役員に聞く、リクルートのDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)【2023年度】

役員に聞く、リクルートのDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)【2023年度】

3月8日は国際女性デー。「2030年度までに、全ての階層の女性比率を約50%にすることを目指す」と掲げているリクルートグループにおいて、国内最大規模の従業員数の株式会社リクルートではどのような取り組みがなされているのでしょうか。役員の柏村美生に、現在地点を聞きました。

― 2021年5月に、ジェンダー平等に向けた目標を宣言してから約3年経ちました。その目的や意味は、現在はどのように捉えていますか?

柏村美生(以下柏村):私たちがジェンダー平等を推進する目的はこの3年間、一貫して変わっていません。あらゆる属性、あらゆる価値観を受け止め生かし合う世界を実現する。そのファーストステップとしてのジェンダーパリティ(数の上での平等)ということです。
あらゆる属性、価値観を受け止め生かし合う世界とは、まさにDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)のことですし、リクルートで63年前の創業時から大切にされてきた「個の尊重」という考え方そのもの。一人ひとりの個の違いを認め、面白がり、生かし合う「個の尊重」を経営のエンジンとしてきたリクルートにとって、DEIの推進は生存戦略でもあります。

― 現在も変わらず、熱量高く捉えているということですね。

柏村:むしろ上がっているというか、今後のビジネスの進化に向けては危機感にすら変わりつつある気もします。

そもそも進化とは、アンラーニングから始まります。アンラーニングとは、自分のなかの古くなったものに自ら気づいて、否定して、捨てたところに新しいものを学び入れる行為。古くなったものに自ら気づく一番の方法は、自分とは異なる考え方により多く触れることです。

この数年の世界を取り巻く環境変化のスピードを見るにつけ、アンラーニングの量・質をもっと上げていかねば、と感じます。古くなったものに気づくことが出来なければ、新しい価値の創造なんてできないからです。言わば、DEI無くして企業の継続性も無し、でしょうか。

― 力強い言葉です。ではそんなリクルートが、どのくらい本気で向き合ってきたのか、2023年度の取り組みや進捗を振り返っていきたいと思います。ポイントを教えていただけますか?

柏村:はい。一番のポイントは、取り組み結果が数字にも表れてきたということです。

リクルートの管理職(以下、組織長)における女性比率は、2023年度4月時点で30.4%となり、計測を始めた2012年度以来、初の30%超えとなりました。2012年度は16.3%でしたので、DEI推進の第一歩として「女性組織長比率を上げる」と目標を掲げて取り組んだ結果と言えると思います。

また、当事者たちの受け止め方を推察するものとして、弊社の従業員の約7割が所属する、顧客接点を担う組織の女性組織長のeNPS(※)スコア上昇が挙げられます。チャレンジの機会を堪能してくれているのだと嬉しく思っています。

※eNPS…Employee Net Promoter Scoreの略。従業員の職場や会社への愛着や信頼度を表す指標で、国際的に使用されている

― 数字の背景には何があったのでしょうか?

柏村:3つのトピックスがあります。

まず、2015年度から続けている、組織長向けの研修「Career Cafe for BOSS」です。多様な人材マネジメントを行う意義や、実行シーンでのポイントを学ぶプログラムなのですが、2023年度は組織長の8割が受講済みとなりました。

背景には、DEI推進の課題やアクションプランを、事業の成長戦略を実現する上での人・組織のテーマとして、事業長が主体的に設計し、推進をリードしていることがあると思います。事業長自身が、「このプログラムは組織長全員と一緒に学ぶ機会だ」と感じ推奨してくれての受講率。ボトムアップを大事にするリクルートらしいトピックスですよね。

リクルートの「Career Cafe for BOSS」で講演する岡島悦子氏
組織長に向けてマネジメントのケアポイントを語る岡島悦子氏(左)とリクルートDEI推進室 の早川陽子(右)

― 自分で決めると推進にも力が入りますね。2つ目は何でしょうか?

柏村:リクルートでは「アップワードサーベイ」という、組織長がメンバーからフィードバックを受けるサーベイを、半期に1回実施しています。このなかの設問に、この下期から、多様な個を尊重する人材マネジメントができているかを問う設問を追加しています。

― リクルートが求めるマネジメントのあり方をメッセージする効果もありそうですね。

柏村:はい。加えて、組織長自身が結果を確認し、内省し、持論をアップデートする機会になることも意図しています。自分の認識と異なるフィードバックを得る場合など、アンコンシャスバイアスを考えるいい機会になると思います。

― 3つ目は?

