住まい探しの勝負は3週間。『SUUMO』に何ができる? 事業責任者・中村 明に聞く

住まい探しの勝負は3週間。『SUUMO』に何ができる? 事業責任者・中村 明に聞く
文:高橋夏実(Spacy72)

住まいを「借りたい、買いたい、建てたい、リフォームしたい、売りたい」という、幅広いニーズに応えた不動産・住宅の総合情報サイト『SUUMO』。“ ユーザーにとっての理想の住まい探し”をお手伝いしています。
学生の皆さんにとっては、CMなどで見かけるサービスである一方、「住まい探し」でも賃貸領域以外は、遠い将来の出来事に感じるといった意見をよくいただきます。

そこで今回は実際に学生の皆さんから届いた質問に答えようと、事業責任者・中村 明に、リクルートの新卒採用担当がインタビュー。住まい事業とは何か? 今後どう進化していくのかについて、聞きました。

リクルートの住まい事業が、取り組んでいること

― リクルートの住まい事業は、CMで流れている『SUUMO』を思い浮かべる方が多いと思うのですが、どんなことをしている事業なのか教えてください。

中村 明(以下中村):ユーザー一人ひとりが思い描く「自分にとっての理想のお部屋」や「より良い暮らし」に行き着くためのお手伝いをしています。

そうした十人十色の理想の暮らしを実現するために、不動産・住宅の総合情報サイト『SUUMO』では、賃貸やマンション、一戸建てなどの不動産売買・物件購入情報に加えて、注文住宅・リフォーム・設備など、住まい探しにまつわるさまざまな情報を発信しており、全国で800〜900万件もの物件情報を掲載しています。

そのなかでも、私が担当する賃貸領域では、「百人百通りの住まいとの出会いを、もっと豊かに。早く。日本中に。」というミッションのもと、賃貸を取り扱う不動産会社をクライアントとして、『SUUMO』というマッチングメディアを最大限に活用しながら、集客支援に留まらず経営支援まで行っています。

― リクルートの賃貸事業では今、どんな社会課題に向き合っているのですか?

中村:多くのユーザーが時間的制約により、納得のいく住まい探しをできないことです。賃貸でのお部屋探しって、実は時間との戦いなんですよ。リクルート調べによると、ユーザーが物件情報を探し始めてから、家を見つけるまでの平均期間は約20日だというデータがあります。

― 約20日…! たしかに、思い返せば大学の入学先が決まった時、すぐに家を探す必要がありました。

中村:そうなんです。例えば学生さんの場合、入学先が決まった時のほかにも、キャンパスが変わった時、就職する時などがあります。社会人では「来月から転勤ね」と告げられ、急に異動が決まることも。

― 卒業シーズン、年度始めなど、引越しが集中する時期は決まっていますよね。良い物件を見つけても、問い合わせた時には既に契約が決まっているなど、何かと苦労する経験が多い印象です。

中村:物件探しは短期決戦になりがちなため、ユーザーにとってはその過程で大きくふたつの問題が発生します。

ひとつめは、掲載情報と実際の物件の不一致です。これは『SUUMO』を運営する私たちの責任でもありますが、情報サイトで気に入った物件を内見すると、物件情報として掲載された写真と実際の雰囲気が異なっていたり、周辺環境など掲載されていない情報によって、自分に合わないと感じることがあります。

ふたつめは、契約成立までのハードルの高さです。理想の物件を見つけても、申し込み後の審査に通らない、あるいは他の入居希望者が先に契約を決めてしまうケースがあります。

そもそも約20日という時間的制約があるなかで、こうした問題が何度も発生すると、ユーザーは納得のいく住まい探しができません。これは、不動産業界が抱える構造的な課題であると捉えています。

お部屋探しの5つのステップ ※出典:『SUUMO』賃貸のお部屋探しマニュアル

住まい事業は、どう社会課題を解決するのか

― その課題に対して、どのように取り組んでいますか?

中村:人それぞれ理想の住まいは異なりますが、どこかにひとつは自分に合った物件があるはず。そのひとつを提供できるかどうかが、ポイントになります。そのため、できるだけ多くの物件を集め、幅広い選択肢をスピーディに提供することが、ユーザーの納得感につながると考えています。

― でも、実際に膨大な情報量のなかから、理想の住まいを見つけるのは難しそうです。

中村:選択肢が多ければ多いほど、どんな物件が理想なのか分からなくなったり、判断に迷ったりしてしまいますよね。その課題を解決するため、私たちは主にふたつの方向性で取り組みを進めています。

ひとつは、テクノロジーを活用した『SUUMO』のナビゲーション機能の強化です。ユーザーが、理想の住まいの条件を明確にし、その条件を基に検索できる仕組みを磨き込み続けています。

『SUUMO』で物件がレコメンドされる画面イメージ

もうひとつは、『申込サポート by SUUMO』による物件申込手続きのデジタル化です。従来、物件入居を希望する場合は不動産会社に直接行き、紙の申込書を記入する必要がありますが、この申込手続きをデジタル上で行えるようにすることで、ユーザーの利便性向上と、不動産会社の業務生産性向上を同時に実現しています。

― 不動産会社の業務生産性の向上にまで着目するのはなぜですか?

