【コレカラ会議】ウィズコロナ時代の店舗と顧客のエンゲージメントの変化
5回目のテーマは「飲食・美容領域から見るウィズコロナ時代の店舗と顧客のエンゲージメントの変化」。ホットペッパーグルメ外食総研の上席研究員 稲垣 昌宏と、ホットペッパービューティーアカデミー アカデミー長 千葉 智之が、コロナ禍で生まれた日常消費領域のさまざまな兆しを、多数の飲食店や美容サロンの事例を交えながらご紹介します。モデレーターはリクルート経営コンピタンス研究所の岩下 直司です。
「家で外食の味や付加価値を楽しむ」=「イエナカ外食」が急増!
稲垣 ホットペッパーグルメ外食総研の上席研究員の稲垣と申します。普段は「外食市場調査」など、飲食にまつわる消費者調査などを行っております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
今回は、飲食業界における兆し「イエナカ外食」についてお話させていただきます。「イエナカ外食」とは、今まで「店舗で享受していたさまざまな価値」をカスタマーが「家に持ち込み楽しむ」ようになりつつあることを表現した、私たちの造語です。
これまで、消費者にとっての「ちょっと贅沢な食事」といえば「外食」が中心でした。「内食(素材を買ってきて家で調理すること)」、もしくは「中食(調理された食品を購入して家で食べること)」は「それ以外の日常的な食事」として使い分けていました。それがコロナ禍を受け、「自宅でちょっといい食事をする」方が増える傾向にあります。
ご存じの通り、飲食店の多くは、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から大きな打撃を受けました。2020年度の上半期、弊社が実施した外食市場調査によると売上、回数ともにほぼ半減しています。しかし中食市場は売上が+21.2%、回数も+13.4%と前年同月を大きく上回っています。また、単価を見ても、外食市場では飲酒が減った影響が大きいこともありマイナスですが、中食市場では単価においても前年を上回っています。
なかでも顕著な伸びを示しているのが、「外食店からのテイクアウト(18.7%→39.4%)」で、「出前デリバリー(5.0%→9.2%)」もほぼ倍増しているような状況です。平均単価で見ても「中食(夕食)」が832円だったのに対して、「外食店からテイクアウト(夕食)」は1,708円と非常に高い単価になっています。
「高単価な料理」×「家で食べる」という新しい市場はアフターコロナも継続?
コロナ以前は例えばフレンチのコース料理など「単価の高い食事」を「家で食べる」ということは、ほぼ想定されてなく開発も進んでいませんでした。それゆえに食機会数の分布イメージ(下図)でいうと、頂点が左寄りの三角形になっていました。しかし、コロナ禍で「多少高くてもおいしいものを家で食べたい」というニーズが増えた結果、三角形の頂点が以前に比べ右側に移行してきています。つまり、これまで選択肢が少なかった「高単価」×「家で食べる」というゾーンのメニュー開発が進んでいるということです。
我々のカスタマー調査でも、以前に比べて「これまで家では食べられなかったメニュー、もしくは外食ならではのメニューが家で食べられるようになった」と感じている人が40.2%。そして「外食店からのテイクアウト、デリバリー、ミールキットの利用が増えた」という人が31.0%、そしてコロナ禍で「これまで使ったことのなかった外食店からのテイクアウト、デリバリー、ミールキットを利用した」という人が29.9%という結果が出ています。
さらに、コロナ禍が収まっても「たまのぜいたくな食事にはイートインとテイクアウトやデリバリー、ミールキットを使い分けしたい」という人が51.2%。「(コロナが収まった後も)ちょっと贅沢な食事を店舗と家と使い分けたい」という人は50.8%と、コロナ禍で生まれたこの新しいニーズは定着の傾向を見せています。
ということで、元々左寄りだった三角形は、コロナ禍で右へと移行しました。この後、コロナが落ち着き、以前のように外食を楽しみやすくなると、若干はその頂点が左側に戻りますが、結果、真ん中あたりでバランスするような形になるのではないかと予測しております。つまり、「高単価な料理」×「家で食べる」という市場は一定程度、新しい市場として、アフターコロナにも定着するものと考えます。
