社内外の協働で実現!コスト削減と環境負荷低減を両立させるオフィス改革の中身とは?

リクルート ワークプレイス統括室の羽根田 久子(左)と太田 雅子(右)

社会全体として、CO2をはじめとしたGHG(Greenhouse Gas=温室効果ガス)排出量削減の必要性が叫ばれています。リクルートでも各種取り組みを推進中。そのひとつが、環境に配慮したオフィスの運営です。働く場所にまつわる各種施策を推進しているワークプレイス統括室(以下、WP統括室)では、オフィスの環境負荷低減に向けてどのような取り組みを行っているのでしょうか。WP統括室の太田 雅子、羽根田 久子にこれまでの活動や今後の展望を聞きました。

従業員の活躍を支えるオフィス改変は、環境負荷の低減にもつながる

― リクルートのWP統括室とは、何に取り組んでいる組織ですか。

太田: 私たちは、オフィスをはじめとする、リクルート従業員の「働く場所」の企画運営を担っており、従業員が個々の持ち味を発揮しながら活躍できるような新たなオフィスのあり方を日々検討しています。そうしたオフィス変革が始まった経緯は、もともと2015年頃からの「働き方変革」を受けてのこと。世の中に先駆けてリモートワークの推進やサテライトオフィスの設置などを実施しており、オフィスの中も固定席を撤廃してフリーアドレスにするといった取り組みを行っていました。特にリモートワークは、コロナ禍によって一気に浸透。リクルートでは今や出社を前提としない働き方が当たり前になり、出社率は全国平均で30-40%台で推移していて、かつてほどのオフィス面積は必要なくなっています。

また、2021年にそれまで事業・機能別に分かれていた会社が株式会社リクルートとして統合。会社の垣根が取り払われたことをきっかけに、事業や部門を越えた協働が加速しており、その動きを促進していく意味でも、オフィスの再編は重要な施策のひとつでした。

リクルート ワークプレイス統括室の太田 雅子

― 働き方や仕事のやり方を変えていくために、働く場所も変えようとしたんですね。そうした動きが、GHG排出量削減にどう影響しているのでしょうか。

太田: オフィスの再編に伴って、ここ数年は入居していた賃貸オフィスを退去するケースが度々あったのですが、その際に原状回復工事や什器類の撤去(廃棄)をせず、そのまま次に入居する企業へ引き渡すという、いわゆる「居抜き退去」を積極的に行っています。2021年以降5つの拠点で実施し、広さにして合計約1万平方メートルのオフィスを引き継ぎました。これらは工事や廃棄物の運搬・処理を行う際に発生していたGHGの削減につながる取り組みなのですが、実は、当初は環境負荷の低減を想定していたものではありませんでした。

最初は、オフィスの退去に伴う費用をなるべく抑えたいという発想。世の中でもオフィスの居抜き事例が増えていた時期だったこともあり、リクルートでもできないかとビルオーナーに相談したのが始まりでした。すると、思いのほかオーナーさんにも前向きに検討していただけたんです。ビルオーナーからすれば、工事をせずにそのまま新たに入居してもらえた方が、空室期間が少なくて済むため、その分の賃料が見込めます。また、新たに入居する会社にとっても、会議室やロッカー・デスク・椅子などがある程度揃っているので、準備が少なくて済む。3者に経済的メリットがあるという理由で進めていました。

当初、環境負荷の低減を意識していた点といえば、「ゴミの廃棄量が減る」といったことでしょうか。後に、GHG排出量に換算すると居抜きで返却することに一定のインパクトがあると分かったんです。GHG排出量という指標を通じて、私たちの取り組みが環境負荷の低減ならびに企業の価値へつながっているということを知った時は、とても嬉しく感じました。

リクルート ワークプレイス統括室の羽根田 久子(左)と太田 雅子(右)

― リクルートでは既存オフィスを集約する一方で、2021年には「九段下オフィス」を新規に開設しています。このオフィスでも、環境に配慮した施策が行われているのでしょうか。

