リクルート流、週休3日制ってナニ? 年間の休みを145日に増やした狙いに迫る

リクルート流、週休3日制ってナニ? 年間の休みを145日に増やした狙いに迫る

2021年4月の統合を機に、人事制度を改定したリクルート。なかでも注目を集めたのが「週休“約”3日制」とも噂される、休日の増加です。導入から1年、改めてその狙いと現状について、人事統括室 室長の蝦名秀俊に聞きました。

プラス15日の休日は、寝ててもいい!?

― 今日はいち従業員としての疑問をどんどんぶつけちゃいますので、ざっくばらんに宜しくお願いします。

蝦名:はい、お手柔らかにお願いします。

― まず週休“約”3日の構成を確認させてください。

蝦名:これまでリクルートでは、暦上の休日と、お盆や年末年始、GWなどで130日の休みがありました(会社休日及び年次有給休暇の計画的付与による指定休5日含む)。2021年4月からの新制度では、ここに休日を15日加え、145日に。これを年間でならすと週休2.8日というわけです。ちなみに、この145日のなかには個人で自由に設定できる「フレキシブル休日」が含まれていて、2022年度は14日と設定されています。

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― なるほど、全体では15日増えたことと、自分で設定できる「フレキシブル休日」が新しい、と。社内では既に「フレ休」と呼称されていますが、フレ休を取得する日はなんだかドキドキするんです。自己研鑽的なことをしなきゃいけないんじゃないかって…。

蝦名:はは(笑)。休日と休暇は違うんですよ。フレキシブル“休日”なので暦上の休み、つまり週末の休日と同じ概念。寝ててもいいんです。

― それを聞いて安心しました。しかし昨年、自分だけの休日を設定するのは大変でした。いっそ会社が休みの日を決めてくれれば良かったのでは、とも思ったり。なぜ“約”3日という制度に?

蝦名:「週休3日」は、一般的に週に4日勤務し3日休む働き方を指しますが、1週間単位で規定するこの考え方はそもそも検討にもあがりませんでした。「公園のように出入り自由な会社」を掲げるリクルートとしては、社内外の垣根を越えた協働が生まれる場を創りたいと考えていて、そのためにはさまざまな背景を持つ個人を受け入れる必要があるだろうと。その時の働き方は、これまで以上の柔軟さやフレキシビリティが求められてくるはず。社内と社外の垣根もなるべく低いほうが良い。その実現トリガーのひとつとしての休日は、「個々人が自由に選択できること」が最も大事であり、会社が一律に「週3日休もう」と決めるのではなく、「3日くらい」とだけ示して、詳細は各自が自分でメリハリつけるくらいがリクルートらしいと考えたんです。

―会社が「休日はここ」と範囲を決めないことへのこだわりを感じますね。

蝦名:そうです。働き方を自由にするために「休日」という概念を、会社側だけで決めることをやめたのです。休暇とあわせて、一人ひとりの利用目的に沿って、特別な理由がなくても自由に取りやすい形にしたかった。

― 休暇というワードが出ましたが、休暇制度も新しくなりましたよね。なかでも「ケア休暇」は従業員から見ても斬新です。「ペットのケアもOK」ですからね。これにも深いワケが?

蝦名:一般的に「休暇」は利用目的を限定的にするケースが多いんです。例えば、産前産後休暇であれば、出産に伴う場面に限って使うこととしていたり。ご指摘の「ケア休暇」も、「ケア」という目的は限定されています。ですが、解釈に柔軟性を持たせているんです。

― 調べましたが「家族に準ずる」方の「ケア」なら何でも良い、という、分かるようで分からないような…

蝦名:この背景には、家族をとりまく価値観や概念が多様化していることがあります。ペットはその象徴にすぎません。そもそも「一親等内ならいい、二親等内はどうだ」などという一律の範囲よりも、本人が「家族」と感じているなら、その範囲を信じればいいじゃないか、と。
ケアの内容、ケアが必要なレベルについても細かく範囲を決めていません。報告義務もありません。もちろん法定の制度として介護休暇・介護休職制度もありますが、よりタイムリーに幅広い対象の家族に対して柔軟に対応できるように、法律の要件を気にせずに利用できる新しい休暇制度としてケア休暇を新設しました。

― 従業員に対する信頼というか、許容度が、内輪ながらすごいなあ。しかしそこまでのこだわりは一体どこからくるのですか?