ミールキット化、ワインの小分け販売など、カスタマーに寄り添う飲食店の工夫
この後はいくつか事例をご紹介します。
1件目は神戸のイタリアン・チッチャ。こちらでは自慢のパスタをミールキット化し、そのラベルに貼った二次元コード画像からYouTube上の調理動画を見られるようにしています。またこのお店では、アフターコロナを見越して、YouTube以外にもインスタグラムなどを活用してお客さんとコミュニケーションをとっています。
2件目は、代々木上原のリストランテQuindi。こちらはワインを100mlの小瓶に小分けして販売するというサービスを始めました。1本買っても全部飲みきれないとか料理にあわせて赤と白を1杯ずつ飲みたいといったニーズにきめ細かく応えてくれます。またワイナリーのバーチャルツアーなんかも積極的にやっています。
3件目は渋谷のSHIBUYA PREMIUM DELIVERY。こちらは渋谷の専門店5店舗のメニューを一括で注文でき、デリバリー料も1回分ですむという点が新しい。ここならお父さんには焼き鳥、子どもたちにはピザ、といったフードコート的な楽しみ方をデリバリーでも実現できます。
4件目は、蒙古タンメン中本。麺類はのびやすいという特性上、テイクアウトが難しい料理です。しかし特注でのびにくい麺の開発、さらには麺とスープをセパレートにできる容器の導入、さらにゆで麺以外に、生麺も選べるようにするなどの工夫から、家でもお店の味にかなり近いところまで再現できると話題になっているそうです。
ということで、飲食領域の兆しキーワードは「イエナカ外食」。提供形態が進化し、外、うちの使い分けを促進し、家での食事がさらにレベルアップしています。
キーワードは「シン密」。信頼するスタイリストのサロンに通う
千葉 ホットペッパービューティーアカデミー アカデミー長の千葉と申します。私はホットペッパービューティーアカデミーという美容系サロンのオーナーさん向けの経営支援スクールの運営、そして美容業界に特化したさまざまな調査・研究をやっております。本日はよろしくお願いいたします。
美容領域におけるキーワードは「シン密」です。コロナ禍によって、カスタマーが美容サロンに求めるものは「信頼」であるということが改めて分かりました。さらに、その信頼の形がどんどん広がっているというお話を、本日はさせていただきたいと思います。
以下の調査を行ったのは、全国に緊急事態宣言が発出された2020年5月。この頃は自由にサロンにいけず一時的に自宅ケアに切り替えたものがあるという人が全体の46.9%にものぼりました。
しかし「今後もずっと自宅ケアに切り替えるか」と聞くと、ほとんどの人がやはりサロンでのケアを希望しており、自宅ケアへの切り替えはあくまでも一時的なものであることが分かりました。
2020年8月に実施した調査でも、「コロナ禍に、これまで利用していたヘアサロンを変更した」かという質問に対し、77.3%の方が「(コロナ禍でも利用するヘアサロンを)変えていない」と答えています。最も多かった理由は「施術者・スタッフを信頼しているから」で、62.2%となっています。このことは以下の『ホットペッパービューティー』の口コミからも、読み取ることができます。
上からふたつ目のコメントは、非常に象徴的なのですが、この状況下においても「担当のスタイリストさんでなくては!!!」とわざわざ遠くのサロンにいくという行動からは、スタッフを信頼してヘアサロンを選んでいるということが分かりますよね。ということで、カスタマーのサロン選びにおいて「信頼」を大事にしていることがお分かりいただけたかと思います。
オンラインカウンセリング、異業態店舗コラボなど、新しい「信頼」の築き方
ここにも変化が生まれています。今までは美容師さんのカットなどの「技術」に対する信頼が多かったのですが、コロナを通してその信頼の範囲は「技術以外の部分」にまで広がっています。
このことを表すような事例をご紹介していきたいと思います。
