ビジネスパーソンの転職後の賃金アップとリスキリング戦略とは? 海外比較で考える日本の労働市場の今、未来。

ビジネスパーソンの転職後の賃金アップとリスキリング戦略とは? 海外比較で考える日本の労働市場の今、未来。

リクルートは「“働く”のこれから 企業と個人の変化と2024年以降の展望」と題して、報道機関向けセミナーを開催しました。
今回(2023年12月開催)のテーマは、「変わる転職市場・変わる企業の採用戦略、2024年以降の転職市場の展望とリスキリング再考」。
人材不足、産業変革のなか、企業の採用戦略も変化しつつあります。一方、転職を検討する方々もマインドやキャリア戦略を変化させていく必要がありそうです。

そこで本セミナーでは、海外比較や国内での経年比較のデータを基に、ビジネスパーソン、転職希望者にとっての今後の転職市場と賃金アップのポイントについて解説しました。

第1部では、リクルート HR横断リサーチ推進部 研究員 津田 郁が『日本の¨働く¨を巡る企業と個人の変化をデータから紐解く(採用編)』、第2部ではIndeed Hiring Lab青木雄介より『2024年日本の労働市場の展望:慢性的な人手不足の中でも市場の流動化が加速する可能性』、第3部では株式会社リクルート特任研究員 高田悠矢が『健全な雇用流動化とリスキリング再考』をテーマに講演しました。

当日の一部を抜粋してレポートいたします。

1. 転職市場で今求められている人材、身につけるべきスキルやマインドとは?

調査データを基に企業と転職市場の動向について語る株式会社リクルート HR横断リサーチ推進部  研究員の津⽥ 郁
調査データを基に企業と転職市場の動向について語る株式会社リクルート HR横断リサーチ推進部 研究員の津⽥ 郁

日本の労働市場において、人口減少・生産性向上に加えて今後大きな課題となっていくのが人材の流動化。新たな課題に合わせて企業が変わっていく必要がある一方で、ビジネスパーソンとしてもスタンスや考え方を更新していく必要がありそうです。こうした点について、株式会社リクルート HR横断リサーチ推進部 研究員 津田 郁が各種データを分析。まずは企業の人材採用の現況を示すデータから、転職市場におけるどのような新たな機会が生まれているのかを見ていきます。

<Part1のポイント>

  1. 転職市場の変化:人材不足により企業は積極的な人材獲得へ。人材流動化は今後も高まる
  2. 職種や業種が変化:新たな業種や職種に、年齢や経験の制約を超えた「越境転職」が増加
  3. 企業側の意識変化:年齢よりもスキルや経験を重視する企業が増加

中途採用市場の活発化

津田:リクルートが実施した調査(※1)によると、中途採用については66.6%の企業が「難しくなっている」と感じ、「3年後の方向性」については37.7%が「さらに増やす見込み」と回答しています。現在の人事課題についても「中途採用・キャリア採用の強化」は、「新卒採用」と比べても非常に課題感が大きいことが分かりました。これまで中途採用・キャリア採用を人材獲得の主軸としてこなかった企業でもその必要性を感じ始め、だからこそ課題感も大きくなっていると言えるでしょう。

企業は今、人材採用方法や制度の見直しを迫られているのですが、見直しが「できている」企業は、単に「人が足りないことに対応する」だけでなく、「外部人材によって企業や組織自体を変えていく」という目的を視野に入れて、採用・人材獲得に成功し始めています。

見直しの具体的な内容については、「必要とする人材の採用のために、報酬制度や働き方を変えている」「自社の『求める人物像』を言語化している」等に加え、中途採用においても「潜在的成長力、ポテンシャルや伸びしろの重視」も挙げられています。単に埋めるべきポジションに人をあてはめるのではなく、入社後の継続的な成長、変化による価値発揮を期待していることの表れであると考えられます。

