「経験を活かしてキャリアを再発見!」40・50代の仕事・キャリアを有識者と考える

「経験を活かしてキャリアを再発見!」40・50代の仕事・キャリアを有識者と考える

左より、『リクルートエージェント』のキャリアアドバイザー組織の部長を務める丸川 智生、学習院大学名誉教授の今野 浩一郎氏、『リクルートエージェント』のリクルーティングアドバイザー組織の部長を務める丹治 健太郎

転職支援サービス『リクルートエージェント』などを運営するリクルートのHRエージェント事業。同事業でキャリアアドバイザー(※1)組織の部長を務める丸川 智生と、リクルーティングアドバイザー(※2)組織の部長を務める丹治 健太郎は、「いくつになっても、何度でも、自分らしく働く機会が得られる社会」を目指し、ミドルシニアの転職支援に取り組んでいます。
この活動をさらに発展・進化させるため、社外の有識者との対談を実施。人事管理がご専門の今野 浩一郎 学習院大学名誉教授をお招きし、社会の動きやリクルートの取り組みについてざっくばらんにお話ししました。その様子をダイジェストでお届けします。

(※1)キャリアアドバイザー:各業界に精通し求職者の希望やスキルに沿った求人をご紹介するほか、提出書類の書き方アドバイス、面接対策、独自に分析した業界・企業情報の提供などを通して、転職活動をサポートする職種
(※2)リクルーティングアドバイザー:企業の経営・人事から採用上の課題を引き出し、主に人材紹介サービスを通じた打ち手を提案・実行する職種

ミドルシニアの新規利用者は増加傾向、“活躍機会の拡大”は発展途上

丸川: 本日はよろしくお願いいたします。ディスカッションに当たって、まずは『リクルートエージェント』のミドルシニア転職支援の背景と現在地を説明させてください。
今野先生も著書などでご指摘の通り、日本はこれから「労働力人口の5人に1人が60歳以上」という時代に突入していきます。私たちは、誰もがいくつになっても自分らしく活躍できる状態を実現するために、シニアの手前であるミドル(※3)の皆さんを含めたミドルシニアのキャリア支援を推進しています。『リクルートエージェント』の転職者データを分析すると、40 ・50 代の転職者数の伸びは、全体よりも大きいことが分かります。

(※3)本記事では、ミドル世代を 40~59 歳としています。

今野: ミドルシニアの転職者数が増えているのは、皆さんが注力してきた証でもあるし、裏を返せばミドルシニアにそれだけの転職ニーズがあるということだと思います。ミドルシニアが能力を発揮できる機会を広げるという意味でとても良い兆しだし、皆さんならまだまだ伸ばしていけるのではないですか。

今野 浩一郎名誉教授

丸川: ありがとうございます。求職者の登録は非常に伸びています。一方で登録した方の活躍機会を拡大するためにはまだ白地もあると感じています。

求人(企業)の変革を進めることで、求職者(個人)のポジティブな変容を

丹治: こうした現状も踏まえ、『リクルートエージェント』が具体的に取り組んできた4つの取り組みを紹介したいです。
短期的な取り組みとしては、普段は求職者に向き合っているキャリアアドバイザーが、リアルな情報を携えて企業にミドルシニアの求職者を直接ご提案すること。そしてもうひとつは、ミドルシニアの活躍を視野に入れながら、企業と一緒に業務を整理して求人化していくことです。
中長期的な取り組みとしては、人事制度が要因でミドルシニアの採用がしづらい企業に対して、制度改定をした場合の企業メリットや他社事例を提示し、制度改定につなげる活動。加えて、ミドルシニア活躍の先進事例を企業取材し、リクルートのメディアを通じて発信する活動を行っています。

リクルーティングアドバイザー組織の部長 丹治の写真健太郎

今野: どの取り組みも企業に向けた施策ですね。個人よりも企業への働きかけに注力しているのはなぜですか。ミドルシニア活躍の障壁は、企業側の事情が大きいと見ているのでしょうか。例えば「求職者側が自身をアピールしきれていない」という個人側の事情はないですか。

