パラレルな生き方が人を、組織を強くする。「僕と私と」CEO今瀧健登に学ぶ、Z世代の価値観

パラレルな生き方が人を、組織を強くする。「僕と私と」CEO今瀧健登に学ぶ、Z世代の価値観
文:森田 大理 写真:小財 美香子

「ウェイウェイらんど!®」「咲茶」「おさ活」など、ヒットを連発。「Z世代の企画屋」としてマーケティングや商品開発を手掛ける今瀧健登さんの視点から、Z世代の価値観や可能性を探る

自らの意思でキャリアを切り拓き、社会で活躍する現代の若者は、どのような出来事に影響を受け、どのような価値観を持っているのだろうか。今回登場するのは、「Z世代の企画屋」として多数のメディアに登場している、僕と私と株式会社CEOの今瀧健登(いまたき・けんと)さん。1997年生まれの、26歳だ。

大学在学中に起業していた今瀧さんは、卒業後の2020年に一度コンサルティング会社へ就職するも、同年に現在経営する会社を設立。副業としてはじめた会社が今では本業となっており、既存の生き方に縛られないそのキャリアは、いかにもZ世代的と言えるだろう。

事業としてもZ世代にフォーカスしたマーケティング・商品開発を多数手がけている今瀧さんは、この世代の可能性をどう捉えているのか。現在の事業をはじめた背景や、取り組む中で見えてきたことをうかがった。

もとは公務員志望。出会いや機会に導かれて芽生えた、社長の覚悟

― 今瀧さんはいつ頃から起業や会社経営を志すようになったのですか。

実は、特段志していたという感覚はないんです。むしろ全く興味がなかったくらい。子どもの頃は公務員志望で、教師を目指して教育学部に進学したくらいです。今でも社長や経営に強いこだわりはなく、自分より適任者がいれば代表を代わっても良いと思っています。

― とはいえ、学生時代には1社目の会社を設立していますよね。よっぽどの意欲がないと起業はしないような気もするのですが…。どうしてこの選択をしたのですか。

最初の会社を設立したのは大学4年の春。実はその時点でコンサルティング会社から内定をもらっていたんですが、自分は就活するまで社会をあまり知らずに生きていた自覚があり、残り1年でもっと社会を学びたかった。どこかの会社でインターンをすることも選択肢だったのですが、自分で会社をやってみた方が勉強になるんじゃないかと思ったんです。そこで、1年限定のつもりで会社をつくり、就職後を見据えてコンサルティング業をはじめました。

― 期間限定で会社を立ち上げようと思う発想に驚きました。

自分は、何事もあるべき論にとらわれないタイプなんです。起業に関しても世の中の常識にこだわる必要はないと思ったから、期間限定でもやってみようと踏み出せた気がします。

1年限定のつもりで会社をつくり、就職後を見据えてコンサルティング業をはじめたと話す、僕と私と株式会社CEO 今瀧健登さん

― 1年のチャレンジで、今瀧さんは何を学んだのですか。

いくつかあるのですが、そのうちのひとつは「(特に若者にとって)失敗は失敗じゃないこと」。最初に考えたビジネスはあまり上手くいかなかったんですけど、実際にトライしてみたからこそなぜダメなのかが良く分かった。失敗を糧に次のチャレンジができれば、失敗は失敗ではなくなると身をもって実感しました。だからこそ、人を雇う立場になった今も大きな失敗をしている人ほど魅力を感じます。僕がやったことない失敗を経験している人がいたら、ぜひ入社してほしいくらいです。

― 1年後、今瀧さんは共同代表に経営権を譲る形で退任し、予定通り就職をしています。しかし、同年秋には現在経営する「僕と私と株式会社」を設立。すぐにまた起業という選択をしたのはなぜですか。

僕が就職したのは2020年の4月。入社早々にコロナ禍の緊急事態宣言がはじまってしまい、社会人生活のスタートが想定外に暇だったんです。対面の研修はすべてオンラインになり、外出する機会もなく、自分の時間を持て余していました。そんなとき、学生時代の事業でつながっていた方々からYouTube動画のプロデュースやブランド運営、インフルエンサーキャスティングといった相談をもらうように。時間はあるからと副業的にはじめたことが2回目の起業につながっています。もしコロナ禍がなかったら、僕は今でも会社員をしていたかもしれないですね。

― このタイミングでも、起業を前提にキャリアを決断しているわけではないんですね。では、会社員を1年2か月でやめ、早々に「僕と私と」を本業にしたのはどうしてですか。

これも自分の意思というより、周囲の影響が大きいですね。事業が順調で仲間も増えていったのですが、僕と同じように副業として参加していた人たちから、「こっちを本業にしたい」という声が出始めたんです。それくらい真剣に向き合いたいと考えてくれているのに、代表の僕がいつまでも副業というのは、みんなへの責任が果たせないなと思った。社長としてこの事業にフルコミットする覚悟で会社員をやめました。

若者マーケティングではなく、同世代マーケティングにこだわりたい

― 「僕と私と」は、Z世代にフォーカスしたマーケティングや商品開発を手掛けています。今瀧さんも「Z世代の企画屋」を名乗っていますが、なぜZ世代をテーマにするようになったのでしょうか。