採用方法の見直しが「できている群」と「できていない群」の特徴を一覧にまとめたもの。「できている群」では、人材戦略も事業変革を意識したものとなっていて、求める人物像を可視化し、異質なスキル・経験を取り入れたり、ポテンシャル採用をしたりすることで採用成功につなげている
採用方法の見直しが「できている群」と「できていない群」の特徴を一覧にまとめたもの。「できている群」では、人材戦略も事業変革を意識したものとなっていて、求める人物像を可視化し、異質なスキル・経験を取り入れたり、ポテンシャル採用をしたりすることで採用成功につなげている

これまで中途採用といえば、空きが出てしまったポジションの経験やスキルに「合致した」「欠員補充型」の採用が主流であったように思います。人手不足や人材流動性が高まるなか、足りない人員を即戦力として獲得していく中途採用は変わらず重視する企業は多いでしょう。

さらに昨今は、他の業界や他職種で培った経験やスキルを新たに取り込む「事業変革型」採用が重視されています。新しいビジネス創出や組織文化の変革を目的に、自社にはいない異質な人材を獲得していこうとする企業も増えています。
今後の中途採用・キャリア採用は、この両輪がますます活発化していくと考えられます。

転職市場における3つの兆し

転職市場の動向を示すデータからは、新たな職種の登場や、既存職種に求められる役割の変化が感じられ、転職希望者にとってのチャンスの兆しも見て取れます。働く人々にとって、今後どのようなマインド変化が必要でしょうか。

津田:まずひとつめの兆しとして、業種や職種が異なる「異業種×異職種」での転職、いわゆる「越境転職」が増えていることです(※2)。

「異業種×異職種」に代表されるいわゆる越境転職が増えていることを示すデータ。2017年に「異業種×同職種」を超えてトップになって以来、差は開いている
「異業種×異職種」に代表されるいわゆる越境転職が増えていることを示すデータ。2017年に「異業種×同職種」を超えてトップになって以来、差は開いている

世代別に見ていくと、Z世代(18歳~26歳)の転職は右肩上がりで増加していて、2022年には5年前の約2倍に。若い世代を中心に「終身雇用」のキャリア観が薄れ、業種をまたぐ越境転職もより一般的になってきているのが分かります。

ふたつめは、50歳以上のミドル・シニアの世代で、「異業種×同職種」の転職が多いこと。転職者側には、「自身の専門性を活かして興味のある分野や業種にチャレンジしたい」という傾向があり、企業側は「年齢に関わらず、個人の経験や能力を評価する」ようになっていると言えます。

これらの背景のひとつとして、新しい職域や業界が生まれていることがあります。例えばGX(グリーン・トランスフォーメーション)関連の求人は、2022年までの2年で急増し、2016年の5.87倍に。技術系だけでなく新ビジネス創出、調査・研究などのポジションでも求人が増えています。こうした新しい職域では、企業が求めるスキルや経験を備えている人は少ないため、ポテンシャルに期待し、入社後の育成も視野に入れた採用も増えていくでしょう。

また、従来からある同職種であっても、その役割は変化していることも。例えば営業職においては、CX(カスタマーサクセス)を重視するなかで「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」など、今までとは異なるスキルを必要とする求人も増加しています。

最後は、日本型雇用では社内昇進が中心だった管理職を外部から登用するケースの増加です。2022年の管理職での転職者数は2016年の3. 13倍。背景には、就職氷河期の採用減の影響で課長職を任せられるような40代が足りていないことに加え、やはり企業が「事業変革」を推進できるリーダー層を求めていることもあるでしょう。

こうした転職市場の変化を捉え、転職を希望する際には、新たな職域へ目を向け、改めて経験やスキルを見直してブラッシュアップするなど、マインド変化やスキルセットを変えていくことで、好機と捉えていくことができるのではないかと考えています。

※1リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査2023」
※2リクルート「リクルートエージェントの転職者分析/『異業種×異職種』転職が全体のおよそ4割、過去最多に 業種や職種を越えた『越境転職』が加速