丹治: 先生のおっしゃる通り、要因は企業・求職者のどちらにも潜んでいると捉えています。ただ、構造的には企業がもともとミドルシニア人材が持つ豊富な経験を想定して募集要件の設計をしていなかったという背景もあり、そういった求人に対してミドルシニア人材がうまくアピールできていないケースも非常に多く存在します。そのため、ミドルシニアに活躍してもらうという考えの下で採用活動を行う企業が増えれば、求人票の中身も変わり、連動してミドルシニアの求職スタンスや行動もよりポジティブなものへ変容できるのではないかと考えています。

人材要件の整理・求人票の改善によるマッチング成功事例の図解。ある企業のDX関連部門におけるキャリア採用において、旧来の組織構成をベースにした人材要件ではなく、グローバル全体での事業戦略を達成するために必要なDX推進ができる人材を再定義

今野: なるほど。であれば、企業がミドルシニアの採用にさらに積極的になっていくには、どんな要素があるとよいでしょうか。年齢に対する先入観はいまだに根強いと感じますか。

丹治: 企業における年齢への意識は、10年・20年前とはかなり違います。以前の転職マーケットでは「35歳の壁」があると言われていましたが、今では40代以上の転職も当たり前の時代になっていますから。

今野: 人手不足で採用の難易度が上がっているのが要因かもしれませんが、それでも先入観がなくなりつつあるなら、良いことですよね。気持ちや意識の問題ではないなら、あとは合理的に進めていけばいいのですから。追い風が吹いている気がします。
一方で、企業がミドルシニアの採用に積極的になれないのには、「40代ならこの仕事でいくら」「50代にはこの仕事でいくら」のように、人事制度で年齢と職務要件や給与を連動させていることが背景にあるのではないでしょうか。年功序列の人事制度にのっとればそうなってしまうのですが、この前提を取り払えば条件に合う人材はたくさんいると思うんですよね。

丹治: まさに日々お客様と対話しているシーンと重なります。私たちが企業から受ける相談の中でも、現行の人事制度に照らし合わせると不具合が生じてしまうというケースが多くありました。その意味でも、ミドルシニアが自分の個性を活かして多様なキャリアの選択肢に飛び込んでいくためには、まず企業側の変革をご支援することが重要だと捉えています。

『リクルートエージェント』のキャリアアドバイザー組織の部長を務める丸川 智生

本質的に目指すべきは、「ミドルシニア」というよりも「エイジフリー」

丸川: ここまでのディスカッションを踏まえてみると、ミドルシニアの活躍を推進するには、やはり業務を整理・分解しジョブとして捉えていくことを、社会全体で加速させていく必要があるように感じられます。今野先生は日本のジョブ型雇用推進の流れをどのように見ていますか。

今野: 年功序列型の雇用システムだけでは環境変化に対応できなくなることは、日本の人口動態を見れば明らかで、既に1980年代から言われてきたことです。それから今日に至るまで、仕事(ジョブ)を基軸とする雇用システムの試行錯誤が続けられていますが、いまだに苦労しているのが日本の実態だと私は捉えています。
特に日本が苦戦しているのが、ジョブごとの価値づけ。本来、ジョブ型雇用は任せる仕事の難易度(=生み出す価値の大きさ)に応じて賃金が決まるものなので、例えば課長職のAさんとプレイヤーのBさんが同じ賃金になることもあり得ます。価値と報酬が連動していないと健全な競争も起きづらい。例えば、会社に対して大きな貢献をするという点では、管理職へ昇進をせずにプレイヤーでいるという選択もあるはずなのに、プレイヤーでいると漠然と「落ちこぼれ」「楽をしたい」といった印象になってしまう。一つひとつのジョブを明確に定義し、難易度を設定し、会社と従業員の間で共通認識を持つことがまだまだ足りないと感じています。
そういった視点から、リクルートの皆さんが企業に働きかけられることはありますか。

