「2030年女性役員比率30%」を本気で実現するために。「203030 Diversity Leaders Meetup」を開催
2024.11.07 Thu
政府が主導する男女共同参画会議では、女性活躍・男女共同参画の重点方針として、「東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする」ことを掲げています。これまでよりさらに踏み込んだ目標を実現するには、企業のDEI推進責任者同士で意見交換ができるような横のつながりを広げていくことが必要なのではないか。そんな想いから、リクルートの人材紹介事業では、2024年8~9月にかけて「203030 Diversity Leaders Meetup」と題した女性活躍推進セミナーを開催しました。
東名阪の3会場で延べ100社、150名が参加したこの場では、リクルートワークス研究所が発行する『Works』の編集長であり、フリージャーナリストの浜田 敬子による講演や、リクルートの取り組み事例紹介、参加者によるグループディスカッションなどを実施。本記事では、9月11日(水)に東京会場で行われた様子を、ダイジェストでご紹介します。
なぜ日本はジェンダー後進国になってしまったのか。“女性活躍”の現在地
第一部の前半は、女性を軸としたダイバーシティを取材テーマに活動している浜田による、海外事例・企業事例を交えた講演が行われました。冒頭、浜田は日本がジェンダーギャップランキングで先進国最低レベルとなっている現状を紹介しました。 「ジェンダー平等のスコアが高い企業上位1,000社に入っている日本企業はわずか10社。国内でDEIに熱心に取り組んでいると言われている企業ですら、200位~400位代なのが、今の日本の現状です。また、ジェンダーギャップは国の競争力とも相関があり、日本の国際競争力が下がっているのは、ジェンダー平等が他国に比べて遅れを取っていることも影響しているはずです」と述べています。
では、ジェンダー平等が進む国では何を行っているのでしょうか。浜田はドイツ、シンガポール、デンマークなどとともに、ジェンダーギャップランキング15年連続1位のアイスランドの事例を取り上げながら、世界と日本の差を伝えました。
「アイスランドでは、『1. 男女同一労働同一賃金の義務化』、『2. 男性育児休業取得の徹底』、『3. 一定割合で役員・管理職に女性を登用するクオータ制の導入』の3つの政策がポイントになっています。つまりは、ジェンダーによって機会の差が生じることを徹底的に排除し、機会の差を埋めること。日本では女性管理職比率など各種政策が“努力義務”にとどまっていますが、海外では義務化し強制力を持たせている国も珍しくありません。それはやはり、ダイバーシティが国家や企業の成長にとって不可欠だという認識だから。日本国内だけを見るとDEIは年々進んでいるように感じられますが、世界はそれ以上にもっと努力しているという認識を持つ必要があります」
また、グローバルでは近年「人権」の観点からジェンダー平等が加速していることも指摘。「(ジェンダー平等を)なぜやるのかという問いに対して、海外企業では『倫理観』というキーワードが出てくることが増えています。つまり、男女の賃金格差や採用・登用における性差別は、人権侵害なのだという考え方。日本の場合、女性に限らず従業員への人権意識が低いことが問題で、このままでは人権を重んじる海外企業から取引を断られるリスクすらあります」とグローバルスタンダードになりつつある価値観を紹介しました。
対する日本の現状としては、国が開示を義務付けた男女の賃金格差に関する代表的な企業の実績を提示。浜田は賃金格差が大きい企業・業種が多く採用している人事制度として、いわゆる総合職/一般職で分けるような「コース別人事」の問題点を指摘します。
「働き方やキャリアの選択肢があるのは良いことなのですが、それによって性別に偏りが生じていることが問題。実態は総合職=男性の仕事、一般職=女性の仕事という運用になっており、全国転勤ができない女性は総合職を選ばず、多くの制度上一般職では一定以上の役職にはなれません。それが大きな賃金格差を生んでいます」と構造上の問題を語りました。
イベント当日の投影資料
日本のジェンダー平等が進まない理由としては、
「硬直化した働き方」
「男性の長時間労働(女性に家事育児が偏る構造的問題)」
「支援策が(女性の)両立支援ばかりに偏っている」
「育休復帰後の過剰な配慮」
「変わらない管理職像」
といった問題を列挙。「社会・企業として、男性には仕事と家事育児の両立支援、女性には均等な機会とキャリア支援が必要」と、男女それぞれに対するアプローチの必要性を伝えました。
意思決定層に女性を増やすために必要な、発想・アクション
浜田による講演の後半では、海外と日本の実態を踏まえながら役員・管理職層に女性を増やすための考え方やアプローチについて紹介。企業がDEI推進に取り組む意義としては、企業競争力の観点から捉えることの重要性を語りました。「顧客の多様なニーズに応えるには、多様な人材がいる組織の方が有利であり、バックグラウンドの異なる人がアイデアを掛け合わせることでイノベーションも生まれやすい。また、社会の不便や不満はマイノリティの周辺で発生しやすく、彼らの視点が新たなビジネスチャンスにもなるはずです」と多様性の高い組織のメリットを紹介しています。