2. 転職市場活性化と転職時の賃金交渉で、日本全体の賃金アップへ

Indeed Japan株式会社 Indeed Hiring Lab エコノミストの青木雄介が、Indeedでの検索行動データを分析し、労働市場活性化の道を探った
Indeed Japan株式会社 Indeed Hiring Lab エコノミストの青木雄介が、Indeedでの検索行動データを分析し、労働市場活性化の道を探った

2023年の労働市場を振り返ると、価値観の変化や、物価高騰を受けた賃金への関心などを背景に転職希望者数は増加。しかし実際に転職した人の数はほぼ横ばいで、今後の増加が期待されます。では、求職者の方が希望する転職を実現するにあたり、どのような壁があるのでしょうか。また日本全体の賃金アップのポイントについても、Indeed Japan株式会社 Indeed Hiring Lab エコノミストの青木雄介が解説しました。

<Part2のポイント>

  1. 検索キーワードに見る転職者ニーズ:シニア、リモートワーク、賃金、異業種転職
  2. 転職の壁:年齢・経験の壁、将来のキャリアイメージができていないこと
  3. 賃金上昇のカギ:企業側の賃金見直しの機会を増やす。転職時には賃金交渉を

検索キーワードに見る転職者ニーズ

転職等希望者数と実際の転職者を示した厚生労働省「労働力調査」のデータ

青木:求人検索サイトでの検索行動や掲載された求人をクリックする行動は、求職者が潜在的に何を希望しているかを示す先行的な指標となり得ます。そこで、求職者のニーズをつかむため、求人検索サイトIndeedでの求人検索・クリックデータを分析し、頑健な傾向を抽出しました。それらから見えてきた求職者ニーズ・関心は、以下の4つのキーワード。採用企業側でもこれらの転職希望者のニーズを意識することで企業の人材獲得に効果をもたらし、ひいては労働市場全体の活性化につながると思います。

  • 「シニア」
    総務省「労働力調査」によると、転職希望者数全体に占める55歳以上の希望者の割合は右肩上がりで増加。また、Indeedの検索トレンドを見ると、シニアに関するキーワードで検索した割合が高い水準であり、かつ上昇傾向であることが分かります。
  • 「リモ―ワーク」
    コロナ禍後は生産性の観点で一部オフィス回帰の風潮もあり、「リモートワークの可否は(転職者に)あまり重視されていないのではないか」という調査結果もありますが、Indeedのデータではリモートワークに関する検索割合は増え続けています。声は上げなくても、実際はリモートワークを望む求職者が多いことを示していると考えられます。
  • 「賃金」
    インフレに伴って従来より高い賃金の求人が多く検索されています。時給については従来時給1,000円の検索が多かったのが、直近では1,500円、2,000円の検索が増加しており、月給検索についても40万円、50万円という以前より高い賃金が多く検索されています。
  • 「異業種」
    転職先として異業種への関心も高まっています。特にソフトウェア開発求人に関してはその傾向が高く、スキルギャップを埋めるためのリスキリング次第では、異業種転職が可能であることが分かります。

転職の「壁」とは?

一方で、リクルートとIndeedが行ったグローバル調査で日本と諸外国を比較すると、転職に向けた壁となる日本独自の要因が見えてきました。

青木:本調査(※3)は、日本、米国、中国、フランス、ドイツ、英国、カナダ、韓国、オーストラリア、スウェーデン、インドの11カ国で、直近2年以内に転職を経験した20代から50代のフルタイム勤務者を対象に実施したもので、転職時の課題について直接的に尋ねています。

