シフト管理のデジタル化に立ち向かう。『Airシフト』が貫く現場主義とは?
デジタル化でやりとりも作成もラクになるシフト管理サービス『Airシフト』※1。サービス担当者であり、10年前からシフト管理の課題と向き合ってきたリクルート従業員・沓水佑樹に、これまでの歩みと今後の展望について聞いた。
見過ごされていた、スタッフのシフト管理の課題
―まず、『Airシフト』立ち上げの背景を教えていただけますか?
沓水:皆さんもご存知の通り、日本は深刻な人手不足。特に企業分布のなかで9割以上を占める中小事業者、また、そのなかの多くを占めるサービス業にとっては喫緊の課題です。店舗運営業務のなかで多くの時間を割いていたシフト管理をデジタル化することで、人手不足という社会課題の解決に少しは貢献できるのではないか。その重要性を強く感じ、2018年にリリースしたのが『Airシフト』でした。
シフト管理に着目したのは、約10年前。リクルートに再入社し、アルバイト・パート領域における新規事業開発の担当者として、新規サービスの可能性を探っていた時からです。飲食店や小売店などを訪問し、店長やマネジャーに、日々どのように店舗運営をしているのか、どう採用管理しているのかなどを細かくヒアリング。大手飲食チェーンの全業態の店長会議にも毎月出席し、延べ300名以上の声を聞きました。
収集した膨大な声から見えてきたのは、さまざまな店舗運営業務のなかで、スタッフのシフト作成にかなりの労力が費やされているということ。毎月、店長がスタッフに希望シフトを提出するようお願いする→希望シフトを回収する→希望シフトを出していないスタッフに声をかける。シフトを作成する前段階で相当な時間がかかる上、シフトを組む際も各スタッフのシフト希望日や労働条件などを考慮しなければいけません。
苦労してシフトを組んだ後も、スタッフの急な予定変更による再調整が度々発生。店長は、他のメンバーに事情を説明し、シフトに入ってもらえないかと交渉する丁寧な文面を作成し、チャットで送っていました。このような作業的にも心理的にも負荷の高いスタッフとの調整交渉にまつわるさまざまなコミュニケーションは、シフト管理業務の8割を占めていたのです。
また、慢性的な人手不足の影響でアルバイト・パートスタッフの採用も難しいなか、長く働いてもらうには、スタッフの希望シフトをいかに叶えるかも重要に。多様な働き方に対応しながら労働力を確保しなければならず、シフト作成の難易度はさらに高まっていました。しかし、これが常態化していた店舗運営の現場では、「シフト作成は、大変なのが当たり前」であり、ここまで時間がかかっていると認識されていなかったのです。
そこで、やりとりも作成もラクになるシフト管理サービスとして、2018年に『Airシフト』をリリースしました。
良いシフトは千差万別。最適解を論理で決めきらない
―『Airシフト』をつくるなかでの苦労や難しさはありましたか?
沓水:シフト管理には絶対的な正解がなく、「最適解」を探り続けるところが、サービスづくりの難しさであり、肝だと思っています。シフト管理は千差万別。たとえ、同じ系列の飲食チェーン店であっても、店長とスタッフの関係性、スタッフの習熟度、お店の立地や忙しさによって、シフトの考え方や作成方法が全く異なります。そのお店の店長が「いいね!」と思ったシフトが良いシフトであり、それぞれのお店にそれぞれの「最適解」があるのです。
この「最適解」を探るなかで、『Airシフト』として大事にしているのが、最適解を論理で決めきらないということ。それぞれのお店が、「かゆい所に手が届く」きめ細かなシフトを組めるようにしています。
「これが、良いシフトです」というのを、敢えて曖昧にしたシステムにしているのが特徴です。『Airシフト』は、シフト作成を自動化するアルゴリズムをある程度組み込んでいますが、その後に機械学習できる仕組みに。店長によって手動で変更された箇所や考え方の癖などを学び、次のシフト作成に自動反映しています。
論理的な正しさだけでは、商売になじまない
―使いやすさにこだわる並々ならぬ姿勢を感じます。
沓水:『Airシフト』をはじめとする業務・経営支援サービスは、毎日使われるサービス故に、日々の小さなストレスの積み重ねが、サービスに対する嫌気につながりやすいからです。もし、自分がユーザーだったら、「もっと、こうだったらいいのに…」という状況が毎日何回も発生したら、そのサービスを嫌いになりますよね? だから、ただ動くだけではなく、日々忙しいユーザーの皆さんが、迷ったり考えたりする負荷をも極力減らしたい。そして、おこがましく聞こえるかもしれませんが、「使いやすい」の先にある、「使っていて楽しい!」と思えるサービスにしていきたいんです。
