【後編】地方創生のカギは「課題を提起する力」。高知大学 須藤順×博報堂 大家雅広
地方創生に教育現場から関わる高知大学の須藤順氏と、企業の立場で関わる博報堂の大家雅広氏に聞く「地方創生って何ですか?」
日本社会の高齢化にともない、画一的なやり方ではなく、地域に住む人たちが自分自身で課題解決の方法を考えなければいけない時代になった。前編では、高知大学地域協働学部の須藤順氏と博報堂の大家雅広氏が、地域の課題を見つけ解決する「エコシステム」と、地域における「フラットな場」の重要性について指摘した。
続く後編では、地域が自走するために重要なもの、そして企業が地域に関わるメリットなど、地方創生の未来についてさらに話を伺った。
地域の中に「走れる人」を見つける
ー 前回、地方創生を成功させるためには、地域が自走するための仕組みづくりが不可欠だという話がありました。お二人がさまざまなプロジェクトを手がけるなかで、地域が自走するために重要視しているものはなんでしょうか?
大家雅広(以下・大家)地域の中に走れる人がいるかどうかです。「走る」というのは、「アクションを起こしている」という意味ですね。地域に入ってみると、一人で走っていて、場所と仲間がないからうまくいっていない人が多いんです。ならば、その人たちが走りやすいように僕たちがお手伝いしますよ、とはたらきかけてみる。そうすることで、地域がどんどん動き始めるんですよ。
須藤順(以下・須藤)「走れる人」って、探せばどの地域にもいるんですよね。僕が学生によく言うのは「ずっと変わり者扱いされてきた人を探そう」ということ。変人扱いされてもずっと同じことをやってきた人は、確実に信念を持って突き進める人です。
大家 地域でヒアリングをしていると「この人の名前、何回も出てくるな」っていうことがありますよね。
須藤 「ネットワーク理論」でも証明されているんですが、ネットワークには中心がある。その町の中心人物を見つけてしまえば、そこから広げるのは早いんです。逆に、中心人物でない人とプロジェクトを組むと、時間がかかりすぎて、途中でダメになってしまう場合が少なくない。
大家 もし、中心人物がいない地域なら、人が出てくるまでを演出するということも意識しています。具体的には、ワークショップにいろんな立場の人を集めて、一度ケンカが起こるくらいにとことん議論してもらう。そうするとグチャグチャになりますが、それでも頑張りたいという人が出てきて、次第にその人が中心となって動き始めるんです。
須藤 外から入ってくる我々のような人間の役割は、地域で活躍できる人が動ける環境を作ること。それに加えて、新しい試みが旧弊なしがらみや人間関係で邪魔されないような防御壁になってあげること。あくまでも町は住んでいる人のものだから、何かをするのは地域の人でなければいけないんです。
大家 面白いことに、誰か一人が走り出してしばらくすると、「自分にもできるんじゃないか」と考える人がコミュニティの中に現れるんですよね。だから、地方創生の取り組みにおいて、なにか一つでも形にできれば、他に波及し相互に連携を始めて、どんどん回るようになる。その状態こそ、地域が自走するということだと思います。
また、複数のプロジェクトを同時並行で走らせることも重要です。企業のプロジェクトでも同じですが、早い段階で小さな成果を作ることで、それが成功体験になって、自分たちでその後も動くモチベーションに変わるんです。
企業が地方創生に関わるメリット
ー 地域活性化のプロジェクトに限らず、企業が地域に関わることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
須藤 いまの日本が抱えるいろいろな課題の根源には「高齢化」というものがありますよね。世界中のどの国も経験したことのない超高齢社会に日本は突入している最中です。社会的には非常に大きな問題ではありますが、ビジネスの観点でいうと、新たなロールモデルを築く絶好のチャンスなんです。高齢化がとくに深刻な地域に企業が関わり、そこで得たノウハウを海外のマーケットへ輸出する形が理想なのではないでしょうか。
大家 僕の関わるトヨタの「くるま育」プロジェクトは、まさにそうした狙いがありますね。
須藤 あえてこういう言い方をしますが、企業にとって地域は実験フィールド。だから、地域ももっと企業を利用してもいいと思います。企業間の競争が乏しかったところに外の企業が入ることで、既存の企業はやり方を学ぶ機会になりますから。
大家 ただ、地域側は大企業に対して抵抗感があることは多いです。企業の人間である僕としては、対企業ではなく個々人の関係として向き合うことで、その先入観を解消するように意識しています。地元の知り合いを通じて関係性を築いたり、時にはお酒を酌み交わして、腹を割って話したり。
須藤 企業にはリソースやノウハウがありますが、細かくコミュニケーションをとって動くようなことは、意外にも地域の方が上手だったりと、お互いがコラボレーションするメリットは必ずあります。地域と企業、それぞれの論理への理解を深めていけば、うまく両立できるのではないでしょうか。
若者を舞台にあげなければいけない
ー いま、地方創生の観点から注目している地域や手法を教えてください。