  • 「年齢」と「経験」
    まず、転職活動の制約となるものとして上がったのは「年齢」と「経験(経験職種・業界)」。「経験」については諸外国でも制約となっていますが、「年齢」についてはとくに日本と韓国で圧倒的に多いのが分かりました。なお「転職活動で困ったこと」を聞いた設問でも、日本と韓国では「年齢を理由として応募できない」がトップ3に入っています。
    リクルート・Indeed「グローバル転職実態調査2023」より、転職者が今後の転職活動で「制約」と考えるものの回答割合。11か国で押しなべてに高いのは「経験(経験職種・業界)」だが、日本と韓国では「年齢」も突出して高い
    リクルート・Indeed「グローバル転職実態調査2023」より、転職者が今後の転職活動で「制約」と考えるものの回答割合。11か国で押しなべてに高いのは「経験(経験職種・業界)」だが、日本と韓国では「年齢」も突出して高い
  • 「キャリアイメージの未構築」
    さらに日本では、自身のキャリアとそれに向けたスキルのイメージに関する項目が諸外国と比べていずれも低スコアで、「関心はあるのに転職が進まない」原因になっていると考えられます。本人によるキャリアイメージの構築や、それに向けた支援の重要性が感じられる結果と言えます。
    日本の転職者は、キャリアとそれに向けたスキルのイメージに課題があることを示した図。「自分はキャリア自律ができていると思う」「自分の強みとなるスキル・能力を理解できている」「将来についての計画がある・将来のありたい姿のイメージがある」「将来のキャリアに向けて、必要とするスキルや学びの項目を把握している」の全てで、諸外国と比べて「あてはまる」という回答が少ない
    日本の転職者は、キャリアとそれに向けたスキルのイメージに課題があることを示した図。「自分はキャリア自律ができていると思う」「自分の強みとなるスキル・能力を理解できている」「将来についての計画がある・将来のありたい姿のイメージがある」「将来のキャリアに向けて、必要とするスキルや学びの項目を把握している」の全てで、諸外国と比べて「あてはまる」という回答が少ない

転職時の賃金交渉の重要性

青木:日本政府も現在、物価上昇の対策として日本全体の賃金上昇に取り組んでいます。国内の名目賃金の上昇率は、2023年の春闘などで若干上がりはしたものの、その後、賃金上昇率は停滞。その原因のひとつは、企業が賃金を見直す機会の少なさです。もし賃金の見直し機会を増やすことができれば、上昇率もある程度キープされると期待できます。

通年行われる転職における賃金上昇は、内部労働市場への賃金圧力につながると考えられます。その効果に向けて、転職自体が増加することも重要ですが、転職時に賃金交渉をすることも重要です。ところが調査によると、転職時に賃金交渉した人は、諸外国では過半数であるのに対し日本では約3割。転職して収入が増えた人も、諸外国では6割を超えるのに日本では37%にとどまっています。一人ひとりの希望を叶える転職が実現することで、雇用のスムースな流動化、日本全体の賃金上昇につながる可能性があります。

※3 リクルート・Indeed「グローバル転職実態調査2023」

3. 健全な雇用流動化とあるべきリスキリング戦略

リクルートのデータ分析結果について報告する株式会社リクルート 特任研究員の高田悠矢
リクルートのデータ分析結果について報告する株式会社リクルート 特任研究員の高田悠矢

キャリアプランを描き必要なスキルを学ぶリスキリング(Re-Skilling)に注目が集まっています。労働移動とリスキリングの視点から、現在の労働市場が抱える問題とその解決策について、株式会社リクルート 特任研究員の高田悠矢が解説しました。

<Part3のポイント>

  1. 転職と賃金:国内では、転職による1割以上の賃金上昇者率は経年で増加傾向
  2. リスキリングと賃金:日米ともに、リスキリング実施と賃金上昇には相関がみられる
  3. 人材流動化を高めるカギ:転職行動への周囲の理解と支援、意識の変革が必要

転職によるキャリアアップ

高田:日本では人材の流動性が低いというイメージがありますが、実は決して労働移動の少ない国ではありません。現在企業で働いている人について、勤続年数に着目して諸外国と比較してみると、確かに1年未満の離職は少なく、10年以上同じ企業で働いている人は多いものの、1年以上10年未満の人の転職は諸外国と同レベルです(※4)。

