73%が具体的な対策を打ち出せず
フランスではシニア雇用率の低迷が続いている。コンサルティング会社Oasys & Cie が2023年5月に公表した調査「シニア層の雇用状況(※1)」によると、73%の企業が「シニア雇用問題に関して具体的な方針を打ち出していない」と回答し、21%が年齢に関連する偏見をなくすための対策の実施を「検討」するにすぎないということが明らかになった。景気減速や競争力維持のプレッシャーにより、企業はリスクを回避し、経験よりも若さを重視する雇用を優先する傾向がある。しかし、高齢化社会の進展に伴い、シニア層が労働市場にもたらすメリットを理解する企業も増えている。フランスでは、中高年の雇用促進策がいくつか採用されており、以下でその一部を紹介する。
トレーニングに力を入れる
高齢者サービスのDomusViでは、全従業員へ平等に研修機会を提供することを目的に、公共機関と協力して1200のトレーニングコースを提供している。アップスキルとリスキル、資格取得、学位取得を目指すすべての人が対象である。DomusViでは、シニア層に対する取り組みを成功に導くためには、若年層をどのように取り込めるかも同時に考慮する必要があると考えている。
CSR(企業の社会的責任)の積極的な取り組みで知られる広告代理店The LINKSは、シニア層が新しいデジタル技術を学ぶことはできないという固定観念から完全に脱却すべきと考えている。そのためDX(デジタルトランスフォーメーション)、データ、AIなどの技術研修を提供している。The LINKSは、外部の専門家の意見を取り入れることで成功を収めており、シニア層対応に関してはDE &I(多様性、公平性、包摂性)系のスタートアップと協業している。
Orange(通信)は、充実したシニア層向けのアップスキルプログラムを提供しており、新しいデジタル技術やワークスタイルへの適応を容易にすることを目指している。また、キャリアの終盤における柔軟な働き方を支援するため、パートタイム勤務への転換なども認めている。
アンケート、憲章、PRキャンペーンなどで啓蒙活動に取り組む
AXAは大規模な匿名社内インクルージョン調査を実施している。2022年に初めて調査を実施した結果、55歳以上の従業員が「ほかの世代よりも排除されていると感じている」という事実が明らかになった。数値的には、報酬や研修へのアクセスに顕著な問題はなかったが、原因を追求すると、この年齢層における社内でのモビリティに問題があることが判明した。
シニア層に対するステレオタイプは無意識の偏見として根付いていた。これはマネジャーだけでなく、55歳以上の当事者たちも自らを自己検閲していたことが浮かび上がった。この問題を解決するため、多数世代でのワークショップを実施し、インクルージョン政策を抜本的に改善した。さらに、ステレオタイプを打破するためのコミュニケーションキャンペーンも同時に行われ、「勇気に年齢は関係ない」というメッセージが広まった。また、50歳を超えてからキャリアを再開発したシニア層のパーソナリティが担当するポッドキャストも非常に人気を博している。
一方、The LINKSは、インクルージョン憲章を採用している。ハンディキャップ、男女の平等、多世代交流、LGBTQIA+、社会間・文化間のテーマを含む5つの領域をカバーし、包括的なアプローチを目指している。この憲章はあらゆる差別を排除し、中立的なマネージングを推進し、多世代がともに生きるための10のコミットメントを定義している。すべての従業員が日々この憲章を実践し、具体的な行動を提案することを奨励している。