一方で、多様性が低い=同質性が高い組織のリスクについても言及。「近年、商品や広告に差別的な表現が含まれていることに気づけず“炎上”してしまうのは、意思決定層の同質性が高いことも影響しています。組織的な不正が起きてしまった企業も意思決定層の同質性が高いことが多い。過去の成功体験に固執し、議論が内向きで、異質な意見を軽んじてしまいがちなのです」と問題点を指摘しました。
また、職場で女性差別が起こる原因として、
「統計的差別(統計的特徴をもとにアンコンシャス・バイアスが働き公正な評価がされない)」
「間接差別(転勤や長時間労働ができるかどうかで評価され、結果的に女性の評価が低くなる)」
「好意的差別(過剰な配慮による機会の喪失)」
「マイクロアグレッション(日常の言動に潜む差別)」
などがあることを紹介。
差別をしないためには、「女性だから母親だから…と属性で安易に個人を判断せず、能力や状況は一人ひとり千差万別だという前提でしっかり話し合うこと」が大切だと語っています。
では、意思決定層に女性を増やすには具体的にどうしたらよいのでしょうか。日本社会でよく語られる「女性は管理職・役員になりたがらない」という言説は、本人の能力や意欲以上に構造上の問題だと浜田は指摘します。「女性に自信がない人が多いのは、男性に比べて能力が足りないからではなく、自信をつけるための経験が少ないからです。特に20代30代での一皮むけるような経験や部門を越えた大きな異動は男性の方が多く経験しています。また、現状は上司に男性が多い以上、同性の男性社員の方が対話の頻度も増え、そのため、視野の広さ、社内人脈の豊富さ、上司との信頼関係といった点に男女差が生じ、本人の自信や評価者からの見え方にも影響してしまいます。だからこそ、男女分け隔てなくチャレンジの機会を提供することが必要なのです」と述べました。
講演の中では、日本企業における先進事例も紹介。
「女性のキャリア支援のための研修を徹底する」
「働き方を柔軟にすることで、育休後のフルタイム復帰を促進する」
「ジェンダー・人種・障がいなど、マイノリティの社内コミュニティ活動を推進する」
「説明のつかない男女賃金格差を是正する」
「管理職任用を年功序列制ではなく手挙げ制にする」
といった企業の取り組み事例をヒントとして提示しています。
最後に、浜田はDEI推進担当者に理解してほしいこととして、「結果が出るまでには時間がかかります」とメッセージ。「海外事例や先進企業の事例を踏まえると、施策を打っても変化を実感できるまでには10年くらいかかるでしょう。DEI推進はそれくらい腰を据えてやらなければならないし、もし自社の状況がまだまだだと感じているなら、今すぐ本気で動き出してほしいです」と投げかけて、講演を締めくくりました。
【リクルートの事例】管理職要件の明文化で、女性も含めた多様な人材を管理職候補に
浜田の講演後は、企業事例のひとつとしてリクルートにおける女性活躍推進の取り組みを紹介。ワークス研究所 所長の堀川 拓郎が登壇しました。冒頭、堀川はリクルートのサステナビリティへのコミットメントとして、「2030年度までに各階層の女性比率を50%にすることを目指す」という、国の指針よりも一段高い目標を掲げていることを紹介。リクルートの女性比率は2023年時点で課長層36%、部長層24%、役員+エグゼクティブ層で13%と進展していますが、ここまでの道のりも決して平坦ではありませんでした。「創業時から“個の尊重”を掲げ、従業員への平等で公平な機会提供にこだわってきたリクルートですが、かつては長時間労働が前提の働き方で、それができる人しか活躍できない時代もありました」と自社の歴史を振り返ります。
長時間労働の改善、ワーキングマザーの両立支援、若手女性社員向けのキャリア研修、ワークスタイルの変革といった取り組みの変遷を紹介した上で、この場では2021年度以降の施策のうち特に女性管理職の推進に寄与した事例を紹介。そのひとつが、「管理職要件の明文化」です。
これは、管理職任用の議論が評価者による過去の成功体験に基づいて行われており、管理職候補に求める要件として画一的なリーダーシップや働き方を求めた結果、女性の候補者が増えないのではないかという懸念から取り組んだもの。「無意識のバイアスが入り込まないように、判断軸を明文化したことで起きた変化は、女性はもちろん多様な人材が管理職候補に挙がってくるようになったこと。課長職候補者が女性で1.7倍、男性で1.4倍に増えています」とリーダーシップの多様性を高める上でも効果が出ていることを紹介しています。
リクルートワークス研究所 所長 堀川 拓郎
もうひとつの事例は、複数の管理職が連携し「複眼」で人材育成を行う「CO-AL(個をあるがままに生かす)」プログラム。女性をはじめとする多様な人材へのキャリア構築支援として展開しているもので、堀川によれば「人がキャリアに前向きになるメカニズムを調査したところ、男女問わず、強みを自覚・発揮することが成果への自信につながり、成長意欲を引き出すことは共通している一方で、女性は強みを自覚・発揮する上では上長との関わりが大切だと見えてきた」のだそう。これは、浜田の講演でも紹介していた「女性社員は上司と対話する機会が少ない」という女性の管理職登用を妨げる要因にも関連することです。そこで、上司の関わり方を変えていく施策として、直属の上司と2名のコーチ(管理職や人事スタッフが担当)が3人で連携してキャリア構築支援をする体制で取り組んでいる事例が紹介されました。