さらにデータを深掘りしてみると大きな課題も見つかります。それは、転職によって賃金が増加する人の割合が明らかに低いことです(※4)。言うまでもなく、転職の目的は賃金の増加だけではありませんが、やりがいや勤務地など望む働き方を実現するために賃金を犠牲にするというのは不健全です。

また、転職時に「役職が上がった」割合も、諸外国では賃金が2割~6割に上るのに対し、日本では1割未満と小さくなっています(※5)

転職時の賃金変動について、11カ国を比較した図。10%以上増加した人は、1位のインドでは6割以上、10位の韓国も3割以上だったが、日本では2割強にとどまった
転職時の賃金変動について、11カ国を比較した図。10%以上増加した人は、1位のインドでは6割以上、10位の韓国も3割以上だったが、日本では2割強にとどまった

このように海外比較では大きな課題と言える「転職時に賃金が増加した人の割合」ですが、国内の経年比較に着目すると明確な回復基調にあることが分かります。この要因は景況感のような一時的な要因によるものではなく、構造的な人手不足の進行が背景にあるものと考えられます。実際、日銀短観の数値を確認すると、2013年頃から、業況感以上に人手不足感が増えており、その動きと連動するように転職時に賃金が上昇した人の割合も増えています。日本の労働市場においても、健全な雇用流動化は進みつつあると言えます。

リスキリングの実行率が低い日本

では、健全な雇用流動化が進むなかで働く人々はどのように変わる必要があるのでしょうか。自律的に自らのキャリアプランを描き、必要なスキルを学ぶリスキリング(Re-Skilling)。このリスキリングと転職に関する日米のデータ比較からは、働く人本人だけでなく、その周囲の人も含めたあり方のヒントが見えてきました。

高田:リスキリングについての意識(リスキリングが必要と考える割合)は日米ともに約7割となっており、ほとんど差はありません。ところが、実行(週3時間以上、実際にリスキリングに取り組んでいる割合)となると米国の52.8%に対して日本は24.7%と大きな差があります。別のデータからは、リスキリングに取り組んでいる割合と賃金上昇は相関があることが分かっていますので、今後、健全な雇用流動化が進んでいくなかで主体的なリスキリングが求められる、あるいは、主体的なリスキリングというものが当たり前のものとして根付いて初めて健全な雇用流動化が実現する、と言うことができるかと思います。

リスキリング実行の壁

高田:では、なぜ日本ではリスキリングの実施率が低いのでしょうか。日本の転職者が回答した「弊害」として最も多かったのは「現在の仕事が忙しく、学びとの両立ができない」という点でした。また、そもそも日本では、リスキリングを行っている人であっても、その目的が「現在の業務のため」というケースが多いです。

一方で、アメリカで多いのは「教養のため」に学んでいる人。転職時の賃金変動についても、日本では「給与を上げるために学んだ」こととの相関が強いのに対し、アメリカでは「教養のために学んだ」こととの相関が高く、人々が教養のために学び、その結果、賃金を上げながらキャリアアップするという、ある意味で理想的な結果が出ているとも言えます。

「学び」や「リスキリング」に取り組む目的について日米を比較した図。日本では「現在の業務のため」が多く、アメリカでは「教養のため」が多い
「学び」や「リスキリング」に取り組む目的について日米を比較した図。日本では「現在の業務のため」が多く、アメリカでは「教養のため」が多い

こうしたリスキリングへのスタンスの違いが生まれる背景として、キャリアの自律意識についても日米の比較をしてみたところ、今度は考え方から大きな差が見られました。「キャリア自律は重要なことだ」と考える人は、日本では48.5%、アメリカでは81.3%。実践(自分はキャリア自律ができていると思うという人)については、さらにその差が広がり、日本の26.6%に対し、アメリカは78.0%という状況です。また、キャリア自律の考え方と賃金上昇との間には相関があり、「キャリア自律ができていると思う」と回答した人のほうが、日米ともに賃金が増加している傾向があります。

