多様な働き方

「ないと思っていた労働力」プチ勤務で宿の人材不足解消へ

調査レポート企業事例地方創生

2024年07月30日 転載元:ジョブスリサーチセンター

「ないと思っていた労働力」プチ勤務で宿の人材不足解消へ

首都圏からアクセスしやすい温泉・リゾート地として知られる静岡県熱海市。コロナ影響も収まり、多くの観光客で賑わいを見せていますが、宿泊施設の多くで深刻な人材不足が発生しています。
突破口を探るべく熱海市役所は大規模調査を実施。すると「市内にこれ以上労働力はない…」その思い込みが一転。意欲があっても働いていない人、今の仕事に加えてさらに働きたい人がいる、という意外な事実が明らかになりました。 今回は熱海市観光経済課 課長の遠藤さんに、調査を通じて見えた兆しや展望を伺いました。

● 静岡県熱海市
● 市役所所在地/静岡県熱海市中央町1-1


人材不足により宿泊客を制限する施設も

「人材不足は熱海市が長年向き合ってきた課題です。これまでも様々な取り組みをしてきましたが、思うように成果が出ていないのが実情でした」と遠藤さんは話します。
熱海市の人口は1965年54,540人をピークに減少し、2023年末時点で33,934人。2045年には21,267人になると予想されています。
高齢化率は2020年時点で48.7%。全国平均28.7%を大きく上回り、生産年齢人口の減少に直面しています。
熱海市の地理的要因も人材不足に影響しているといいます。
「熱海市のすぐ隣は神奈川県湯河原町です。静岡県の最低賃金は984円ですが、神奈川県は1,112円で128円もの差があります(2024年5月現在)。より良い給料を求めて、熱海から湯河原まで働きに行く人もいます」

市内最大の産業である宿泊業ではコロナ禍も人材不足に拍車をかけました。
「もともと人が足りなかったところにコロナ禍が続き、宿泊施設でこれまで通りの営業が困難になったため、多くの従業員が離職しました」
今ではコロナ前のように観光客が熱海市を訪れますが「一度離れた従業員は戻らず、客室をフル稼働できず宿泊客数を制限しているといった声が事業者からあがっています」


市役所一丸となって推進した調査、追加就労などに兆し

「熱海市に来ても泊まる場所がない」という理由で行き先を変える、泊まらず日帰りする人が増えると、宿泊施設のみならず飲食店や土産物屋などの関連産業の損失にもつながりかねません 熱海市役所では宿泊施設の人材不足の突破口を見つけるべく2023年8月から10月にかけて、①熱海市民・在勤者、②宿泊施設従業員、③宿泊施設経営者それぞれを対象に大規模調査をおこないました。

調査にかけた想いを次のように話します。
「宿泊施設に特化した調査が初めてだったのでどうなるかと思っていましたが、実施前のすり合わせで、無理だと思い込んでいた人材確保の可能性を深掘りできること、実態把握に留まらず調査後のアクションまでイメージできたことから期待は大きかったです。
より良い施策を立案するためにも年代ごとの回収目標を立て、1人でも多くの人に回答してもらえるよう、アンケート回収には市役所総出で臨みました」

アンケート用紙の市内全戸配布のほか熱海市公式LINEでの配信、職員から友人・知人への声掛け、教育委員会を通じた生徒保護者への依頼など、あらゆる打ち手を講じたといいます。その結果、市民・在勤者向け調査では回答件数が1,000件を超え、普段集まりづらい若い世代からも多くの回答が寄せられました。

「調査結果で特に意外だったのは、働きたいと思っている人が予想以上に多かったことです。非就業者のうち仕事を探している人の背後には、3倍以上も意欲はあるが仕事を探していない人、誘いがあれば働くかもしれない人がいることは驚きでした」
今回の調査では就業者に対しても今の勤務に追加して働けそうか、ダブルワーク・副業兼業で働きたいかを聴取し、市内労働力のさらなる可能性を探りました。
「就業中の人にさらに働いてもらう発想はこれまでありませんでした。市内にはこれ以上労働力がないと思い込んでいましたが、実際には就業者の2~3割が日中や土曜日などにもっと働けると回答しており、人材不足解消の兆しを感じました」

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