障がいの有無に関わらず「120%の力を出しきれる」リクルートを目指して
― 大学卒業後、2023年にリクルートに入社した小田 麓。入社1年目に人事として初の試みとなる障がいのある学生・配慮の必要な学生向けの1Dayイベント開催に挑戦しました。障がいのある学生のキャリア支援にまい進する背景には、小田の原体験も。リクルートでの働きがいや、チームでお互いの多様な視点を活かすために必要なことを聞きました。
「1日とは思えないほど濃密な時間」障がいのある学生向けイベントを開催
― 今年で2年目となる1Dayイベントですが、新規事業立ち上げプロセスの一部を体験できる、かなり濃密なイベントだと聞いています。開催の目的を教えてもらえますか?
小田:障がいのある学生や配慮の必要な学生が、キャリア選択の幅を広げる機会にしてもらえたら、と思い企画しました。デフ(Deaf/deaf=聞こえない人、聞こえにくい人 )である私自身も大学時代に体験したのですが、自分の成長につながるようなキャリアイベントのうち、合理的配慮※があるイベントは非常に少なく、参加したくてもできない状況でした。キャリアを考え始めた途端に成長機会が限られてしまうのは、障がいのある友人たちも一緒でした。学生団体などで難易度の高い業務に楽しそうに挑む人が多かったので、障がいのある方向けのキャリアイベントに挑戦機会の少ないことがもったいないなと思っていたんです。
※合理的配慮…障がいのある人から、社会的障壁を取り除くための対応を求められた時に負担が重すぎない範囲で対応すること
小田:それなら入社したリクルートで「参加者が成長を感じられるイベントを作ろう」とゼロからの立ち上げに参画しました。2023年冬に開催したイベントでは、リクルートの新規事業立ち上げのフレームワークを使って、事業立案のプロセスを体験できるプログラムを実施しました。具体的には社会的な課題に対して、課題を深く理解し、課題を抱える人のペルソナ分析、打ち手の立案などを考えるグループワークを行い、プレゼンテーションを行う内容です。
イベントの最後には、その日1日メンターとなったリクルートの従業員から、参加者一人ひとりにフィードバックさせていただきました。参加者から「フィードバックをもらう機会は日常にはあまりなく、このイベントでもらったフィードバックはとても納得感があり、(フィードバックを)活かしたいと思った 」という声ももらいました。参加者が自分の長所やより伸ばせる点などを、客観的に知ることができる機会になったと思っています。
― 小田さんが「新規事業の立案」をイベントに取り入れたのはなぜですか?
小田:個人的な体験になってしまうのですが、学生時代に企業の長期インターンシップで新規事業開発に携わり、自分の力を120%出しきる経験をしました。この体験が自分のキャリアにとって、とても大きな転機になっています。障がいのために、人に助けてもらうシーンが多かった自分にとって、全力を出し切る経験そのものがとても刺激になりました。また、生み出した新しいビジネスで、今度は世の中の誰かを助けられることがすごく嬉しかったんです。新しい価値を生み出す経験を通して自信が生まれ、キャリアを前向きに考えることができました。そのため同様の思いを持つ学生さんにもチャレンジングな仕事に就くことを身近に感じてもらえる場を作れば、イメージがつき、障がいの有無に関わらずキャリアを幅広く考えられる機会になると思いました。
― 昨年のイベントにはどのような反響があったのでしょうか?
小田:参加者アンケートでは高い満足度を得ることができ、ありがたい感想もいただきました。一部をご紹介します。
“実際に社会に出る上で必要な考え方を提示してくれた。”
“1日とは思えないほど濃密な時間を過ごすことができ、非常に満足感のあるイベントだった。”
"イベントに参加するなかでバリアを感じることがなく、存分に楽しめた"
小田:今年はさらに多くの方に参加いただきキャリアを考える機会を広げようと、気軽に参加できるオンラインでの1時間半のイベントも企画し、今まさに、準備の真っ最中です(笑)。
仕事への責任も評価も遠慮なし。手さぐりでゼロから立ち上げる楽しさを味わった1年目
― ここからは小田さんのリクルート入社後の体験について聞きたいと思います。まず、成長を求めて入社した小田さんにとって、リクルートの環境はどう映っていますか?
小田:入社前の期待通り、まず仕事内容や評価に遠慮がないのがいいですね。リクルートはミッショングレード制で、障がいの有無や年齢、入社年次、経験、性別に関わらず、任される職務に応じて等級(グレード)を決定する人事制度になっています。自分の実力や周囲からの期待に応じた仕事ができ、報酬も同グレード・同評価においては一律です。
加えて、半期に1回「Will-Can-Mustシート」に基づいた面談で上司と振り返りをしてフィードバックをもらえるので、「将来ビジネスパーソンとしてこうありたい」と目指している姿に向けて近付いているなという手応えがあります。今期も能力開発を促進する仕事(ミッション)に数多く取り組めています。
― 具体的には1年目でどのような経験ができましたか?
