人間中心のUXデザイン研究者 安藤昌也さんのリクルート考

深い人間理解に基づいた人間中心のサービスを創り続けて欲しい
リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
※リクルートグループ報『かもめ』2023年11月号からの転載記事です
UXデザインの高い影響力、より良い社会創りに向けて
私の専門は、人間中心のUXデザイン研究です。「いいものを創る」という信条のもと、最も重視しているのが、人間心理を深く追求したユーザーエクスペリエンス(以下UX)。ユーザー体験を定量、定性的にリサーチしてUX評価をし、サービス改善や新たなサービス検討に役立てています。
UXデザインとは、ユーザーの行動変容をさせることで、社会全体にも影響を与えうるパワフルなもの。数年前にも問題が顕在化した射幸心を煽る「コンプリートガチャ」問題のように、自社利益だけを追求したサービスにもなり得ますし、社会全体に良い影響を与えるサービスにもなり得ます。社会が大きく変化するなか、カスタマーのアンテナは高くなり、そのサービスを使うことによって社会や世界の課題解決や、地球環境への好影響を与えるサービスが支持されるようになりつつあります。
例えば、北欧のルアーメーカーのRapala VMCでは、魚ではなく釣り上げた海洋ゴミの写真を投稿することで特典が得られる「キャッチ&リサイクル」キャンペーンを行うことで、カスタマーに自然環境保護への意識を高めてもらう仕掛けをしています。
次世代に向けた「いいものを創る」とは、こうした社会全体への貢献に満ちた活動にカスタマーやクライアント全てを巻き込むことだと考えています。
ブレイクスルーの転換点、起業家精神で成長へ
リクルートでは、2015年からENGINE FORUMの審議員を担当させていただいております。9年目の今年2023年はGROWTH FORUM※の審議員として、イベントにも登壇させていただきましたが、今年度の案件の多くに、AIのサービス実装において、さらに一段ブレイクスルーした印象を受けました。
※FORUM:日常の仕事の中から生まれた「イノベーティブな仕事のナレッジ」が共有される全社イベントで、TOPGUN(顧客接点)、ENGINE(テクノロジー)、GROWTH(商品開発・改善)、GUARDIAN(経営基盤)の4部門で構成されています。
一般的には自社のサービスやプロセスを根本から変革していこうとすると、少なからず抵抗に遭い頓挫することも多いもの。リクルートグループの皆さんの、事業全体でカスタマーや業界がより良く変革することを信じて楽しみながら進めていく姿には驚かされます。
リクルートとの最初の出会いは、大学時代の就職活動。カスタマーとクライアントとの間に立ち、時には泥臭く、社会に新しい価値を提案し続ける企業姿勢に惹かれていました。入社こそしませんでしたが、こうして関わっていることに不思議なご縁を感じます。
実は、私の祖父も父もエンジニアで発明家。私自身も3歳にしてエンジニアを志し、家中の家電を分解しては家族に呆れられていました。今はエンジニアや研究者として、より良い社会変革に向けて「いいものを創りたい」という思いでさまざまなプロジェクトに参加しています。より良いアイデアで社会を変える、というリクルートの「起業家精神」にとても共感し励まされています。
深い人間理解に基づいた悩みに向き合うサービスを
ChatGPTをはじめとした生成系AIの次世代サービス実装で、ビジネスモデルは大きく変化していくでしょう。AIはレコメンド機能への活用が想定されていましたが、想定以上にサービスに「人らしさ」が求められるようになっていくように感じています。
一方で、「個人情報を知られ過ぎている」と感じると不信感につながる。このふたつを分かつのは、カスタマーの心理的な「信頼」。これこそがサービス変革のカギとなるかもしれません。
レコメンドとは、解決策です。しかし、人間の持つ悩みに対する向き合い方は、解決策の提示だけではありません。悩んでいる状態の人に対して、正論や解決策を投げつけることでむしろ不信感を与えたり、寂しさを感じさせることもあります。
メディア・イクエーション(Media equation)という研究では、特に日本人はロボットなどを擬人化しやすい、ということが分かっています。現時点でのChatGPTのように、時々間違ったり、間違いを指摘したら謝ったりする、ある意味人間らしいコミュニケーションが心を動かしたり和ませたりすることもある。
この技術変革のなかでのサービスのあり方、最終形は見えていません。しかし、さまざまな領域でサービスを展開するなかで、人間への探究を深めてきたリクルートだからこそ、これまでの成功体験に縛られず自由に次世代サービスへ変態していけるのではないかと考えています。深い人間理解に基づいた、人間中心のサービスを今後も生み出し続けて欲しいです。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 安藤昌也(あんどう・まさや)
- 千葉工業大学 先進工学部知能メディア工学科 教授
-
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、大手システム開発会社、経営コンサルティング会社取締役などを経て、2011年より千葉工業大学工学部デザイン科学科准教授、後に教授を経て16年より現職。博士(学術)。ユーザーエクスペリエンス及びUXデザイン、人間中心設計の教育・研究に従事するとともに、企業とのUXデザインに関するプロジェクトを多数手がける。主著である『UXデザインの教科書』(丸善出版16年)は、多くの企業・大学等で採用され、発刊以来、教科書分野では異例のロングセラーとなっている