サステナビリティを、マンションの価値を測る新たなものさしに。「SUUMO AWARD」受賞企業と語る、「持続可能な社会」実現のために私たちができること

(左から)「SUUMO AWARD」を主催するリクルート分譲マンションDivision長の森本 直樹と、旭化成不動産レジデンス株式会社 代表取締役社長の高橋 謙治さん

不動産情報サイト『SUUMO』では、首都圏、および関西の新築マンション購入者の顧客満足度などをランキング化。「SUUMO AWARD」としてマンションデベロッパー・分譲マンション販売会社や管理会社を毎年表彰しています。2023年度からは、多様化する社会情勢を踏まえ、「サステナビリティ部門」を「グリーン部門」「省エネ部門」「住み続けられる住まい部門」「ダイバーシティ部門」に細分化。新設初年度となる今年、この4部門全てを受賞したのが、旭化成不動産レジデンス株式会社です。

そこで今回は、旭化成不動産レジデンス株式会社 代表取締役社長の高橋 謙治さんと、「SUUMO AWARD」を主催するリクルート分譲マンションDivision長の森本 直樹による対談を実施。新築マンションマーケットにおけるサステナビリティについて考えます。

『SUUMO』には、マンションにおけるサステナビリティの意義を発信する責務がある

― まずは森本さん、分譲マンションDivisionが目指していること、および「SUUMO AWARD」の目的について、ご紹介ください。

森本: リクルートの分譲マンションDivisionでは、物件とマンション購入検討者の多様な出会いを後押しし、住まい探しをもっと自由にすることで、一人ひとりのかなえたい住まいが実現する世界を目指しています。『SUUMO』を通してマンション購入検討者にさまざまな住まい選びの基準や方法を提示し、物件の魅力を多様な角度から伝えることで、クライアントであるマンションデベロッパーの皆さんもご支援してきました。

「SUUMO AWARD」は、そうした私たちの事業活動の中で生まれたもの。もともとマーケティング調査として2002年から始めた「契約者動向調査」が発端でした。クライアントからは「マンション購入検討者の率直な評価が見える」と好評で、各社の商品企画や販売戦略、業務改善などに活用いただくように。そうした歴史の中で、マンション購入者の声をクライアントに届けるだけでなく、クライアントの努力をカスタマーが評価している事実としてマンション購入者にも広くお伝えした方が良いのではないかという考えから、調査結果をランキング化して表彰するようになったのが、2018年度からスタートした「SUUMO AWARD」です。

― 2023年度から「SUUMO AWARD」をアップデートし、サステナビリティ部門を4部門に細分化したのはどういった狙いがあるのですか。

森本: サステナビリティ部門自体は、SDGsへの関心が社会的に高まるなかで以前から設置していた部門です。ただ、サステナビリティという概念は一言で表すのがなかなか難しく、テーマは多岐に渡ります。分譲マンションマーケットの具体的な取り組みとしても、「ZEH※」などのように省エネや地球環境に配慮した取り組みもあれば、多様な人々にとって暮らしやすい環境やコミュニティづくりなどダイバーシティをテーマにした取り組みもあります。そこで、サステナビリティを一括りに評価するのではなく、マンションマーケットで特に注目されている4つのテーマに分解。「グリーン部門」「省エネ部門」「住み続けられる住まい部門」「ダイバーシティ部門」の4部門に拡充しました。

このように私たちがサステナビリティ関連の表彰を強化したのは、住まい探しにおける新たな判断材料としてサステナビリティという基準を社会の当たり前にしていきたいからです。価格や立地、間取りなどが住まい選びの基準になっているように、これからはサステナブルかどうかで選び・選ばれる世界に進化していきたい。それがマンションマーケット全体の持続可能性には必要不可欠だと考えていますし、この価値観を広めていくことはプラットフォーマーである『SUUMO』の責務でもあると捉えています。

※ZEH=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。省エネ性能の高い資材や発電システムなどの活用により、消費エネルギーよりも生み出すエネルギーが上回る、エネルギー消費が「実質ゼロ」の住宅

単なるマンション開発ではなく、都市や社会の持続可能性を高めるために

― 続いて、高橋さんにお伺いします。旭化成不動産レジデンスは、2023年度のサステナビリティ関連4部門全てで受賞(うち、「省エネ部門」「ダイバーシティ部門」は最優秀賞)しています。まずは受賞の感想をお願いします。

高橋: 弊社の都市開発事業におけるサステナビリティの取り組みは、まだまだ始まったばかりで試行錯誤の段階です。それでもまずはお客様にお伝えしたいとの想いから、ホームページなどで取り組みを積極的に発信しており、今年度に関しては具体的な実績というよりも姿勢を評価いただいたのではないかと捉えています。

― 御社が今回の評価につながったのは、どのような取り組みが影響していると考えられますか。

高橋: 例えば、都市の生物多様性を目指した「まちもり®」。これは静岡県富士市にある旭化成グループの研究施設内の一部で行っていた生物多様性保全活動の知見を活かした植栽の提案で、マンションでの展開も少しずつ始まっています。また、最近は集合住宅でもZEHが増えつつありますが、旭化成ホームズの戸建住宅ブランド「ヘーベルハウス」では、以前からZEHに非常に力を入れており、私たちの事業においてもその知見を活かして集合住宅のZEH化に取り組んでいます。