小田:実際に入社1年目には、1Dayイベントの立ち上げに関する全てのプロセスを担当しました。障がいのある学生のニーズを知るためのマーケット調査を行い企画立案、社内で合意形成などを行う上流工程から、当日の資料作成やアンケート設計といった実務工程まで幅広い業務経験を積むことができました。
また、人事内の別の部署にも所属しており、会社の制度設計のために課題のヒアリングから打ち手の策定まで関わり、多岐にわたる仕事を経験することができています。企画人材として成長したかったので、業務設計力、ドキュメンテーション術、学んだことは多すぎて挙げきれないくらいです…。
― なかでも一番変化した点は何ですか?
小田:一番は「相談」スキルが上がったことです。以前は自分のなかで自己完結してしまうことが多かったんです。人に自分の意見を伝えてアドバイスをもらったり、ましてや議論したりするなんてとてもハードルが高いことだと感じていました。最初の頃は隣の部署への相談ですら、チームリーダーの濱田千佳さんに代わりに連絡をとってもらっていたくらいですし…(笑)。
― ここからはチームリーダーの濱田さんにもお聞きしながら進めます。そうだったのですか、濱田さん?
濱田:ありましたね(笑)。今では関係者とのすり合わせが上手く、論点整理力があるので小田さんにすごく助けてもらっているくらいですが。
小田:周りの先輩の相談方法を見るうちに「こうやって論点を整理して相談の場に持ち込むといいのか」と学び、「勇気を出して自分の意見を伝えてみたら深い議論になった」といったことが重なって、少しずつ苦手意識を克服できたんです。相談スキルは自組織以外の人と協働したり、議論を深めたり、より良いものを作る際に必須になるスキルです。貴重なことを学べたと思っています。
― 小田さんのようにメンバーの成長をサポートするために、濱田さんは普段リーダーとしてどんな会話をされているんでしょうか?
濱田:チームメンバーとは「何にわくわくするのか」「何がストレスになるのか」「リーダーとしてできることは何か」などを日々の会話のなかですり合わせながら仕事をしています。
そして、日常の業務を進めるなかで、適宜振り返りを挟むことで、メンバーの成長実感につながったらいいなと思いながら向き合っています。先日の振り返りでも、「あの仕事やってみてどう感じた~?」や「どうできたらもっと良かっただろうね」というような声かけをしていましたね。最近では、もっと成長したいという小田さんの希望もあり、「成長」についてのみを話す時間を設けて一緒に振り返りをしています。
まだまだ課題はある。でも「個」に向き合って対話する仲間となら、大丈夫かもしれない
― リクルートはまだ障がいのある従業員と働いたり、合理的配慮のすり合わせをしたことのある従業員が少ないと思います。働きやすさについてはどのように感じますか?
小田:能力を最大限に発揮させるための「合理的配慮」と自分の実力+αを身につけられる「成長環境」 の両方が行き届いた企業は、残念ながら日本にはまだ少ないと個人的に感じています。リクルートもまだこれからという点があるのは事実です。ですが改善を重ねていける会社だと感じています。
例えば、入社前に一緒に働くかもしれないリクルートの先輩たちと食事に行く機会がありました。その時訪れた飲食店は割と賑やかで、文字起こしツールが他のテーブルの声を拾ってしまう状況になってしまったんです。合理的配慮のひとつの情報保障※が上手くいかないのは、残念ながらデフにとってはよくある体験です。
※情報保障…年齢や障がいの有無等に関係なく、誰もが必要とする情報に簡単にたどり着き、利用できること
ただこの出来事はここで終わらず、先輩たちが「どうやったらこの問題を解決できるのか?」「小田さんの会話体験をより良くするためにはどうすればいいのか?」と課題解決に向けた議論を始めたんです。それを見て、もしかしたらこの会社なら、自分に合った合理的配慮やキャリア形成について、本音で話しながら一緒に考えていけるのではないかなと思いました。
小田:実際入社して以降、「障がい者」としてラベリングされるようなことはなかったですし、働きにくい点は一緒に解決していこうという姿勢のもと、一緒に最適解を作り上げている実感があります。
ほんの一例ですが、会議の「文字起こしツール」を選ぶ際に、会社からツールを画一的に指定されることはなく、上司や同僚と話し合い一緒に試しながら、自分にとって使いやすいツールを選んで使用しました。また、先ほどお伝えしたような会食や飲み会も、文字起こしツールを使えるWi-Fi環境が整った個室の飲食店や、会社の懇親会スペースを貸しきって開催するようになっています。学生時代は参加をあきらめていた飲み会に顔を出すことができるようになりました。
― 一緒に働く濱田さんが合理的配慮の面で心掛けていたことは何ですか?