リスキリング内容の日米格差

では、キャリア自律ができていると回答した人は具体的に何をしているのかというと、日本では「新しいスキルや知識の習得」が中心で、キャリアプランやネットワークづくり、労働市場に関する情報収集といった点では実は意識が低いという結果に。日本の「キャリア自律ができている」人は、質の面でアメリカと差がある可能性が示されています。

また、周囲の人の後押しにも差がありました。「周囲の親しい人」(「家族・パートナー」「親戚」など)6パターン、応援の内容(「自分の強みや持ち味に対して助言をくれる」「仕事がうまくいくよう助言や支援してくれる」など)4パターンをかけ合わせた24パターンで日米の差を見たところ、差の大きかった1位と2位はいずれも「キャリアの新たな挑戦を後押ししてくれる」という内容のもの。つまり日本では、「何か新たな挑戦をしようとした時に周囲からの後押しを得にくい」という結果が確認されたわけで、こうしたことがキャリア自律への考え方に影響を及ぼしているのかもしれません。

周囲から仕事やキャリアへのアドバイスがあるかを聞いた設問で、日米の差が最も大きいのは 「家族・パートナー」が「キャリアの新たな挑戦を後押ししてくれる」。2位は主語が「親戚」に変わるが、いずれにしても、周囲の後押しの部分で大きな差があることが示された
周囲から仕事やキャリアへのアドバイスがあるかを聞いた設問で、日米の差が最も大きいのは 「家族・パートナー」が「キャリアの新たな挑戦を後押ししてくれる」。2位は主語が「親戚」に変わるが、いずれにしても、周囲の後押しの部分で大きな差があることが示された

健全な雇用流動化が進みつつあるなか、働く我々はどのように変わる必要があるのでしょうか。リスキリングについては、現在の業務に過剰適合するだけでなく、中長期的な視野で自律的にキャリアをデザインしていくべきだと考えます。また、新たなキャリアに挑戦する人、そのために学ぼうとする行動を周囲が心から応援できる社会を創ることで、ひとりでも多くの方が、よりニーズにあった仕事に挑戦できる社会を創っていけるのではないかと考えています。

※4 日本:厚生労働省(2022.3)「2021年賃金構造基本統計調査」 民営事業所の常用労働者が対象、短時間労働者除くアメリカ:連邦労働統計局(BLS)(2022.9)Employee Tenure in 2022 その他:OECD “Employment by job tenure intervals” 2022年10月現在(JILPTデータブック国際労働比較2023より取得)
※5 リクルート・Indeed「グローバル転職実態調査2023」

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

津⽥ 郁(つだ・かおる)
株式会社リクルート HR横断リサーチ推進部 マネジャー/研究員

金融機関を経て、2011年リクルート海外法人(中国)入社。 グローバル採用事業「WORK IN JAPAN」のマネジャー、リクルートワークス研究所研究員などを経て21年より現職。労働市場や企業経営に関する調査・分析を発信。「人的資本経営の潮流と論点」や「ミドルマネジャーのジョブ・アサインメントモデル」などを発表。経営学修士を取得

青木雄介(あおき・ゆうすけ)
Indeed Japan株式会社 Indeed Hiring Lab エコノミスト

外資系コンサルティングファーム等でエコノミスト・データサイエンティストとして政府・民間・司法機関に向けた経済統計分析及び報告書作成に従事。 2022年8月より現職。Indeedのデータを活用してOECD及び日本の労働市場を分析し、外部関係者に向けて分析結果・インサイトを発信している

高田悠矢(たかだ・ゆうや)
株式会社リクルート 特任研究員

2010年に工学系修士課程修了後、日本銀行入行。経済指標の推計手法設計や景気判断などの統計分析業務に携わる。15年リクルート入社。事業戦略・人事戦略策定のための分析や推薦エンジン開発などデータ起点の取り組みの企画・実行を担う。21年にRe Data Scienceを創業、同時にリクルート特任研究員就任。18年より総務省統計改革実行推進室研究協力者

関連リンク

最新記事

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする

(c) Recruit Co., Ltd.