「留職」を生んだ若きリーダー 小沼大地さんのリクルート考
リクルートグループは社会からどう見えているのか。
私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
リクルートグループ報『かもめ』2017年3月号からの転載記事です
近視眼的な思考様式に凝り固まり
社会を見る力が低下していませんか?
僕が学生だった2005年、リクルートがウインタージョブを主催していて、住宅事業でインターンシップをやらせてもらったのが最初の接点です。大学時代はラクロス部へ所属していましたが、その時の先輩や友人がリクルートにたくさん就職していて、熱くて面白い人がたくさんいる企業というイメージを持っていました。
ビジネス上の接点では、2014年にリクルートキャリアと共に「留職」を初めて国内で実施しました。石巻市へ3名の営業が赴いて、現地で訪問医療を展開する団体とともに、さまざまな課題解決に取り組みました。例えば、訪問医療をITでさらに効率化していく試みのサポートや、スタッフのモチベーション向上のために朝会を導入するなどして、団体に貢献して頂きました。「留職」と並行してワークショップも企画し、社会のリアルな現場に飛び込み、そこで何が問題になっているのか、リクルートとして何ができるのかを考えるプログラムでもご一緒しています。ワークショップは今年で3回目、今回は島根県雲南市を舞台にしています。他にも、リクルートホールディングスのCSRとRECRUIT VENTURESとともに、インドの社会起業家を呼んでトークイベントを実施するなど、リクルートとは多面的なお付き合いをさせてもらっています。
リクルートの人達は、目標があったらとにかく達成するという勢いや、がむしゃらにやり切る猪突猛進さ、そこに対する疑いのなさみたいなものを一人ひとりが持っているところが健全な強みだなと感じます。そして、ちょっと異常なぐらいに「お前は何がやりたいんだ」ということをずっと考えている。自分のWillを大切にすることからくる熱さというのをこれほど感じる集団はないですね。ビジネスモデルの裏側に、個人のやりたいことがしっかりと乗っている。仕事柄、さまざまな企業を見ていますが、大方の企業はMustが先にあるという印象で、Willを全面に出すところは珍しいんです。ここはユニークなところだなと思います。
そしてこれは、強みでも弱みでもある部分だと思いますが、リクルートの人達って結構非常識なところがありますよね(笑)。強いチームの特徴でもあるのですが、世の中の常識と違う常識を、あたかもこれが当然なことのように自分達の流儀にしているところがある。例えば、いろんな人から「壁打ちしてください」という問い合わせを頻繁にいただくんですね。一般的には、社外の人にそういうことをお願いするのは躊躇するものですが、ガンガンくる(笑)。でも、いつの間にかその熱意にほだされてつい時間を取ってしまい、終わるとこちらも気持ちがよくなっていたりする。そういう人の巻き込み方にしても、世の中一般からすると非常識な行動に見えても、その人のWillに根差したピュアな気持ちがあるからこそ、時として強みになる。それが新しい価値をつくり続けるDNAにつながっているのだと思います。
でも逆に、この非常識さは弱みであるとも言えます。皆さんと話していると、既存のビジネスモデルに閉じていると感じることが多いのです。これまで培ってきたリボンモデルのなかの景色で、そこがちょっとよくなるための努力はするけれど、それ以上のレベルで社会を捉える力が弱くなっているのかなと感じます。3ヶ月後の流れは読めても、もう少し大きな枠で社会を見て、現場で起きている課題やニーズを捉えたソリューションを考えられているでしょうか。既存のモデルが強すぎたがために、そこに頼りすぎているところがありませんか。健全な常識の上に立つ非常識は、しっかりと社会を見ることができて成り立つものだと思います。イノベーションを生むためには非常識であることは重要ですが、リクルートのための非常識になってしまったら意味がないし、何も生まれない。「まだ、ここにない、出会い。」を創る会社ならば、リクルートのサービスに登録できる人や、能動的に動ける層だけを見るのではなく、これまでリーチしてこなかった層までしっかりと見に行って欲しいと思います。
これからの社会は、放っておくと持てる者と持たざる者の二極化や分断が進むはずで、このことは企業もNPOも等しく向き合わなければいけない課題です。そういった断絶を起こさないためにも、これまでリーチしてこなかった層を、いかに包括的にビジネスの力で取り込んでいけるかが問われている。今、この激変の世の中を見た時に、どのレバーを引けば、新しい仕事観や人生の歩み方をデザインできるのか、今までのお客様とは違う次元で考え、作っていけるのがリクルートだと思っています。共に頑張りましょう。
プロフィール/敬称略
- 小沼 大地
- NPO法人クロスフィールズ 代表理事
-
1982年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊(中東シリア/環境教育)に参加後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2011年、ビジネスパーソンが新興国のNPOで社会課題解決にあたる「留職」プログラムを展開するNPO法人クロスフィールズを創業。同年に、世界経済フォーラムのGlobal Shaperに選出。国際協力NGOセンター(JANIC)の常任理事、日本初となるソーシャルビジネス連合である新公益連盟の理事も務める。著書に『働く意義の見つけ方ー仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社刊)がある。