リクルートのHR事業が解決したい労働市場の課題は? 人材紹介事業の責任者・近藤 裕に聞く
リクルートでは、すべての働きたい人が機会を得ることができる、自分らしく働く喜びを感じることができる社会を実現していきたいと考え、「就職する、転職する、アルバイト・パートを探す、副業を探す」などといったシーンで、仕事にまつわるさまざまなサービスを展開しています。
一方で、就職先を検討している学生の皆さんからは、『リクナビ』に代表される新卒就職情報サイトのイメージが強く、それ以外のHRサービスのイメージが湧かないという声も。そこで今回は、『リクルートエージェント』事業責任者・近藤 裕に、リクルートの新卒採用担当がインタビューしました。
リクルートのHR事業が取り組んでいること
― リクルートは、その社名の通り、仕事に関するサービスをたくさん展開していますよね。
近藤 裕(以下近藤):はい、特に皆さんの目に触れる機会が多いものでは、新卒向け就職情報サイト『リクナビ』、社会人のための転職情報サイト『リクナビNEXT』、私が担当している人材紹介事業『リクルートエージェント』などがあります。
リクルート全体としては「まだ、ここにない、出会い。」というビジョンを掲げ、“すべての人がその人らしく働く喜びを持って働ける社会”を願い、仕事を探している人と働き手を探している企業との出会いの機会を増やすことに取り組み続けてきました。
― 「まだ、ここにない、出会い。」、CMでよく聞く言葉ですね! 近藤さんが担当する人材紹介事業では、どのようなことをされているのですか?
近藤:キャリアアドバイザーが、転職活動をサポートするサービスです。「一人ひとりの可能性に寄り添い、選択を支える」というミッションの実現に向けて、キャリアや仕事に悩む方の一人ひとり異なる迷いや不安、希望に寄り添い、より良いキャリア選択ができるよう支援しています。具体的には、各業界に精通したキャリアアドバイザーがお客様の希望やスキルに沿った求人をご紹介するほか、提出書類の書き方アドバイス、面接対策、独自に分析した業界・企業情報の提供などを通して、転職活動をサポートしています。
― へえ…転職活動には関心があっても、具体的なプロセスはイメージ湧かないのが正直なところです。どれぐらいの方が利用するものなんですか?
近藤:年間で約140万人の転職希望の方が、サービスに登録してくださり、3〜4万社ほどの企業が求人を出してくださっています。そのなかで、1年間で約8万人の方の転職を支援しています。
― そんなに多くの方が利用しているんですね…!
近藤:登録時点では、まだ転職するかどうか決めていない方も多いです。そこから、キャリアアドバイザーが一人ひとりに寄り添って、なぜ転職を考えているのか、どんなことに迷っているのか、といったことを棚卸し、キャリアの選択肢を広げたり、納得のいく意思決定をいただくまで伴走しています。
― 転職するかどうか迷っている段階から、伴走するのも仕事なんですね。
近藤:はい、第三者に相談してみると、自分が想像している以上にキャリアの選択肢って広がるものなんですよ。実際に転職を実現された方からは、「自分では考えもしなかった求人と出会えて、可能性が無限にあるということを知りました」、「今まで見つけられなかったような企業とご縁があって、すごく満足しています」、「キャリアアドバイザーの方が親身になって寄り添ってくださったおかげで、自分の人生が大きく変わりました!」などの声をたくさんいただくので、すごく嬉しいです。
HR事業はどんな社会課題を解決するのか
― HR事業では、どんな社会課題に向き合っているのでしょうか?
近藤:今、日本では人口がどんどん減っていく局面にありますよね。つまり、労働力がこれまで以上に不足することが、一番大きな課題と捉えられています。リクルートのHR事業は、そこに真正面から対峙しています。
― 具体的にはどんなことをしているのでしょうか?
近藤:労働力の不足が見込まれる状況に対して、いくつかの切り口があるなか、労働生産性の向上に取り組んでいます。“生産性”と言うと、少し大げさに聞こえるかもしれませんが、一人ひとりが自分に合った仕事でいきいきと働くことができれば、おのずと良い成果・結果につながっていくと考えています。
そのため、前向きに「働きたい」と考える方々が、諦めることなく挑戦を続けるためのサポートができるよう、と取り組んでいます。
― 諦めることなく挑戦を続けるためのサポートってどういうことですか?
