リクルートの研究機関、『就職みらい研究所』 では、毎春『就職白書』を編纂・発信しています。就職白書では、年次調査や産学官のさまざまな方への取材などを交えながら、毎年の学生の新卒就職活動・企業の新卒採用活動の動向や、これからの学生・若者と働く組織のより良いつながりに向けた提言をまとめています。
今年も『就職白書2024』の発信にあわせて、2024年2月20日(火)に年次調査結果の先行発表をしました。インターンシップやキャリアデザイン科目を担当し、所属ゼミ学生への就職活動のアドバイスを行っている2名をゲストに迎え、「大学の現場から見た2024年卒学生の就活生のリアル」と題したパネルディスカッションも行われました。
入社予定企業などへ就職することの納得度は77.2%
第1部では、『就職白書2024』の内容について、『就職みらい研究所』所長の栗田 貴祥が説明しました。
― 2024年卒学生の就職活動の振り返りについて
栗田: 前年同様、6割弱の学生が卒業年次前年9月までに就職活動を開始しており、インターンシップなどをきっかけに就職活動を意識して行動するスタイルが学生の中で定着してきたように見えます。
2024年卒学生の入社予定企業などへ就職することの納得度は77.2%と、前年比で4.8ポイント増加しましたが、一方で入社予定先に納得していない学生も微増しています。企業の採用選考活動の早期化を受けて、内省を深めきれないまま内定を獲得してしまい、納得できる1社をどう決めればいいのか迷う学生が増えたと推察されます。
出典:リクルート 就職みらい研究所『就職白書2024』
― 2024年卒学生を対象とした、企業の採用活動の振り返りについて
栗田: 採用計画数に対する充足企業の割合は36.1%と、前年に続き調査開始の2012年卒以来で最低値を更新しています。
そんな激しい採用競争の中、面接開始や内定出し開始の時期も早まりました。中でも内々定・内定出し開始時期は、「卒業年次前年2月までの累計」が18.6%(2023年卒差+6.6ポイント)、「卒業年次5月までの累計」が76.1%(同+7.3ポイント)と増加しており、2023年卒よりも早期に開始した様子が見て取れます。
出典:リクルート 就職みらい研究所『就職白書2024』
― 2025年卒以降の、企業の採用活動の見通しについて
栗田: 構造的な人手不足もあり、2025年卒の採用予定数は平均32.1人(2024年卒実績+0.6人)と引き続き採用意欲は堅調。2024年卒よりも面接や内定出しの開始を前倒す意向が見られます。
予定している採用方法では、「スカウト・オファー型の採用」、「採用直結と明示したインターンシップからの採用」が増加しています。2025年卒向けの、インターンシップをはじめとしたキャリア形成支援プログラムの実施割合は56.3%となっています。
採用選考の早期化に対する学生のリアルな反応は「メリットが多い」「急かされている」で二極化
第2部では、近畿大学経営学部キャリア・マネジメント学科准教授の岩井 貴美さん、立教大学経済学部特任准教授の翁 理香さんをゲストに迎え、パネルディスカッションが行われました。
岩井さんは、インターンシップを専門領域に、ゼミ生38名(4回生19名、3回生19名)を担当。キャリアカウンセラーの資格をもとに、学生の就職活動の相談にも乗っています。
翁さんは、2019年より立教大学でキャリア教育科目を担当。キャリアカウンセラーの経験を活かし、キャリアデザイン論、キャリアコンサルティング論などの授業を行っています。
― 採用選考の早期化の現状について、現場で感じていることをお聞かせください
岩井さん: 私が担当するゼミ生のうち、2025年卒予定の3回生にヒアリングを行ったところ、インターンシップに参加した企業からの早期選考のアプローチは、企業規模などに関係なく増えているという結果になりました。人材確保に向けた企業の動きがますます活発化していると感じます。
一方、それに対する学生の反応は二極化しています。既に行きたい業界が絞られている学生や、こんな働き方がしたいとイメージできている学生からは、採用選考の早期化はメリットが多いという答えが返ってきます。しかし、この時期は大半の学生が、まだ志望業界も絞りきれておらず、心の準備もできていない状態。にもかかわらず企業からどんどんアプローチが来ることに対し、「急かされている感じがする」という印象を持つ学生も少なくありません。
なお、早期選考の時期を聞くと、1月中旬から下旬が多いという結果になりました。この時期はゼミ活動の終盤、もしくは定期試験に当たるため、学業に集中しづらくなるのではないかという懸念もあります。
翁さん: 私が接している学生の意見も二分していて、採用選考の早期化について「急かされている」と感じる学生もいれば、就活に対する意識が高く、早く動き出して早期に意思決定しようとしている学生もいます。いずれにせよ、早期化の流れは学生の意思ではどうすることもできないので、学生たちが自分の決断に自信を持ちながら活動し続けられるよう、後押しをしています。
この状況を受けて学生に伝えているのは、「早期化の流れに乗った結果、途中でついていけなくなり苦しいと感じたら、いったん途中下車してもいい」ということ。通年で採用活動している企業もあるし、海外留学組が帰国するタイミングで募集を強化する企業もあります。必ずしも早期化の波に乗らねばならないわけではなく、乗り損ねたり途中で下りたりしてもチャンスはあるのだと伝えています。
学生の中で、インターンシップに前倒し参加する動きが出始めている
― 実際、企業の動きを受けて学生も早く動き出しているのでしょうか?
