博士学生に企業就職の機会を。1本の電話から始まったバイアス解消への挑戦
リクルートで企業の採用代行を担う藤木将平。彼が取り組んでいるのは、「博士学生の産業界への進出支援」。この案件は、ある1本のお電話から始まりました。
きっかけは1本の電話。博士学生が活躍できる機会を創る
前職は土地を仕入れる不動産企業の営業でした。社会人として学んだことも多くありましたが、次第にカスタマーと企業の間の情報機会格差をなくしたいと思うように。そんな折、個人ユーザーと企業クライアントの間に立って情報を届けるリクルートのビジネスモデルに共感し、転職を決意しました。
リクルート入社後は、営業としてメーカーの採用代行を担当。初めて携わる業界だったので、知識や大手企業向けの営業スキルを身につける必要があると痛感しました。「自分はコツをつかむまでにほかの人よりも時間がかかる」と自覚し、時間と質の両方を意識したインプットを続け、ようやく自信が持てたのは3年後。意外な言葉に出合います。自動車メーカーの採用代行の担当として応募者の学生さんに電話をかけると、相手の学生の方はこう言ったのです。
「応募してみましたけど、民間企業は自分のような博士課程の学生を採用しないと思います。学問を究めれば究めるほどキャリアが狭まるんですよ」
恥ずかしながら、私は身近に博士課程を修了した方がいなかったため、世の中の博士が置かれている状況を当時は理解していませんでした。でも、「優れた専門性を持っている人が就職面で報われないなんて何かがおかしい。そもそも、企業が採用しないのはなぜなんだろう? クライアントにとってもメリットがありそうなのに…」と違和感を覚えました。
先入観を払しょくしたい。必要だったのは粘り強さ
まずは担当クライアント1社の、100以上ある部門で働く方々にそれぞれヒアリングしてみました。すると「うーん、博士か…自分の研究に没頭している分、コミュニケーション能力が低いんじゃないかな」「年齢の高い方が多くて教わることに抵抗ある方が多いのでは?」という声が。イメージだけが先行している状況だと分かったんです。先入観により採用に二の足を踏んでしまうため、社内で活躍する博士号取得者を見ることが少なく、イメージを変える機会がない。そんな負のループがあると感じました。
一方で、博士号取得者と共に民間企業で働いている方に話を聞いてみると、コミュニケーション能力については学会や勉強会で協力・連携しながら研究を進めていたため鍛えられている。また育成観点では、自律的な研究推進を経験しているためむしろ自走度が高い、ということが分かってきました。書類ではなく、対面でお互いを知る機会さえあればイメージも変わるはず。そう考えた私は、研究部門の従業員の皆さんと、博士課程の学生の皆さんとの交流会を提案しました。
今までにない施策のため、お客様も慎重に検討を進めてくださいました。リーダー・課長・本部長…と複数いる関係者の皆さんに合意していただきながら少しずつ前進。しかし、合意に至るまでの数ヶ月、自分は焦りから先が見えないような気持ちにもなっていました。
でも、今ここで自分が引き下がると、博士課程の学生さんにとっての機会がまたひとつ減ってしまう。「自分は何のために転職したのか」といつか後悔するかもしれない。片足を突っ込んだ以上は徹底的にやるんだ、と自分を鼓舞し、何度もアプローチを続けて交流会を実現しました。
交流会後、その部門では博士課程の学生が採用されることに。ひとつの部門で生まれた成功事例が波及して、今では博士採用が全社の採用戦略のひとつになっています。
産官学、三方よしを目指して
この1社での成功事例を糧に、私は博士課程学生の採用を他社にも広げようと試みています。既にメーカー2社が積極的に博士採用を検討しており、うち1社は人事制度の改革にも挑戦していらっしゃいます。さらに「博士のキャリア多様化」をテーマに有識者の方と定期的なディスカッションを行うなど、壁を越えた連携を試みているところです。
これは学生の皆さんのためだけではありません。企業の研究部門は採用した博士を通じて大学の研究内容を知ることができ、新たな共同研究先を見つけられる可能性がある。大学の研究室は企業から共同研究費を獲得でき、研究をさらに進められるかもしれない。その結果、日本の技術競争力も向上していけば、産官学三方よしのチャレンジになると思っています。
1本の電話から始まった取り組みが、企業、業界、国へと波及していく。この規模の変化に面白さとやりがいを感じますし、私が共感したリクルートのマッチングをさらに生み出すため、これからも粘り強く前進していきたいです。
※リクルートグループ報『かもめ』2024年9月号からの転載記事です
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 藤木将平(ふじき・しょうへい)
- 株式会社リクルート HRエージェントDiv. ソリューション統括部 HRソリューション部 タレントアクイジション4グループ
-
不動産会社を経て、2018年10月リクルートキャリア(現リクルート)に入社。HRソリューション部で大手製造業の採用代行(RPO)を担当し、24年10月よりグループマネジャーを務める。クライアントだけでなく産業界の人的課題を解決するため、産官学の連携に挑戦中
関連リンク
- 新規事業・ナレッジマネジメント | 株式会社リクルート (recruit.co.jp)
- 配属関係なくスキルアップ! リクルートのナレッジ共有イベント『FORUM』 | 株式会社リクルート (recruit.co.jp)
- 人材大流動化時代に社内外から“選ばれる企業”のあり方とは? 各社人事と最新施策を語る | 株式会社リクルート (recruit.co.jp)
- 配属関係なくスキルアップ! リクルートのナレッジ共有イベント『FORUM』 | 株式会社リクルート (recruit.co.jp)
- アイデアの起点は「面倒くさい」。Ring Dash初代グランプリを獲得したエンジニア1年目の違和感とは? | 株式会社リクルート (recruit.co.jp)