美容業界の未来のために、今解決すべき課題とは? 事業責任者・須田崇子に聞く
国内最大級の美容領域の検索・予約サイト『ホットペッパービューティー』を展開するリクルートの美容事業。集客支援に加えて、業務効率化システム『サロンボード』や、美容業界向け求人マッチング&ソリューションサービス『ホットペッパービューティーワーク』など、時代に合わせて美容業界全体の課題解決に取り組むサービスを拡大しています。
とはいえ、就職先を検討している学生の皆さんからは「美容業界の課題解決」という言葉がピンと来ないという声も。そこで今回は、実際に学生の皆さんから届いた質問に答えるべく、美容事業の責任者・須田崇子に、新卒採用担当がインタビューしました。
美容事業はどんな社会課題を解決するのか
― リクルートの美容事業と言えば、ヘアサロンなどを予約する『ホットペッパービューティー』のイメージが強いですが、いつからあるんでしょうか?
須田崇子(以下須田):美容領域の検索・予約サイト『ホットペッパービューティー』を開始したのは、2007年ですね。当時、社内でも「なぜ美容サロンに特化?」という声もあったようですが、実は美容室って日本国内にコンビニエンスストアの数よりも多いんですよ。そのくらい社会で需要があると見込んでスタートしました。翌年にはスマートフォンアプリも立ち上げています。それがサロンのネット予約の始まりです。
― 2007年…私が子どもの頃ですね。もっと前からあるのかと思っていました。それ以前はどうやって美容サロンを予約していたんですか?
須田:『ホットペッパービューティー』はネット予約のサイトだと認識されている方も多いとは思いますが、元々は美容サロン情報とクーポンを掲載した「フリーペーパー」(2000年創刊)から始まっています。当時は、その情報を基にしたり、美容系雑誌や通りすがりでサロンを見つけて、電話で予約するのが主流でしたね。
― 今では、ネット検索・予約が当たり前なので、そんな時代があったなんて想像つかないです…ネット予約が始まると、さぞかし反響も大きかったのでは?
須田:それが、立ち上げ当時、ネット予約は1日に17件入るか入らないか、というような状況だったんです。サロンのオーナーさんたちから『ネットで予約する時代なんて来ないのでは』とお声をいただくことも多かったです。
― 1日17件? サービスが浸透するまでって時間がかかるんですね…
須田:そこから17年経った今、ありがたいことに、1日あたり約58万件の予約*をいただけるサービスにまでなりました。
掲載するサロン情報も全国で13万件以上*になり、ヘアサロンのほか、ネイルサロン、まつ毛サロン、リラクゼーションサロン、エステサロン、美容クリニックなど、多岐にわたります。ユーザーは10代から70代まで幅広い世代の方がいらっしゃいます。
*2024年8月時点
対峙する課題は、集客から業務・経営支援まで広がる
― 美容事業には、『ホットペッパービューティー』以外にもサービスがあるんですね。これらは何ですか?
須田:『ホットペッパービューティー』から派生したサービスで、美容業界の業務・経営支援を目的として展開しているものです。
― 美容業界の業務・経営支援?
須田:はい。実は、美容業界は短期の閉店率が特に高く、統計では開業後3年以内の閉店率が50%を超えるほど。背景には、サービス業界特有の収益構造から、利益率を上げにくいという状況があります。
そうした構造にあるなかで、まず取り組むべきは、あらゆる業務の生産性向上。サロンスタッフの方には、本来注力したい美容施術のサービス提供や、技術の向上などを優先していただき、それ以外の業務をテクノロジーの力で効率化できないか、と考えています。
― 具体的には何をしているんですか?
須田:サロン向け予約・顧客管理システム『サロンボード』は、Web画面上でサロンの空き時間枠を確認し、希望する時間に予約が取れるシステムです。ユーザーの予約情報やその履歴などの管理をデジタル化できるので、サロンスタッフさんの業務時間の削減につながります。
また、2023年に立ち上げた『ホットペッパービューティーワーク』は、サロンの経営課題のうち「人材採用」にフォーカスしたものです。サロン経営者が抱えている課題を伺うと、今まで私たちが『ホットペッパービューティー』で取り組んできた「集客」以外に、「採用」が挙がることが多いんです。特に美容師の方々は、長時間労働を前提とした働き方や報酬・待遇などを理由に、他職種と比較して離職率が高い傾向にあります。
本サービスでは、求人情報に加えて、『ホットペッパービューティー』に掲載するサロン情報が自動連携されるので、よりリアルな情報から職場環境をイメージしつつ、比較検討いただけます。
また、良い労働条件を提示しているサロンで働きたい方が多いのは事実なので、求人の募集条件や労働環境の改善が見込める場合は、サロンさまにご提案をしています。例えば、業界相場の情報を基に「今年はこれだけ利益が出ているので、給料をこのくらい上げた方が良いのではないか?」「予約時間の実績を基に、ピーク時以外の営業時間を少し短くしたり、シフト制にできないか?」といったことなどです。
須田さんがリクルートの美容事業で働き続ける理由
― 須田さんは一貫して美容事業に取り組んでいます。何が魅力なのでしょうか?
