良いチームってなんだ?つんく♂さんに聞く「伸びるアイドルグループが大切にしていること」
良いチームについて思考を深めるために、日本のエンターテインメント界で数々の人気グループを生み出し続けているつんく♂さんにスペシャルインタビュー。
音楽家・エンターテインメントプロデューサー、作詞家、作曲家としてつんく♂さんは、「伸びるアイドルグループ」をどう捉えているのでしょうか。
リクルートグループ報『かもめ』2022年6月号からの転載記事です
オールマイティに何でもできるメンバーが存在しないこと
日本におけるアイドルのなかで「伸びるアイドルグループ」の条件を挙げるとしたら、例えば、メジャーリーグの野球選手でいうところの大谷翔平選手のような、オールマイティに何でもできるメンバーが存在しないことですね。ルックス、ダンス、歌、明るさ、などの全てにおいて、圧倒的に突き抜けているメンバーがいたとしたら、そのチームは長続きしないでしょう。
特にそういう人がリーダーの域を超えて、プロデューサーの権限までも持ってしまったとしたら、短期的にはチームは引っ張られていい方向に行くかもしれないけど、中長期的には2年弱くらいで崩壊すると思います。
男性アイドルの場合は、ISSAさんやHIROさんのように、完全なるボスとそれに慕う仲間たちというチーム構成になれば、継続できる可能性はあるかもしれませんが、女性アイドルグループの場合は難しいケースが多いかもしれないですね。
僕は、メンバーそれぞれが、ちょっとずつ抜きん出ている強みが違っていることが伸びる特徴だと思っています。だからこそ、チームを組む際には、ソロで活躍できる人、もしくはソロでしか活躍できそうにないメンバーを除き、歌の上手いメンバーを1~2名、あとはキャラクターまたはルックス重視でバランス感覚の高いメンバーを数名組み合わせます。メンバー構成を先に考え過ぎず、少々ごちゃっとしているチームにしたほうが覚えてもらいやすい。
また、アイドルという職業へのプロ意識があり、どんな「ツッコミ」にも恐れない吸収力や柔軟性を持ち、かつ、優等生ぶらないことなどがキャラクターラインナップとして重要だと感じています。センターだけに成果を負わせるのは大変なので、他のメンバーがそれぞれの個性で補い合うチーム体制が大切ですね。
企業の面接とは違いますが、採用する際の面談の質問には、最初から本音で答えて欲しいという思いがあります。最終的にチームの一員、仲間になるわけなので。例えば、大きな火傷の痕があるとか、家族構成、過去に学校でトラブルがあったとか。「実は…」と後から告白されると、事務所側で補てんしきれず問題が大きくなる可能性もあります。
また、一度「嘘」や「だんまり」が通ってしまうと、それが癖になってしまうケースもあります。後々の信頼関係にもつながっていくので、最初に腹が割れるか割れないかが意外に重要なんです。
いかに情熱伝えられるかが鍵 迷いやエゴは見透かされる
作品づくりを軸としてプロデュースしてきた僕にとって、作品を形にしてくれるチームメンバーの存在はとても大事です。
最近、チームを伸ばすために大事なのは「情熱」だなと改めて思います。僕に情熱があれば、それはメンバーに伝わると思いますが、もし僕に自信のなさや強いエゴを感じたり、作品クオリティよりも「形」から入るというような行動をすれば、たとえ相手が中学生であっても感覚的に1年もすれば「あ、この人信用したくない」って感じるんじゃないかと思っています。
例えば、作品より先にアイドルグループを作るとか、アイドル運営会社をまず先に立ち上げてしまうとか、手段が先になってしまうとブレが生じます。運営側は作品づくりよりも、メンバーのご機嫌伺いとか指導に時間が取られるようになり、息切れしてしまいチームとして長続きしないでしょう。
これまで多数のアイドルグループを見てきましたが、どうやら時代はおおよそ10年周期で「アイドル」より「アーティスト」になりたいという時代に移り変わりを繰り返しているように思います。グループ内でも同じような変化として、衣装が黒くなりがちで、前髪がなくなっていくとかそんな感じ。
なぜかこうした変化が出てくると、そのチームは結果として散り散りばらばらになっていくんです。だからこそ、メンバーのちょっとした変化を把握し、今どんな状態なのかを理解していくことが肝心なのかもしれません。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- つんく♂
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1968年生まれ、大阪府出身。音楽家・エンターテインメントプロデューサー、作詞家、作曲家、総合エンターテインメントビジネス企業TNX株式会社代表取締役社長。1988年シャ乱Qを結成。その後、「モーニング娘。」やハロー!プロジェクトなどのアーティストのプロデュースやNHK Eテレを含む多方面に数多くの楽曲を提供。オンラインサロン「みんなでエンタメ王国」オーナーを担うなど幅広く活躍中。著書『だから、生きる。』(新潮社)。月に3本以上、オリジナルのコラムやゲストを迎えた対談記事を公開した定期購読マガジン「つんく♂の超プロデューサー視点!」の他、多数コンテンツを配信中