『Build Vision B.V.』CEO 吉田和充さんのリクルート考
欧州の再成長戦略の基軸「サステナブル」に刮目せよ
リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
※リクルートグループ報『かもめ』2023年6・7月号からの転載記事です
オランダに移住し世界潮流を発信中
OBOGを含めてリクルートグループの方々とは、なにかと接点が多いです。印象に残っているプロジェクトはふたつ。コロナ禍前に、リクルートマーケティングパートナーズ(現・リクルート)からご依頼いただいたオランダ視察研修のアテンド。もうひとつは、リクルートワークス研究所『Works』誌での、アムステルダムとアジアに拠点を持つ弊社から見た、世界の潮流や日本企業の課題などの連載中です。
私自身は大学卒業後、博報堂に入社しクリエイティブディレクターをしていました。ふたりの子どもの将来を考え、日本よりも良い教育環境や子育て環境が海外にあるのでは…と思い始めるように。実際にいくつかの国を視察した上で、オランダ移住を決断しました。
「自分の意見を述べる」「自分で考える」ということを重視するオランダの学校では、子どもたちがのびのびとしてとても楽しそうでした。2016年に一家でユトレヒトに転居し起業して、欧州や日本企業のクリエイティブやサステナブル経営のコンサルティングなどを手掛けています。
EUのハブとなっているアムステルダムで暮らし働くなかで、欧州全体がサステナブルを軸に再成長を目指す動きやオランダの国家戦略などを理解するように。その感覚をもとに、企業や自治体のコンサルティングや情報発信をさせていただくようになりました。
サステナブルは他人事? 世界に周回遅れの日本
日本企業で環境経営のコンサルティングなどをしていて驚かされるのは、「サステナブル」という言葉がひどく他人事であるということ。EU各国では既に一般市民レベルでも、企業活動が気候変動に与える影響に対するムーブメントが起きています。
例えば、2021年ロイヤルダッチシェルは、市民団体からの訴えを受けたオランダの地方裁判所から「気候変動を人権問題とした判決」が出され、CO2の大幅削減を命じられています。
一方で、「環境イシュー」を、EUが世界各国をリードする経済成長の起爆剤とも捉えています。デジタルという島は米国に取られてしまった。次の主戦場は「環境だ…」というわけです。
例えば、衰退化しつつあった欧州の自動車業界は、電気自動車関連事業で息を吹き返しつつあります。自動車産業を持たないオランダでは、国家戦略としてテスラを誘致し、充電インフラや自然エネルギー関連技術を持つスタートアップに積極投資をすると同時に、世界に向けた環境維持のためのルール創りにも踏み出しているんです。
また最近では、建築のサーキュラーエコノミーでも、欧州が世界をリードし始めています。新規建築の際には「壊す時のことを考えた」計画を求め、廃材活用のために全ての建築材料はネジ一本までオンライン上に登録。また廃材利用を見越した接着剤不使用なども推進。これにより、「2050年」以降は新規の建築材を一切使わない建築が実現する予定です。
日本でも円安、資源高騰が進行するなか、いずれ同様の課題に迫られるでしょう。その頃には、オランダが世界基準を構築し、世界のハブとして影響を拡大している可能性があるのです。
プラットフォームとしてのケイパビリティを活用して
つまり、オランダはEUならず世界のハブを目指す、いわば「プラットフォーム化戦略」に、国を挙げて取り組んでいるのです。オランダは資源が少なく利用できる国土も狭いのですが、地の利を活かした欧州のハブ空港や港を持ち、経済成長を遂げてきました。
世界の潮流をいち早く捉え、「サステナブル」を起点とした世界のルールメイキングに踏み出しているのです。リクルートからの視察研修を受け入れた際に感じたのは、リクルートの方々には「プラットフォーム」ビジネスのケイパビリティが身についていることです。情報を集めて整理して誰もが使いやすい形に磨き上げる。この一連のプロセスによって、一定のルールメイクのハブになれるというセンスです。
EUにおける「サステナブル」を軸にした市場競争のなかでは、残念ながらリクルートグループの存在感はまだ感じられません。本業かどうかではなく、この世界の潮流を機会にする方法はいくらでもあるはず。本来リクルートグループが得意であるはずのプラットフォームビジネスのケイパビリティを活かして、EUの市場のなかでも存在感を発揮し、日本をリードしていって欲しいと思います。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 吉田和充(よしだ・かずみつ)
- Build Vision B.V.CEO
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慶應義塾大学卒業後、株式会社博報堂入社。CMプランナー/ディレクターとして、40社、400本以上のCM制作を担当。ACCグランプリ、コピー賞などを受賞。在職中に1年間の育児休暇を取得し、家族でアジア放浪へ。2016年、子どものクリエイティブな教育環境を重視してオランダへ移住。Build Vision B.V.CEO、個人事務所SODACHI CEO、STYLA TOKYO クリエイティブディレクター。広報広告全般からマーケティング、企業の成長戦略策定、ブランディング、新規事業立ち上げ、新商品開発、Web制作、サービスデザイン、海外進出などクリエイティブ業務全般を担当。アムステルダム市との協働プロジェクトとして、市の「粗大ゴミの処理問題」にも取り組む