スタディサプリ

リクルートでは、オンライン学習動画サービスの『スタディサプリ』を活用し、さまざまな子どもたちに対して学習支援を行っています。その一つが不登校の子どもたち。自治体が不登校の子どもを対象に運営している適応指導教室(教育支援センター)と連携し、新たな学習支援のあり方を模索しています。『スタディサプリ』と自治体の連携の結果、実際の不登校の子どもたちにはどのような変化が生まれているのでしょうか。リクルートと連携し学習支援に取り組む機関の一つである名古屋市の適応指導教室「なごやフレンドリーナウ」の河村 知宜所長と、リクルートで主に義務教育年代の児童生徒の学習支援事業(特に不登校や困窮世帯、放課後教室の子どもたちを対象とした)を手掛ける森崎 晃に話を聞きました。

「なごやフレンドリーナウ」の河村 知宜所長とリクルート森崎 晃

左:なごやフレンドリーナウ 河村 知宜 所長/右:株式会社リクルートDivision統括本部まなび教育支援Division 公教育支援推進部 森崎 晃

適切でない学習法を繰り返して自己肯定感が下がってしまう、悪循環を食い止めたい

― まず河村さんにお聞きします。今、不登校の子どもたちを支援する現場では何が起きているのでしょうか。

河村: 全国的に不登校の児童生徒が増えています。文部科学省の発表では、令和元年度(2019年度)が全国で18万人だったのに対し、令和2年度(2020年度)は19万人と1万人も増加<出典:児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査(令和2年度)、文部科学省>。まだ発表前ですが令和3年度(2021年度)は20万人を超えるだろうと予想されています。名古屋市でも同様の勢いで増加しており、不登校は社会課題としての深刻さを増しているのです。

この事態を受け、我々のような不登校の子どもたちの受け入れ機関でも体制の強化を図っているものの、なかなか追い付かない状態。本来であれば子どもたちの適応指導や教育相談のために一人ひとりとじっくり時間を取りたいものの、どうしても一人ひとりと向き合う時間が限られてしまい、“広く浅い”支援にならざるをえない場面があります。

― 続いて森崎さんに聞きます。リクルートはなぜ不登校の子どもたちの支援に向き合っているのですか。

森崎: 『スタディサプリ』はもともと、「経済、地域、その他さまざまな制約を越えて、世界の果てまで最高の学びを届けよう」という発想で生まれたサービスです。その視点で社会を見渡してみると、適切な学びの機会が実現できていない顕著なケースの一つが不登校の子どもたちでした。

私たちが注目したのは、「学校へ行かないために十分な学びの機会がないこと」だけではありません。適応指導教室では学習の時間が設けられているものの、基本的に自習形式であり、子どもたちはドリルや問題集などに向き合っています。でも、例えば「二次方程式」の授業を受けずにいきなり問題を解こうとしても、どうしていいか分からないですよね。解答を見てもなぜそれが正解なのか理解ができず、ますます勉強が嫌いになってしまう。かといって学校のように先生が授業したり、大人が一人ひとりに付きっ切りで勉強を教えたりするのは現実的に不可能。勉強が分からない状態が続くと、自己肯定感が育たず社会に参加すること自体を諦めて引きこもってしまう場合もあります。だからこそ、『スタディサプリ』の授業動画が、不登校の子どもたちの「できた」「分かった」につながり、学びを楽しいと感じるきっかけになるのではないかと考えました。

自分のペースで繰り返し学べることが、心からの「分かった!」を引き出す

― 不登校の子どもたちは、実際どのように『スタディサプリ』を活用しているのですか。

河村: 自分の興味や関心にあわせて授業動画を選んで視聴できるスタイルが、不登校の子どもたちには受け入れてもらいやすいです。1本の授業動画も5分~10分程度と集中力を切らさずに見ることができるサイズ。単元の内容をコンパクトに理解できるので、「次の動画も見てみよう」「演習問題を解いてみよう」と自立的に学ぼうとしている子どもが増えたと感じます。

また、動画だからこそ自分のペースで学べるのが良いですね。「分からないところは何度も見かえす」、「今の学年に関係なく、つまずいた時点までさかのぼって学び直す」といったことができる。不登校の子どもたちの中には、学校の授業で分からないことがあっても言い出せず、授業を苦痛に感じていた子もいます。そんな子どもが、自分が分かるまで授業動画を見て、「そういうことだったのか!」と心から納得をした瞬間に立ち会ったことがありました。理科の実験動画を見て、「自分もこの実験をやってみたい!」と目を輝かせた子もいます。学ぶことの楽しさ・面白さに触れる入口になっているようです。