須藤 一つ目は秋田県五城目町の「シェアビレッジ」です。「年貢」と呼ばれる3,000円の年会費を払えば誰でも「村民」になることができ、宿泊したり、イベントやプログラムに参加できたりするようになる取り組みで、クリエイティブ思考を持つ人が集まり、移住や企業誘致も増えています。さらに外の人が増えていった結果、地域の人も刺激されるという、いい循環が生まれているんです。
二つ目は「マイプロジェクト」という手法。世の中に合わせて自分の仕事を選ぶのではなく、今までの人生に紐づいた、自分のやりたいと思うこと、willを大切にやっていきましょう、というものです。地域で成功している試みというのは、それ自体が素晴らしいのではなく、やる人に共感しているからなんですよね。
大家 前編でも挙げた「アルスエレクトロニカ」のような、クリエイティブクラスの人も一般の人も一緒に活動するような場があるところが面白いと思っています。日本でいうと、僕の地元の金沢ですね。前市長である山出保さんが「文化を起点としたまちづくり」を推進されていたんですが、ベテランのクリエイターも参加していたことで、さらに若い作り手を育てる仕組みが生まれ、実際に若者が活躍しているんです。地元文化の発信先として、最初から国内だけでなく世界もターゲットとして考えられていて、その意識が末端まで浸透している。たくさんの問いを全体で共有している組織みたいな感じなんです。
須藤 いわゆる「リビングラボ」ですね。
大家 10代の子でも、自分なりの意見やアイデアの種を実はたくさん持っているんです。だから適したツールを渡せば、どんどんクリエイティブな表現が出てくるんですよ。フラットに話ができる環境がちゃんと用意されていれば、若者の意見を吸い上げることができ、大人も新陳代謝される仕組みになると思うんですよね。
須藤 大人が若者を舞台にあげる必要がありますね。大人が子どもを子どもとして見過ぎているんです。
大家 未来を生きるのは若い世代ですからね。
須藤 教育の課題でもあるんですが、自由に自分の意見を言って高め合うということをやったことがない人が、地域だけに限らず全国に多すぎるんです。先ほど上げた秋田の五城目町や島根の海士町など、教育に力を入れている地域の自治体はいくつもあります。子どもたちの学校以外の教育環境を作り、異世代の学び合いにフォーカスした町が伸びているというのは、極めて注目すべきことだと思います。
地域で生まれている熱を伝えたい
ー 最後に、お二人が今後やりたいことを教えてください。
大家 まずは「広場」みたいなものを作りたいです。いろんな人がフラットに集まって意見を交換して「熱」を生み、自走のサイクルを回していけるような。僕たち現場の人間って、現場で生まれる熱を肌で感じて理解しているんです。ただ、その熱は所属する組織全体にまで伝わりづらい。だから、生まれた熱を盛り上げてとにかく形にしてみせて、組織としての評価を得て、次へ繋げていくという状況を作って生きたいです。
須藤 僕も大学という組織を変える必要性は強く感じています。いろんな地域で大学教育に企業や地域にも入ってもらって、学生とともに活動し、そこで得たものを大学側で理論化し、ノウハウとして企業や地域に伝えたいと思っていて。そうやって企業と大学、さらに地域でイノベーションを起こしていきたいです。
地方の学生はとても自己肯定感が低い気がしていますが、実際に接していて感じるのは、東京の大学生でも地方の大学生でも、能力差はないと思っています。その人にしかない能力は必ずあるので、あとは自分で感じている課題に対して継続してやり続ける力とそれを支える環境があるかどうかだと思います。高知の土佐町や四万十町など、高校生と大学生が一緒に学び合う仕組みを作り始めている自治体では、自分の人生を自分で運転している感覚を持ってもらうように、意識して取り組んでいます。
大家 自分で考えるということですよね。僕たち外の人間は、外部評価したり、知識を共有したりして手助けをする。そうやって、どんどんいろんな場所でエコシステムが生まれていけばいいなと思います。
プロフィール/敬称略
- 須藤順(すどう・じゅん)
- 高知大学地域協働学部講師、エイチタス株式会社取締役
-
博士(経営経済学)。医療ソーシャルワーカーに従事後、医療関連施設の立ち上げと経営に参画。その後、(独)中小企業基盤整備機構リサーチャーを経て、2014年10月より現職。専門は、社会的企業/社会起業家、コミュニティデザイン/ソーシャルデザイン、アイデアソン、起業家育成。近著『アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法』徳間書店(共著)。高知大学「起業部」の運営、全国のアイデアソン支援、自治体の起業家育成をサポート。
- 大家雅広(おおいえ・まさひろ)
- 博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 ディレクター
-
博報堂で、国内外企業のマーケティング・ブランディング戦略、新商品・サービス開発、イノベーション支援、地方自治体支援などの業務に従事。リサーチとアイディアを往復する、つくりながら考えるプロジェクト推進に強みをもつ。東京大学大学院建築学専攻修士課程修了。