リクルートの事業トップが考える“キャリア形成”とは?今の仕事を「辞める/辞めない」の分岐で見えたもの。
変化が激しく、予測が難しいこれからの時代において、働く私たちの「キャリア」も自律的に描いていくことがより求められていくと言われています。とはいえ、まさに十人十色な「キャリア」を私たちはどうとらえ、日々生まれる悩みと向き合っていけばよいのでしょうか。先日、リクルート社内から寄せられたキャリアに関する質問に、事業部長クラスが答える形で開かれた「キャリア座談会」。そのなかに、今の時代にも活かせそうなヒントがありました。
2022年1月に実施されたリクルート社内向けトークイベントのダイジェスト記事です/敬称略
「キャリアイメージを持つ」という呪縛に囚われ過ぎていないか?
松田:今回モデレーターを務めます、宜しくお願いします。事前に参加者の皆さんから想定以上の質問が寄せられました。今日は、お三方の経験を踏まえてのアドバイスをいただく形で進めていければと思います。ひとつ目の質問はこちらです。
「自分のキャリアのイメージをまだ持てていません。
皆さんはご自身のキャリアイメージをどう描いてきましたか?(営業/入社3年目)」
林:私は、この方と同じ3年目に、上司に「将来のイメージがわかないんです…」と相談を持ち掛けた経験があるくらいなので、この悩み、とてもよく分かります。その時、上司から返ってきたのが「気にするな」というアドバイスでして(笑)。で、私も全く同じアドバイスをしたいと思います。というのも、今時点で見えている景色は、1年間分の経験を積んだ来年から見てみると、絶対に“狭い”じゃないですか。つまり、今時点で見えている限定的な視界で、将来の展望なんて持たなくてもいい。成長していく中で、「これは違うな」「これは好きだな」ということに出会いながら、いつしか「やりたいこと」が見つかればいい、というのが私からのアドバイスです。ただ、“将来の自分”を決定づけるのは、“今の自分”でしかないので、今の仕事でどうやって成果を出すか?にフォーカスしきることは大切。そうすれば、自然と視野・視座・視界が変っていくはずです。
道本:キャリアって、明確な目標に向かって努力を重ねる「山登り型」と、偶発的な機会をうまく生かしながら結果を出していく「川下り型」とでよく語られますよね。なんとなく「登るべき山」がある前者のほうが分かりやすいし、輝かしい感じもするので、「山」がなくてはいけない気になりがち。でも、そもそも「どこの山に登るか?」で迷っているなら、その人は山登りのゲームに振り回される必要はないと思っていて。「どんな世界にたどり着くか分からないけど、積極的に川を下ってみよう」という心持でいればいいんじゃないでしょうか。とはいえ、荒波にもまれ、転覆することもある。そんななかをとにかく“真剣に下る”ことは大切だと思っています。ただ漫然と流されるか、積極的に下るかによって、どんな海原に出るかは変わってくるはずなので。
松田:既に「ここに行きたい」という山がある人はもちろんそれで素晴らしいし、今目指す山がないことを卑下することもないってことですね。
緒方:一方で、私がいつも思うのは「“キャリア”ってそもそも何のことを指しています?」ということなんです。若い時って当然ながら、この先自分がどんな経験をし、どんなスキルが身につくのかをイメージするのってとても難しい。しかも今の時代、世の中は猛烈なスピードで変化していますから、求められる手法やスキルさえ変わっていきます。年次に関わらず、常にアップデートが求められる。なので「〇〇年後、〇〇なスキルと経験を身に着けて、〇〇になります」というプランって、そんなに意味がないのかな。でも、将来に向けて「自分はこうありたい」という雰囲気・方向性はイメージできると思うんです。例えば「集団をリードしている自分でありたい」とか「ひとつのことに対する専門性を深めていたい」とか、自分なりに「こうなっていれば素敵だな」というイメージさえ持っていれば、自ずと必要なスキルは見えてくるし、周囲もそこに向けて応援してくれるはず。あまり「キャリア」という言葉に囚われすぎなくてもいいのかな、と思いますね。
