【だから、私はきょうも働く】 ~世の中をより良くする。その一点に、 人生をかけて挑戦しています~
今年4月にスタートした高齢者向けのカーシェアリングサービス『あいあい自動車』。地域住民が共同で車を購入し、運転手は無料で利用できる代わりに高齢者を送迎する役目を担います。予約はタブレットを使い、日時と場所を予約すると、登録運転手の中から都合の合う運転手が、利用者を当日自宅まで迎えに行くシステムです。今回は社会保障に新たな可能性を示した、この支え合いのプラットフォームの開発責任者で、自身のことを≪政策屋≫だと語る金澤一行に仕事に対する想いを聞いた。
持続可能なモデルで、明るい未来をつくる
「以前、私はシンクタンクで働いていました。当時は省庁の方と一緒に社会保障政策などについて検討していたのですが、ほとんどの制度の根源にあったのが、≪財政がもたない≫という難問でした。政策の勉強会やNPO立上げなど色々とチャレンジし、財政が安定しやすく継続可能なものが何かを私なりに考えた結果、最終的にたどり着いたのが≪ビジネスとして利益を生みだす≫というモデルです。民間企業から社会保障を提供することができれば、≪税金をかけない仕組み≫をつくれるのではないかと考え、まずは商売を学ぶために、思い切ってリクルートへの転職を決意しました。ここを選んだのは世の中の課題に挑戦し続けてきたこの会社なら、たとえ社会保障であってもチャレンジさせてくれるはず、という期待があったのも大きな理由のひとつです」
新しい≪支え合い≫が、新しい≪社会≫を生みだしています
「都会で生まれ育った方は想像しづらいかもしれませんが、地域にとって"移動"は生きるか死ぬかに関わる可能性のある問題です。運転ができない高齢者の方は食材を買うこともままなりませんし、たとえ通院で済むようなケガでも病院まで通うことが難しく、入院する必要がでてくる事もあります。
こうした課題に取り組むために生まれたのが、車を共同所有することで高齢者や運転手、自治体、タクシー会社、それぞれにメリットをもたらす『あいあい自動車』です。継続的にサービスを提供していくために私たちも運営費をいただきますが、その分を超えた利益は、地域で使い方を決めていただき、運転手さんへの謝礼として使っていただいても、お祭りや公民館の補修など地域のための予算にあててもらっても構いません。
私も地方の不便な場所出身で、小学生の頃、毎週楽しみにしていた少年ジャンプを買いに行くのがとても大変で、田舎の交通の不便さは身にしみて知っていましたし、住んでいる時は、田舎の不便さが嫌で都市部に出たいと思っていました。しかし、離れてみると、田舎の良さにも気づき、今は地方によい社会を残すために、不便なところを解消させたいと強く思っています。
現在、実証実験中の三重県菰野町は、バスが1日3本しか運行していない地域でした。『あいあい自動車』を導入したことで、高齢者の方はお買い物や通院など生活に関わることの他にも、お茶を楽しむなど、今まで我慢していた≪やりたいけどやれなかったこと≫に無理なく手が届くようになっています。≪今日は子どもが帰省してくるからスーパーで好物を買いたい≫≪10年ぶりに同窓会があるから美容院に行こうと思うの≫そんな笑顔に出会うたびに顔が綻びますし、ハードな仕事に挑戦するうえでの大きな励みになっています」
地域振興の主役は、その町で暮らす人たちだと思うんです
「数々の自治体からお問合せをいただいている『あいあい自動車』ですが、このサービスの一番の功労者は当社ではなく、地域住民の方々だと思っています。こちらからお願いやご提案をしたわけではないのですが、運転手の方々は自主的に月1回の定例会を開いてくれていますし、なかには≪これはリクルートの事業じゃない。私たちの事業だ≫≪このサービスに命かけてるから≫と仰ってくださる方もいるんです。『あいあい自動車』というプラットフォームが生まれたことで、もともと皆さんのなかにあった≪支え合いの精神≫に火がついたのかもしれません。社会保障で大切なことは、地域による地域の振興だと思います。日本が財政難の今、町のなかで≪税金をかけない仕組み≫がまわり、自分たちの手で元気になっていくことには大きな意味があります。これからも住民の方と手を取り合いながらあいあい自動車を進化させていきたいですし、≪家事≫≪調理≫≪掃除≫≪洗濯≫と支え合いの領域を広げることにも挑戦したいと思っています。そして、ゆくゆくは約1700の自治体に導入していきたいと考えています。
私のライフワークは、高齢者も、障害者も、未来の世代も皆が自分らしく行きていける社会保障の仕組みを作ることです。これからも≪政策屋≫として、全力を尽くしていきたいと思っています」
働く私の愛用品
『あいあい自動車』を利用するためのタブレット端末です。100名の高齢者の方にヒアリングしながらアプリケーションを開発しました。現在も地域住民の方と議論を重ねながら、使い方や運用方法をブラッシュアップしています。