一番の理由は、自分たちの強みを活かして勝負できるフィールドだからです。僕たち自身がZ世代の当事者なので、上の世代の企画屋よりもユーザーインサイトを圧倒的に理解している。いちから調査しなくてもある程度はユーザーの気持ちや動向を想像できるため、その分のコスト・時間を圧縮できるというアドバンテージがあります。また、「僕と私と」を始めた当時はまだZ世代を対象としたプレイヤーが少なかったので、自分たちの強みを活かして早めに展開すれば、このマーケットをリードするポジションが確立できると考えました。

― その戦略に手応えを感じたのはいつ頃ですか。

「僕と私と」として最初に企画したのが、お酒のブランド「クライナーファイグリング」の販促施策「ウェイウェイらんど!®」でした。お酒×すごろくを掛け合わせたパーティーゲームとして、ゲームデザインやプロモーションを担当。これが、コロナ禍で外飲みができなかったZ世代の間で大きな話題になったんです。その次に企画した、食べられるお茶「咲茶」も発売1週間で約800万円の売上を記録。こうした実績から、事業の方向性が定まっていきました。

僕と私とが企画を手掛けた「ウェイウェイらんど!」はコロナ禍で外飲みができなかったZ世代の間で大きな話題になった
僕と私とが企画を手掛けた「ウェイウェイらんど!®」(画像提供:僕と私と)

― 少子高齢化が進む日本では、シニアマーケットに舵を切る事業も少なくありません。今瀧さんは市場としてのZ世代をどう見ていますか。

右肩上がりの市場である点が非常に魅力的だと思っています。たしかに日本社会では少子高齢化が進んでおり、全体としては購買力も落ち込んでいますが、Z世代だけに注目してみると、今はまさに社会に出て所得が増えていく時期。Z世代市場は拡大を続けています。

10年先、20年先もZ世代のライフステージに応じて様々な需要が発生していくはず。彼らの購買意欲を喚起するようなマーケティング・商品開発のニーズはあり続けるはずだからこそ、僕たちは「Z世代の企画屋」にこだわっています。

― 今瀧さんにとってのZ世代マーケティングは、いわゆる「若者マーケティング」という位置づけではないんですね。

自分がこだわりたいのは、Z世代というより「同世代」にフォーカスすること。想定ターゲットが身近なので、「友達を喜ばせる感覚」で仕事できるのが純粋に楽しいんです。また、自分の年齢が上がっても、その分だけユーザーも年を重ねていくので、将来にわたってユーザーが身近であり続ける。おそらく、これから数年で結婚や子育てにフォーカスした企画が増えていくだろうと予想していますし、遠い将来には自分たちの世代向けに老人ホームの企画をやりたいです。

僕と私とが企画を手掛けた、食べられるお茶「咲茶」
僕と私とが企画を手掛けた「咲茶」(画像提供:僕と私と)

SNSネイティブなZ世代が、エモ消費や多様な生き方をリードする

― マーケティング対象として、Z世代の特徴を今瀧さんはどう捉えていますか。

消費動向として特徴的なのは、「エモ消費」です。上の世代では、「モノ消費」から「コト消費」への移行や、その瞬間を共有することに価値を見出す「トキ消費」、社会貢献的要素に価値を感じる「イミ消費」といった動向が語られてきました。

この流れを受けて、Z世代が重視するエモ消費とは、モノも情報も溢れていて何でも手に入る時代だからこその価値観です。商品の良し悪しを合理的に比較検討している一方で、「モノが良いから」だけでは消費につながりにくい。

その商品・サービスのある情景をリアルにイメージさせるようなコミュニケーションで、思わず感情が動かされるような共感の接点を提供すること。友人やSNSのフォロワーにシェアしたいと思えるような共感が、消費行動につながりやすい世代だと感じています。

― たくさんの情報に溢れ、自分でも気軽に発信できる環境で生まれ育ったからこそだと言えますね。やはりZ世代の価値観は、SNSによる影響を大きく受けているのでしょうか。

僕はそう感じます。例えば、仕事とプライベートをきっちりと分けたい人や、いろんな活動を並行して行っている人が多いこと。SNSで複数のアカウントを使い分けるように、日常生活でも複数の顔を持つことにポジティブです。

それぞれに優劣はなくて、どれも本当の自分という感覚の人が多いと思いますね。僕自身も仕事とプライベートはしっかり分けたいタイプ。仕事中はどんなに仲が良いメンバーでも相手を苗字で呼び、敬語で話すようにしているくらいです。

「Z世代の企画屋」にこだわっていると話す今瀧健登さん

― Z世代の仕事に対する考え方やスタンスには、どんな特徴を感じますか。

ワークライフバランスを大切にし、多様な選択肢の中から自分らしいキャリアを歩みたい気持ちは強いと思います。ただ、それはZ世代だけに特有の価値観というよりも、本来は世代を問わず人は誰しもそう生きたいのではないでしょうか。