どんな仕事でも、経験した人の中だけに積み重なる価値がある
松田:では次の質問に行きたいと思います。
「新卒からずっと営業畑で13年目となりました。
ほかの職種も経験したいのですが、年齢的に遅いでしょうか。(営業/入社13年目)」
職種に関わらず、キャリアチェンジについては悩む方も多いと思うので、アドバイスをいただければ。
道本:まず、前提として、年齢はあまり気にしなくていいのではないでしょうか。「お母さんのお腹から出てきて何年目」というだけの数字なので、年齢的に遅いとか早いとかはない、と私は思います。一方で、このご質問の背景にあるのが「このまま営業でいいのか?」という問いなのだと捉えていまして。その不安に対してのアドバイスとしては、その13年間で培ってきた価値の“たな卸し”をしてほしい、ということ。どんな仕事でも、ある年数をかけて経験を積んできた、その人にしか得られない経験、筋力があると思います。それはどれだけお金を積んでも、他の人には絶対に得られないものです。その価値をご自身が評価したうえで、次のチャレンジをするかしないかを冷静に判断して欲しいと思います。
緒方:私も営業から広報スタッフへとキャリアチェンジしていますが、営業の経験は今でもすごく活きているという実感があります。営業時代は、クライアントの心をぐっとつかんで課題解決をしてきましたが、それは今でも一緒で、相手がメディアの記者さんや社内の経営陣へと変っただけ。「相手が何を求めているのか?」を掴む力は、汎用的でコアなスキルだと思いますね。
林:私もおふたりと全く同意見ですね。もし、「本当にやりたい」と思うなら飛び込んだほうがいいと思います。ただ、新しい職種で求められるスキルを新しく得る期間は一定あるはずなので、一瞬“しゃがむ”覚悟だけは必要かな。私が営業からプロダクト企画にキャリアチェンジした際に思ったのは、まず重視されるコミュニケーションの中身が違う、ということでした。営業では、どちらかというと「頑張っていこう!」と情緒的なやりとりが多かったのが、プロダクト企画では、とかく、ロジカルなコミュニケーションが重要視される。その作法が違いすぎて、最初のうちは必死に作った資料を、最後まで見てもらえることがないくらいでした。1ページで「これなに?だめ」となる(笑)。だから異動して1年目はとにかく、作った資料を最初から最後まで見てもらうことを目標にしました。はじめて自分が作った資料すべてをプレゼンできた会議では、感極まって泣いてしまったくらい。周りはびっくりしていましたが(笑)。私の場合は極端な例かもしれませんが、そうした“しゃがむ”ことに対する覚悟さえあれば、新しいキャリアを選択しても、きっと大丈夫だと思います。
緒方:仕事のマインドは何の仕事だろうと、変わりませんよね。私も広報担当になった当初は分からない言葉だらけだし、社長に怒られることもあったし…で萎えることもありましたが、「とかく自分で前に向かっていかないと…」の気持ちで突き進んだのは営業のときと同じでした。使えるものは社内外問わず、利用しまくって躓きまくって…で、次第に“広報”になっていったんだな、と今振り返ってみて感じています。
今の仕事に迷いが出たなら、社内外すべての選択肢を並べ、冷静に検証すべし
松田:では、最後の質問です。過去のみなさんの経験を踏まえてお答えいただけますでしょうか。
「『リクルートを辞める・辞めない』を悩んだタイミングはありますか?