中村:不動産会社の方々の業務生産性が向上すれば、本業である「住まい探しをするユーザーへの対応」により多くの時間を割くことができ、サービスの質の向上につなげられるのではないか、と考えているからです。

現在、多くの不動産会社では、煩雑な事務作業や人材不足によって長時間労働を余儀なくされるケースが少なくありません。ですが、業務生産性を向上し、ユーザー対応の時間を優先することができれば、ユーザーはよりスピーディに納得のいく住まい探しができ、不動産会社も事業の成長につなげることができます。

そのため、こうした課題に対して、業務生産性を上げるプロダクトのご提案や、加えてリクルートのHR事業と連携しての採用支援・人材育成、研修といった人事的な課題整理・打ち手のご提案まで、総合的なサポートをさせていただいているんです。

今後『SUUMO』はどう進化するのか

― 『SUUMO』が業界の発展に向けて取り組んでいることが分かってきましたが、今後はどんな価値を創っていくのでしょうか?

中村:「今の『SUUMO』では、理想の住まいに辿り着けない」という方がまだまだいらっしゃるのが現状です。私たちは、そうした方々にとっても頼れる住まい探しのインフラとなり、「百人百通りの住まいとの出会い」を実現したいと考えています。

― 具体的にどのような方々を想定しているのでしょうか?

中村:例えば、高齢者の方やお身体が不自由な方は、段差の有無や車椅子が通れる幅など、住める物件に特別な制約があります。物件情報の写真と実際の状況の不一致も起こりやすく、条件を満たす物件との出会いがより困難になっています。

このように住宅確保に配慮が必要な方々にとって、いかに納得感のある住まい探しを実現できるかが、私たちの重要な課題です。

― そうした課題に対して、どんなことに取り組んでいるのでしょうか?

中村:『100mo!』というプロジェクトを立ち上げ、社内だけでなく、不動産会社や居住支援法人、地方自治体といった社外の方々とも知見を結集しながら、住宅確保に配慮が必要な方々の実態把握と、『SUUMO』の進化に取り組んでいます。

先日も「障がいのある方にとって、より良い住まい探しができる企画とは?」というテーマで、学生さんたちからアイデアを募り、ビジネスコンテスト形式の場を設けました。画像認識AIを活用して部屋の画像から幅や段差の寸法を測ることで、『SUUMO』の検索結果から「住めない物件」を除外するアイデアをいただいたのですが、学生さんならではの感性や純粋な疑問から発想した提案が素晴らしかったため、従業員が実現に向けて動いています。

車椅子を使って生活するユーザーが、『SUUMO』でどのように住まい探しをするか、使い方をヒアリングしている様子

中村さんがリクルートで働く理由

― 『SUUMO』が、そこまで「百人百通りの住まい探し」にこだわるのはなぜですか?

中村:数年前、私たちのミッションを言語化しようと社内で議論を重ねたことがきっかけです。そのなかで、あるメンバーから「私の母は『SUUMO』では住まいを見つけられない」という発言がありました。その方は、お身体が不自由なご高齢の方でひとり暮らしをしており、住まいにさまざまな制約があるため、自治体との連携も必要でした。そうなると、『SUUMO』で適切な物件を探すのは難しいとのことでした。

この声に凄くハッとさせられまして…。納得感とスピードを追求することも大切ですが、これほど身近な人の親にさえ、部屋探しをサポートできないサービスであっていいのだろうか。この問いかけから「百人百通りの部屋探しを実現しよう」というミッションが定まりました。

リクルートのオフィスで新卒採用担当のインタビューに答える中村 明

― 長年、住宅業界に携わっていても、新たな事実に気づかされることがあるものなんですね。最後に、就職活動中の学生の方を意識した質問です。もし中村さんがもう一度新卒に戻って、今のリクルートに入社するとしたら何をしたいですか?

中村:まさに先ほどの気づきに近い話ですが、『100mo!』を始めてから、仕事がより一層楽しくなり、自分がこうした社会課題の解決に取り組みたかったのだと初めて気づいたんです。これまでは、世の中に存在する数多くの社会課題の存在に気付いてはいても、ビジネスとしての可能性を見出せなかったり、自分には解決するスキルがないと考えたり、目を背けていた部分があったのかもしれません。

ですが、『100mo!』を機に、「社会課題をビジネスで解決しよう」という明確なスタンスを持つようになり、それが仕事の新たな原動力になりました。新入社員の段階からこの視点を持てば、もっと必要な力が備わって、より多くの課題解決に取り組めていたのではないかな、と思ったりもするんです。

― そう振り返ること自体、これまでの事業経験がそのまま活きている感じもします。

中村:そうですね、29年働いてきて、事業責任者という立場になり、個人も企業も、社会の一員だということをより強く実感しているのはあります。私たち個人は、決してひとりで生きていけませんし、企業の活動も1社だけでは成り立ちません。『SUUMO』だってそうです。
多くの人々に支えられて、初めて存在できると思うからこそ、私個人としても、一社会人としても、支えていただいている方々、そして社会全体に対して、何かしらの形で価値をお返ししていけたら、と強く思います。

リクルートのオフィスで新卒採用担当のインタビューに答える中村 明

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

中村 明(なかむら・あきら)
株式会社リクルートDivision統括本部 住まい領域統括 Vice President

1996年にリクルート入社。賃貸領域の営業組織でキャリアを重ね、2012年よりリクルート住まいカンパニー執行役員に。2013年以降、SUUMOカウンター推進室担当や、リクルートキャリアの執行役員として『リクナビNEXT』などのHRメディア事業を管轄。2021年4月より現職を務める

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