リクルートの「変化対応力」を語る~早稲田大学 企業講演レポート~
早稲田大学商学部で開催されている一般財団法人経済広報センター提携講座「変化に対応する日本企業」。少子高齢化やグローバリゼーションの進展といった環境変化に対する各企業の取り組みを紹介する本講座に、リクルート経営コンピタンス研究所 Ring事務局責任者を務める宗藤和徳が登壇しました。当日の講座で学生の方にお伝えした、世の中の変化に対応しながら多様なサービスや事業を生み出してきたリクルートの歴史・文化・制度をご紹介します。
リクルートが新しいことに挑戦していくマインドのルーツ
宗藤:リクルートは自分や仲間、新たな暮らし、日常で心豊かになる時間など、さまざまな「出会い」を提供し、一人ひとりがより自分の価値観に合った選択ができるよう応援する企業として、事業を運営しています。創業は1960年。学生がまだ自由に就職先を選ぶことが難しく、教授の推薦や学校の掲示板などに情報が限られていた時代、一人ひとりが自分に一番合う就職先に出会えるよう、新卒採用の広告だけを集めた情報誌『企業への招待』を創刊しました。
そこから求人広告だけではなく住宅や車の広告などにビジネスモデルを展開。新しいことに挑戦していくマインドは当時から強く、進学・結婚など人生の節目となる意思決定から、飲食・旅行・美容といった日々の意思決定まで、企業と個人における、情報の非対称性を解消するべく領域を拡大。社会・技術・経済環境、世の中が目まぐるしく変わるなかで、ネットモデルなど事業モデルについても大きく変革。創業から64年経った2024年現在の売上は3.4兆円。全世界60カ国以上でサービスを展開しています。海外売上比率も2010年頃は5%ぐらいでしたが、現在は約53%。グローバルカンパニーへと一気に成長しています。
しかし、私たちはメーカーのような特許を得たモノづくりをしているわけではないので、模倣されやすいビジネスモデルですし、常に進化を必要としています。新たなビジネスを思いつくのも、成長させるのも、全ては人の力。いわば「人」こそ、リクルートが創業当初から持っていた唯一の財産です。この「価値の源泉は“人”」という考えに基づき、創業時から性別・国籍を問わない採用をしていました。
また、リクルートのカルチャーのルーツには、草創期の従業員のひとりである大沢武志さんが執筆された『心理学的経営』があります。人は自律的に行動し、自分らしく生きたいと思う生き物であり、内発的動機に基づいて行動する時が最もパフォーマンスが高い。この考え方があるからこそ、自然と「あなたはどうしたい?」と問いかけ、一人ひとりの内発的動機やチャレンジを引き出すことが定着しているのだと思います。
変化に対応し、イノベーションを創出できる制度とは
宗藤:リクルートが世の中の変化に応じてさまざまな事業を生み出してきた理由のひとつに、1982年から続く新規事業提案制度「Ring」があります。『HOT PEPPER』の前身サービス『生活情報360°』や『ゼクシィ』は「Ring」を通して生まれました。働く場所を問わず、事業開発の経験がない人でも、内定後から応募できる制度です。起案リーダーがリクルート従業員であれば社外の方もメンバーとして参加可能で、年間約1000人以上がアイデアを提案しています。
「この仕事は、会社に“させられているんだ”」と思うより、「この仕事は“自分の仕事”だ!」と心から思えている時の方が、モチベーションが上がりますよね。だからこそ「Ring」は会社が主導して新規事業プロジェクトを立ち上げ人をアサインするのではなく、ボトムアップの形をとっています。あくまで個人の想い、内発的動機を起点に、「Ring」を通じて事業を創出する。事業を通じて、社会に貢献する。こうしたイノベーションが繰り返されることで、結果的にリクルートは世の中の変化に対応してきました。
例えば『HOT PEPPER』は「地元の中小企業を盛り上げたい」という着想から、特定地域で店舗の電話番号を掲載したジャンル不問の狭域フリーペーパー『生活情報360°』としてスタート。そこから今度は「より多くの地域に貢献したい」という想いが生まれ、全国でバージョンを揃えたクーポンマガジン『HOT PEPPER』に形を変えました。さらに「カスタマーがいつでもどこでも簡単にお得なお店を探せるようにしたい」と考え、飲食店検索サイト「ホットペッパー.jp」をオープン。その後「飲食店だけでなく美容サロン探しでもこの体験を提供したい」と生まれたのが美容サロンの検索&予約サイト『ホットペッパービューティー』という具合に、担当する人や社会の需要が変わっても、次から次へと好奇心が連鎖することで、世の中の変化に対応できたのかもしれません。
学生の方からいただいた、リアルな質問
講座中の質疑応答では、学生の方から数多くの質問がありました。そのなかでも特に反響の大きかったトピックをご紹介します。
「人を大切にしている」と言っている企業はほかにもありますが、リクルートはどんな会社を目指しているのでしょうか?
宗藤:私たちは、2021年から「CO-EN」というコンセプトを掲げています。好奇心や情熱を起点に多様な個人が、社内外の枠を超えて縦横無尽に出会い、協働・協創が生まれる「CO-EN」(公園、Co-Encounter)のような場にしたい。出入り自由な会社であり続けたい。そんな想いを込めました。ちなみに、退職する人の約15%は独立・起業を選択しており、再入社する人は年間40人ほど。「アルムナイ」という言葉が一般的でなかった時代から、再入社は自然に行われていました。
採用にはコストがかかるのに、出入り自由を掲げるのって効率が悪くないですか?
宗藤:同質性の高い組織は、価値観が固定されてしまいますし、社会の急速な変化への対応が難しくなる恐れがあります。リクルートは人の可能性と能力を最大限活かすためにミッションをアレンジする考え方を前提としており、「ロール型」雇用を採用し、組織における人材の流動性と、個人が社外でも通用する能力を育むことの両方を目指しています。雇用の形は、専門性を高める「ジョブ型」雇用と、終身雇用を想定した「メンバーシップ型」雇用の対比で語られる傾向にありますが、「ロール型」雇用という選択肢もあることを知っておくと、キャリアの描き方が変わってくるかもしれません。
本日のお話を通じて「Ring」をいわば「リクルートを利用した起業」だと捉えたのですが、起業家精神を養うためにしておくべきことはありますか?
宗藤:好奇心に従うことだと思います。振り返ってみると、学生の頃が一番「自分のことが分からない」と悩んだ時期でした。就職活動の際、何を思ったか当時の私は「小さい頃に時間を忘れて楽しんだことって何だっただろうか?」を起点に自己分析をしたんですよね。すると、そこから始まったキャリアだからか、後悔がないんです。社会に出ないと分からないことはたくさんありますが、少なくとも、自分の持つ好奇心や違和感に従って歩む人生には、後悔がありません。だから皆さんもぜひ、自分の気持ちに従う勇気と、そこから一歩踏み出すことから、始めてみてください!
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 宗藤和徳(むねとう・かずのり)
- 株式会社リクルート 経営企画 リクルート経営コンピタンス研究所 RING事務局
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2000年に新卒で印刷会社に入社し、広告代理店を経て、2007年にリクルートに入社。Webマーケティングの事業横断組織にてスマートデバイス対応の推進、R&D部門で大手IT企業とのグローバルアライアンス推進などを歴任。2021年に日系アパレル企業に転職し、2023年5月にリクルートに再入社。以来、現職