太田: 九段下オフィスは、元は大学のキャンパスだった築60年の物件をリノベーションしたオフィスです。環境への配慮という意味では、既存の状態をなるべく活かしながらオフィスに再生したことが挙げられますね。そもそも大学と企業では、必要な設備が異なります。従来のオフィスと同じようにするなら、電源や通信環境を整備するために天井や床にケーブルを張り巡らせるような大幅な工事が必要でした。しかし、九段下オフィスはワークプレイスの実験場としての意味合いもあったので、従来のオフィスの常識にとらわれず、電源はモバイルバッテリーを使い、無線LANとスマートフォンで通信するという、「ケーブルレス」なオフィスに。ケーブルをなくすことでより自由度高く空間を使えるようになり、築古の物件を最小限の工事でスマートオフィスによみがえらせることができました。

九段下オフィスの写真

元は大学のキャンパスだった築60年の物件をリノベーションした九段下オフィス。電源はモバイルバッテリーを使い、無線LANとスマートフォンで通信するという「ケーブルレス」なオフィスに

― 開設から3年が経ちましたが、どのような成果が出ていますか。

太田: ありがたいことに、最新のオフィス事例として見学したいというご相談を多数いただいており、累計300社に九段下オフィスを見ていただきました。その意味では、新たな働き方に対応したオフィスのあり方や、環境負荷の低いオフィスを社会に提示するという役割を果たしていると思います。九段下オフィスを見学していただいた企業の中には、柔軟な働き方に適したオフィスを求めて、リクルートが退去したオフィステナントに居抜きで入られたところも。いずれのオフィスもさまざまな工夫を凝らして構築した思い入れのある空間なので、再び価値を見いだし、さらには環境に負荷をかけず利用いただけるという相乗効果を創出できていることに、より一層の取り組み意義を感じます。

ビルオーナーなど、みんなにとってのGHG削減メリットを意識する

― ここまでお話しいただいたように、初めはオフィス変革の“副次効果”としてGHG排出量が削減されていたように感じます。そこから、環境への配慮も念頭に置くようになったのはどうしてですか。

太田: やはり、効果が数字として見えてきたことで、ワークプレイス施策を通じて創出できる「環境」という側面での新たな価値の重要性を、担当者である私たち自身が気づけたことが大きいと思います。従来、オフィス移転の際は、それまで使っていたものを廃棄して新規に購入することが当たり前で、そうした方がコストメリットもありました。それが、居抜きなどの取り組みを経て、なるべくリユースしていく発想に変わっていったんです。例えば、コロナ禍でデスクに置かれていた飛沫防止の「アクリル板」。全社で使われていたものを集めると相当な数になるのですが、室内の若手メンバーから自発的な提案があり、廃棄せずに一時保管し、活用先を検討しています。

― 経営の重要テーマにサステナビリティが掲げられるようになったことも影響していますか。

羽根田: もちろん経営アジェンダであることは理解していますが、現場の私たちの意識としては、それよりも純粋に「もったいない」ですね。社会的にもリユースやリノベーションは当たり前の価値観になってきている。コストが安いからといって、まだ使えるものを簡単に廃棄するのはやめようという意識が、ここ数年のオフィス再編を通して皆に根付いてきたように感じます。日々の業務の中に、GHG排出量削減へのヒントはたくさん隠されていると思います。従業員一人ひとりが、ちょっと手を止めて自身の業務の中で環境に良い取り組みを意識するだけでも、大きな変化が生み出せるのではないかと期待しています。

