オンライン行動学」のイママデとコレカラ
岩下 以上3名のスピーカーから各現場で見えてきている兆しについて事例やデータも交えてお話させていただきましたが、各領域においてイママデとコレカラで構造的な変化が起きてきていると捉えています。学校と職場においてその環境と予見が変わることで、生徒・学生とか従業員やスタッフの行動と、教師や上司の役割が変化し、それぞれの関係性が変わってきているのだと考えています。
今まで一斉にやるのが当たり前と考えていたものが変化し、個別性や非同期性を認めて学んだり働いたりするようになっていく。今回コロナ影響によって「オンラインでしかできない」ということを経験した結果、改めて「対面」の大事さも痛感するようになって、「オンライン」と「対面」のいいとこ取りをして次の次元にいくだろうというのが、我々の見通しです。
講演中にも何回か出てきたキーワード「自律」。これからは本当の意味で「自律」が大事になってくるでしょう。その「自律」的な働き方・学び方を前提にした場合、教師や上司に求められる役割は「伴走」とか「コーチング」に変化していきます。そのためには教師や上司に「観察」とか「共感」の能力が必要となってきます。
結果的に組織のあり方もヒエラルキーからフラットな関係に移行していく。まさにその兆しが、まさに今出てきているのだと思います。
その変化を象徴するキーワードが「教師・上司の役割は"共師・共司"へ」。「共師・共司」とは「共感し、共に悩み、共に考えて、自律的な行動を支援する」という教師・上司に求められる新しい役割を呼ぶために我々が考えた造語です。
そして、この役割変化を進めていくためには、「環境整備」「トレーニング」「現場実践」という3つのステップが重要と考えています。「環境整備」というのは、業務を見える化することで取り組みの余裕時間を生みだすこと。そして小集団ごとの違いを認め、オンラインを活用して双方向コミュニケーションの仕組みを作るということです。その上で、多様性を容認し、観察力を磨いたり、共感したり、意味付け力を身につけたりするなどの「トレーニング」が必要と考えています。このふたつのステップの後に「現場実践」、コーチングやメンタリングをそれぞれの職場で実践し習熟していくことが大事になってくると考えております。
第1回目の「コレカラ会議」は以上です。ご視聴ありがとうございました。
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