捨てるものにも価値があるはず。「未来のゴミ分別アプリ」を生み出した23歳エンジニアの原点

捨てるものにも価値があるはず。「未来のゴミ分別アプリ」を生み出した23歳エンジニアの原点
文:荘司 結有  写真:小財 美香子

不要なモノにスマホをかざすだけで最短5秒で正しい分別や活用法を識別するアプリ「Trash Lens」を手掛けた23歳の山本虎太郎さん。ゴミ問題に関心を持った原点や開発までの道のりを振り返る。

モノを捨てようとした時に出てくる「これってどうやって捨てるの?」という疑問。

近年、日本ではできる限りゴミの埋め立てを減らし、資源を再活用するために分別の種類が増加しつつある。環境負荷を減らすためにも適切な分別は欠かせない一方、地域ごとに微妙にルールが異なる上、同じモノでも汚れの有無によって分別方法が変わるケースがあるなど、「複雑で分かりにくい」という声も聞かれる。

「毎日捨てているものには別の面白い価値があるはず」——山本さんの事業の根底には、子ども時代の原体験で得た強い思いがある。

原点は、幼い頃の「捨てられるものを生かした遊び」

─ はじめに、山本さんが開発したアプリ『Trash Lens』とはどのようなサービスなのでしょうか?

Trash Lensは、住んでいる自治体を最初に設定しておくと、捨てたいモノをスマホで撮影するだけでAIが自動判別して、その地域の分別方法に従った捨て方を提示するサービスです。

自治体が提供している分別カレンダーやアプリの多くは、あいうえお順やカテゴリから分別方法を探すのに手間がかかり、そもそも捨てたいモノの名称や素材が分からなければ調べようもありません。その上、リユースやアップサイクルなど一歩踏み込んだ資源活用を検討するのは面倒であり、比較検討する手段も限られています。

Trash Lensはそうした生活者の困りごとを解決して、適切な分別を進めるとともに、画像から検出された特徴をもとに、リユースやアップサイクルの可能性を提示します。

今秋にリリース予定のバージョンでは、リユース・アップサイクル事業者と連携し、販売できそうなものはリサイクルショップでの相場価格を示したり、どこが高く買ってくれるかを比較できたりする機能を搭載します。ショップへの問い合わせもアプリ内のチャットで完結できる仕組みにする予定です。

─ 山本さんがアプリ開発を始めるまでのことを教えてください。今の活動につながるご自身の原点と思う出来事はありますか。

幼い頃から、「身近にあるもので工作をしよう」といった教育番組を見るのが好きで、おもちゃの梱包材や食品の容器を使って遊ぶようになりました。例えば、飼っていたハムスターの遊び場を作ったり。牛乳パックを切ったり、穴を開けたりしてジャングルジムのようなものを作った記憶があります。

お菓子の筒を灯台に見立てたり、緩衝材をビルにしたり、家の中に小さな街を作ったこともあります。そういった遊びのなかで、「捨てられるものでも別な形で生かせるんだ」という気持ちが芽生えたのだと思います。

─ そこから分別やリサイクルなどのゴミ問題を意識し始めたのはなぜでしょう。

強く意識し始めたのは、中学1年生の頃にプラスチックのリサイクル工場を見学したことがきっかけでした。

普段の生活の中で親から基本的なゴミの分別は教わっていましたが、当時はまだ、自分が分別したものが再利用されるという意識がなく、単にゴミとして埋め立てられると思っていたんですよね。でも実際にリサイクル工場の現場を見たら、集められたプラごみはさらに分別され、汚れているものは洗浄され、加工されることで、再びプラスチックを作る原材料として活用されると知りました。

ゴミ箱の先でゴミを生かそうとしている人たちがいるのに、正しく分別しなければそのチャンスが失われてしまう。そう感じて、自分の意識も変わりましたし、他人のゴミの捨て方も気になるようになりました。

例えば、学期末に不要になった書類や冊子などを「燃えるゴミ」として捨てている子たちがたくさんいたのですが、紙ごみは「古紙」に分別すれば再利用できるんです。もったいないと思い、ゴミ箱から一つずつ拾い上げて、古紙とそれ以外に分別したのを覚えています。

─ その問題意識がきっかけで、アプリを開発するように?

