『スタディサプリ』が日本の教育機会格差、“学び”の現場に向き合い続ける理由は? サービス責任者・池田脩太郎に聞く

『スタディサプリ』が日本の教育機会格差、“学び”の現場に向き合い続ける理由は? サービス責任者・池田脩太郎に聞く
文:高橋夏実(Spacy72)

リクルートのオンライン学習サービス『スタディサプリ』は、高校生だけでなく、小中高等学校などの公教育機関や塾、さらには社会人にまで幅広くサービスを展開しています。動画配信サービスなどの普及に伴い、オンラインで学習できる場が増える昨今、『スタディサプリ』ならではの価値は何か? 特に就職先としてさまざまな企業を検討している学生の皆さんから、そのような意見をいただきます。

そこで今回は、リクルートのまなび事業を代表するサービス『スタディサプリ』の立ち上げメンバーであり、現在はサービス責任者を務める池田脩太郎に、新卒採用担当がインタビュー。改めて『スタディサプリ』で解決したい課題は何か? 立ち上げから約10年を経て、社会における“学び”の役割が、時代とともにどう変化してきているのか? について聞きました。

「お金がないから学べない」。経済格差の問題と直面する高校生を救うサービスを創りたかった

― まなび事業に所属していた池田さんが立ち上げられたオンライン学習サービス『スタディサプリ』。約10年を経て、現在では高校生にとって身近な存在となっていますが、当時はどのようなことがきっかけで誕生したのでしょうか?

池田脩太郎(以下池田):2012年、リクルートの社内新規事業提案コンテスト「Ring」で起案してこのサービスが生まれたのですが、最初のきっかけとなる出来事は、学校の先生から「志望校が見つかっても、生徒自身の学力が伸びないとその夢って実現しないんだよね」という言葉をいただいたことです

当時のまなび事業では「進路選択の支援」という形で進学情報メディアを運営していたものの、学習支援サービスはなかったんです。生徒さんの夢を叶えるには、「学力向上の支援」までやっていく必要があると気付いて。“ 世界の果てまで最高の教育を届ける”というビジョンを掲げてコンテンツの検討を始めました

スマートフォンひとつで、いつでもどこでも教育コンテンツを視聴できる『スタディサプリ』
スマートフォンひとつで、いつでもどこでも教育コンテンツを視聴できる『スタディサプリ』

― 『スタディサプリ』では学力向上の前提として「教育機会格差の解消」を掲げていますね。これはどこから生まれたコンセプトなのでしょうか?

池田:はい。ちょうど立ち上げを検討していた時期に、地方のとある高校で進路選択に関する講演会をした際、ひとりだけ講演用の冊子を一切開かなかった生徒さんがいたんです。なぜなのか気になってお話を聞きに行くと、「元々は将来の夢があったけれど、お母さんに相談したら『うちはお金がないから大学や専門学校は行かせられない。高校卒業したら働いて』と言われちゃった」と話してくれて。その時に、経済的に夢は叶えられないから、学校の選択も勉強もしない、という生徒さんがいる現実を目の当たりにしたんです

教育機会は、本当にその人の人生を変えてしまうほどの影響があります。しかも、教育は平等だと掲げられているこの国でこの格差が起こっているという現実を知った瞬間、“このような状況にある高校生の役に立てないか”、 “望んだ教育を受けられるサービスを創れないだろうか”という純粋な想いが情熱に変わりました

― 実際に取り組み始めるなかで、当時はどのようなことを課題に感じていましたか?

池田:いろいろ調べて大きく感じたのが、経済格差の問題。実は、世の中にこれだけある塾や予備校ですが、実際に通っているのは日本全体の高校生のうち約3割程度です*1。というのも、当時塾の費用は一人あたり年間100万〜200万円ほどのお金がかかったので、なかなか捻出できない家庭が多いという実情があります。そして、首都圏や東名阪エリアとは異なり、地方や離島エリアは勉強する場所や参考書が豊富に揃っている本屋さんが少ないなど、地理的格差も影響しています。そのような現状を知り、私たちはできるだけ安価で学べるオンラインサービスで学びの機会を届けたいと思い『スタディサプリ』を創っていきました。

“世界の果てまで最高の教育を届ける”という想いは今でも変わりません。現在は学校経由で高校生に『スタディサプリ』をご利用いただくケースが多いですが、加えて、困窮世帯や不登校の生徒さんたちへの学習支援事業のサポートとして『スタディサプリ』を自由に使えるようなコミュニティスクールの運営などの支援も行っているんです。

※1:出典:文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」

『スタディサプリ』のサービスラインアップ。幼児から社会人にまで幅広くサービスを提供している
『スタディサプリ』のサービスラインアップ。幼児から社会人にまで幅広くサービスを提供している

教育業界の課題が多様化するなかで『スタディサプリ』にできること

― 立ち上げから約10年経った今、『スタディサプリ』は多くの高校で導入いただいている印象です。

池田:日本には高校が約5000校ありますが、そのうち約2000校で『スタディサプリ』を導入いただいています。もともとB to C*2のサービスでしたが、最近はB to B*3で活用いただく事例が増えているんです。B to C向けにやっていた『スタディサプリ』のCMをご覧になった学校の先生から問い合わせをいただいたことがきっかけとなり、お話を伺ううちに、先生方もご自身の働き方について課題を抱えていることが分かってきました。

