元フェンシング日本代表選手が描くセカンドキャリア。リクルートで学んだリーダーシップとは
フェンシング日本代表選手として活躍後、東京オリンピックの開催タイミングまでU23日本代表コーチを務めた経歴を持つ、リクルート従業員の成田遼介。アスリート時代に培った経験を、不動産情報サイト『SUUMO(スーモ)』の営業にも活かし、すぐに営業成績で結果を出しました。しかし、その後チームリーダーになると、メンバーの気持ちが理解できず、うまくいかなかったことも…。そこで得た気づき、そしてアスリートのセカンドキャリアについて聞きました。
アスリート時代の感覚が通用しなかった、リーダーとしての壁
─ 成田さんは、元アスリートとうかがいました。
成田遼介(以下、成田):2017年までフェンシング日本代表選手として競技に打ち込み、ケガで引退してからはコーチに。東京2020オリンピック競技大会をひと区切りにスポーツからビジネスの世界へ転身すると決め、リクルートに入社しました。
営業は初めてでしたが、結果に対して真剣に取り組むという点では、アスリート時代の経験と共通する部分があります。そのおかげもあってか、営業成績で表彰いただくこともできました。
─ 今までとは全く違う仕事内容にもかかわらず、すぐに結果を出せたというのは、すごいですね。
成田:コーチ時代の経験も活きたように思います。スポーツコーチの仕事と聞いてイメージするのは、おそらく「技術指導」だと思います。実はそれ以外にも、PCで企画書をつくってプレゼンをする、報告書を作成するなど、今の仕事に通じる部分も多かったんです。
安定して好業績を出していたことも評価され、入社1年強でチームリーダーへ任用されました。フェンシングのコーチとして選手・スタッフあわせて約40名に向き合ってきた経験もあるので、リーダーの仕事には割と自信がありました。
─ そうすると、リーダーとしても順調に?
成田:いいえ。初めてリーダーを務めた2023年の上半期は、今ひとつ手ごたえを感じられませんでした。業績は順調だったし、明らかな課題があるようには見えなかったけれど、気になったのはメンバーの動き。メンバーに営業手法を伝えてみたのですが、その通りに実践はしてくれませんでした。
私はアスリート時代から「まず、やってみる」という考えだったので、「なぜ、やらないんだろう?」と疑問に感じてしまう視座の低い自分も…。何より、「それって成田さんだからできることですよね?」と言われることにモヤモヤしていました。
─ メンバーからの言葉にモヤモヤしたとのことでしたが、どのように改善していったのでしょうか?
成田:転機になったのは、そんな気持ちを上司であるマネジャーに話してみたこと。私の悩みに共感を示しながらも、こうアドバイスしてくれました。
「成田には成田の人生があるように、メンバーにはメンバーの人生があって、大切にしていることも、強みも違う。メンバーの背景や抱えている想いにもう少し注目してみたら?」
─ なるほど。そのアドバイスを、どう受け止めましたか?
成田:言われた当初は半信半疑でした。でも、試しにメンバーに話を聞いてみると、気づいたことがあります。それは、ビジネスの世界では、人によって大事にしているものの優先順位が違うこと。
私が生きてきたアスリートの世界では、勝負に勝つこと、メダルを獲ることが全てだったので、営業のメンバーも「高い業績を出すことが一番嬉しい」のだろうと思っていました。
でも、メンバーの動機の源泉を探ってみると、自分の業績以上に、「クライアントの役に立ちたい」「社内の人たちをサポートしたい」「クライアントの先にいるカスタマーに喜ばれたい」…と、一番大切にしたいことは人それぞれだった。だからこそ、私のやり方が受け入れられていなかったんです。
一人ひとりと丁寧に対話していくうちに、チームの雰囲気も変化。以前はメンバーからの連絡は相談や質問が中心でしたが、徐々に「私はこう思う」「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」と各自が意見を持ち込んで議論することが増えていきました。また、リーダーの私に対してさらなる期待や要望を伝えてくれる場面も多くなり、みんなで高め合えるチームへと進化していることを感じられたのも嬉しい出来事でした。これが、私のリーダー1年目の失敗と学びです。
「営業1年目」ではなく「成田遼介27年目」として向き合う
─ アスリートからいきなり営業という時点で、難しさを感じる人も多いと思いますが、いかがですか?