いえ、実は当初は少し違った切り口からでした。僕は小学生の頃からボーイスカウトに所属していたのですが、そこでは高校生の年代において社会貢献性の高い活動をしたスカウトに贈られる「富士スカウト章」という最高位の章があります。その章が欲しいという動機で高校2年生の頃にアプリの開発をはじめました。

プログラミング自体は中学生の頃から独学で勉強しており、そこに、興味のあったゴミ問題を組み合わせたかたちです。最初に作ったのは街中のゴミ箱の場所をユーザー間で共有し合う『ゴミ箱ポイポイ』というアプリでした。

コンビニ弁当の容器がきっかけで生まれたアプリ

─ 高校2年生の頃に手掛けたアプリを契機に、現在のTrash Lensが誕生したのでしょうか。

想いとしては通底していますが、Trash Lensを作ったきっかけは食べ終わったコンビニ弁当でした。高校3年生のある日、お弁当を家に忘れてしまい、代わりにコンビニ弁当を買ったんです。食べ終わった後、その容器は教室の燃えるゴミのゴミ箱に捨てました。僕が住んでいた自治体では、汚れているプラスチックは燃えるゴミに分別するルールだったからです。

昼休み明けの授業のテーマは「ゴミの分別について」。その時に先生が、僕の捨てた容器を拾い上げて、「なんで燃えるゴミに捨てているんだ」と言うんです。中学生の頃から分別への意識が高かっただけに、悪い例として取り上げられてショックでした。間違ったことはしていないはずなのに、と不思議に思って後で調べたら、高校が契約している収集業者ではプラごみは汚れていても燃えないゴミに分別すると知りました。

いくら分別に気を遣っていたとしても、自治体や施設によってルールが異なれば、知らないうちに分別方法を誤ってしまうかもしれない。だからといっていちいち調べるのも手間がかかったり難しい場合もある。そこで「捨てたいモノを撮影するだけで自動で判別してくれる仕組み」を作ろうと、アプリの開発を進め、高校3年の秋に原型となるモデルが完成しました。ただ当時は事業化するとまでは考えておらず、アプリはそのまま手元で温めておくことになりました。

Trash Lensを作ったきっかけとなった高校3年生の時の出来事について話す山本虎太郎さん

─ それを事業にされたのには、どのようなきっかけが?

大学入学後、環境スタートアップの「ピリカ」でインターンした経験からです。ピリカはゴミ拾いを楽しむためのSNSを運営している会社。教授の一人が共同研究をしていて、それを機に興味を持ちました。

当初は「なぜゴミ拾いでビジネスが成り立つんだろう」と思ったのですが、働くなかで、企業はCSR(企業の社会的責任)活動の一環で導入していたり、自治体のゴミ拾い活動とタッグを組むこともできたりすることがわかってきました。元々、事業化のアイデアを得たくて入社したわけではないものの、結果的に自分が温めていたアプリをビジネス的な視点で見直すきっかけになったんです。

─ ビジネスとしての可能性を模索するには様々な選択肢があります。「起業」を選んだのはなぜですか。

正直、今もビジネスにできるかどうか半信半疑なところはありますが、ピリカの活動を見て、事業化することで自分自身がフルコミットできますし、社会に与えるインパクトがより大きくなると考えました。

当時は大学3年生でしたが「今がラストチャンスかも」と思ったんですよね。僕の性格上、これから就職活動が始まれば迷いが生じるだろうし、就職後に挑戦するのも難しいだろうと。起業するなら、一番身軽な「今」がいいなと思ったんです。同じ大学の同級生や先輩に声をかけて、2023年7月にTrash Lens株式会社を立ち上げました。

─ 山本さん以外のメンバーもゴミ問題への課題意識を持ち、集まったのでしょうか。

実はそうでもないんです。これが本当に正しいのかはまだ分かりませんが、個人的には同じ課題意識を強く持つ人たちだけが集まってしまうと、一般的には分かりにくい“独りよがり”のプロダクトになりかねないのではないかと思っています。まだまだ手探りではありますが、色んなスタンスのメンバーがいたほうが、より多くの人に受け入れられるプロダクトが作れるのかなと。

小さな例を挙げるなら、初めはアプリのデザインを白の背景に緑の文字にして、いかにも「環境問題に取り組んでいます」感を出していたんです。でも、2022年の秋ごろに大学院の先輩がデザイナーとして入ってくれて、そこからアプリやホームページも黄色が主体のポップなデザインに一新されました。環境問題に取り組んでいることを全面に出しすぎると、逆に敷居が高いイメージを持たれてしまうから。それは自分だけでは気づかなかった視点でしたね。