『Airシフト』では、サービスをリリースして以降、毎週、「クライアントに思いを馳せる会(通称:おもはせ会)」という定例会議を開催しています。ユーザーである事業者の方々の“脳みそ”になりきったり、行動を再現したりする場です。
仕事をしている時、どうしても賢い自分を見せようとして、「賢い自分人格」が出てきませんか? 論理だけでサービスをつくろう、物事を決めようとして、人とのつながりで成り立っている“商売のリアル”や、いち生活者視点を忘れてしまいがち。そういう状況になると、必要な機能を満たすことができても、使いやすいサービスにはなりません。
そこで「おもはせ会」では、各メンバーが会ってきたユーザーについて共有してもらっています。例えば、皆で、ある飲食店の内観・外観、店長の写真などを見ながら、店長の夢や店舗運営の苦労話などを聞き、この店長の発言や行動の裏側にあるインサイトを深掘りしていきます。日頃から、架空のユーザーではない、リアルに存在する店長と商売の現場に思いを馳せていると、障がい対応の仕方ひとつとっても全く変わってくると思うのです。
シフトの組み方次第で、多様な働き方が実現可能に
―『Airシフト』の今後の展望について聞かせてください。
沓水:日本の人手不足という社会課題を、『Airシフト』が一気に解決できるわけではありません。でも、シフト管理をデジタル化し、機械学習や人の力をうまく取り入れながら柔軟にシフトを組める『Airシフト』なら、人手不足の現状を少しでもマシにすることができるはず。今後は、これまで提供してきたシフト管理が楽になるという価値に加えて、スタッフの採用もできてシフトがちゃんと埋まる、という人手不足に直接寄与するところまで提供価値の範囲を拡大していきたいと思っています。
2022年11月に、アルバイト・パートスタッフのシフト充足率・希望シフト却下率調査データを初公開※2しました。『Airシフト』のシフト状況から勤務実態(2020年7-9月~2022年7-9月)を読み解いたものです。今回集計・分析した全5業種で店舗・企業様が必要とするシフト人数に対して、シフトに入ったスタッフ数が不足。その一方で、スタッフの希望シフトが一定割合で却下されていることが改めて明らかになりました。
人手不足のなかで、働きたいという潜在労働力を活かせていないことは大きな課題です。短時間や臨時で働く人は貴重な存在であり、働きたい時間に働けるようにするためにも、シフトの細分化やミスマッチ解消が、より一層求められています。多様な働き方を実現できるかどうかは、シフトをどう組めるかにかかっているのではないか。そう感じる場面も多く、シフト管理の重要性を感じています。
シフト管理の課題と向き合い続けて10年超、『Airシフト』をリリースして約5年。登山に例えると、試行錯誤を繰り返しながら、ようやく登るべき山を見つけ、登山口に着いたところ。これからも、『Airシフト』を利用してくださっている事業者の方々に思いを馳せ、「商売は人と人とのつながりでできている」という原点を忘れずに、サービスを磨き続けていきます。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 沓水 佑樹(くつみず・ゆうき)
- リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 HRSaaS領域プロダクトマネジメント室 Laborプロダクトマネジメントユニット ユニット長
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大学卒業後、広告代理店に入社。CMプランナーを経て、2006年リクルートに入社。翌年、ベンチャー企業に転職し、クリエイティブディレクター、経営企画を担当。2011年リクルートに再入社。アルバイト・パート領域の新規事業開発を担当。2018年に『Airシフト』を立ち上げ、サービス責任者となり、現在に至る。成蹊大学との「スタッフスケジューリング」に関する共同研究を通じて、公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会におけるシフト関連の論文※3にも複数参加している