リクルート事業長が語る「男性育休」のリアルとは?「仕事以外」の時間の使い方を学ぶ
人生を充実させるために、仕事だけでなく「仕事以外」の時間をどう捉え、活用していくかを考えたことはありますか?今回は、労働経済学を専門とし、男性育休に関しても研究をされている東京大学大学院経済学研究科教授 山口慎太郎氏をゲストに迎え、リクルートの3人の事業長との対談を実施。育児に仕事に奮闘する事業長たちが「仕事」と「仕事以外」の時間をどのように考え過ごしているのか、その実情を語り合いました。
※2022年9月に実施したリクルート従業員向け社内トークイベントからのダイジェスト記事です
東京大学大学院経済学研究科教授 山口慎太郎氏
Division統括本部 HR本部 HRエージェントDivision長 佐藤学
Division統括本部 Div本部 ビューティーDivision長 道本雅典
プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室(住まい) 室長 佐藤淳哉
モデレーター:
スタッフ統括本部 DEI推進室 室長 早川陽子
人生を充実させるために、「仕事以外」の時間をどう考える?
早川:今日はよろしくお願いします。リクルート社内でもよく働き、よく遊び、よく休み、よく学ぶことで有名なお三方と一緒に、人生を充実させるための時間の考え方について話していきたいと思います。早速ですが、ご自身の「仕事」と「仕事以外」の時間をどう考えているか、具体的にどういうことをしているかも含めてお話しいただけますか?
道本:私は以前ある実験をしました。仕事の納期が1週間あったとして、月曜から金曜まで1週間かけて仕上げるのと、金曜1日で集中してやるのではどんな違いがあるか。結果として、金曜に集中してやっても仕事の質は意外と落ちないし、集中すれば短い時間でも自分はこれくらいできるということも分かりました。時間の制約があることが仕事の質を上げると捉えてみるのもいいと思っています。それに仕事は隙間時間にもできるけど、家族のイベントだとそうはいかない。だから先に家族のイベントや自分の趣味のための時間を取って、その隙間時間でうまく仕事の濃度を上げるのがおすすめです。
佐藤(淳):「仕事」と「仕事以外」という観点で言うと、そもそも「仕事」ってなんだろうと思っています。私はリクルートで働きながら兼業として自分の経営する会社もあり、さらに土日はダンサーとして活動しています。ダンサーの自分からすると、体を休めている平日の方がむしろ「休み」とも言えるんですよね。全て仕事だけど、その切り替えによってどちらも仕事じゃなくなる。そして最優先は「パパ」だと思っているので、今はパパ、リクルートの仕事、ダンサー、そして自分の会社という4足の草鞋を履いている状態。比重は固定せず、その時の自分にとって一番良い状態になるように調整しています。
佐藤(学):私も長期のスケジュールを立てる時は子どもの学校行事や家族旅行の予定が先にあって、残りの時間で優先順位の高いことから埋めていきます。家族の予定以外にも普段会えない人に会いに行ったり、日々の仕事では目にできないものを見に行ったりするために計画を立てて、大きい予定から埋めていくという順番。仕事を先に考えて残りの時間で何かをやるというよりは、まず自分にとって大事なことから考えます。
早川:優先度をつけてスケジュールを立てるのが大事ということですね。山口教授もお忙しい中で研究を進めていると思いますが、休みが人生を充実させていると感じたご経験があれば伺いたいです。
山口:お三方の話には共感するばかりで、仕事の内容は違うのに根っこは同じなんだと驚きました。特にマネジメントする立場の方は、自分で仕事を抱え込まないことも大事ですね。私自身、以前はプレイヤーとしての自負や楽しみもありましたが、子どもが生まれてからは育児を最優先にしたので、必然的に仕事に使える時間は減りました。そこで自分のプレースタイルを変え、考える部分に多くの時間を使うようになり、実際に手を動かすことは研究室のほかのメンバーに任せられるようになりました。それが今、ワークライフバランスをうまく取れるようになった理由だと思っています。
育休は、パパとして、そして自分の人生の経験値を上げる大事な機会
早川:休み方の選択肢のひとつとして、リクルートでは育休取得の促進にも力を入れています。お三方とも育休取得の経験がありますが、育休はどんな機会でしたか?
佐藤(淳):1人目の時は子どもが生まれて半年後に育休を取得したのですが、その半年間で妻と大きな差がついて、子どもとどう接していいか分からなくなってしまった。爪切りにしても、妻は何事もなくできるのに自分は怖くてできない。最初の1ヶ月くらいは全く頼りにならなかったですね。そこから少しずつ成長して、その半年後には妻が旅行に行ってもひとりで子どもを見られるようになり、パパとしてのレベルを上げる良い機会になりました。
早川:育休取得を迷っている方へのアドバイスはありますか?