自分のやりたい世界観を貫き通す大切さ

─ 山本さんは事業化にあたり、さまざまな起業家育成のプログラムに参加されたそうですね。そこで事業化する上での新たな気づきなどはありましたか。

「東京スタートアップゲートウェイ」「青山スタートアップアクセラレーション」などに参加しました。プログラムで出会ったメンターから「このままだと誰も使わない」「分別だけではビジネスにならない」と厳しい声をいただくこともありましたが、現在開発を進めているリユースやアップサイクルの可能性に気づく機会にもなりました。

あとは、自分の気持ちを大事にすることが第一なんだなと思った期間でもありましたね。メンターからは「BtoB」の事業にしたほうがよいのではという指摘もありました。例えば、オフィスや食堂のゴミ箱の近くにタブレットを置いて、捨てたいものをかざしたら捨て方が分かるというもの。海外から働きに来た人たち向けにゴミ分別の教育や研修もできるし、オフィスでの分別率向上にもつながる。実際、ヒアリングをしてみるとニーズも大きい印象を受けたんです。正直、かなり揺らぎました。

学生時代に参加したさまざまな起業家育成プログラムが、リユースやアップサイクルの可能性に気づく機会になったと話す山本虎太郎さん

─ それでも、生活者にむけたゴミ活用アプリという形を貫いたのはなぜですか。

ちょうどその頃、ピリカの社長の小嶌不二夫(こじま・ふじお)さんに相談したら「自分より偉い人にそう言われて意志を曲げるくらいなら、独立しなくてもよかったんじゃない?」と言われたんです。

確かに、メンターに勧められた事業モデルでは、適切な分別は提示できたとしても、リユースやアップサイクルにつなげるのは難しい。自分の描きたい世界観とは変わってくるし、やっぱりブレずにやりたいことを通したいと思いました。

原動力は「捨てるものは別の価値あるものになる」という思い

─ アプリを正式リリースしてみて、反響はいかがですか?

たくさんのユーザーにダウンロードしていただき、「撮って分かる」ことに価値があるのだと実感することができました。また、リユース事業者や自治体からの問い合わせも増えるなど、小さな実績が生まれたことで、ビジネスとしても少しずつですが前に進められる感触を持ち始めています。

とはいえ分別の情報が網羅されているわけではないので、サービスとしてはまだ成長段階。現在は東京23区と政令指定都市で利用可能ですが、次は中核都市まで広げ、ゆくゆくは全国500自治体をカバーすることを目指します。

また、視覚障がい者の方から「今まではテキストで検索するしかなく、それでも出てこないこともあり困っていたけれど、撮るだけで分かり、読み上げもしてくれるからありがたい」と意外な感想も届きました。アクセシビリティはあまり意識していなかったのですが、これからはそこも強化していきたいですね。

─ 最後に、今後の展望について教えてください。

近年、資源活用の取り組みはSDGsの一例として、メディアなどで取り上げられることが増えていますが、全体を見ると必ずしもすごく進んでいるわけでもなく、もしかすると悪化している可能性もあります。

去年、インドネシアに行った際に、屋台で焼き鳥を食べたんです。食べ終わった後の串をどうしようかと迷っていたら、そこにいた子どもがひょいと取り上げて、側溝にポイって捨てていて……。自分が普段見えていない世界ではこういう状況なのだなと痛感しました。今後は資源活用が進んでいない場所でも、なにか解決にむけた取り組みができたらいいなと思っています。

僕の原動力は、子どもの頃に抱いた「みんなが毎日捨てているモノは何か価値あるモノになるはずだ」という思いです。手放そうとしているモノには面白い未来があって、自分にお金が入るかもしれないし、別な人が幸せになるアイデアにつながる可能性がある。将来的には特別な意識を求めることなく、当たり前に資源活用ができる社会を実現したいですね。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

山本 虎太郎(やまもと・こたろう)
Trash Lens株式会社 代表取締役

2001年生まれ。幼い頃からゴミに関心があり、捨てずに活用できる方法を考える一方で、独学で習得したスマホアプリ開発の技術を使い、高校生の時にゴミの分類方法が分かる「Trash Lens」の前身となるアプリを開発。大学在学中の2023年7月にTrash Lens株式会社を設立。2024年3月に一般社団法人ピリカの理事に就任。

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