グローバルな視座で日本を語れる経営スタッフのプロ 和光貴俊さんのリクルート考
リクルートグループは社会からどう見えているのか。 私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
リクルートグループ報『かもめ』2018年10月号からの転載記事です
シームレスに生きる力を。グローバルでの勝負の分かれ目になるのは日本をどれだけ語れるか
リクルートとの出会いは、もちろん就職情報誌『リクルートブック』(現リクナビ)です。大学のバンドサークルの先輩に貴社の方がいて、声を掛けてもらって会社訪問しました。
その後、三菱商事に入社し、海外から戻って2000年から約6年半採用の責任者だった時に、リクルートの方とはいろいろな企みをしました。その頃、弊社が世の中から持たれていた硬いイメージを壊したくて。一人ひとりを見るとユニークな人間がたくさんいて、ダイナミックな会社だということをなんとか伝えたいと思っていました。
その頃『R25』や『HOT PEPPER』が世の中を席巻していたので、「新卒向けにこういうテイストのパンフレットを作りたい」と相談したら、リクルートの皆さんが面白がって、協力してくれたんです。後で聞いたらご担当者は、「うちの商品を真似して、何をやっているんだ」と怒られたと聞きました。今では、怒られるくらいじゃ済まないかもしれませんが、当時からのヤンチャな気風というか、悪ノリというか、いつも面白がって一緒に企んできたことは、私たちにとっても刺激になりました。
2005年に次世代経営者育成のための試みとして『ハイパーコーポレート ユニバーシティ』※1を立ち上げることになり、1期生としてご一緒したリクルートの方々との接点は今も生きています。弊社との社風の違いを改めて実感して面白かったですね。三菱商事の人間は折り目正しいというか、どこか生真面目。リクルートの方は、全くアプローチが違う。型破り感があって、予想外のところからボールを投げてくるなというイメージもありました。社風が違うからこそ、不思議と馬が合うというところがあった気がします。
当時の三菱商事は変革前夜。いわゆる貿易事業中心の商社から、変わり始めた時代でした。事業経営に踏み出し、バリューチェーンを強く意識し、この10年でビジネスモデルも収益源も大きく変化しました。社員数や海外拠点数は当時と大きくは変わりませんが利益規模では10倍以上に成長し、全く違う会社になっています。リクルートも紙媒体からデジタルに切り替わり、グローバル化に踏み出して大きく成長を遂げられた。今になって振り返ると、お互い次に向けて生き残るためにどうしたらよいか模索している時代だったのかなと思います。
それ以降、私たちは、ビジネスモデルの変化に伴い求められる人材像も変わるということを、くどいくらいに経営からメッセージし続けました。事業会社を経営する視点を持つために、グループ会社と連携してグループ全体で前に進むこと、つまりグループ経営を強く意識するようになりました。
私たちは経営理念として『三綱領』※2を掲げ続けているのですが、経営判断に迷ったら常にこれに立ち返っています。
リクルートはむしろ、一人ひとりの方に強いDNAを感じますね。圧倒的な当事者意識を持ち、自分の役割を自分で意識して、ちゃんと関わってる感じがします。皆アドレナリンが出ていて、通年文化祭みたいな雰囲気が小気味良いし、会社全体のグルーブ感にもつながっているような気がします。少し、古くさく感じるかもしれないけれど、企業規模が大きくなっても、グローバル化しても、その要素はやっぱり大事にして欲しいなと思いますね。
ただし、グローバルで意識すべきルールやコードみたいなものはあるので、それは一通り押さえるべきと思います。母国語が英語でない私たちは、どうしても彼らのゲームのなかでは不利です。でも、世界の知識階級はとても日本に興味を持っていて、よく知っています。彼らが関心を持つテーマを理解し、自分の言葉で語れるようにしておくことでとても有利になります。
例えば彼らは、同じ伝統芸能でも、派手な歌舞伎よりも能の精神世界に興味があるという人が多い。金沢に行くと、金沢21世紀美術館より鈴木大拙館の方に興味を持つ。鈴木大拙は禅の研究家でもあり海外で有名なのです。今なら、禅とマインドフルネスの違いなども語れると良いですね。基礎知識に加えて、各国の文化と比較して、自分の体験や日本人独特の考え方などが説明できると、一段深い会話ができる。海外では、日本をきっちりと語れるだけで、明らかに扱いが変わることを実感しました。企業人としてだけでなく、ひとりの人間、日本人として相手とつながれれば、当然ビジネス上の交渉事や、ネゴシエーションもうまくいくのです。
もちろん、国内で仕事をしていても、日本のことにどれだけ興味を持って、また自分なりの視点で語れるかということは重要です。リクルートの方は、良い意味で上下や外と内、仕事と趣味などが「シームレス」な方が多い。だから仕事の範疇を越えて、人としてつながれる方が多いので、立場が変わってもお付き合いが続いているのだと思います。私たちの会社にはない独特のグルーブ感やヤンチャな気風を持つリクルートがうらやましいし、その感じをこれからも大事にしていっていただきたいと思います。皆さんが思っている以上にリクルート・ファンの人は多いんですよ、僕を含めて。
※1 編集工学研究所『ハイパーコーポレート ユニバーシティ』(日本流次世代リーダー育成塾):三菱商事とリクルートの有志による声掛けで、2005年に開講して以来、「日本力」を携えて世界で活躍する次世代リーダーを育成し続けている場
※2 三菱商事株式会社に息づく企業理念『三綱領』:1920年の三菱第四代社長岩崎小彌太氏の訓諭をもとに、1934年に旧三菱商事の行動指針として制定されたもの。旧三菱商事は1947年に解散したが、三菱商事においてもこの三綱領(所期奉公、処事光明、立業貿易)は企業理念となり、その精神は一人ひとりの心のなかに息づいているという
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/about/philosophy/
プロフィール/敬称略
- 和光貴俊(わこう・たかとし)
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三菱商事株式会社 人事部 部付部長 兼 ヒューマンリンク株式会社 代表取締役社長
1987年 東京大学経済学部卒業。同年4月 三菱商事株式会社入社。人事第一部に配属され、企画調査部経済調査チームを経て、96年より海外駐在(96〜97年米国三菱商事 ニューヨーク本店、97〜2000年 上海事務所。同年10月に帰国後、人事部採用・人材開発ユニットリーダー。07年1月より経営企画部勤務を経て、08年9月から再び海外駐在(米国三菱商事 人事総務部長)。12年4月に帰国後、人事部部長代行を経て15年4月より現職。13年Harvard Business School AMP(184期)修了