これまでは多様な生き方が情報としてなかなか入ってこなかったけれど、現代はSNSを通していろんな人生が可視化されているし、Z世代は僕のように社会人1年目からリモートワークを経験している人も多いです。そうした外部要因に刺激されて、他の世代よりも目立って見えるだけなのかもしれません。

会社として追いかける唯一の指標は、“従業員満足度”

― Z世代を雇用する立場として、意識していることはありますか。

組織を運営するうえで学んだことがいくつかあります。ひとつは、「ただ怒るだけなら何の意味もない」こと。怒る側にも怒られる側にもプラスにならず、時間や感情をただ消費するだけでもったいないからです。

その上で、「叱るときは結論ファーストNG」。会社の行動指針としては「結論ファースト」を掲げているのですが、叱るときは結論から入らない方がうまくいくと気づきました。いきなりダメなところを指摘しても、言われた側が萎縮してしまって良い対話になりづらいからです。

そして、「組織は弱みを補うためにある」。人間は集団で行動し、みんなで支え合うことで生き延びてきた動物です。上手くサポートするには、それぞれの弱みを把握しておく必要があり、組織には弱みをさらけ出せるような心理的安全性が必要。また、人は誰しも弱点があることを前提に、自分の強みで組織に貢献していけば良い。だからこそ、日本で従来用いられてきたメンバーシップ型の雇用ではなく、職務内容を明確に定義したジョブ型雇用を行っています。

― 「僕と私と」では、ジョブ型雇用のほか、固定のオフィスを持たずに全員がフルリモート・フルフレックスで働いていることも特徴ですよね。なぜこのような働き方なのでしょうか。

みんなにとって一番効率が良く、ストレスが少ない方法を模索した結果、今の働き方を採用しました。実は、「僕と私と」では売上や利益を経営の重要指標として掲げておらず、唯一追いかけている指標は“従業員満足度”。自分としては、究極に従業員満足に振り切った経営をして会社が成長できるのかを実験している意味合いもありますね。

おかげさまで2020年の設立以来、毎年増収増益を実現。場所も時間も縛られず、自分の得意なことに集中できる環境だからこそ、地方や海外から優秀なメンバーが参加しているケースも多く、従業員満足度を追求することで組織力が上がり、結果的に売上や利益がついてくるという流れが出来ています。

従業員満足度を追求することで組織力が上がり、結果的に売上や利益がついてくるという流れが出来ていると話す、僕と私と株式会社の今瀧健登さん

― 一緒に働く仲間はどのようなメンバーが多いのでしょうか。

自由な働き方を推奨しているため、副業をしているメンバーも多いです。かつ、現在50名ほどのメンバーのうち、約20名は自分で法人を持っている。言うなれば、「社長たちの副業先」として「僕と私と」がある状態です。

会社経営の経験者が集っているだけあって、主体的に考えて動けるメンバーが多く、「こんな事業をやってみたい」と新規事業のアイデアを持ち込んでくれるケースもあります。「僕と私と」の新規事業は基本的にはメンバー起点のアイデアで生まれていますね。

― 今瀧さんは、Z世代が中心の「僕と私と」を今後どんな会社にしていきたいのですか。

理想とするのは、いろんな事業やそれにまつわるスペシャリストが集う「ギルド」のような組織。各々が自律しながらも、必要あればそれぞれの強みを掛け合わせて大きな力を発揮したり、新しいものを生みだしたりするような組織でありたい。自分自身も今は「僕と私と」の経営だけでなく、他社のCMOとしても活動しています。これからも複数の顔を持ちながら多様な経験を積むことで、自分のキャリアを磨いていきたいです。

― 今瀧さんのような「パラレルな生き方・キャリア」をZ世代は求めているのでしょうか。

当社のメンバーの95%はマルチに活動していますし、一般にもやりたい人は多いと思います。それは、先行きが不透明な時代に生まれ育った影響もあるのではないでしょうか。会社という“箱”に入れば安泰という時代ではないからこそ、自分自身で力をつけて自分の“ブランド”を確立したいという気持ちが強いのがZ世代の特徴。ひとつの組織に縛られず、多様なチャレンジをしたい人は多いと感じます。

雇用する立場からしても、さまざまな価値観に触れ、多様な経験を積んでいる人は、環境変化に強くアイデアフルという意味で、魅力的な人材。副業などのマルチワークを推進していくことは、優秀なZ世代に仲間になってもらうためにも、欠かせないものだと思います。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

今瀧 健登(いまたき・けんと)
僕と私と株式会社 代表取締役 / 一般社団法人Z世代代表 / Z世代の企画屋

SNSネイティブ世代(Z世代)への企画・デジタルマーケティングを専門とするZ世代の企画屋。ハッピーな共感をフックに購買行動に繋げる「エモマーケティング」を提唱し、さまざまな企業・行政とタッグを組んでワンストップ・プロモーションを展開する。プロデュースしたアカウントやサービスは多くのZ世代の支持を集めている。「NewsPicks」や「日経クロストレンド」など、個人としても多数のメディアに出演。著書に『エモ消費』『Z世代マーケティング見るだけノート』など

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