柏村:ファミリーデーのアップデートです。一般的にファミリーデーというと、従業員のご家族、特にお子さんを職場にご招待して、パパやママの働く現場を知っていただく、というスタイルが多いのではないでしょうか。リクルートでも昨年まではそのようなトーンのイベントでした。

ですがリクルートでは、人事制度に「ケア休暇」という、ペットも含めて“本人が家族と思う対象”のケアに使える休暇があるほか、家族に関わる制度は同性パートナーにも適用する、というように、家族やファミリーという言葉の定義は多様だと認識しています。ファミリーデーにおいても「従業員一人ひとりにとって大切な人は皆ファミリー」と再定義して、従業員が招きたい方をお招きし、日頃支えていただいていることに感謝する場にアップデートしました。

参加者からは「(対象が拡大したことで)ずっと参加してみたかった憧れのイベントにやっと参加できた!」「もうすぐ大学卒業する娘が親を参観する日のような貴重な機会になった」などの声がありました。

2023年にリクルートで開催されたファミリーデーの様子
「みんなの日」と名付けられたファミリーデー。従業員は自分にとっての「大切な人」をオフィスに招待した

― 親御さんや恋人、サークルの後輩を招待する若手従業員もいましたね。
こうして振り返ってみると、社内のさまざまなところでDEIを起点とした変化が起きていたことが感じられます。

柏村:社内だけではないですよ。社外への提供価値を意識して取り組みを広げようと、チャレンジを進めた2023年度です。

リクルートは就職、家探し、結婚、育児といったライフイベントや、飲食、美容、旅行などのライフスタイルにおける意思決定をサポートするサービスを扱っています。より多様なユーザーの声に応えるためにも、それらのサービスにDEIの思想を宿らせることは責務。私たち自身が学び続け、進化し続ける必要があります。

そこで今年度より、サービスやプロダクトに関わる従業員向けの「SOGI(※2)ワークショップ」を始めました。本業を通じて社会全体のDEI推進にも、より貢献できるようにしていきたいと思っています。

※2 SOGI(ソジ)…Sexual Orientation and Gender Identityの略で「性的指向と性自認」の意。人は、生物学的な身体の性、性的指向、性自認の組み合わせで自分のジェンダーを規定するという考え方

リクルートで開催されたSOGIワークショップの様子
無意識のバイアスをサービスやプロダクトに反映していないか、内省しながら学ぶ参加者たち

また、2022年の立ち上げより参画している「東京大学メタバース工学部」との協働では、女子中高生向けに、理系学部出身の弊社従業員が講演し、進学後のキャリア観を広げていただくような支援をさせていただきました。無自覚のジェンダーバイアスは、進学先検討といったシーンにも根深く存在しますから。

東京大学メタバース工学部主催の中高生向けキャリアイベントに登壇するリクルート従業員、正木理恵
「女性や理系という条件でキャリアの選択肢が狭まるわけではない」と語るリクルート従業員・正木理恵

― 確かに、「あらゆる価値観を受け止め生かし合う世界」を実現するためには、リクルートのなかに閉じていてはいけませんね。お話を伺って、いろいろな場面でDEI実現に向けた推進がされていると感じました。柏村さんから見て、ここまでは順調ですか?

柏村:ファーストステップである組織長のジェンダーパリティに向けて前進しているという点ではポジティブに捉えています。ジェンダーパリティを目的に始めた施策が結果的に全社横断的な人材育成施策に昇華していたり、事業長を旗振り役に事業現場のリードで意味のある推進がなされていたりと、リクルートの未来につながる変革になっている実感があります。

一方で、「あらゆる属性、あらゆる価値観を受け止め生かし合う世界」に向けては、思っていたよりも時間がかかりそうだとも感じます。本当は今頃、「DEIのファーストステップとしていた男女の差についての言及は終了します」と言えることを期待していました。しかし、男女差という分かりやすいテーマひとつとっても、社会全体で多様なステークホルダーの皆さまとともに構造的課題に向き合っていかなければ変わらないと、改めて痛感しています。

例えば、大人になるまでの間に障がいのある方と接したことが無いとか、「これは女性の役割だ」と無意識に思い込んでいるとか、「自分が何を知らないか自体を知らない」という背景で変化できないことがたくさんあるんです。これは日本の社会構造上の問題でもあり、引き続き腰を据えて、社会の皆様とともに取り組んでいきたいと思っています。

― 前進したからこそ分かる、道のりの長さですね。

柏村:とはいえ変化が加速する可能性はあります。これから日本は超高齢化社会に突入し、私たち自身も含めて、働き方はこれまでと大きく変わっていくでしょう。今までどこかの誰かの事例だったことを、より多くの方が身近な問題として想像しやすくなる時代が来る。これは、考え方や手法のアップデートを後押しする力になるはずです。

その時リクルートは、試行錯誤してきたプロセスを社会に共有し、いただいたフィードバックを糧に、さらなるトライ&エラーにチャレンジする存在でありたい。ステークホルダーの皆様と丁寧な対話をくり返し、行きつ戻りつもありながらでしょうが、誰もが自分の好奇心を思いきり発揮できる世界を創っていきたいと思います。

DEIを社会とともに推進したいと語る、リクルートの役員、柏村美生

話者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

柏村美生(かしわむら・みお)
リクルートホールディングス執行役員 兼 リクルート 執行役員(担当領域:人事、広報・サステナビリティ、渉外)

大学卒業後、1998年、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。2003年『ゼクシィ』の中国進出を提案し、中国版ゼクシィ『皆喜』を創刊。帰国後、『ホットペッパービューティー』事業長、リクルートスタッフィング代表取締役社長、リクルートマーケティングパートナーズ(現リクルート)代表取締役社長などを経て、2021年4月より現職。大学時代は社会福祉について学び、障がい者の社会参加をサポートする仕事がしたいとソーシャルワーカーを目指してボランティアに明け暮れた。東京大学PHED(障害と高等教育に関するプラットフォーム)専門部会委員を務める

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