イェール大学助教授 成田悠輔さんの「仕掛けの種の見つけ方」~働く人たちにエールを
各界のプロフェッショナルに聞きました。“仕掛ける仕事”って面白いですか?
リクルートグループでは創業より「起業家精神」を大切に企業経営をしてきました。日々の多忙さに追われていたり、さまざまな制約条件のなかで、時には、新しいことへのチャレンジに億劫になってしまう時もあるかもしれません。
でも、日々の仕事のなかに、いつでも新しいチャレンジの芽は転がっています。今回、「仕掛ける」=「新しいことにチャレンジすること」と定義し、各界の学識者やプロフェッショナルの方々の「仕掛けの種を見つけ、育て、大きく拡げていく」ための、モノの見方や考え方、心掛けていることをお話しいただきました。日々の仕事の捉え方のヒントを見つけてみませんか?
※リクルートグループ報『かもめ』2022年10月号からの転載記事です
- File_1
- イェール大学助教授 成田悠輔さんの「仕掛けの種の見つけ方」
- File_2
- 建築家 大野友資さんの「仕掛けの種の育て方」
- File_3
- 焼酎プロデューサー 黒瀬暢子さんの「仕掛けの種の拡げ方」
世の中的に重要じゃない、ルールが確立されていないところに仕掛けの種がある
イェール大学助教授として研究活動を行う傍ら、半熟仮想株式会社代表を務めウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う成田悠輔さん。多彩な仕事を手掛ける成田さんに、仕掛けの種の見つけ方を聞いてみました。
未開拓のジャングルから世界を変える価値が生まれる
まだ何のルールもない、インフラもない、ジャングルみたいなところからこそ、次世代を創る価値は生まれてきますよね。例えば仮想通貨も、もともと何もなかったところに、わずか数ページの論文に書かれた貨幣発行プログラムに基づいて、“1BTC(ビットコイン)”が発行された。それに価値があると考える人が数多く参入してきて、気がつくと百兆円の時価総額が生まれていました。
私は生み出したアイデアや商品を占有することにあまり興味が湧かないんです。そもそも自分のアイデアというものも、歴史のなかの無数の人々が考えてきたものを編集しているに過ぎないからです。
個人として有名になったり、会社としてスケールするよりも、自分の仕掛けたことが名もない雑草のように拡がっていくほうがずっと良いと考えています。そのアイデアによって次世代がより良い社会になっていればなお嬉しいです。
憧れるのは、ボタンやネジのように、あまりに普遍的過ぎて、誰が創ったかなんて話題に上がることもないけれど、世界中を変えている、そんなイノベーションです。
格・賞賛・メリットが“ない”場所にこそ種がある
人間は既に確立された、ルールがはっきりしているゲームに吸い寄せられる癖があると思います。勉強やスポーツ、起業家になってユニコーン企業を目指すとか。そっちのほうが、何ができたら成功なのか、何ができたらほめられるのかが分かりやすいからです。
さらに、重要で、偉くて、意味がある、と世の中で思われていることから優先順位をつけて選びがち。そうやって今ある社会の価値観や仕組みに基づいて生き方を決定していくと、基本的に人と似通ったことをし続け、本来得意じゃない競争に巻き込まれることが多くなります。
そのゲームで幸せになれる人は、たまたま能力があった人や、たまたま運が良かった人だけになりやすいと思うんです。なので、もちろん最低限の生存戦略は必要だと思うのですが、世の中的に重要ではなかったり、確立されていない、人が見落としているような環境や状況のなかに入るほうが、付加価値を生み出し、これまで誰もやれなかったようなことができる可能性は大きくなる。
つまり、ランダムに、一見ダメそうなものや、普通なら断りそうな仕事も生活に取り込んでいくことで、違った発見につながることもあると思います。歴史もあって既にでき上がっているシステムのなかに置かれると、仕事が流れ作業的で、工夫の余地がないことが多いものです。
リスクの大半はプライドの問題。仕掛けて唯一無二性を高める
私自身は今、学者も事業者もやりながら、お笑い芸人のようなこともやっています。正直、この働き方はリスクを感じることもありました。研究活動に割く時間は減るし、学者として格は下がりますし(笑)。
ですが蓋を開けてみると、何をやっているのか謎なカオス性が高まって、新しいことを始める前よりも、楽しく、良くなっているという感じがしています。
仕掛けるリスクなんて、ぶっちゃけないんじゃないでしょうか。リスクを考える時に、実体のある肉体的・物理的なリスクと心の中にしかないリスクを分けて考えたほうが良いと思います。仕掛けて失敗したら明日食うに困るといったような、肉体的に脅かされるリスクは、現代の日本には、ましてやリクルートグループで鍛えた人にはほとんどない気がします。
自分も過去を振り返ると、リスクと呼んでいたのは小さなプライドの問題が大半でした。新しいことを仕掛けると、今までの仕事を棄損するような気もするんですが、「自分の理想のキャリアが少し傷つく」くらいの話です。
それも物事を短いスパンで狭い範囲でしか見ていないからそう思うだけで、時間的・空間的な視野を広げてみていくと、新しく変なことを組み合わせることによって、他者や他の仕事に置き換えられない、唯一無二性が高まっていく気がしています。
既定路線のキャリアやプロジェクトをあえて壊して「自傷」することで、競合のいない土俵に移れて競争から自由になれるのです。
仮想通貨のような経済圏の創造も、ルールのない領域で遊ぶようにして何かを面白がっていたら生まれたのだと思います。世の中的に重要で分かりやすいゲームから、意識的に離れる時間を創り、新しい可能性を探る。個人の生き方のレベルでそれを実践することは、自分の人生のなかに新しい幸せの次元を見つけることにもつながると思います。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 成田悠輔(なりた・ゆうすけ)
-
夜はアメリカでイェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想株式会社代表。専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育·医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、多くの企業や自治体と共同事業や独自の基礎研究・ソフトウェア開発などを行う。混沌とした表現スタイルを求めて、報道・討論・バラエティ・お笑いなどさまざまなテレビやYouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞
関連リンク
“仕掛ける仕事”って面白いですか?
- File_2:建築家 大野友資さんの「仕掛けの種の育て方」
- File_3:焼酎プロデューサー 黒瀬暢子さんの「仕掛けの種の拡げ方」