須田:やっぱり人って疲れていると頑張れないと思うんですよね…。美容は、世代・ジェンダーを問わず、あらゆる人に活力を与えてくれる魔法だと思っています。実際に『ホットペッパービューティー』に投稿いただいた口コミ(サービスの感想)も定期的に拝見しながら、その効能を実感しています。
― あ、意外と口コミまで見ているんですね…!
須田:最近印象的だったのは、飲食店のオーナーを務める男性が、施術後に書いてくださった口コミを拝見した時のこと。その男性は髪の扱いづらさに悩んでいたところ、ヘアサロンの施術によって、思っていた以上の良い仕上がりになり自信を得られた、と。「同じサービス業の立場として、こんなに人に自信を与えることができるなんて、美容の仕事って素晴らしいと思いました」といただいて、感激でした。
そうやって、ユーザーの方の自信や活力につながっていく瞬間に出合えると、いつまでもこの業界のために頑張りたいって思っちゃいますね。
― 美容っていわゆる「おしゃれ」のためにあると思っていました。誰かが自信を持てたり、笑顔になれる…そんな力を与えてくれるものでもありますね。
須田:そうなんですよ! まさに美容に対するその捉え方は、「日本中の街にBeauty Smileを」という私たちのビジョンに直結しています。
大事なのは、美容サービスを通じて、ユーザー・美容サロンさま・その周囲の方々が笑顔でいられること。そのためには、一社でも多くの美容サロンさまに健全な経営を続けていただく必要があります。プラットフォームを運営するリクルートだけが利益を上げ続けたところで、業界全体の持続的な発展にはつながりません。
全国13万件以上のサロンさまからいただいている決して安くない掲載費を、未来の業界発展のためにどのように還元していけるか、日々考えながら、事業を運営しています。
今後の超高齢社会で、リクルートの美容事業にできること
― 未来の美容業界に向けて…どんなことに取り組んでいるんですか?
須田:まず、基本的なスタンスとしては、業界の方々がより専門性を発揮できる仕事に集中できるよう、テクノロジーの力を使って業務効率化につながるプロダクトの開発・提案を行っていくことがひとつです。
また、今後の社会では少子高齢化がますます進むので、「あらゆる方にとって生き生きと年齢を重ねられるかどうか」が大事なテーマになっていくと思うんです。そうした社会変化を見据えながら、サービスとしても貢献できることを見つけて挑戦していかねば、と考えています。
― 社会の高齢化に合わせて、美容事業に何ができるんでしょうか?
須田:リクルートの調査機関『ホットペッパービューティーアカデミー』では、美容業界の方向けに「訪問美容ゼミ」を開催し、専門家であるNPOにご協力いただきながら「訪問美容」の講習会を行っています。
サロンの施術の多くは「ユーザーにご来店いただくこと」が前提。となると、高齢者施設にいらっしゃる方や、入院中・自宅療養中の方、介護や育児で忙しくて外出が難しいといった“サロンに来店できない方”は、日常生活のなかで美容施術を受けることの優先度を下げざるを得ない状況です。そういった方々にこそ、美容施術をお届けできないか、と考えています。
― 訪問美容は、従来の美容施術とは異なるんですか?
須田:「美容施術」という意味では変わりませんが、ユーザーの方が来店できないご事情や施術場所の制約を汲んで、施術方法を考える必要があります。
例えば、ユーザーのニーズのヒアリング方法や、いざ施術をするにしても「寝たきりだけどパーマをかけたい方がいたらどうするか」、「どのような髪の洗い方をし、どのような成分のパーマ剤を使うか」など、実践にあたって最低限必要な知識がたくさんあるんです。
― 将来の業界を見据えた取り組みですね。
須田:実際に、この訪問美容ゼミがきっかけとなり、看護師の資格を取得した美容師さんもいらっしゃいます。美容師と看護師の資格を持ったことで、仕事の専門性を高めながら、ライフスタイルに合わせた働き方を実現したり、経済面で安定したというメリットもあったとのこと。美容師さんにとって視野や経験の幅を広げる機会になるのではないか、と感じています。
ただし、現段階ではあくまでも取り組み上の話。まだ実際のサービスにはできていないので、今後のチャレンジポイントですね。
― こういった「場所に捉われない」美容施術の可能性が広がった先に、どんな社会を想像しますか?
須田:これは個人的見解ですが…本来「サロン」とは、フランス語で「客間」、いわば「人が集まるところ」を指します。例えばフランスでは、「サロン」はアーティストが集まり、情報を共有・交換するような場所を象徴するイメージですよね。その意味では「髪を切りたい」という理由に限らず、誰かに会いたい、つながりたいという気持ちにも応えてくれる場であると思うんです。
「場所に捉われない」サロンが全国に増えることで、例えば髪を切ることに限らず、さまざまな目的が達成される空間になったり、地域のコミュニティの中心になっていくような、サロンのあり方が進化していくと面白いのではないかな、なんて勝手に妄想しています。
他にもあります!学生の皆さんからの質問に答える企画はこちら
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 須田崇子(すだ・たかこ)
- 株式会社リクルート 事業統括本部 SaaS領域統括 ビューティ事業 Vice President
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2005年、リクルートに入社。飲食事業の営業部へ配属後、2008年よりビューティ事業に異動。美容領域でヘアサロンの営業、キレイ領域のマネジメント、東日本エリアの営業部長、美容領域の統括部長を経て、現職に。『ホットペッパービューティー』など、美容事業の責任者を務める