リクルートでは、2023年7月24日(月)から27日(木)の4日間、オンラインイベント『高校生Ring WEEK(後援:文部科学省)』 を開催しました。高校生向けのアントレプレナーシップ・プログラムである『高校生Ring』から派生した本イベントは、高校生に何を届けようとしているのでしょうか。イベントを担当したリクルートの浜田 なつかに、企画から開催までを振り返ってもらいました。
アントレプレナーシップを発揮している多様な先輩と出会えるイベント
― まずは、『高校生Ring WEEK』の基となった『高校生Ring』についてご紹介ください。
『高校生Ring』は、リクルート社内で約40年に渡って実践されている新規事業提案制度「Ring」 のノウハウを活かした、アントレプレナーシップを育むための教育プログラム。半径5mの身近な気づきからビジネスアイデアを考えてみようという仕立ての学習機会です。このプログラムを開発するに至ったのは、リクルートが『スタディサプリ』 を通じて全国の高校生や先生方と接点を持つ中で、ある声に注目したからでした。
ひとつは、高校の教育現場で「探究学習」が必修科目となったこと。まだ始まったばかりで学校側もノウハウを求めており、この科目にどう向き合うべきかといった意見が挙がっていました。また、「キャリア教育」に関する悩みも理由のひとつです。世の中では、AIなどテクノロジーの進化に伴って「将来なくなるかもしれない職業○○選」といった情報があふれています。何か大きな変化が起こる雰囲気を高校生も感じ取っているものの、自分自身がどう変化すれば良いのか、今の自分が何をすべきかと悩んでいる。こうした悩みを解決するヒントとしてアントレプレナーシップを育む機会を提供すべく、『高校生Ring』はスタートしました。
アントレプレナーシップ=「起業家精神」と訳されることも多いですが、私たちはこの力を起業という限られた範囲でのみ発揮されるものではなく、「自ら問いを立て、自ら行動し、自ら変化を起こす力」と定義しています。今の時代は、用意された正解がなく、自分の意思で人生を切り拓いていく力が求められる時代。『高校生Ring』は、全ての高校生にチャレンジしてほしい機会だと思っています。
『高校生Ring WEEK』を担当したリクルートの浜田 なつか
― 従来の教育プログラムだけでなく、トークイベント形式の『高校生Ring WEEK』を新たに開催したのはなぜでしょうか。
『高校生Ring』は、2021年から2回の立ち上げ期間を経て、2023年の今年から本格運用を開始しています。過去2回の実施で見えてきたのは、アントレプレナーシップを「自分ごと化」する難しさ。高校生にとって、ビジネス感度の高い一部の生徒に必要な力という印象がまだ根強く、自分に必要な学びなのかと疑問に感じているケースもありました。また、高校生から、「みんなに必要な力だとは思うが、具体的に自分がどんなシーンでアントレプレナーシップを活かせるのかイメージしにくい」という率直な意見もいただきました。
それならば、まずは実際の社会で活躍する大人たちを知ってもらい、自ら考え、行動し、道なき道を切り拓いている実例を示すことがヒントになるのではないか。そんな発想で企画したのが『高校生Ring WEEK』です。できるだけ多様なアントレプレナーシップのあり方を見てもらうべく、1日だけのイベントにせず4日間のスペシャルウィークという仕立てに。スペシャルメッセージをいただいた謎解きクリエイターの松丸 亮吾さんを含め、計7名のゲストに経験談や高校生へのアドバイスをいただき、正解はひとつではなく無限にあることを感じられる場になるよう、設計しました。
大人の押し付けでなく、高校生目線のイベント運営を重視
― イベントを企画する上でどんなことにこだわりましたか。
ひとつは、『高校生Ring』の関連イベントですが、『高校生Ring』の参加有無を問わず、できるだけ多くの高校生に機会を届けることです。私たちのアントレプレナーシップ教育の考え方について共鳴いただいた文部科学省の後援もいただき、オンライン公開することで全国どこでも視聴可能な開かれた場になりました。
トークテーマを設定する上では、社会人の価値観でアントレプレナーシップを一方的に教える構造にならないように注意を払いました。また、世の中を広く見渡せば、キラキラとしたビジネスパーソンが格好いい話をする動画はたくさんあります。でも、それでは高校生の日常とは距離があり過ぎて、「自分にはとてもマネできない…」と壁を感じてしまうかもしれません。
そこで、イベントでは大人の視点でトークテーマをデザインするというより、高校生が聞きたい内容を、高校生目線で話してもらうようにしました。事前に質問を募集し、イベント当日もタイムリーに入ってくる質問にできるだけ回答するように。そのため、グローバルな活動をするゲストが登壇したときは、「英語はどれくらい話せますか?」と高校生らしい無邪気な質問が飛び込んできたこともあったくらい。彼らの率直な好奇心を大人が受け止め、真摯に向き合うことを大切にしていきました。