1件目は、千葉のhair garden 10derness。こちらは「ホットペッパービューティーアワード」を4年連続で受賞している実力派サロンです。日頃から、1件1件の口コミに丁寧に返信されているのですが、緊急事態宣言中にはお客さまへの思いを綴った特別なDMを配信するなどのコミュニケーションを続けた結果、緊急事態宣言明けには予約が約5倍に増えたそうです。
2件目は東京のAFLOAT。サロンとお客さまが一緒に開発したオリジナルのヘアケア商品が非常に人気で、半年でその売上が2,000万円にもなったそうです。同じく東京のapishもオリジナル商品が好調なのですが、信頼しているスタイリストから直接オススメされることが購買の強い後押しとなっているそうです。
3件目は、東京のHONEY。店舗に足を運びにくいお客さまに対してZoomでオンラインカウンセリングをスタートしました。具体的には前髪のセルフカットのレクチャーなどですが、こういう新しいコミュニケーションによって、これまで以上の信頼構築ができているという話も聞いています。
4つ目は、東京のIJK OMOTESANDO。こちらは、昨年の10月、ヘアサロンと同じビルにスポーツジムをオープンしました。ジムでトレーニング後、シャワーを浴び髪が濡れたままヘアサロンにいってスタイリングをしてもらうというありそうでなかったサービスを打ち出しています。これは、コロナ禍において「必要なことを一度の外出ですませたい」という新しいニーズを捉えたサービスとなっています。大阪にも、ジムを併設しているOROというサロンがありますが、こちらではサロンのVIPはジムの月額費(5,000円)が無料になるそうです。これによって、「ジムに来たからついでにヘアサロンに寄っていこう」ということで、この時期にも関わらず、逆に来店頻度がアップしているということです。
5つ目は福岡にあるMERICAN BARBERSHOP FUKはバーバーでありながらナポリタン専門店でもあるという変わったお店ですが、そのナポリタン専門店がテイクアウトやデリバリーを始めたことでバーバーの認知も向上したという相乗効果が出ているそうです。武蔵小杉のJourneymanには花屋さんが併設されています。コロナ禍で癒やしを求め花屋さんへの来店数が増え、結果、サロンの認知も広がっていったという事例です。
ご紹介してきたさまざまな事例からもお分かりのように、美容業界においてはコロナ禍を経て、お客さまとの新しい信頼の築き方が広がっています。そのことを一言で表すキーワードが「 シン密~新密・心密・深密」。コロナに負けず、さまざまな方法でお客さまとの間に「新しい信頼」を生み出し、「心の信頼」の絆を強め「深い信頼」へと進化させていく、そんな「信頼が密になる=シン密」サロンがどんどん広がってきているということを、本日はお伝えさせていただきました。
コロナ禍による日常消費行動の変化から業界特性を読む
岩下 この後は、ディスカッションの方に移りたいと思うのですが、その前に、我々が実施した調査をご紹介します。
このスライドでは、さまざまな日常消費行動に対して、コロナ以前の2019年と、コロナ禍後かつ緊急事態宣言が出ていない時期の2020年6月から12月とを比較し、「新しく始めた」「支出・頻度が増えた」「変化なし(元々やっていない)」「支出・頻度が減った」「やめた・退会した」という5段階にわけて、回答してもらっています。
ご注目いただきたいのは、一番左の「インターネットでの日用品などの購入」、そして左からふたつ目、「自炊/料理」。これらは支出・頻度がすごく増えていますよね。皆さんも実感があるのではないでしょうか? 逆に支出・頻度が減ったのが、右側の3つ、「外食」「旅行(宿泊)」「日帰り旅行」。このグラフを見ると、改めて外食産業がかなり大きなダメージを受けていることが分かるのですが、業態やエリアによる差などはあるんですか?
稲垣 そうですね。飲食店でいえば、企業のテレワーク推奨などの影響もあり、エリアでいえばオフィス街、繁華街が特に厳しいですね。業態でいうと、比較的調子がいいのは、「ファミリーレストラン」「回転寿司」「ファストフード」「焼肉」などですね。
岩下 美容領域はまた少し違う特徴があるかと思うのですがいかがですか?