成田:自分のことを「営業1年目」と思うと、そこまでの戦い方になってしまうじゃないですか。入社当時は27歳だったので、「成田遼介27年目」と考え、これまでの人生経験も踏まえて、クライアントに向き合いました。
─ 素敵な考え方ですが、メンバーの皆さんは、アスリートとしての輝かしい経験がある成田さんと、同じようには考えられないのでは?
成田:アスリートじゃなくても、誰もが、それぞれ歩んできた人生がある。だからメンバーも、新卒1年目、2年目とかは関係ないと思います。これまでの人生全てで、どうすればクライアントのお役に立てるかを一緒に考える。
それには、メンバーのことを知る必要があり、とにかく時間をかけて、どんな道のりを辿ってきたのかを一人ひとりに聞きます。人とは違う、その人なりの魅力が絶対にあるので。
セカンドキャリアに大切なものは「内省」と「ゼロからの覚悟」
─ 今後、ご自身のキャリアをどのように考えていますか?
成田:私がこれからのキャリアで実現したいことは、「アスリートのセカンドキャリアの成功モデルになる」こと。アスリートのなかには、引退後の人生を不安に感じている人も少なくありません。でも、アスリートとして培ってきたスキルやマインドが、ビジネスにも応用できる可能性は十分にあると考えます。
自分の場合は、個人で結果を出すプレイヤーからチームを率いる立場に変わったタイミングでつまずきやすいことを実感。身をもってその経験をした自分だからこそ、伝えられることがあると思うんです。
─ セカンドキャリアに挑戦する際、成田さんが大事にしたほうがいいと思うことを教えてください。
成田:1つ目は、今までやってきたことを「職業」と捉えて、内省すること。これは、アスリートに限らず、どの分野であっても大事だと思います。仕事というのは、成果に対して報酬が発生するもの。では、自分にはどんなスキルがあって、スキルを活かすと何が生まれて、それってどのくらいの市場価値があるものなのかを考えることが大切です。
2つ目は、セカンドキャリアなので、もう一度ゼロからやる覚悟を持つこと。例えば、スポーツにおいて日本代表選手ともなれば、一定の報酬も入ってきて、ある程度の地位を手に入れることもできると思います。でも、それをずっと続けていくのは難しい、という前提に立つべき。
オリンピックの金メダリストも、最初はゼロから。また、同じように積み上げていこうと、ポジティブに捉えていました。自分がやると決めた道を、やりきれるかどうか。決めた道を、正解にできるかどうか。そのために努力できることって、無限にあると思うんです。
三日坊主でも、ゼロよりはいい。自分の経験値を増やす
─ 成田さんは、現在もアスリートの世界と関わりがあるのですか?
成田:リクルートは申請をして許可が出れば副業が可能なので、アスリートのエージェント活動やフェンシングのコーチ、またスポーツ選手のキャリアコーチングも行っています。
─ そこまで、たくさんのことをやっているとは!
成田:私は、やりたいことがありすぎて(笑)。実は、フェンシングを始めたのは高校2年生の時。それまではバスケ、水泳、ハンドボールなど、様々なスポーツを経験して、その全てが役に立った。今もそんな感じです。アスリート時代に学んだことを、リクルートの仕事で活かせるし、その逆もある。
最近、「どういうキャリアを描きたいか」を言語化することが、世の中のトレンドになっています。もちろんそれも大事だけれど、私は「まず、やってみる」。たとえ三日坊主でも、三日やれたという経験がつくのだから、ゼロよりはいい。
いろんなことを、ちょっとずつでもやってみて、自分の経験値を増やす。そうやって積み上げた経験が、誰かの役に立つことにつながったらいいなと思います。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 成田遼介(なりた・りょうすけ)
- 株式会社リクルートDivision統括本部 住まい領域統括 賃貸Division人・組織支援 採用プロジェクト チームリーダー
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元フェンシング日本代表選手。東京オリンピックの開催タイミングまでU23日本代表コーチを務め、2021年にリクルート入社。以来、賃貸領域の営業。2023年4月より千葉・埼玉・神奈川エリアのチームリーダー(現在も兼務)。2024年10月より採用プロジェクトのチームリーダーを務める
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