岩井さん: 大学のキャリアセンターが行うセミナーなどは、企業の動きにあわせて早期化しています。また、本学では昨年度から、1回生のガイダンスにて、キャリア構築に関するセミナー(動画)を行っています。そういう意味では、学生の就活そのものも確実に早期化していると感じます。
翁さん: 私が主に相対しているのは2027年卒予定の1年生ですが、アルバイトではなく有償のインターンシップに参加している学生が増えつつあるという肌感覚があります。そして2025年卒予定の3年生でいえば、ほとんどの学生が3年生の夏にインターンシップを体験しますが、「本格的に就活が始まったときにその流れについていけなくなると困るので、前倒しでインターンシップに参加した」という学生も出始めています。
「社会人の先輩」である親に、積極的に就活の相談をするとの意見も
― 就活生の価値観や行動様式が多様化していると聞きますが、実際に就活生を見ていて、何か特徴的な動きや考えなどを感じることはありますか?
岩井さん: 前述のように、就活に関して早く動き出す学生もいれば、遅い学生もいるなどさまざまですが、これには周りの環境が大きく影響していると感じます。例えば私のゼミでは、演習の中で定期的にキャリアカウンセリングを受けてもらったり、就活支援をしたりしていますが、2024年卒予定のゼミ生からは「このような環境があったからこそ孤独を感じずに就活できた」「周りが頑張っているから自分も頑張らないと、と刺激を受けた」という声が多く聞かれました。
一方、2023年卒のゼミ生への調査で面白いと感じたのは、「就活について親にはあまり相談しない」という意見が多かったこと。親を早く安心させたいという気持ちはあるものの、「就活はどう?」と聞かれるのがプレッシャーだからふれてほしくないと言う声が多く聞かれました。
翁さん: 私が担当する学生で言うと、親子関係にはかなり多様性があるなと感じています。岩井先生がおっしゃるように、プレッシャーをかけられたくないから就活について親に言いたくないという学生もいれば、客観的なフィードバックが欲しいから「社会人の先輩」である親にあえて意見をもらうという学生もいます。最終決断をする際にも、社会人としてのキャリアが長い親に意見を仰いだと言う声もありました。親にエントリーシートを見せ、この内容で通過するかどうか客観的にチェックしてもらったという学生もいました。このような話を聞くたびに、学生によって考え方はさまざまだなと感じます。
「自分らしい就活とは?」に悩み、不安を覚える学生は多い
― 自分らしい就活をしよう、自分らしい就職先を決めようなどと言われることに悩み、迷う学生が多いと聞きますが、どんな点に最も不安や難しさを感じているのでしょう? また、そんな学生にどのようなアドバイスをしていますか?