森崎: 『スタディサプリ』では子どもたちの学習履歴データが取れるため、この情報を分析し支援や声かけにも役立てています。例えば、学習履歴から子どもたちの主体性の芽生えが読み取れること。初期段階では、自学年の単元をバラバラに視聴している程度ですが、主体性が育まれていくと不登校になった時点や学習空白期間の最初までさかのぼった学習が始まり、継続的に取り組むように。さらに主体性が高まると、今後を見据えた目的意識のある学びが増えていきます。例えば、「週に一度の保健室登校で担任の先生と話す時間が楽しみだから、先生の担当科目だけは先取りして勉強する」といった行動が出てくるようになる。このような学習の傾向から子どもの変化を読み解き、大人たちの支援の在り方の参考にしています。

また、年に一度の取り組みの評価の際には、子どもたちにアンケートを取っており、「自己肯定感」の高まりを測定。このアセスメントでは、「自分の得意・不得意に気付いた」という設問を用意しているのもポイントです。不登校になった原因は人それぞれですが、自分が得意だと言えるものが一つもなく、自信が持てないまま学校へ行けなくなってしまった子どもが少なくないのです。そこで、何か一つでもいいから得意な(好きな)科目を見つけてもらうのも、『スタディサプリ』で実現したいこと。一方で、得意だけでなく不得意を自覚することも大事だと思っています。社会に出れば、自分一人ではできないことにもたくさん直面するからこそ、「自分の不得意なことは周囲と協力する、教えてもらう」という発想も身に付けてほしいからです。

スタディサプリに取り組む前とくらべて

実施時期:2018年11月(リクルート調べ) 対象者:期間中にスタディサプリを利用した児童生徒 対象者人数:55名

リクルート社員も現場で直接支援。多様な大人が子どもに合った支援を実現する

― 河村さんは、リクルートのような民間企業が公的な教育機関に介在することをどう捉えていますか。

河村: 我々だけでは難しい部分を、一緒になって実現してもらっていると感じます。特に、「なごやフレンドリーナウ」で子どもたちの教育支援を行う学習支援スタッフとして、リクルート社員の皆さんも現場にいるのが大きいですね。市の職員として働く相談員は、定年退職した元教員が中心。学習指導の経験は豊富なのですが、相手は学校という存在に拒否感を持っている子どもである場合も少なくなく、うまく馴染まない場合もあります。そういう場合に、良い意味で先生っぽくない姿勢で子どもたちに寄り添ってくれる存在がいるのは非常にありがたいですね。立場は違っても同じ気持ちで子どもに向き合ってくれるから、私が所長で着任したばかりの頃は市の職員とリクルート社員の見分けがつかないくらいでした。

森崎: 確かに、名古屋市での事業を委託いただく上では、『スタディサプリ』の機能よりもリクルートの従業員が常駐し、一緒に子どもたちの支援にあたることを評価いただいた側面が大きいと思います。リクルートのスタッフは必ずしも勉強を教えることを専門にしてきた人ではないけれど、「数学って難しいよね」なんて共感しながら子どもたちの頑張りに伴走するようなスタイルの人が多い。それぞれのバックグラウンドを生かして子どもに向き合える体制ができているのは、子どもたちが多様な大人(社会)とのつながりを持つ意味でも非常に意義があることだと思います。

河村: リクルートの皆さんが入ってくれたことで、子どもたちが伸び伸びと学んでいるケースが増えたように感じます。学校では分からないことを分からないと言えなかったかもしれないけれど、ここでは自分の分からないことにとことん向き合うための『スタディサプリ』や支援スタッフがいてくれる。分からないことが分かったときの楽しさって、学びの本質だと思います。職員の中にはいずれ学校現場に戻っていく者もおりますので、彼らにとっても非常に良い経験になっています。

― 最後に、不登校という社会問題に向き合う上でさらに目指したいことを教えてください。

河村: 今、教育委員会では不登校対策として校内に新たな居場所(他の地域では「校内フリースクール」と呼ぶこともあるようです)づくりに着手し、運営を開始しています。子どもたちへの多様な支援の形、学びの場所があることが、多くの子どもたちを救うことにもつながるはず。我々もそういった関係先と連携を進めていきたいと考えています。情報管理のハードルはあるものの、ICT教材の学習データなどを使った連携ができると、さらに子どもたちに合った個別性の高い支援が可能になるのではないでしょうか。

森崎: 個人的な考えですが、義務教育におけるICT活用の認識を変えていきたいです。『スタディサプリ』が実現したい世界は、学力を伸ばすことも重要ですが、それ以上にこれまでの仕組みでは学びによる成功体験を積めなかった子どもに、その機会を提供すること。「できた」「分かった」という経験の積み重ねで自己肯定感が醸成されることや、「自分にはこんな可能性が眠っているかも?」と人生を変えるような学びの体験を日本中の子どもたちに届けたい。それが不登校の子どもたちがエネルギーをため自己肯定感を高めていくことにもつながると思っています。

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