リクルート ワークプレイス統括室の羽根田 久子

― GHG排出量削減を主眼に置いた取り組みも始まっているのでしょうか。

羽根田: 拠点ごとに、再生可能エネルギーを使用した電力への移行を進めています。まずは、自社ビルだった銀座8丁目ビル(2021年に売却)と、一棟借りをしている九段下オフィスを再エネ100%に切り替え。その後、テナントとして入居している拠点についても順次交渉を進めており、2023年度実績では、リクルートが全国に構える89拠点中、17拠点で再エネ由来の電力を利用しています。拠点数の割合ではまだまだですが、この17拠点には、リクルートの電力使用量の41%を占める本社拠点「グラントウキョウサウスタワー」も含まれており、合計するとリクルートが使用する電力の69%が再エネ由来となっています。

― 自社ビルや一棟借りの場合はまだ分かるのですが、ビルの一部にテナントとして入っている拠点も、簡単に切り替えられるものなのでしょうか。

羽根田: 確かに、難易度は高いのですが、インパクトも大きい施策のため、試行錯誤しながら実現の道を探り続けてきました。最初にビルオーナーへ相談をしたときも、オーナー側のさまざまな事情があって、すぐに合意できたわけではありません。ただ、ビルオーナーにとっても、再エネ化をすることはビルの付加価値を上げるという意味でメリットになり得ます。ビルオーナーの担当者と対話し続けることで、私たちテナントからのニーズもくんでいただき、社内交渉を進めてくださった例もありますね。

一方で、拠点によってはビルオーナー側の意向で再エネに切り替わったところもあります。 再エネに限らず、GHG排出量削減は自社単独で進められるものではないため、居抜きの経験など経て、ビルオーナーを含むステークホルダーそれぞれにとってのメリットを意識して方法論を考えるようになりましたね。施策を進めるに当たっては、関係する皆さんから同意をいただくことを大事にしています。

リクルート ワークプレイス統括室の羽根田 久子(左)と太田 雅子(右)

目指すは、環境に配慮したオフィスが“価値の創造”につながる世界

― おふたりは、オフィスで環境負荷の低減に取り組む意義をどのように捉えていますか。

太田: 先ほど羽根田さんが言ったように、オフィスはリクルートの意向だけでは変えられないことも多いからこそ、周囲に働きかけることで取り組みをリクルートの外に広げていける効果もあると思うんです。例えば照明のLED化(省電力化)。リクルートが入居している拠点の中には、まだあまり進んでいないところもあります。私たちが入居しているスペースから、ビルオーナーと協力してLED化を進めることで、ビル全体がLED化するきっかけになるかもしれません。

羽根田: オフィスは人が集う場ですから、環境負荷の低減に取り組んでいることを周知する意義を感じています。リクルートの従業員に意識をしてもらうのはもちろん、九段下オフィスがたくさんの企業に見学していただいているように、来訪される方々にも発信できます。リクルートとしての環境に対する姿勢を示し、社内外に共感の輪を広げる役割を担える、そんなオフィスづくりにこれからも挑戦したいですね。

リクルート ワークプレイス統括室の太田 雅子(左)と羽根田 久子(右)

― そうした視点を踏まえて、今後はどんなチャレンジをしていく予定ですか。

太田: 大がかりなオフィスの再編・リニューアルは一区切りがついたところですが、WP統括室としては、これで完成だとは思っていません。働き方がさらに進化すれば、それにあわせてオフィスのあり方も変わっていくはずですし、環境への配慮も、まだまだ踏み込める余地があるはず。そういう意味で、次にチャレンジしていくテーマを探究しているところです。私個人としては、リクルート単独ではなく、ビルオーナーや地域の方々と一緒に環境問題に取り組んでいくことで、テナントの一社として、ビルや地域の発展にも貢献できたらよいなと思っています。

羽根田: 私たちがここ数年取り組んできたオフィスのリニューアルは、社内外の垣根を越えた協働・協創が生まれる場「CO-EN(公園/Co-Encounter)」を目指したもの。その意味では、オフィス環境がリクルートの個人やチームの可能性を引き出し、新たな価値の創造につながることが理想の姿です。どう実現するかはまだ模索中ですが、環境に配慮したワークプレイスの存在が、事業上もメリットになるような世界観をつくっていきたいです。

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