蝦名:ちょっと個人的な動機にはなりますが、「当人に働く意欲があるのに、ライフイベントなどの理由で退職せざるを得ない状況をなくしたい」という思いがあります。
周囲には見せていないけれど、本人は結構しんどいことになっている、というようなケースに遭遇することが過去にありまして。しかしこういったプライベートな悩みはなかなか表面に出てこない。やむを得ず退職を決断した際も、退職理由に書いてくれるケースはほぼありません。当人が仕事を辞めることを「自分以外の家族のせい」とすることに罪悪感を抱いてしまうことも要因だと思います。
例えば「介護休暇」がありますが、取得のためには要介護いくつなのかとか、満たさないといけない条件があります。現実にはケアが必要なシーンって介護が始まる前にたくさんあるんです。介護以外にも、家族が発熱したとか、病院に行く家族に付き添う必要があるとか、本当にいろいろと。そういったケースごとに休暇を作っても煩雑だし、特定的すぎると本人も休みづらくなる。ゆるく範囲を決めるほうが、休みやすいこともありますよね。
プライベートのあれこれを、誰に気兼ねすることなく自分の裁量でハンドリングしながら、仕事の時間は思いっきり自分らしく働く。そんな生き方こそが、リクルートらしいじゃないですか。

― 人間らしい自然な感じもします。

蝦名:それに、リモートワークが基本になった今となっては、休まなくてもリモートワークの合間に対応すれば済むケースもかなり増えたなと感じていて。何かに限定せず幅広い用途で使用できるようにしておいて良かったと思います。

― ちなみに、あらゆる休日、休暇の制度を使ったら、どのくらい休めるものなんですかね?

蝦名:冒頭の休日に加えて、年次有給休暇や、ストック休暇(年次有給休暇の未消化分を積立できる休暇)、3年に一度のSTEP休暇(リフレッシュを目的とし3年に1回利用可能。最大で約1ヶ月取得できる)とケア休暇とかで…最大で数ヶ月分ありますね。

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自律的に休む、その鍵はチームの連携にあり

― さて、「フレキシブル休日」を導入して1年経ちましたが、運用してみての感想は?

蝦名:人事として最も懸念していたのは、計画的に取得できず、年度末に一気に取得せざるを得ない従業員が頻出する、という事態です。それを回避するためにも、初年度は休日を取ることに慣れることを目標としました。具体的には、上期・下期で半分ずつフレ休を事前設定する推進です。

― たしかに昨年は、仕事の予定の前に「休みの予定を立てて!」と言われびっくりしました(笑)。でもどうせ取るなら計画的にと思って、下期には「ここ3連休だからつないで長期連休にしちゃおう」とかカレンダー見て企てていましたね。

蝦名:そうでしょう。21年度(前期)のフレ休取得率※は98%で、想像以上に皆が休んでくれていることに驚いたのですが、さらに2年目の今期は、4月のフレ休取得者が倍になったんです。皆、制度活用のキャッチアップが早い。休みだと分かっていれば構えられます。
※半期ごとに残数は自動指定されるため、該当日に出勤した割合を減算

― 会議も、オンライン開催と録画が定着したこともあってか、誰かがいなくても当たり前、あとでキャッチアップすればいい、というのがスタンダードになってきたかも。

蝦名:「先に決めてみんなで認識し合っておく」ことが重要。数年内に、上期下期などで分けなくても各自が休みを自由に設計できるようになると期待しています。

― 従業員からの反響はどうですか?

蝦名:良い反響で多かったのは、平日の授業参観や入学式など、今まで出られなかった家族のイベントに参加できたという声や、公共系の手続きができて助かるという声。個人的に耳にしたのは、パパが「自分が子どもを見てるからママはネイルやヘアサロンに行ってきなよと言えた」という使い方。ユニークな例だと、食べ歩きが趣味の従業員が、ひとりで平日にお目当ての飲食店を気兼ねなく巡ることができたとか、好きな映画を平日割引で何度も見に行けた、などがあります。

― 逆に悪い反響は?

