良い職場って何ですか? 『GOOD ACTION アワード』審査員&事務局員と探るこれからの働き方
世の中の働き方・職場を良くしたいという想いで2014年から始まったリクルート社の『GOOD ACTION アワード』。働き方が大きく変わる現代における、「良い職場のあり方」について、アワードの審査員を第三回から務めてきた藤井 薫と、20年より事務局を担当した西冨英輝が語ります。
一個人の想いを起点に職場が変化していくのがGOOD ACTION
――3月2日に第8回目を迎えた、職場で行われているGOODなACTIONを表彰する『GOOD ACTION アワード』ですが、そもそもGOOD ACTION とはどのようなものなのでしょうか?
西冨:「GOOD ACTION」とは、働く個人が主人公となり、想いを持って始めた取り組みが、少しずつ周囲の人を巻き込みイキイキと働ける職場の共創へとつながっていく…そんな可能性を秘めた取り組みのことだと私たちは定義しています。
例えば今回大賞を受賞した徳島県の小松島警察署。上意下達で硬直的な環境に課題を感じていた副署長が、『週刊副署長』という遊び心あふれるカジュアルな内容の壁新聞を継続発行して署員同士のコミュニケーションを活性化したり、定時退庁と有給休暇取得をポイント化して、ゲーム性を持たせたシステムを構築し、長時間労働の是正につなげた事例になっています。
この事例は、警察という硬い組織にも関わらず、副署長が環境を良くしたいという熱い想いを持って行動に移し、その結果、職場全体に柔らかい風土を醸成。署全体の働き方が良い方向へ変わった点が特に評価されました。
第8回 GOOD ACTION アワード受賞一覧
大賞:徳島県警察本部(小松島警察署)
受賞:一般財団法人KAKEHASHI
受賞:学校法人新渡戸文化学園
受賞:株式会社京屋染物店
受賞:株式会社日東物流
受賞:株式会社minitts(佰食屋)
受賞:日本イーライリリー株式会社
受賞:日本生命保険相互会社
Cheer up賞:株式会社ツクイ
――誰かが動いて、その結果周囲が変わっていくという点がポイントなんですね。
西冨:そうです。働く一個人の想いというものが起点になって、職場が変化していくものをGOOD ACTIONだと捉えています。職場環境を自分の力で変えていくことの出現率は低いからこそ、その行動に光を当て、周知したい。その結果、もっと世の中の働き方・職場をよくしたいという想いで本アワードを行っています。
――素敵な取り組みですが、そもそもなぜリクルートが本アワードに取り組むのでしょうか?
西冨:もともとはリクルートの転職支援サービスの中から生まれたものなんです。転職を考えている人は、現在の職場に不満がある人も多い。ですが、働き方を変えるには転職だけではなく、自分が職場を変化させるために動くという手もある。もし今の職場が働きやすいものになれば、それは同じ職場で働く他の人にとっても、良いことですよね。世の中にはそういう選択肢もあるということを伝えたいというのもありますし、何より、リクルートが掲げている経営理念「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す」の通り、一人ひとりがイキイキと働ける社会の実現を目指して、取り組みを続けています。
コロナ禍で変わった働き方。エンゲージメントが低下している
――「Follow Your Heart」や「個の尊重」にもつながりますね。もう8回も続いているアワードですから、世の中の働き方の変化も見えてくるのでは?
藤井:コロナ禍のこの2年は特に変化が大きかったですね。リクルートでは『働く喜び調査』というものを毎年行っているのですが、2020年版のレポートでは、「仕事をする上で働く喜びは必要」と感じる人は83.9%もいるのに対し、過去1年で実際にそれを感じた人は42.3%にとどまりました。これはもう、日本の「働く」が悲鳴を上げているような状態だと言えます。
同レポートではさらに、働く喜びが分断されているという結果が出ています。2020年はコロナ禍でリモートワークが急速に進んだ1年だったのですが、それに対して、働き方が良くなったと答える人がいる一方で、悪化したと回答している人も出た。二極化しているんです。
――二極化の理由は何でしょうか?
