エンタテインメントとトレンドの専門家 品田英雄さんのリクルート考
未来の社会における幸福感とは 新たなモノサシで社会をリードして欲しい
リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
リクルートグループ報『かもめ』2020年9月号からの転載記事です
トレンドを仕掛けて市場を創造 雑誌全盛期からネット化へ
リクルートとは、直近ではFORUM(リクルートグループ横断でナレッジのシェアを行う社内イベント)やトレンド発表会を通じ、ゲストなどで関わらせていただいています。最初の出会いは1990年頃。日経BP社の開発室時代に、雑誌立ち上げの前後で取材や情報交換などでリクルートの方にお会いしていました。
出版界は1976年に雑誌が書籍の売上を初めて抜き、雑誌全盛の時代へ。リクルートは80年代に流行語となった『とらばーゆ』で女性の転職という市場を創り出したり、やりたいことと両立するための働き方として『フリーター』という言葉を生み出していました。90年代も新しいメディアをすごい勢いで立ち上げていましたね。クライアントとカスタマーの双方が求める接点を見出し、マネタイズする力がすごかった。
当時、日経BP社でも、新たな雑誌企画を立ち上げ、リクルートを見習って2年で単年度黒字化を目指しました。97年に『日経エンタテインメント!』の創刊編集長となり、コンシューマー向けのゲーム雑誌『じゅげむ』や書籍紹介雑誌『ダ・ヴィンチ』などとは一部競合したようでした。
2000年になるとインターネットの時代になり、雑誌の役割をネットが担うようになってきました。そして2016年に再び、書籍が雑誌の売上を逆転しました。
消費者一人ひとりがトレンドを創る時代に
ネット化は、トレンドを創るということの本質を変えていきました。それまでは、企業側や編集をする側が、世の中の状況を読んで、掘り出した素材に適切なアレンジを加え、適切なタイミングでリリースしてヒットを仕掛けていくことで、トレンドという大きなうねりが生み出せました。
しかし、ネット時代、さらにSNSが台頭してくると、トレンドの生まれ方が生活者側に委ねられていきました。企業側では、流行りそうな商品を多品種少量で実験し、一番売れたものを作るようになっていきました。
逆に、どんなにトレンドを仕掛けて売りたくても、市場に出して消費者に支持されず売れなかったものは淘汰されるわけです。今後は、トレンドを予測するためには、世の中を構成している多種多様な個人を知ることが最も重要になると考えています。
新たな時代の幸せのカタチとは 金融、健康、精神的満足
リクルートはマッチングという得意技で生活者の「不」を解消してきましたね。しかし昨今、一人ひとりの思う幸せの形が変化しているだけでなく、そのニーズも潜在化するようになり、街の店舗オーナーからだけでは消費者ニーズが見えづらい。
また、労働人口が減少し、社会に収入の少ない人、高齢者などが増えていくと、目に見える消費は減る一方、生活者が本当に求めているものが見えにくくなるわけです。
昨年より、人生100年時代を見据え、有志で集まり「幸せ研究会」を立ち上げました。所有することや贅沢のあり方が変化していくなかで、幸せに生き抜くために必要なものを検討していきました。
そのなかで上がってきたのは、お金と健康と精神的満足。金融と健康については既にビジネスとしての形ができてきていますが、精神的満足という分野が難しい。これまでエンタテインメントが感動という形で提供できていた部分がありますが、コロナになって、ライブでの音楽や観劇などが難しくなり、「感動」を体感する新たな方法を模索せざるを得なくなってきました。
一方で人間関係を育むコミュニティや心理的問題を解決できる場所などは、まだまだビジネスとしては白地が大きいことに気付きました。もともとエンタテインメントも、「感動」を測って可視化することができないため、ビジネス化が難しいと言われていた分野。新たな技術で可視化できる範囲が広がると、次世代生活者の切望する新たなビジネスを生み出せるかもしれません。
"新時代の幸せ"に寄り添うメディア業を超えたサービスを
常に時代の一歩先を読み、半歩先にビジネスにしてきたリクルート。この先、お金、モノだけでない精神的満足の提供という難しいテーマが出てきます。メディア企業、IT企業という枠にとらわれず、日本で生まれてグローバルを知ったリクルートだからこそできることがきっとあるのではないかと思います。
経営理念にも掲げている「個の尊重」が発露した新たなサービスを期待しています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 品田英雄(しなだ・ひでお)
- 株式会社日経BP 日経BP総合研究所上席研究員
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1980年に大学卒業後、ラジオ関東(現在のRFラジオ日本)入社。洋楽番組のディレクターを務める。87年日経マグロウヒル(現在の日経BP)入社。記者、開発室を経て、97年編集長として『日経エンタテインメント!』創刊。その後、同誌発行人などを経て、2013年から現職。日経MJ『ヒットの現象学』連載。デジタルハリウッド大学大学院客員教授など、テレビ・ラジオ・講演も多数。著書に『ヒットを読む』(日経文庫)。