「住みたい」と「住み続けたい」は違う。作成困難とされた「住み続けたい街ランキング」実現の裏側

「住みたい」と「住み続けたい」は違う。作成困難とされた「住み続けたい街ランキング」実現の裏側

不動産・住宅に関する総合情報サイト『SUUMO(スーモ)』の調査研究機関として、住まいや暮らしに関する調査研究や情報発信を行う「SUUMO リサーチセンター」。同センターでは、以前から調査発表を続ける、生活者が選ぶ「住みたい街ランキング」に加え、実際にその街に住む人の実感調査として「住み続けたい街ランキング」を発表するようになりました。

かなり大変な調査になるという同ランキングを発表するに至った背景、そして各種調査にかける思いについて、SUUMO リサーチセンター研究員の笠松美香に話を聞きました。

SUUMOリサーチセンターが担うもの。果たそうとしている役割とは

― 最初に、SUUMOリサーチセンターで実施している取り組みについて聞かせてください。

笠松:SUUMOリサーチセンターでは、住宅や街選びのニーズやトレンド、住宅検討者・契約者の動向など、年間約20本前後の調査・発表を行っています。

市場動向では、「住宅を購入・借りる場合に、広さと駅近どちらが選ばれるのか」というような普遍的なテーマから、最新ニーズに対する調査など幅広く実施しています。例えば、2024年6月には、近年、住宅性能のなかでも特に関心が高まっている断熱性能に着目し、トレンドワードとして「断熱新時代」という言葉を提唱しました。

― SUUMOリサーチセンターでは、非常に多様な調査を発表していますが、情報を発信することでどのような役割を担っていると考えていますか?

笠松:私たちが情報を発信する意義は調査内容によりさまざまではありますが、大きく分けると3点あると考えています。1点目は、高齢化社会や空き家問題などの社会課題の解決につながること。2点目は、不動産を売る・貸す・建てる供給側とカスタマー側、街と暮らす人との架け橋として、世の中のニーズを可視化すること。そして、3点目は、自分が満足できる住まいを探すためにどんな観点で家を探せばいいのかを提示することです。特に、暮らす人にとって、自分に合う街に住むことはとても重要なことですので、住む街を選ぶヒントになるような切り口や着眼点を見つけてもらえるような提案ができると良いなと思っています。

実際に住んでいる人の声を届けたい。「住み続けたい街ランキング」が生まれた背景

― 街に関する調査としては10年以上「住みたい街ランキング」を発表されていますが、2020年からは2年に一度、「住み続けたい街ランキング」を発表していますよね。「住みたい街ランキング」との違いや概要を教えてください。

笠松:「住みたい街ランキング」は、調査対象となる地域に居住している20代~40代にWebアンケートで「今後住んでみたい街(駅)/自治体」を1位から3位まで選んでもらった結果を集計しているものです。この調査は、「外から見た街のイメージ」が主。自分の住んでいる街を選ぶ人も多いのですが、生活圏内に近いけれども住んだことがない憧れの街が選ばれる傾向にあります。

一方、「住み続けたい街ランキング」では、20代以上(50代以上も含む)に対してWebアンケートで「今住んでいる街に住み続けたいか」という継続居住意向を0~10の11段階評価してもらったものをスコア化しています。つまり、「住民から見た街に対する実感」が主となる調査です。

住まいを探す時には、実際に住んでいる人の声も知りたいはず。SUUMOリサーチセンターでは、「住み続けたい街ランキング」の発表に至るずっと前から、住んでいる人の声を活かして街の魅力を把握する調査を実施したいと考えていました。実際に「住みたい街ランキング」だけでなく「住んで良かった街ランキング」を知りたいという声も数多く届いており、その声にも背中を押されて実現したのが「住み続けたい街ランキング」です。

「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」より一部抜粋
SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」より一部抜粋
「2024年住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」より一部抜粋
2024年住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」より一部抜粋

― 「住み続けたい街ランキング」の構想から実現まで時間を要したのには、どのような理由があったのでしょうか?

笠松:どのような調査にも共通することですが、正確性を担保するためには回答者の母数の集め方や一定数の母数を確保することが重要です。「住み続けたい街ランキング」の場合、1次調査として「今住んでいる街への継続居住意向」を回答してもらい、1次調査で一定の回答が得られた街に対して2次調査で「その街の魅力」を調査するという2段階の調査を実施しています。「住み続けたい街ランキング」は、実際にその街に住んでいる人しか回答できないので、できるだけさまざまな街の評価結果を集めるためにはとにかく回答者数を確保する必要があります。一方、「住みたい街ランキング」は、ライフステージの変化が多く住み替えニーズも高い20代~40代の都道府県別の人口構成に合わせて取っており、こちらも回答者数は多いのですが、「住み続けたい街ランキング」は一次調査でその約2倍、二次調査では約5倍の方に回答いただいています。