濱田:そうですね…、前提として私の場合「デフの小田さん」ではなく「小田さん」という個人に向き合っている感覚です。障がいの有無に関係なく、自分らしさを発揮しながら働けるように、その妨げになっていることや困りごとがあれば改善しにいきたいと思っていますし、それが当たり前だと考えています。
濱田:わざわざ挙げるのも違和感がありますが、例えば、ウェブ会議では小田さんが表情から感情を読み取れるように参加者は基本的にカメラをオンにしています。文字起こしツールで伝わりやすいよう、簡潔に話すように意識する。会議資料は準備して投影しておく、とかですね。会議の場でチームメンバーが「あ、文字起こしツールがちゃんと動いてないよ」と気付いて小田さんに伝えることも日常になってきました。
異なる視点を活かすチームは「相手を知る」ことを意識している
― バックグラウンドが違う人同士でチームとして上手く協働する上で大切にしていることは何ですか?
濱田:大切にしているのは「分かった気にならず、知りに行くこと」でしょうか。チームのメンバーと関わっていくなかで、自分の思い込みなで決めつけるのではなく「今どう思っているのか」「なぜそう思うのか」まずはお互いのことやお互いの意見を知ることが協働の第一歩なのかなと思います。
私たちも生きた人間ですし、日々変化していくと思うので、「その人の“今”を知りにいく」くらいの感覚がちょうど良いのかなと。思い込みで相手を決めつけてしまったり、お互いの可能性にふたをしてしまう部分もあると思うので、これからも大事にしていきたい姿勢です。
小田:自分も似ているのですが、チームで働く経験を経て、「自分と異なる意見こそ大切にする」ことを意識するようになりました。異なる意見には、アウトプットをより良いものにブラッシュアップするヒントが隠されていることが多いなと最近思うんです。
1Dayイベントの設計時も情報保障の方法を巡って、自分と協働メンバーとで意見が分かれました。協働メンバーが「そう考える理由」について深く聞いてみると、自分にはない観点で意見を言ってくれていたことが分かり、ふたつの案を統合して、より学生にとってメリットのある手法をとることができたんです。せっかくバックグラウンドのさまざまな人間がチームを組んでいるのだから、その多様な視点を活かさない手はないと思います。
― 最後に今後、チームとして挑戦していきたいことを教えてください。
小田:「自分の力を出しきりたい!」と心の底で思っている学生の皆さんに、イベントを通してキャリア支援をしていきたいと考えています。それと同時に取り組みたいことは、自分を含め障がいのある人が活躍することで、「障がい」に対する無意識的なバイアスも解いていくことです。リクルートで障がいのある人が働いていることは、まだあまり知られていませんが、リクルートを働く場としての選択肢に入れてくれる方が増えたら嬉しいですね。
濱田:私は人事の立場から「障がいがあってもなくても働けるリクルート」を多くの人と連携しながら当たり前のものにしていきたいと思います。
リクルートのDEI(Diversity, Equity & Inclusion)の考え方の土台にあるのが「個の尊重」というリクルートグループのValuesの実現です。私自身とても共感していて「自分らしく輝ける人を増やしたい」という思いで、リクルートに入社を決めました。人には人の持ち味や強みがあると心から信じていたので、入社後のキャリアアドバイザーの仕事で人の意思決定に伴走させていただくお仕事にも、とてもやりがいを感じていました。「自分らしく輝ける人を増やしたい」という思いを、今度は人事・採用の仕事で形にするために、今まさに挑戦しているところです。「障がいがあってもなくても働けるリクルート」を多くの人と連携しながら当たり前のものにしていきたいと思います。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 小田 麓(おだ・ふもと)
- 株式会社リクルート CoE人事統括室 人事統括室 人事戦略部 人事企画グループ
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大学卒業後、2023年リクルートに入社。人事の企画業務や、障がいのある学生に向けたイベント設計などを担当
- 濱田千佳(はまだ・ちか)
- 株式会社リクルート CoE人事統括室 人材開発室 新卒採用部 DEIDAA人材開発グループ
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大学卒業後、2018年リクルートに入社。新卒領域の斡旋事業でキャリアアドバイザーを務めた後、新卒採用部に異動。人材開発と障がいのある学生の採用などを担当
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