その際どのように意思決定されたのでしょうか。(コーポレートスタッフ/入社5年目)」
道本:あります。入社3年目のタイミングで、卒業しようと考えていました。当時、採用マーケットを担当していることもあり、気鋭のITベンチャー企業などの人材募集をいろいろ担当したご縁から、「うちへ来ませんか」とお声がかかることもあったんですね。今思えば若気の至りなのですが、そうした引き合いに気持ちよくなってしまって…。でも、ある瞬間、その逸る気持ちを抑えて「自分は転職で何を得たいのか?」を冷静に自問自答してみたんです。結果、気づいたのが“新しい事業を立ち上げることにチャレンジしたい”というのが自分が叶えたい変化なんだ、ということでした。で、社内を見渡してみると、丁度「ホットペッパー」という事業が立ち上がったばかりだった。自分が得たいものは外に出なくても体験できるのではないか?と気づき、そのときは「ホットペッパー」に異動する道を選びました。
そこから結局、リクルートで働き続けているわけですが、その理由は仲間の多様性にあると感じています。私自身も、リクルートに入るまでは3年間海外を放浪していたというかなりの変わり種でしたが(笑)、そうした人を受け入れてくれたということもありますし、まわりの仲間の多様性はますます増している。それでも飽き足りなくて、さらに間口を広げようとしている。この規模で、これだけの多様性を保っているって、かなり稀有な会社じゃないかな、と思うんですよね。
林:私も、出るか出ないか迷ったことは、何回かあります。仕事が停滞してくると、「このままでよいのか?」という迷いが生じてきて、仕事が手につかなくなるタイプなんです。なので、そういう時には、今の仕事と、自分のなかで候補だと思う他社、さらには自分で起業することも含め、選択肢をすべて洗い出し、並べてみる。そして、「次の3年をどこでどう過ごすのがよいのか」を自分で決めるようにしています。
その際、自分のパフォーマンス最大化を見込める条件として、「多様性を受け入れている会社」「世の中にいい影響を与える仕事」「仕事の与えるインパクト」の軸で比較検討するのですが、結局のところ、リクルートが残ってしまう(笑)。ここまで考え切ると「じゃ、頑張るか」と、また仕事が回り始める…というのが自分のパターンですね。
緒方:私はこれまで20年以上、リクルートで過ごしてきましたが、その間、卒業しようと思ったことはないんです。きっと、「この会社もう出ようかな」と思う時って、どこかで“飽き”を感じている時なんでしょうね。成功パターンが出来てくると、「もう自分は一通りやったしな」と。そういうときは、リクルートを卒業するという選択肢を選ぶのもありだと思います。ただですね、リクルートを卒業し、転職した私の同期の多くが、口々に「リクルートほど上下関係も男女差もなく、フラットな会社って、世の中にそうそうないよ」って言うんです。多様な人たちが、社内でいろいろなテーマと向き合い、お互いの取組みをオープンにシェアしながら、さらに新しいことを模索している。世の中の選択肢と負けないくらいの選択肢が、リクルートには内包されている、というのも魅力のひとつなんだろうなあ、と最近改めて強く感じています。
松田:純粋に“キャリア”というテーマについて語り合う機会自体、なかなかないので、私自身、とても貴重な時間になりました。本日は皆さま、ありがとうございました。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは座談会開催当時のものです
- 道本雅典(みちもと・まさのり)
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Division統括本部 ビューティDivision Division長
1999年新卒入社。2年半の求人営業を経て、『Hot Pepper』岡山版創刊営業へ。以降、熊本版、福岡版の版元長、『eruca.』(2016年に休刊)創刊に関わったのち、2010年より美容情報営業統括部へ。2015年よりビューティ&ヘルスケア統括本部にて美容情報営業統括部統括部長、2016年ビューティ営業統括部統括部長を経て、現職に至る。
- 林裕大(はやし・ゆうだい)
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SaaS領域プロダクトマネジメント室 Airプロダクトマネジメントユニット ユニット長
2006年新卒入社。『Hot Pepper』の営業を担当した後、2011年4月よりネットビジネス本部に異動。『ホットペッパーグルメ』の商品・サービス企画、新規事業の立ち上げを務めた後、UXデザイン1GのGMに。2017年以降は、Air ビジネスツールズのプランニングに関わり、2018年にはAir事業ユニットのユニット長に。2020年より現職。
- 緒方真樹子(おがた・まきこ)
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広報サステナビリティ 広報ブランド推進室 室長
1997年新卒入社。HR領域、住宅領域で営業を経験し、2007年 社外広報部社外広報グループへ。12年の分社化、14年の株式公開を広報部長として経験した後、2015年 リクルート住まいカンパニー、リクルートライフスタイル執行役員を経て、2019年11月リクルート広報ブランド推進室長に。
- 松田今日平(まつだ・きょうへい)
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人材組織開発室 次世代HR企画G GM
2010年、大手自動車メーカーに入社。その後、外資系の戦略コンサルティングファームでM&A、マーケティング・営業戦略などを手掛けたのち、2015年リクルートホールディングスIT人材開発部に中途入社。2018年より人事統括室GM、2021年より現職。