― トークイベントは、「ソーシャル」「ローカル」「ものづくり」という3つのテーマで日替わりゲストが登壇するという形式でした。このテーマ選定にはどんな意図があるのですか。
これは、なるべく多様なキャリアストーリーを提示することと、過去の『高校生Ring』でエントリーされたビジネスアイデアの傾向から見えた高校生のニーズを汲み取った結果です。1つめの「ソーシャル」は、社会課題への関心の高さに応えたもので、実際に社会課題の解決に取り組むゲストに登場いただきました。2つめの「ローカル」も地域課題を解決するアイデアが多かったことに起因します。今の地方の若者は、地域に根差しながら自分のやりたいことを実現したいという志向を持つ人も増えていると聞きますし、そのための選択肢も拡大しています。だからこそ、私たちもローカルで活躍する大人を知ってほしいと考えました。そして最後の「ものづくり」は、自分のアイデアを実際に形にするための具体的なプロセスを知ってヒントにしてほしいという意図があります。
いずれのテーマ・ゲストについても、これが正解ではなくあくまでもひとつの事例として提示。「人によって全く違うことを言っているな」「向き合っているものは違うけれど、スタンスは共通しているな」と、高校生自身が話を聞きながら考えを巡らし、違いや共通点を見いだしてもらいたいという意図で設計しました。
DAY2は「ソーシャル」をテーマに、アフリカのベナン共和国で現地女性の雇用創出のために事業を始めた川口 莉穂さん(中央)と、NPO法人でアートプロジェクトの企画運営を行っている林 曉 甫さん(右)がゲストとして登壇
自ら問いを立て、失敗を恐れず一歩踏み出す経験をしてほしい
― イベント実施後、参加した高校生や先生方からはどんな意見をいただきましたか。
高校生からのコメントを見てみると、「起業に興味はあってもどうしたら実現できるか分からなかったが、小さな一歩を踏み出すことが大切だと聞き、より興味が湧いた」と言う生徒もいれば、「やりたいことが見つからずに悩んでいる人に向けた質問があって、今の自分の参考になりました」と言う生徒もいて、さまざまな状況の人が視聴してくれた様子です。
また、ある先生は登壇ゲストの具体的なアドバイスを引用して「『失敗しても人にバレないくらいの小さなチャレンジからはじめれば良い』という言葉は、今の生徒たちには非常に刺さりやすいと思う。今後の学校生活の中でも伝えていこうと思う」といった感想を寄せてくれました。他にも、『高校生Ring』には参加していない学校が、宿題として視聴してくれたケースもあり、アントレプレナーシップ教育の入り口としても貢献できたのでは?と嬉しく思います。
― 初めての試みを終えて、今のお気持ちはいかがですか。
上述のように、高校生や先生が何かしらのヒントを持ち帰ってくれたことに、手応えを感じています。また、地方で高校時代を過ごした私としては、全国の高校生に多様な生き方を提示したいという思いもこのイベントに込めました。10代の私は、身近な大人や限られた情報から得られる選択肢しか知らなかった。今振り返ってみると、他人に敷かれたレールを外れないようにと視野が狭くなっていたように思います。だからこそ、今の高校生が世の中で活躍するいろいろな人たちと出会うこのイベントを通して、「自分らしく一歩踏み出したい」と言ってくれたことが、嬉しいです。
その一方で、社会にはまだまだいろいろな形で活躍している大人がいますし、アントレプレナーシップのあり方も今回紹介した人たちのようなパターンが全てではないはず。多様な選択肢を提示したつもりで、高校生たちの発想を枠にはめるようなことになってはいないだろうかとも思います。今回のやり方が正解だと思わずに来年度以降も進化させていきたいですし、もっと多様な大人たちの姿を見せられる場にしたいです。
― 今年度の『高校生Ring WEEK』は終了しましたが、まだ『高校生Ring』のイベントも控えています。参加している高校生に向けてメッセージをお願いいたします。
『高校生Ring』はコンテスト形式のプログラムではあるものの、本当に大切なことは審査を通過するかどうかではなくチャレンジすることです。「どうせ失敗するからやらない」では何も得られませんが、一歩踏み出すことで失敗したとしてもたくさんの気づきや学びが得られます。『高校生Ring WEEK』に登場したゲストの皆さんも、これまで失敗したことがない人はひとりもいませんでした。みんな大小の失敗を経験しつつも、それでも前を向いてチャレンジを続けたから、現在の活躍があるのだと思います。
だからこそ、審査を通過した皆さんは最後まで自分のアイデアを磨き続けることにチャレンジしてみてください。私たちも全力でサポートします。また、ファイナリスト以外の参加者の皆さんも、ファイナリストがプレゼンテーションをするイベント『高校生Ring AWARD 2023』を視聴いただけるように準備を進めていますので、最後まで『高校生Ring』にお付き合いいただけたら嬉しいです。『高校生Ring』に参加していない高校生の皆さんで興味を持ってくださった方は、『高校生RingWEEK 2023』Day2~Day4の当日の様子をご覧いただけますので、ぜひご覧ください。