千葉 このグラフを見て分かるのは、「美容室(ヘアサロン)」「美容系サロン(ネイル・エステなど)」は、右側に寄っていて支出・頻度が減っているのですが、「おうち美容」は真ん中あたりにあり、変化があまりないんです。しかし、先ほども言った通り、いったんは緊急事態宣言を受けてヘアを「おうち美容」に切り替えた人も、今はまたサロンに戻っている傾向がありますから、逆に、家で自分でのケアを経験したからこそ、プロの技術力の高さを改めて痛感しサロンの価値を再認識できた、そんな機会と捉えることもできるかなと思います。
岩下 今の話を補完するような調査なのですけども、コロナ禍によって、さまざまな日常消費行動の「(元々消費していた場所から)場所を変える」行動をとったかというグラフです。一番多かったのは、一番左側にある「場所を変えたものはない」という回答なのですが、「変えた」ものを見ると、生活に必須のものほど「変えない」傾向が見えてくるかなと思っています。
稲垣 飲食店についていえば、利用する店を家の近くの店に変えるという行動はもちろんあると思うのですが、その飲食店を応援したいからちょっと遠いけど通い続けるというような動きがあります。
千葉 今日のプレゼンでもお伝えしたのですが、サロンの場合、カスタマーの約8割が店を変えていないと回答をされています。一部、会社の近くのサロンにいっていたが、リモートワークで会社にいく機会がなくなったので、家の近くのサロンに変えたというケースはあると思います。が、全体としては、美容業界は人による施術ということもあり、「常連化率」が高い業態なのかなと思います。美容系サロンの場合、お客さんが「お店」でなく「人(施術者)」についているってことが多いですからね。
店舗の内・外を問わない、新しい「機能価値」「付加価値」の作り方
岩下 以下、コロナ禍以前に、店舗がカスタマーに提供していたサービス価値を「外食店」と「ヘアサロン」に分けて整理してみました。
どちらも価値の基盤として「安全・安心・清潔」が非常に大事だと思うんですが、今現在は、新型コロナウイルスによって揺れている部分がある。その上で、やっぱり「人にやって貰える機能価値」、そして店独自の価値として、「接客、感性・センス・こだわり、店舗の雰囲気」などがあると思います。これを今後はどう再現するか、置き換えていくかということを、少し聞いてみたいのですが。
千葉 まさにこの表の通りなのですけど、今は「安全・安心・清潔」は前提条件ですね。これがないと他のサービスがどんなに良くてもそこにはいきたくないですよね。候補にすら入らない。その上で、機能価値に集中しているサロンもあれば、より高い付加価値に力を入れているサロンもあるということで、二極化が進んでいるんじゃないかなと思いますね。
稲垣 飲食業界の場合は「機能価値」の戦いが熾烈です。先ほどコロナ禍で高単価のメニューを家で食べられるようになってきたという話をしましたが、そうはいっても外食とまったく同じレベルの味を家で完全に再現できるかいうと、まだまだ再現できていないメニューも多いです。さらに、お店で受けるようなきめ細やかなサービスや接客などの付加価値を、家になんとか持ち込めないかといった戦いも始まっています。
岩下 今の話とあわせても、コロナ禍によって、二極化が加速していると捉えております。
ここまでは、こだわりが強かったり贅沢感があるという左側の高付加価値な事例が多かったのですが、機能価値重視の低単価な事例についても教えてください。
稲垣 コンビニで売っている中食は、ますます外食店が監修しているものが増えてきていますよね。以前はそういうものは、味に関してはそこそこ、というものが多かった印象なのですが、今はかなり本格的になってきており、そのあたりはすごく進化を感じている部分ですね。
千葉 今日は高付加価値な事例を中心にお話しましたけれども、ボリューム的にいえば、依然、右の方が多いんですよね。具体的な事例としては、「自動シャンプー」や「カラーリタッチ専門店」などですね。これらは、物理的接触や、接触時間そのものを短くするなどして、コロナ禍における機能価値を追求しています。これらはコロナ対策にもなる上に、店全体としても生産性が上がるため、これを機に伸びていく気がします。
岩下 ここまで、事例やデータなども交えていろいろなお話をして参りましたが、「コレカラの店舗経営のためのヒント」を、4つのポイントにまとめさせていただきました。
これらのことを、今後の店舗の経営のヒントとしていただけたら幸いです。
本日はこれで終了させていただきます。ご視聴ありがとうございました。
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