佐藤(淳):分からないことは経験者に聞けばいいし、短くてもいいのでまずは一度取得してみるというのもひとつの手ですよね。育休を取得したことで、自分の場合は仕事と家庭の価値観や組織運営の仕方も変わったと思います。
佐藤(学):私は約15年前に最初の育休を取得しましたが、1人目、2人目、3人目の時で気持ちが変化していきました。1人目の時は「手伝いに来ました」という感覚で、そこから2人目、3人目と経験するうちに、手伝いではなく自分もやるのが当たり前になっていきました。子どもへの接し方が変わると子どもとの距離感も変わるし、育児に関して何かを決める時も、以前は妻に主導権があったものが今は同じラインに立って話ができています。最初からそれがフラットにできている道本さんはすごいと思いますね。
道本:私は妻の出産を支える中で、「人間は他の動物とは違う論理的な生き物だ」という概念を壊されたんです。生死を意識する動物的な体験をしたことが、自分の人生にとって大きな経験値になりました。特に出産を経験できない男性の場合は意識的に関わらないと経験できないですから。あとは淳哉さんの話にもありましたが、やっぱり最初が肝心。育児に関して最初に距離ができてしまうと、その差はなかなか縮まらないと思います。
早川:育休を取得する際に、特に大変だったことは?
佐藤(学):当時はやっぱり「え、休むの?」という職場の空気感はありました。休みに入っても結局仕事のことが気になって、簡単には割り切れなかったですね。得たものもたくさんあるけど、仕事に関してはぽっかりと穴が開いたような気分になったこともあります。自分がいない間に話が進んでいると置いてきぼりになったような気がして。でも実際は、情報なんて後からいくらでもキャッチアップできるし、慣れたら休みを取る前の準備や復帰後の対処法も分かってくると思います。
山口:お三方に共通するのは「最初が肝心」ということですよね。母親だって1人目の時はお世話が上手なわけじゃないから、育児のスタート期はチャンスです。反対に、初動が遅れると母親だけがどんどん上手になって「パパには任せられない」という状態になってしまう。2人とも下手なうちに一緒に上手になっていくのが大事です。
育休に関する調査で、特に男性は誰かひとりが育休を取ると、同じ職場のほかの人も育休を取りやすくなり、15ポイントくらい育休取得率が上がるという結果が出ています。特に上司が育休を取ると部下の育休取得率は40ポイントも増えるといわれ、上司の育休取得が「うちの職場は育休OK」という強烈なメッセージになるんですね。この「育休は伝播する」という現象は学術研究で確認されています。そういう意味でも、学さんのような世代で育休を取った方は後に続く方々にものすごく貢献していると思います。まだまだ育休は一般的とは言い難いですし、これから取得する方にも「道を切り拓いているんだ」という誇りを持って取得して欲しいです。
多様な働き方を提案するリクルートだからこそ、積極的に休みを活かした生き方働き方を
早川:育休以外も含め、メンバーには「休む」ことに対してどのように考え、行動して欲しいですか?