岩井さん: 学生にとって就活は大きなライフイベントのひとつです。私が2023年卒のゼミ生に調査した結果、多くの学生が最初に不安を感じるのが、「就活を始める」とき。初めてのことに臨む不安、先が見えない不安、全て自分で考え行動しなければならない不安などを抱え、多くの学生がいきなり「混迷期」に入ります。その後、エントリーシートの提出や面接に追われ、取捨選択を迫られる「葛藤期」を経て、選考を経験する過程でノウハウを習得して自分に自信がつき、自分の意思で就活を終了させる「確立期」を経験します。
つまり、いつ始めるか、いつ終わりにするかも含め、就活中は全てを自分で決めなければなりません。そのこと自体に不安や難しさを感じる学生が多いという印象です。
ただ、就活には、何が正解で何が間違いというものはありません。意思決定に悩む学生には、最終的には自分が納得できるかどうかが大切なのだと伝えています。
翁さん: 「自分らしい就活とは?」が分からず、不安を覚える学生が多いと感じます。しかし、「自分らしさ」という言葉は非常にあいまいです。ここを少しでもクリアにして不安を軽減するためには、さまざまな大人との接点の数を増やすことが重要。そのため、学生たちには「まずはいろいろな大人に会ってきなさい」とアドバイスしています。
そのための手段は、説明会やインターンシップなどさまざまありますが、参加してみた結果、「すごく共感できた」「興味を持てた」というケースもあれば、時には「事前のイメージと違った」「社員の表情が暗く、楽しそうではなかった」など違和感を覚えることもあるでしょう。そのフィット感、違和感をそれぞれ言語化することが自分らしさのヒントであり、自己理解につながると伝えています。
インターンシップに参加した学生は一次面接、二次面接が免除というケースが多い
― 2025年卒からインターンシップのあり方が大きく変わりましたが、実際のところはいかがでしょうか?
岩井さん: 2025年卒予定のゼミ生にインタビューしたところ、ほぼ全員がインターンシップ参加後に早期採用選考に進んでいるという結果になりました。
2024年卒の場合、早期採用に動いているのはITや人材、不動産業界など一部の業界に限られていましたが、2025年卒では業界や企業規模などに関係なく、アプローチが早く、早期に内々定を出しているという印象です。
具体的には、インターンシップに参加した学生は一次面接、二次面接が免除というケースが多く、中には「インターンシップの次が最終面接」という企業もありました。企業が学生のことを、インターンシップ時から「採用するか否か」という目で見ていることが、大きく変化した点だと感じます。
翁さん: 私が担当している授業では、以前から「2週間のインターンシップ体験」を単位取得の条件としています。そのため、担当学生を見ている限りではあまり変化を感じていません。
一方で企業側は、今回の節目を機に、「インターンシップへの参加を切符として本選考に進んでもらう」という方針に変わってきていると感じます。そのため、インターンシップで学生を見る目線が、やや厳しくなっているとも感じます。
そうなると、学生側も「2週間のインターンシップ体験ができるから、この会社のインターンシップに参加する」ではなく、インターンシップで何を経験したいのか、そして将来にどうつなげたいのかを考え、インターンシップ先を選ぶ必要があります。インターンシップ段階で、自分の想いや志向とうまくマッチする先を選ぶ重要性が増していると感じます。
そういう意味では、1年生でも2年生でも、ピンときたらインターンシップに参加してみるといいよと伝えています。興味を持ったときが、動き出すチャンス。まずは好奇心の赴くままに飛び込んでみてほしいですね。私自身はそんな学生をサポートし、困ったときの駆け込み寺でありたいと思っています。
なお、当日の年次調査結果に加えて、産学官のさまざまな方への取材なども交えて学生・若者と働く組織のより良いつながりに向けた提起を交えた小冊子「就職白書2024」は、『就職みらい研究所』のウェブサイトにて、無料でご覧いただけます。
『就職みらい研究所』では、働く環境が変化し続ける中で、今回発表した『就職白書2024』をはじめとする調査・分析などから就職・採用の実体を捉え、これからも「若者と組織のより良いつながり」に向けて示唆していけるよう努めてまいります。
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- 就職白書 | 就職みらい研究所 (recruit.co.jp)
- 『就職白書』の詳細はこちらからご覧ください。
- 『就職白書2024』のプレスリリース(2024年2月24日先行発表PDF)
- 『就職白書2024』 2024年卒の就職・採用活動の振り返りと、2025年卒の採用見通しを調査 (recruit.co.jp)
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