【後編】対談:ドミニク・チェン×近藤玄大が語る、カルチャーを反映したプロダクトの魅力

【後編】対談:ドミニク・チェン×近藤玄大が語る、カルチャーを反映したプロダクトの魅力

文:モリジュンヤ 写真:依田純子

ハードもソフトも、グローバルに展開することが前提になってきている。フロンティアにいる二人が語る、ユニークネスの発揮の仕方。

スタートアップとして新しいビジュアルコミュニケーションアプリ「Picsee」の開発に取り組みながら、情報環境に関する多数の著書を執筆されているドミニク・チェン氏と、デザインとテクノロジーを駆使した動く義手「handiii」を開発している近藤玄大氏による対談。

前例がないフロンティアにテクノロジーを駆使して挑戦するお二人に、どのように日本という土地やチームの特色をサービスやプロダクトに反映しているのか。スタートアップメディア「THE BRIDGE」でエディターを務める他、「Meet Recruit」 を始め複数の媒体でイノベーションやテクノロジーについて執筆活動を行うモリジュンヤがお二人に話を伺った。

チームとしてユニークネスを発揮する

モリジュンヤ(以下、モリ) お二人ともリーンスタートアップ的に、リリース後にユーザーの反応を見て、少しずつサービスやプロダクトの形を変えてきています。しかし、変化しながらも、やりたいことの軸は変わってない印象を受けます。お二人がサービスやプロダクトを開発する際に、大事にしていることはありますか?

ドミニク・チェン(以下、ドミニク) まず「自分はこれが作りたい」というエゴを持つことが大事だと思います。同時に、ユーザーとしての目線を忘れた瞬間、コミュニティから乖離してしまう。そうすると、サービスを作っても使ってもらえなくなってしまうので、常にユーザーの目線も持つようにしていますね。自分のエゴをどこまで信じてどこまで否定できるか。常に監視システムのようなものを自分に向けるようにしています。難しいですけどね。

近藤玄大

近藤玄大(以下、近藤) 実際にユーザーとなる人たちが「handiii」を使って楽しそうにしている姿を想像できるかどうかを大切にしています。ハードを担当するエンジニアと、ソフトを担当する自分、そしてデザイナーの3人が互いの強みを持ち寄ることで、希少価値が高まると考えています。なので、exiiiとしてはその掛け算が生まれるようなものを作るようにはしていますね。

ドミニク exiiiも3人で創業されてるんですね。ディヴィデュアルも3人で創業しているんです。うちは最近社是を「people will always need people」というものに変えました。自分たちは作ったサービスの向こう側に人間の気配や温度を感じられる瞬間がアプリを作ってよかったなと感じるので、そこを世界で一番考えていこうといっています。必ずしも技術オリエンテッドではなく、チームとしての思想的なユニークネスを重視することを改めて意識するようにはなっています。

各地域のカルチャーをプロダクトに反映できるか

モリ フロンティア領域で新しいことにチャレンジしていると、技術進歩やトレンドの変化もすさまじいものがあるかと思います。テクノロジーの進化にはどのように向き合っていらっしゃるのでしょうか?

近藤 exiiiはグローバルなチームにしたいと思っていますが、東京でスタートしてよかったと考えています。先日、「SXSW」という北米のオースティンで開催されるテクノロジーの祭典に出展してきました。そこでかなりの反響をもらうことができました。秋葉原に篭ってじっくりと開発したからこそ、細部までデザインにこだわれたと思っています。すぐ近くで様々なトレンドが飛び交っていると、なかなか自分たちのこだわりを持ち続けることは難しい。技術が最新であれば良いわけではないので、トレンドには乗るけれど、飲み込まれないようバランスをとっておくことが大切ですね。

ドミニク 海外を見てみて、日本のプロダクトには何か特徴があったりしますか?

近藤 工夫が細いなと思いますね。客観的に見て、デザインにここまでこだわってるチームはいないと思います。こういう職人気質な部分は日本的だなと感じます。アメリカは思い切ったことを先進的に試すなど大胆なアクションをとる印象で、こだわりをもって細かな工夫をこらすのが、日本ならではのスタンスの取り方なのではないでしょうか。

handiii

ドミニク それは面白いですね。メッセージアプリの世界は、地域によって主流となっているサービスが違うんですよね。最初に出てきたサービスが強いということなのかもしれないですが、何かしら文化的背景が関係しているかもしれないと考えていて。

モリ 日本ではLINEが有名ですが、北米ではWhatsapp、中国ではWeChat、ベトナムではViberというアプリが人気だったりと、地域によってメジャーなアプリが異なっていますね。

ドミニク そうなんです。一昔前までだったら、ひとつのアプリでグローバルに展開することを目指して興奮していたんですが、最近では、ひとつのアプリが世界を席巻することよりも、同じ領域に多様なアプリが登場することのほうが面白いのでは、と考え始めています。

モリ 日本に拠点を構え、日本に縁のあるメンバーでチームを組んでいる以上、何かしら日本のカルチャーを反映したプロダクトにしたいとは考えているんですか?