今野名誉教授

丹治: まさに、ジョブを定義するお手伝いですね。ミドルシニアの推進においても、例えばひとりのマネージャーが広範囲に行っていた仕事を整理・分解して小さなジョブに切り出し、ミドルシニア向けに求人化するような伴走支援を行っています。

丸川: ジョブ型雇用が進んでいる会社ほど、ミドルシニアをはじめとした多様な社員を受け入れる土壌が整っているので、必然的に採用力が高い企業が多いんです。そうした取り組み事例をほかの企業にご紹介していくことも私たちにできることだとは思います。

今野: なるほど。確かに採用の時点できちんとジョブを明確にしておくことは重要ですよね。そこでリクルートの皆さんに期待したいのは、ミドルシニアの採用を増やすというよりも、採用マーケットをエイジフリーな世界にしていくこと。この業務ができる人なら、40歳でも50歳でも60歳でもいいよねという考え方が当たり前になるといいですね。
キャリアの初期で育成が必要となる20代は別として、いっそのこと30代以降は年齢を基準にする考え方をなくしてもいいと思います。その時期から社会や企業が年齢に関係なくフェアな接し方をしていれば、50代になっても60代になってもチャレンジする個人が増えていくかもしれませんから。

労働移動の量を増やすよりも、採用・転職の一つひとつにこだわり抜いてほしい

丸川: 企業に向けた取り組みが重要な一方で、私たち『リクルートエージェント』には、日頃から求職者の皆さんに向き合っているキャリアアドバイザーの存在も欠かせません。個人向けのアプローチとして何が必要か、今野先生はどう思われますか。

今野: 年齢を重ねれば体力も落ちるし、若い頃と同じように働くのは大部分のシニアにとって難しいことかもしれません。また、転職ではなく同じ会社に勤める場合でも、50代で役職定年、60代で定年→再雇用といった出来事を経験する人が多く、そうなればポジションや年収が下がるケースもあるでしょう。つまり、ある段階でキャリアの方向を変え、担当する役割を変える必要があります。でも、それは頭では分かっていても、ひとりで気持ちの切り替えをするのは簡単ではないはずです。だからこそ、キャリアアドバイザーの皆さんが客観的かつ専門的な視点でサポートをしていくことは非常に大切なのではないでしょうか。

対談の様子

丸川: いただいたアドバイスを基に、人としてできることを追求していきたいと思います。最後に人材紹介業である『リクルートエージェント』は社会にどんな役割を果たすべきか、先生からご意見を伺ってもよろしいでしょうか。

今野: 国としては円滑な労働移動の促進を政策に掲げていますが、それを待つまでもなく、労働の供給が減少する中で経済成長を図るには、労働移動を通して人材の最適配置を社会全体で図ることが大切です。その中で、皆さんが社会的に果たしている役割は非常に大きいと思います。だからこそ私が期待を込めてお伝えしたいのは、労働移動を量的に増やすこと以上に、一つひとつの質を上げることにこだわってほしいということ。一口にミドルシニアといっても千差万別。一人ひとりにきめ細やかな対応が求められると思います。

丹治: おっしゃる通りですね。普段キャリアアドバイザーが面談の際に心がけていることにも通じると思います。ミドルの方々は特に置かれている状況も一人ひとり違うため、個々のスキルセットやキャリア志向を的確に把握し、それに基づいた支援を行いたいと思っています。

今野: 実現までの道のりは簡単ではないと思いますよ。でも、それはある意味で当たり前なんです。なぜなら、日本は少子高齢化という社会課題の“先進国”だから。世界中のどこにもお手本はないんですから、苦労して当然です。それくらい難易度の高いことなのだと腹をくくって、顧客である企業と手を取りながら一丸となって取り組んでくれることに、私は期待したいです。


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