藤井:リモートワーク導入前は、同じ職場でお互いの動きが見えた上で仕事をしていましたが、今はそうはいきません。人によっては、目隠しをしてサッカーをしているような、仲間も見えないし、敵も見えない、そもそもボールもゴールも見えないというような「私は今どこに向かって、誰と何をしているんだろう」という大きな不安を抱える人が出てきているんです。こうなると、自分が組織に期待されていると感じることも、組織に貢献しているという実感を得ることも難しい。エンゲージメントが低下し、モチベーションはかなり下がります。
――突然リモートワークが始まった人も多かったから、余計にそのような結果につながったのかもしれませんね。働くことに悩みを抱えている人や職場が多い今、どんな働き方や職場が求められていくと考えられますか?
藤井:これからは、より変化に強い経営や職場が求められていくでしょう。現代は、人材不足による働き手の売り手市場化、育児や介護など働き手の多様化、働き手の働き方に対する思考の変化(ゆとりを求める)などから、従来の雇い雇われるような上下の労使関係ではなくなってきています。コロナ禍もあり、働き手の価値観は大きく変わってきていますしね。
結果、企業は働き手の声に寄り添い、働き手は企業に自らの働き方を申し出るようなフラットな関係性に変わっていく。簡単に言ってしまえば、雇用主と働き手がお互いに目を見て、「あなたはどう思うの? どうしたいの?」と自由に会話できるような関係性になるでしょうね。
良い職場=自分の持ち味を活かせる職場
――雇用関係のあり方が変わっていくんですね。どんどん変化する社会において、これからの「良い職場」ってどんなものだと考えますか?
藤井:前述のレポートでは、働く喜びを実感できている人は「自分の持ち味を活かせている」と感じている人だという結果が出ていました。ここに、働き方を良くする大きな鍵が隠されているように感じます。
これからは、働く個人が自分の持ち味を自覚し、その持ち味を活かせる職場を自分で選択できて、上司や同僚とお互いの持ち味(可能性)に期待し合っていくことが、大事になってくる。個をあるがままに生かす職場が求められていくと思います。
――自分の持ち味を活かせることがイキイキと働くということにつながるんですね。
西冨:『GOOD ACTION アワード』では、そんな職場になろうとしている取り組みに光を当て続けています。過去には、妊娠した女性は退職するのが当たり前だった職場で、自主的にリモートワークを導入し、子育てとの両立を図りつつ結果を出し、最終的にリモートワークが会社全体で取り入れられた女性の例や、叱ることが当たり前だった自動車教習所で、とにかく褒めちぎる指導を始め、結果として従業員同士も褒め合う文化が醸成された例なども表彰してきました。選出までの間には、何度も現地に足を運んで従業員にヒアリングをして、膨大な資料をまとめたりと苦労も多いですが、ひとりの小さなチャレンジから始まったことでも、職場を変える力になるんだということを伝えたいという想いでやっています。そして、私たちがその取り組みに光を当て続けることには価値があると信じています。
藤井:本当に大きなことでなくていいんです。何か気になることがあるなら、小さなことからで良いから、まずはアクションを起こしてみようと思っていただけたら嬉しいです。まずは他の取り組みを知るだけでも違うと思いますよ。一人ひとりが当事者意識をもって自由に発言し、動き、組織もそれを受け止める。みんながお互いに期待し合い、才能を活かし合う。多様な社会に向けて、自分も職場を作っていくひとりなんだという意識で、ともに成長し合える、イキイキと働ける職場をこれから作っていきましょう。
GOOD ACTION特設サイトはこちら:
https://next.rikunabi.com/goodaction/
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 藤井 薫(ふじい・かおる)
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リクルート HRエージェントDivision 顧客ロイヤルティ推進部 リサーチグループ
1988年、リクルートに入社。人材事業企画とメディアプロデュースに従事し、『TECH B-ing』編集長、『Tech総研』編集長、『アントレ』編集長などを歴任。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。16年、『リクナビNEXT』編集長就任。19年より、HR統括編集長。リクルート経営コンピタンス研究所兼務- 西冨英輝(にしとみ・ひでき)
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リクルート HRエージェントDivision 顧客ロイヤルティ推進部 リサーチグループ
大学卒業後、2009年、リクルートエージェント(現リクルート)入社。転職支援事業に営業職として携わった後、インターナルコミュニケーション部門へ異動。2020年より『GOOD ACTION アワード』事務局