近藤:転職したいと思っている方たちが、「自分に合う仕事がわからない」、 「時間がない」、「条件に合う仕事が見つかるか分からない」といった理由で転職を諦めてしまいがちなのが実態です。統計では、約6500万人の労働者のうち約1000万人に転職等、新しい仕事を見つけたい意向があっても、実際に転職を実現されているのは年間で約300万人しかいないというデータが出ているほど。
そのようななかで、私たちは、働き手の方が、“もう少し前に進みたい”、 “キャリアアップしたい”など前向きなエネルギーが出た時に、それを支援できるような転職・就職サービスを提供し続けたい、と考えています。
― “キャリアアップ”かぁ…。新卒就活を目前に控えた学生さんたちには、まだ遠い話に聞こえる気もします。
近藤:昨今は日本のGDP(国内総生産)の成長率が芳しくないことからも、今後永続的に成長する企業はそこまで多くはないのではないかと言われているんです。これまで主流であった終身雇用制度が徐々に見直されてきているため、働き手にとっては、就職先の会社頼みではなく、個人でキャリア形成することが重要になります。
― 自分で、自分のキャリアの面倒を見る必要があるということですね。
近藤:「キャリア」と言われると堅苦しいかもしれませんが、要は、自分がどんな人生を送りたいか、どういう生き方をしていきたいか、を考えることが大事なんですよね。ただ、その機会が日本では非常に少ないと言われているので、リクルートのサービスを通じて、少しでも考えるきっかけを働き手に提供していけるといいな、と思っています。
― 確かに、就職活動を終えて社会人になると、毎日働くだけで忙しいですよね。キャリアを考える時間の優先度は上げづらい気も…
近藤:そこが一番大きな課題だと思うんですよね。個人がいくらキャリアを考えても、それを実現できるような環境がない限りは、いきいきと働けるようにはなりません。だからこそ、今の日本では、従業員が活躍できるような環境を企業が創れるかどうかが大事。企業が大きく変わらないといけない局面でもあると思っています。労働力人口が減っていくことを考えると、企業は働き手から選ばれ続けないといけない。選ばれ続ける企業であることで、事業を継続することができ、ひいては日本の経済成長につながっていきますから。
近藤さんがリクルートで今後挑戦したいこと
― 雇用に関する社会問題はこれからも増えていきそうですね。今後、人材紹介事業として取り組んでいきたいことはありますか?
近藤:検討したけれども転職を諦めてしまう方々に対して、私たちの事業ではキャリアアドバイザーが寄り添い、就職先の選択肢を提案し、最終的に納得度の高い意思決定ができるよう伴走しているのですが、その介在範囲をもっと広げたいなと思っていまして。
― 介在範囲を広げる?
近藤:特に、まだ転職しようと思っていない方々に対しても、これまでのキャリア・経験の棚卸しや、キャリアに関する考え方の整理をしていきながら、その方の可能性を最大限にひらくお手伝いをしたいんです。その上で、今の勤務先で働き続けるか、転職活動するか、といった方針決めまで、伴走するサービスを拡張したいなと考えています。
例えば、「エントリーキャリア」と言われる新卒や第二新卒の方。ずっとスポーツやバンド活動に打ち込んでいてアルバイトの経験はたくさんあるけど、正社員としての経験はないなど、就職活動をする上で経歴に自信がないとおっしゃる方も多いんです。ですが、私たちとしては実はかなり活躍の可能性があると思っています。
― たしかに就業経験が少ないと、どんな仕事が向いているか分からないと思ってしまいます。どうやってキャリアの選択肢を考えていくのですか?