※2:”Business to Consumer”の略称。企業が一般消費者を対象に行うビジネス形態のこと
※3:”Business to Business”の略称。企業相手に事業や商取引を行うビジネス形態のこと

― 最近は、教育業界の労働環境が社会問題化しているとも聞きます。

池田:そうなんです。教員の人員不足や待遇面の課題はもちろんですが、やはり一番大きいのが長時間労働。基本の授業だけでなく、放課後の補習、宿題の制作、採点、受験対策指導など、業務が多岐にわたるため本当に忙しいんですよね

なので、本来先生がやるべきことに時間を割けるように『スタディサプリ for TEACHERS』という先生向けのサービスも開発強化しています。

― 『スタディサプリ for TEACHERS』とは具体的にはどのようなサービスですか?

池田:いわゆる「個別最適化学習」のお手伝いをするサービスです。生徒一人ひとり一人の苦手なところや学力を把握できたり、先生が選んだ講義動画や宿題をワンクリックで配信できるようにしたり。また、先生方がこれまで紙でやっていた業務、例えば確認テストの採点を自動化するなど、効率的に短時間で行い、物理的な時間を確保するサポートもしています。

実際の高校で『スタディサプリ』を活用して授業を行う様子
実際の高校で『スタディサプリ』を活用して授業を行う様子

― 『スタディサプリ』が教育現場の業務支援を担うようになった今、先生方にはどんなことに注力いただけるようになったと考えますか?

池田:先生の役割は、これまでは教科を教えるような“ティーチング”に主眼が置かれていましたが、今は、先生が生徒と対面で向き合うからこそできる“コーチング”的な役割も求められていると思うんです。基本的な教科の“ティーチング”は『スタディサプリ』が効率化をサポートするので、先生には生徒に寄り添い、答えが出ない問いを一緒に考えていく場をつくることに専念していただける環境づくりに少しでも役立てていると嬉しいです

リクルートのオフィスで人事(左)のインタビューに応じる池田脩太郎(右)

池田さんがリクルートで働く理由

― 最後に、就職活動中の学生の方を意識した質問です。もし、池田さんが今のリクルートに入社するとしたら、何をしたいですか?

池田:自分が創ったもので、誰かの生活や環境が圧倒的に良くなる仕事であれば、何でもトライしてみたいですね。実は幼い頃から、大橋の建設業の仕事をしていた親戚の話に感銘を受けていました。何かを創ることで、多くの方々の生活が便利になり、その価値が後世にまで残せるような仕事って格好良いなと純粋に思っていたんです。

とはいえ、新入社員として入ってすぐ何かの価値を出せるかというと、期待された価値を何も出せないケースがたくさんあると思うんですよね。私も入社当初から「教育を変えたい」というような強い思いがあったわけではないし、たまたま自分が入社した時に教育業界というテーマに出会って、『スタディサプリ』を創ることに没頭できただけなので。まずは、本当に自分が情熱を注げるテーマを見つけることに向き合い続けると思います

やっぱりリクルートは社会課題というスケールの大きいものを、より速く解決していくことを志向している会社ですから、自分で機会を創って挑戦すれば、失敗もしながら、たくさんの学びが得られる面白い環境だと思っています。私自身、入社16年目となった今でもリクルートで学び続けているぐらいです(笑)

リクルートのオフィスでインタビューに応じる池田脩太郎

― そんな池田さんにとって“学び”の魅力とは、何でしょうか?

池田:自身が変化したり、アップデートできるチャンスが生まれるところです。特に社会人になってからそう気づいて学ぼうという方が非常に多い。だからこそ、そういった方々の声に応えようと社会人向け語学学習支援サービス『スタディサプリENGLISH』が生まれたほどです。しかし、その前段階である学生時代に、“ 学び”の魅力に気づくきっかけを得にくいという日本の現状にも目を向けるべきだと思っています。

― 日本の現状というのは…?

池田:OECD(経済協力開発機構)加盟国内でも、日本は「25~64歳の世代の学び直しが少ない」という調査結果が出ています。私はそこが今の日本の低成長の要因のひとつではないかなと考えているんです。でも、本来、私たちの周囲には学べる機会がたくさんありますよね。

「学ぶことで開ける未来がある」と気づける方が増えたら、その方々が関わる日本の産業は大きく成長していくのではないか、と。そのためにも、時代の変化に合わせて、“学び”に対する意識を変えるお手伝いをしていきたいです。

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

池田脩太郎(いけだ・しゅうたろう)
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 販促領域プロダクトマネジメント室(まなび) Vice President

大学卒業後、2009年に入社。進路事業本部に配属。『New RING(現Ring)』を経て2012年より『受験サプリ(現スタディサプリ)』の立ち上げに携わる。現在はまなび領域、マリッジ&ファミリー領域(ゼクシィ)、自動車領域(カーセンサー)のプロダクト責任者を務める

関連リンク

最新記事

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする

(c) Recruit Co., Ltd.