ドミニク それは本当にそう思いますね。いわゆるIT以外の日本の特性について普段も話したりしていて、たとえば日本の発酵食品は世界的に見てもすごいんですよね。いまの情報技術の基礎的な部分は西洋で考えられ構築されてきましたが、日本やアジアならではの発想や感受性みたいなものをITの世界にインポートしたいと考えています。日本にいるアドバンテージを150%活かしていきたいなと思います。

モリ グローバルな時代に、その土地の文化を色濃く反映していきたいと考えるのは面白いですね。

ビジョンを描いてユーザーの体験をデザインしていく

モリ お二人ともビジョンを持って新しいプロダクトを作り、そのプロダクトを使ったユーザーの行動や意識を変えていると思います。今当たり前のものではなくても、プロダクト次第で意識や行動は変えることができる。そうなると、どんな価値を提供していきたいのか、ということがとても重要になるかと思いますが、お二人の軸について聞かせてください。

ドミニク 最近、Wiredで翻訳記事(iPhoneよ、さらば──ジョブズなきアップルの「Apple Watch」開発ストーリー ≪ WIRED.jp)が掲載されたのを読んだのですが、AppleがApple Watchの開発に込めた思想が面白いと感じています。Appleはユーザーの注意を奪いすぎているiPhoneを自ら否定するために、Apple Watchを開発したそうです。私もアプリを開発する立場にありながら、人の注意関心を奪いすぎるという現象が起きていることは、気になっていたんです。このAppleの姿勢には、一人の人間としてすごく勇気付けられるというか、希望を与えられる。人間の自然な状態を追求するべく技術に関わってることが伝わってきます。「おかしいな」ということは、おそらくみんな感じてる。だからといって、iPhoneを使うのはやめさせるわけではない。もっと違う誘導の仕方を考えて、実行していくようなやり方は素晴らしいですよね。

ドミニク

近藤 ドミニクさんのお話を聞いていて、似ているかもしれないと思ったのは、お互いに今まで気づかれなかった潜在ニーズを汲んで、多くの人たちが集まるプラットフォームを作っているところ。ドミニクさんたちは画像を中心としたコミュニケーションで、僕たちは義手を作りたいと考えている人たちが集まる場所。ビジネス的には美味しいわけではないですが、自分が持っている技術を活かしたいと考えている人は世界中にたくさんいて、オープンソースにしたことで徐々に人が集まっていて盛り上がり始めています。アプリとハードという違いはありながらも、似ている部分があるなと。僕が楽しいと感じる瞬間はいろんな人と同じ方向を向いてモノづくりをして、「みんなこんなことやりたかったんだね」って感じる瞬間なんです。

ドミニク 俯瞰して見ていくと、新しい言語を作っているようにも見えますね。まるで、プログラミング言語の設計者のような。システムを提供すると、ユーザーによって想定外のことをされることが、とてもおもしろい。再現可能性もあまりないことですが、お金で買えない体験だなと常々思っています。

モリ 「楽しい」という気持ちが行動の源泉になっているんでしょうね。

近藤 それはありますね。

ドミニク きっとそれがシステム開発を行っている一番大きな理由ですね。

プロフィール/敬称略・名称順

ドミニク・チェン
株式会社ディヴィデュアル
共同創業取締役

1981年東京生まれ。フランス国籍。博士(東京大学、学際情報学)。NPO法人コモンスフィア(旧クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業取締役。主な著書に『電脳のレリギオ:ビッグデータ社会で心をつくる』(エヌティティ出版、2015年)、『インターネットを生命化する〜プロクロニズムの思想と実践』(青土社、2013年)、『オープン化する創造の時代〜著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』(カドカワ・ミニッツブック、2013年)。

近藤玄大
exiii株式会社 代表取締役

1986年大阪生まれ。2011年東京大学工学系研究科修士課程修了。在学中は筋電義手をはじめとするブレイン・マシン・インターフェイスの研究に従事する。その後、ソニー株式会社にてロボットティクス技術の研究と新規事業創出に携わる。2013年6月より大学時代の先輩とともに業務外で再び筋電義手の開発に取り組み始め、2014年6月に独立。現在はexiii株式会社を設立。主な受賞歴は、「日本機械学会三浦賞」「JamesDysonAward2013国際2位」「GUGEN2013大賞」「第18回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞」。

モリジュンヤ
編集者・ライター

1987年2月生まれ、岐阜県美濃加茂市出身。横浜国立大学経済学部卒業後、『greenz.jp』編集部を経て独立。『THE BRIDGE』『マチノコト』など複数のメディアの運営に携わり、編集デザインファーム inquire を立ち上げる。社会の編集と未来の探求をテーマに、幅広く執筆を行っている。NPO法人スタンバイ理事、一般社団法人HEAD研究会フロンティアTF副委員長。

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