佐藤(学):やっぱり休まないと効率は落ちるし、仕事だけに向き合えば効率が上がるかというとそうでもない。仕事の時間を削るとそのぶん仕事ができなくなると思いがちですが、ほかで得た経験によって今まで越えられなかった壁があっさり越えられることもあります。仕事が大事なのであれば、あえて仕事以外でいろんなことに触れて、新しい知見や普段とは違った視点を得ることが大事ですね。
道本:リクルートって、世の中に多様な働き方を選ぶ機会を提供している会社じゃないですか。私たち自身も積極的に休みを活かした働き方を選択したり、それを受け入れあったりすることで良いチームにもなれると思う。それでこそ、世の中に対しても多様な選択肢を提案したり、そのためのサービスが提供できたりすると考えています。私が育休を取った時もまだ男性育休への理解が少ない時代でしたが、当時の上司に「俺にはよく分からないけどやりたいようにやれ」と言ってもらえて、それが今につながっている。若い世代には、ぜひ僕らが想像も経験もできなかったような休み方を実践していって欲しいです。
佐藤(淳):「常に走り続けることが正しい」という考えもありますが、休むこと自体は決してネガティブなことではない。自分のキャリアを考える中で、休み方も適宜選択すればいいと思います。それと同時に、仕事を頑張りたいという人も組織にはいるはず。いろんなタイミングや価値観の人がいることを前提に、どちらの意見もしっかりと受け止められる体制を事業長が作っていく必要があると思っています。
「仕事」と「仕事以外」の最適なバランスを考えることが、人生の充実につながる
早川:ここからは視聴者の皆さんから寄せられた質問に答える時間とさせていただきます。「現在管理職をしていますが、平日の日中はほぼ会議です。管理職はこれまで仕事に全力投球してきた人ばかりのイメージで休むことが不安です」
道本:これまでは確かに、仕事に全力投球する人たちが会社をリードしてきましたよね。でも、これからの管理職は「働きやすさ」の提案をすることも大切な役目だと思っています。その流れは今後さらに進んでいくと思うので、どうしたらもっと働きやすくなるかを提案してみてはどうでしょうか。一緒に働くメンバーはもちろん、経営側も実現したいと思っているはずです。
早川:続いての質問にいきたいと思います。「日々の子育てでは、どのようにバランスを取っていますか?」
佐藤(淳):自分の時間の使い方をExcelにまとめたのですが、まず夜10時に子どもを寝かしつけながら一緒に寝て、平日の朝5~6時が自分の時間。ここで兼業の仕事をしたり、リクルートの仕事が残っていたらそれをやったり、本を読んだりします。子どもが起きてから保育園に送るまでと、帰ってからお風呂までが私の育児タイム。平日の日中は仕事ですが、土日もずっと家族のことをしているので、割合で見ると育児の時間が一番長いですね。反対に、育休中の妻は平日の日中が全て育児・家事になっていて、深夜は授乳で睡眠が飛び飛びになっているという感じでした。
早川:分かりやすいですね!では最後に、山口教授からメッセージをお願いします。
山口:皆さんにはぜひ、人生を豊かにする手段として、自分にとっての休みと仕事の最適なバランスを見つけて欲しいです。仕事だけが人生の目的ではないですからね。これから子どもを持つ機会がある方には、ぜひ性別に関わらず育休を取って欲しいと思います。そこで価値観が変わったと多くの方が実感していますし、私自身も結果的に仕事の質が変わったので、取って良かったと本当に思っています。このイベントを通じて、皆さんのキャリアもプライベートもさらに充実していくことを願っています。
全員:本日はありがとうございました。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 山口慎太郎(やまぐち・しんたろう)
- 東京大学大学院経済学研究科教授
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カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。専門は労働市場、教育政策、少子化対策の実証分析 主な著書:『「家族の幸せ」の経済学 データ分析で分かった結婚・出産・子育ての真実』(光文社新書 2019年)(2020年新書大賞入賞、2019年「ベスト経済書」1位)
- 佐藤学(さとう・まなぶ)
- Division統括本部 HR本部 HRエージェントDivision長
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1992年リクルート人材センターに入社。以来、HR領域一筋で、リクルーティングアドバイザー、キャリアアドバイザー、事業企画などに従事したのち、新卒事業、中途事業の執行役員を歴任。2016年4月エージェント事業本部長、20年4月リクルートキャリア代表取締役社長を経て、現在に至る。
- 道本雅典(みちもと・まさのり)
- Division統括本部 ビューティDivision長
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1999年新卒入社。2年半の求人営業を経て、『Hot Pepper』岡山版創刊営業へ。以降、熊本版、福岡版の版元長、『eruca.』(2016年に休刊)創刊に関わったのち、2010年より美容情報営業統括部へ。2015年よりビューティ&ヘルスケア統括本部にて美容情報営業統括部統括部長、2016年ビューティ営業統括部統括部長を経て、現職に至る
- 佐藤淳哉(さとう・じゅんや)
- プロダクト統括本部 販促領域プロダクトマネジメント室(住まい)室長
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2009年新卒入社。住まい領域の複数事業のプロダクト責任者。パパ、リクルートの仕事、起業した会社、ダンサーと4足の草鞋を履く。第1子誕生時に6ヶ月間の育休を、第2子 誕生時に1ヶ月間の育休を取得。第1期リクルート「男性育休アンバサダー」のメンバー
- 早川陽子(はやかわ・ようこ)
- スタッフ統括本部 DEI推進室長
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電機メーカーでの営業職を経て、2005年からリクルートで一貫してブライダル領域を担当。10年に第1子、13年に第2子を出産したのち、15年より営業部部長、16年総合企画部部長、17年マリッジ&ファミリー領域 営業統括部 執行役員 統括部長を経て、22年4月より現職