株式会社リクルートの観光に関する調査・研究、地域振興機関『じゃらんリサーチセンター』(以下 『JRC』)は、ユニバーサルな旅行サービスの提供に社会全体で貢献する目的で、旅行におけるLGBTなどのセクシュアル・マイノリティ当事者へどのように対応すべきかを調査しました。また、セクシュアル・マイノリティに対してフレンドリーな試みを実施・検討している宿泊施設や行政および観光課にもヒアリングをし、具体的な取り組み内容について伺いました。
※LGBT=レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称でセクシュアル・マイノリティを指す。
LGBT当事者は、さまざまな同行者との旅行において困難を抱えている
『JRC』では、ネット調査によりLGBT当事者に対して「同行者別の困難」および「旅行場面ごとの困難」を聴取。それによると、トランスジェンダー・バイセクシュアル(本調査ではパンセクシュアル=ジェンダーやセクシュアリティに関わらず、好意を抱く人)を中心に、さまざまな同行者との旅行において困難を感じていることが分かりました。割合として最も高かったものは「会社の同僚・関係者との旅行(社員旅行など)」であり、バイセクシュアルは47.7%、トランスジェンダーは45.3%が困難を抱えていることが判明しました。
また、旅行場面ごとで見ると、「宿泊施設の性や関係性に基づくプラン(カップルプランやレディースプランなど)の選択」や、「宿泊施設の大浴場の利用時」、「プール・海水浴場・ジムの利用時」などで幅広いセクシュアリティにおいて困難が生じていることが判明しました。
本調査を踏まえLGBT当事者8人にヒアリングを実施し、より深い課題について調査したところ、男女二元論的な性別に基づくサービス提供や、カップルは男女であるという先入観に基づくサービス提供、カップルや夫婦のみの割引の提供、性別の聴取などに問題意識を持っていることが分かりました。
これらの量的調査・質的調査の両面から捉えた「不の解消」について、注力中・もしくは注力しようとしている3つの施設・団体へのヒアリングを実施しました。その内容を以下に紹介します。
「誰もが入浴しやすい環境づくりの重要性を実感」~別府市観光・産業部温泉課
公衆浴場法では身体的特徴を重視していますが、別府市では基本的にこれらの関係法令にのっとって運営しつつ、改善できることを模索しています。
例えば、家族風呂(個室風呂)は時代の変化、個人化や個別化、LGBT対応にマッチしていると考えられるため、問い合わせがあった際には民間事業者を含めてご案内をしています。
皆さまの声を受け、LGBTを含めた「誰もが入浴しやすい環境づくり」の重要性が増していることを実感しています。LGBTフレンドリーのためにはどのような取り組みが考えられるのか、温泉入浴に関する不安解消のためには何をすればいいのか、引き続き検討していきたいと考えています。
「多様性を尊重し、個に向き合う対応を実施」~相鉄ホテルズ
<相鉄フレッサイン六本木の事例>
2021年からLGBTに関する理解を深める全社研修を行い、研修は動画にして社内に配布。アルバイトを含めた全スタッフが視聴しています。言葉として知っている程度のスタッフが大半であり、視聴後のアンケートでは「自分の知識不足を実感した」との声が多く上がっていました。
現状、LGBT当事者への対応は店舗ごとの対応になっており、まだ、遅れている側面があるものの、全社的にサービスの見直しを行っている最中。既に、レディースルームの提供終了や、予約時の性別確認をやめるなど、多様性を尊重し個に向き合う対応を実施しています。また、アメニティは男女別の商品を廃止し、性別に限らずフロントでのバイキング形式としました。これらのサービスの見直しや性別確認をやめたからといって、特段問題は起こっていません。加えて、毎年6月のLGBTプライド月間に虹色のあめを用意するなど、イベントにあわせてLGBTフレンドリーの姿勢を示す計画です。
人材採用においても、LGBTに対する差別感情がない人を採用するようにしており、選考過程において偏見がないかどうかを確認しています。また、スタッフが安心して着替えができるよう、更衣室内にカーテンの設置を進めています。
「全てのお客様へ、同じおもてなしを。」~KPG HOTEL&RESORT
私たちは全てのお客様に満足いただける、優しいホテルづくりを目指しています。
LGBTに関する取り組みとして、誰にでも使いやすいジェンダーフリートイレの設置(*1)や、ウエディング事業(*2)などを実施。2014年にスタートしたウエディング事業では、国内外からLGBTカップルが訪れ、現在までに50組以上が結婚式・フォトウエディングを挙げています。
また、当社に事務局を持つピンクドット沖縄(*3)では、2022年に国際通りにて「全ての人が、自分らしく生きやすい社会を」という思いを共有・表現するパレードを実施、2023年も開催が決定しています。
2015年からは、LGBTに関する従業員教育を開始しました。LGBT理解に必要な、性自認・性的指向・性表現などの知識の装着に注力しています。
このような取り組みを続ける中で、最近ではカミングアウトする従業員や、人材募集の際の履歴書に当事者であることを記してくれる人も増えています。
*1:GLAMDAY STYLE HOTEL&RESORT OKINAWA YOMITANにて実施
*2:Kafuu Resort Fuchaku CONDO・HOTELにて実施
*3:ピンクドットはLGBTQとその支援者、理解者がピンク色のものを身に着けて集まるイベント
全てのお客様に公平に接し、個を尊重することの大切さ
取材をした全ての施設担当者は「利用する全ての顧客を差別することなく、平等に接している」とおっしゃっていました。これは、LGBTフレンドリーを表明している施設だけでなく、フレンドリー宣言はしていないもののLGBT当事者から使いやすいという意見を得ていた施設でも同様です。いずれの施設もプランによってサービス内容が異なることは当然あるものの、それ以外の立場や属性によって対応を変えてはいませんでした。
また、LGBTフレンドリーを表明している施設においても、LGBTだからといって特別なことは行っておらず、過剰な配慮が差別にならないように考慮していました。
LGBTに限らず、現代は顧客ニーズが多様化、個別化しており、それに応えることが重要ではないかという意見も多く聞かれ、また顧客情報として男女二元論的な性別の情報は必ずしも必要ないという意見も見られました。
LGBTを含めたセクシュアル・マイノリティへの対応は偏見や差別意識をなくした上で、合理的配慮が求められている性質のものです。何かひとつの正解があるわけではなく、対話を通じた個別の調整が求められているのだと考えられます。私たち含め、そのあり方を模索していく必要があるのではないでしょうか。