上場企業のDEI担当者同士でテーブルを囲み、各社の取り組み・悩みをシェア
休憩を挟んだ第2部では、会場に集まった各社のDEI推進責任者によるグループディスカッションを実施。「203030」の対象であるプライム上場企業および関連会社を中心に、東京では計77名の参加者が1テーブル4名程度の同じ業界同士に分かれてこれまでの取り組みや日頃感じている課題について共有する時間となりました。
<代表的なコメントをご紹介>
【対女性社員】
- 女性社員比率は50%で、課長職まではそれなりに上がるが、部長職以上にはなりたがらない印象。ロールモデルが不在のため「自分に務まりそうなイメージがない」と思われている。(インターネットサービス)
- 現在の女性役員は「スーパーウーマン」で、若手女性にとってはロールモデルになりづらい。ある種、「普通の人」が上級管理職や役員になっていかないといけない。(IT)
- 社内の管理職500を超えるポジションの中、女性管理職は十数名のみ。産育休からの復帰率は100%だが、管理職にはなりたがらない。特に営業現場では難しいと感じている人が多い。(不動産)
- 女性が9割の会社なのに、管理職になると女性が少ない。一般職からどうやって管理職になりたい人を増やすかが課題。(金融) 女性に関しては今、管理職任用以上に長期就業。新卒採用時は一定数いるのに、いつの間にか少しずつ会社からいなくなってしまう。(メーカー)
【対上司・同僚】
- 女性活躍の推進は「女性優遇」と見えるケースもあり、若手男性からのハレーションがある。実際は男性に下駄を脱いでもらうということなのだが、理解がなかなか進まない。(メーカー)
- そもそもの問題として管理職要件が定義されていない。任用はあくまでも上司の推薦で決まっており、アンコンシャス・バイアスがありそう。(商社)
- 多様な管理職を育てていくのが重要だと思う。体育会系の人が管理職を占めると、同じ体育会系の部下ばかり任用してしまう。(広告)
【自社で実践している工夫】
- 社長からトップダウンで「管理職であっても時間外の連絡は出ない」という号令が出たことで、育児・介護に従事している社員に一定の安心感が生まれた。(人材サービス)
- 全国転勤がどうしても女性管理職を増やす上でのネック。全国どこでも働けるようリモートキャリア制度を取り入れている。(メーカー)
【その他】
- 男女問わず管理職に対するネガティブな認識があり、なりたがらない従業員が多い。(メーカー)
- 女性には海外赴任にもチャレンジしてもらいたいが、結婚・出産などのライフイベントで大きな制約がある。海外赴任とも両立できるように制度を見直す必要がありそう。(メーカー)
- 女性活躍には、男性の家庭での活躍も必須。男性育休も推進しているが、現状はほぼ数日の取得になっている。数ヶ月単位での取得は年に数名。長期で休まれると現場がまわらないのも原因であり、会社として男性育休をどう進めるべきか。(商社)
企業・業種によって置かれている状況はさまざまなものの、同じテーマで活動している者同士で話はつきないもの。会場は終始賑やかな声で包まれ、設定していた時間ギリギリまで熱く対話が続いている様子が印象的でした。その後は会場を移しての懇親会を実施。講演パートの登壇者が疑問質問に応えたり、グループディスカッションの続きが行われたりと、会社の枠を越えたDEIの連携を感じながら、約3時間のイベントは幕を閉じました。
終了後のアンケートでも、「引き続き、海外を含む労働市場や採用市場の情報や、他社様との交流の機会を提供いただけたらありがたいです」「同じようなセミナーや講演会をどんどん開催していただきたい」「このような同業他社の会社間で交流できる機会があれば嬉しい」など、今回のようなセミナーの定期開催を望む声を多数いただきました。
リクルートは、今後もこのような活動を通し、日本のDEI推進に貢献してまいります。
【Profile】※2024年10月時点
浜田 敬子(はまだ・けいこ)
リクルート ワークス研究所「Works」編集長/ジャーナリスト
1989年朝日新聞社に入社。2014年からAERA編集長。2017年に同社を退社し、『Business Insider』の日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。2022年8月にリクルートワークス研究所が発行する『Works』編集長に就任。TV番組『羽鳥慎一モーニングショー』『サンデーモーニング』のコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティや働き方などについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心企業の終焉』
堀川 拓郎(ほりかわ・たくろう)
リクルート ワークス研究所 所長
2001年リクルート入社。営業、商品企画、事業開発、事業推進、人事などを経て、2021年より人材・組織開発室 室長/ヒトラボ ラボ長に従事。2024年4月よりワークス研究所に参画、現在に至る。