近藤:今までの転職市場では、その方のスキルや経験、「どのような雇用形態で、どんな仕事を何年したか」という情報を基に、企業とのマッチングを行ってきました。しかし、最近では、アルバイトでどのような仕事をしてきたのか、スポーツでどういう気持ちで打ち込んでいたのか、苦しい時にどういう考え方をするのか、というタイプや考え方に関するエピソードを伺って、採用企業が求めるタイプとマッチングを行うことに注力しています。
他にも、キャリアの年数が長い「ミドル・シニア」の方々に対して、これまでのキャリア・経験の棚卸しをしながら、キャリアを考えるきっかけを提供したいと考えています。マッチングのみならず企業側に対して、受け入れ方や人事制度を変える提案まで行うことで、活躍するミドル・シニアの方々が増えることもあるんですよ。
― 企業への提案も行っているんですね。
近藤:はい、企業側も今までのように求人内容に合う人を探しているだけでは、今後マッチングが難しくなっています。どこを変えればもっと活躍できる人を採用できるか、求職者のご意向はどんなものなのかなどをリクルートのリクルーティングアドバイザー※を通じて発信し、採用が変化するきっかけを提供したいと思っています。
私たちが求職者と企業の間に入ることによって、お互いに気付いていない情報を発信し、いきいきと働いて活躍する人が増えるマッチングをさらに増やしていきたいと考えています。働く個人一人ひとりに寄り添い選択を支え、結果として、社会のインフラのような存在になれたらと思っています。
※リクルーティングアドバイザー:クライアントの経営・人事から採用上の課題を引き出し、主に人材紹介サービスを通じた打ち手を提案・実行する職種
― まさにキャリアアドバイザー・リクルーティングアドバイザーが介在するからこそ可能なマッチングですね。
近藤:そうですね。やはり人が介在し、多面的な情報を引き出すことで、精度の高いマッチングを行うことができます。
その上で「結果としてどういった方がどのような企業で活躍しているか」という情報が蓄積されていくので、そのマッチングのデータを求職者におすすめの求人を提案するシステムに組み込んで、属性が近い方や似た悩みを持った方へのご提案に活かすことができます。人が介在して多様なマッチングを生み出すというベースの価値提供は続けながら、求職者と仕事の結び付きをマッチングテクノロジーにも活用していくことで、求職者と企業の双方の希望を叶えるマッチングを増やす…ということにも挑戦しています。
近藤さんがリクルートで働き続ける理由
― リクルート入社以来、一貫してHR事業に取り組んでいますよね。近藤さんにとって「仕事探し」とは何でしょうか?
近藤:長い人生において、自分の可能性をよりひらいていくためのきっかけですね。
― 就職活動を経験した身でも、自分の可能性を見つけるってなかなか難しく感じます。
近藤:日常で興味を持つものや無意識で気になるものをストックしたり、主観や直観であっても「○○がしたいな」という気持ちを大事にしたりすることで、仕事探しのキーワードが分かることもあるんですよ。もし、それでも今どんな仕事をしたいかわからない場合は、一人で考えず、私たちキャリアアドバイザーなどの第三者と対話することで可能性が広がることがあるので、ぜひたくさん相談していただけたらと思っています。
― 近藤さんは、なぜそこまでキャリアの可能性をひらくことが大事だと思うんですか?
近藤:私自身、実は1社目の会社を8ヶ月で辞めているんです。当時は、会社を辞めようと思った時に相談する先がほとんどなくて…、会社の人に相談すると、きっと「辞めるな」って言われますよね。適切な相談先も思いつかず、最後は自分で決めました。その時、やはり就職先について自分が持っている情報が少なかったなという思いが残って。
個人的な体験からも、雇用に関する正しい情報の流通や、第三者への相談の機会を活用して、キャリアの可能性を広げることはとても大事だと思っているんです。
また、1社目を退職後、大学院に入学して労働経済学を専攻していた時期、教授に「働きたいけど働けない方は、経済学上、一番もったいない。『働きたい』と思えるエネルギーが消えない社会を創っていく必要がある」という考えを聞かされ、感化されまして。
こうした体験から「働きたいと思える人が、働く喜びを得られる社会を創りたい」と強く思うようになっていきました。
― 志を実現し、人材紹介事業の責任者を務める近藤さんですが、もし今メンバーとしてリクルートに入社したら、どんなことにチャレンジしたいですか?
近藤:社会人をやり直すとしても、やはり雇用という領域に一生携わっていきたいですね。そして、今メンバーになったとしたら、サービス自体を正解と思わずに、労働市場で悲しんでいる人や面倒くさいと思っている人がどこにどのぐらいいるかなど、積極的に実態を明らかにして、大きな課題を解決できる仕掛けができないかを企てたいです。
とはいえ、ずっとやりたかった「働きたいと思える人が、働く喜びを得られる社会を創る」上でも、今のこの役割が最も影響力を発揮できるのではないかと思っているので…いかに早く任せてもらえるかを必死で模索するんじゃないですかね。
他にもあります!学生の皆さんからの質問に答える企画はこちら
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 近藤 裕(こんどう・ひろし)
- 株式会社リクルート HRエージェントDivision Vice President
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金融機関を経て大学院で労働経済学を学び、2005年、株式会社リクルートエイブリック(現リクルート)に入社。2010年からリクルーティングアドバイザー(法人営業)部門でマネジャーを務め、2017年には事業企画の部長としてIT活用による事業進化を推進。2023年よりエージェント事業(人材紹介事業)の責任者を務める