蝦名:やはり「平日の労働時間が延びる」という声ですね。ただ、実は全体平均でみると、1日あたりの労働時間平均は15分増えているのですが、1年間の総労働時間平均は50時間減っており、全体としてはむしろ労働時間減少につながったといえます。

― なんだかんだでメリハリがついて、平日の効率が上がっているってことでしょうか。

蝦名:ただし、カスタマーやクライアントからの要望を即日で対応できなかったり、他の人に託す際の心苦しさがあったりという課題も浮き彫りに。役割をチームでどう担保していくかについては、取り組む余地があると思います。

― 例えばどんな方法がありますか? 長年、個人商店的な仕事の仕方を認めてきたリクルートにおいて上手くいくのだろうか、という気もします。

蝦名:ある組織では、従来の個人分業的な役割分担ではなく、チームメンバー間でメッシュをかけるような分担にしたそうです。ひとりでさっさと進めるのに比べて連携負荷は高まったものの、結果的にはメンバー間で情報共有が活発になり、視野が広がる成長感があった、という報告も。顧客対応を2名体制にしたことで、休日も気がかりで落ち着かない、ということがなくなった、という声もありました。
リクルートの顧客接点において、「あなただから頼りにしたい」という信頼関係の価値と、「チームの誰かが対応してくれればいいよ」という利便性、どちらを優先させるかは悩ましいところです。でもそれぞれの事業が、マーケットに応じて最適なバランスを模索していくと、カスタマー・クライアントにとって、もう一段お役に立てる状態になるはずだと信じてチャレンジしているのが今なんです。本当に、各組織や従業員の応用力に支えられている制度だと感じます。

― 働き方のアジャストも、各組織で自律的にやろう、と。人材マネジメントポリシーに「自律、チーム、進化」を掲げている意味が少し分かったような気もします。

「リクルートを超えて、イキイキと社会と関わっていて欲しい」と語る人事 蝦名

会社の短期的なメリットは考えていない

― ここまでして、一体会社には何のメリットがあるのでしょうか?

蝦名:そもそも短期的なメリットはあまり考えていません。

― 考えていないんですか!?

蝦名:この取り組みは、将来的な働き方のフレキシビリティの獲得が目的です。従業員には「リクルートで楽しく働いています」を超えて、イキイキと社会と関わっていて欲しい。「公園のように出入り自由な会社」が目指すのは、そんな世界観。そのために、個々人にとっての最適な選択がそれぞれのライフステージのなかでできる制度を作っているのが人事、ということだと思います。

― うむむ、きれいにまとめられちゃいました。でも、自分が見えている以上に、制度側が将来を見据えて対応策を用意してくれていることが感じられて、ワークライフバランスに希望が持てました。今後、休み方はさらに進化していくのでしょうか?

蝦名:進化というよりは、まずはこの休日休暇制度を個人と組織が上手く活用しきる状態を目指したいです。休み方、働き方の起点は個人ですが、個人だけでは成立しない。チームとしてどう上手くやっていくのかまで突き詰めることで、職場がより良い環境になっていくと思います。

― 最後に。もし数ヶ月分のお休みを取るとしたら、蝦名さんは何をしますか?

蝦名:ええっ!? うーん、1ヶ月でも飽きそうだしなあ…。いや待てよ、サッカーの観戦に札幌に行って、それから…

― いろいろあって決められないってことですね(笑)。今日はありがとうございました!

関連情報
https://recruit-saiyo.jp/benefits/

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

蝦名秀俊(えびな・ひでとし)

リクルート スタッフ統括本部 人事 人事統括室 室長

大学卒業後、2007年リクルートに入社。新卒採用、人事企画、人事制度設計・育成施策等に携わる。2021年4月のリクルート統合を機に、人事関連機能を横断的に統括する現組織へ。休日は出身地のサッカークラブであるコンサドーレ札幌の応援や、子どもと一緒に愛犬の散歩などをして過ごすそう

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