「住み続けたい街ランキング」は住民からの通知表

― 2024年の首都圏版の調査概要を見ると、住み続けたい街の回答を募る1次調査で31万人以上、街の魅力を聞く2次調査で5万人以上の有効回答数となっています。

笠松:はい。どうしても時間と労力、コストを要することから、2年に一度のペースでの調査・発表となっています。しかし、「どんな街がどんな理由で好まれて支持されているのか」ということが可視化できれば、ランキングをご覧になった方にとって住む街を選ぶ参考になる、加えて、自治体の現状把握やシティプロモーション、地域での住宅供給を考えているデベロッパーの方々にも役立ててもらえば、その街をより良くしていくお手伝いになるのではないかという思いから調査を行っています。実際にランキング結果を自治体の街づくりに活用いただくという動きも生まれ始めています。

― 調査方法が異なるだけに、「住みたい街ランキング」と「住み続けたい街ランキング」では実際の結果も大きく異なりますね。

笠松:そうですね。「住みたい街ランキング」では、ネームバリューであったり、たまに訪れた時に感じる見た目の印象が強く表れているのに対し、「住み続けたい街ランキング」では、子どもの教育環境、スーパーなどの施設の充実や自治体の取り組み内容、住民同士の仲の良さなど、住んでいる人からのその街に対しての“通知表”のような評価軸がうかがえると思います。

SUUMOリサーチセンターの笠松美香

信頼できる調査結果を出すためには、定量評価・定性評価どちらも不可欠

― 「住みたい街ランキング」「住み続けたい街ランキング」ともに、注目度の高い調査だと思います。笠松さんが、同調査にあたって心がけていたことは何でしょうか?

笠松:このふたつの調査に限りませんが、調査・研究機関である以上、信用できる内容であることは大前提のうえで、一部の街だけがクローズアップされるのではなく、街にはさまざまな個性があることを前提に、再現性・汎用性のある項目や数値の出し方で結果を示すことが大事だと思っています。

一方で、「何か特別なことをやっているからこの街が人気」ということではない、「本当の街の魅力」を知るためには、数値に現れる定量的な評価だけでなく、定性的な街や住民の変化・評価がないかを実際に足を運んで調べる必要があります。アンケート結果という定量的な評価とともに、その評価に結びついたと考えられる兆しをとらえ伝えられるよう、調査後の動きがさらに重要だと考えています。

「住む」ということは経験の重ね合わせ。さまざまな経験値を集め、学びや気づきを届けたい

― 一つひとつに丁寧に向き合っているんですね。笠松さんはSUUMOリサーチセンターの調査・研究・発信がどうなることを願っていますか?

笠松:私が住まいや暮らしに関する調査・研究する上で大切だと思うのは、私たち調査をする側にとっても、情報を受け取る側にとっても新たな「学び・気づき」があることです。今回の「住み続けたい街ランキング」では、知名度の高い街の魅力だけでなく、生活圏内の人でなければ知ることができないような新しい街の魅力や兆しを発見できたと思っています。

「住む」ということは、学校で教えてもらって学ぶことではなく、経験の積み重ねから知見を得るもの。例えば、ある街に住んでみて、その街のこういうところが好きだった、ちょっと物足りなかったなどの学びを活かして次に住む住まいや街を決める。そういう積み重ねで、その人の「住む」経験値が上がっていきますよね。そのさまざまな人の隠れた経験値が私たちSUUMOリサーチセンターの調査・研究によって開かれた情報になり、もっとスムーズに個人や企業の最適解を導くための指針として活用していただけたら嬉しいなと。

個人的には、その人にとっての住みよい街というものは自身が主体的に街に関わり、街づくりに参加していかないと作り出せないとも思っていて、そういうことも今後の調査で明らかにしていきたいです。調査・研究をリクルートが続けていくことで、世の中の新しい兆しをとらえ、より良い社会を作っていくために向かうべき方向への旗を立てられる存在でありたいと思います。これからも、今はまだ目に見えていない街の評価や人々のニーズを可視化することで、少しでも住みやすい街づくりや自分に合う街・住まい探しのお手伝いをしていけたらと思っています。

「住み続けたい街ランキング」調査に携わったリクルート従業員の笠松美香

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

笠松美香(かさまつ・みか)

1996年にリクルート入社。ふぉれんと事業部(現・賃貸領域)に配属。その後『週刊ふぉれんと』、『週刊住宅情報首都圏版』および、同誌関西版などの編集・商品企画を担当。現在は『SUUMO』副編集長、『SUUMOジャーナル』をはじめとする情報コンテンツを担当。全国各地の住宅や街づくりのトレンドの発信、講演活動も行っている

関連リンク

最新記事

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする

(c) Recruit Co., Ltd.