このように、旭化成ホームズグループおよび旭化成グループの各事業で昔から取り組んできた、サステナビリティの先進事例を応用しているのが私たちの特徴。ヘーベルハウスが高断熱・高品質のロングライフ住宅を追求してきたことは、「省エネ」で「長く住み続けられる」というサステナビリティに通じるものです。また、旭化成は化学品メーカーですから、サステナビリティという言葉が登場するずっと前から環境に配慮した事業活動は当然のことでした。グループ全体として取り組んできたことが、お客様にもポジティブに受け止めていただけたのではないでしょうか。

― マンション事業独自の取り組みとしてはどのようなものがありますか。

高橋: 我々の事業では老朽化したマンションの建て替えに注力をしています。日本は災害が多い国ですが、現在の耐震基準を満たしていないマンションがまだ多く残っており、順次建て替えをしていくことが必要。しかし、区分所有者全員との合意形成を行う難易度が高く、なかなか進んでいないのが現状です。しかし、そのままにしていては都市の防災力の観点で非常にリスクがある。効率だけを考えれば新規でマンション開発をした方が良いのですが、我々が社会に提供したい本質的な価値は、単なるマンション開発を超えた都市開発。社会に貢献する意味でも粘り強く取り組んでいます。

また、今回ダイバーシティ部門で最優秀賞をいただけたのは、多様な世代・世帯に暮らしていただけるような間取りの提案をしてきたことに加えて、入居者専用のコミュニティアプリ「GOKINJO」によるコミュニティ醸成も影響しているように思います。アプリを通じて入居者同士がちょうど良い距離感で“ゆるくつながる”こと。多様な人たちがお互いの価値観・ライフスタイルを尊重しながら集える場にするための工夫にも力を入れています。

すぐに結果が出るものではない。未来の価値を創る活動と捉えて向き合い続ける

― ここからはおふたりそれぞれに意見を伺いたいです。「SUUMO AWARD」でサステナビリティを表彰することは、企業単体を超えて業界全体に対してどのような意義があるとお感じですか。

高橋: こうやって盛り上げていただくことは純粋にありがたいことです。サステナビリティは社会的に関心が高まっている事柄とはいえ、本当にサステナビリティを追求することが価値になるのかは、デベロッパーである我々もマンション購入を検討されているお客様も、まだ半信半疑なところがある。だからこそ、「SUUMO AWARD」のような場で光をあててもらうことは、「やっぱりこれが大切だよね」とみんなが確信していくための重要なステップだと思います。

森本: そう期待していただけることが私たちもありがたいです。その一方で、サステナビリティが社会のスタンダードになるにはまだ時間がかかるでしょうし、「SUUMO AWARD」の表彰によって、いきなり世の中が変わるわけではありません。表彰を通じて、マンションを評価する基準のひとつだと社会に提案し続けることに意味があると思っていますし、今後はクライアント各社のサステナブルな取り組みをどのように紹介していくかなど、発信の仕方もさらに工夫していきたいです。

高橋: サステナビリティが社会に認められれば、10年後20年後のリセールバリュー(新築時価格の維持率)に影響してくるはずなんです。マンションには資産としての側面がありますから、サステナブルな住宅とそうでない住宅に明確な価格差が生まれるようなマーケットになっていけば、新築マンションのサステナビリティもさらに加速していくと捉えています。そうした未来が訪れるように、粘り強くサステナビリティの意義を発信し続けることが必要で、現在私たちやリクルートの皆さんが取り組んでいるのは、未来の価値を創るための活動なのかもしれませんね。

― では、未来の価値を創るためにもっと取り組みたいことはありますか。

高橋: これまではサステナブルな物件を開発することや、購入検討者へのアピールに注力する段階でした。今後はこれらと並行して、実際に入居いただいた皆さんが感じている価値を可視化して発信していくフェーズになってくると思います。例えば、光熱費の高騰が家計を圧迫している昨今、「ZEHの物件なら月いくらの光熱費で快適に過ごせたのか」といった具体的な声が、サステナビリティに関心を持ってもらうきっかけにもなりそうですよね。

森本: マンション購入検討者の声を大切にしてきた『SUUMO』としても、高橋さんがおっしゃることに非常に共感します。サステナビリティを想いや理念で済ませるのではなく、実際にどんな価値があるのかも発信していきたい。まだまだ歴史が浅いテーマですから、私たちには見えていない価値が眠っているかもしれません。そうした観点をサステナブルな住まいに暮らす方々の声から発見し、これからマンション購入を検討する人たちに届けていくことが『SUUMO』としての次なるフェーズだと思っています。

業界全体で切磋琢磨しながら、サステナビリティをマーケットの当たり前に

高橋: サステナビリティの究極の目的は、お客様に価値を提供していくことだけでなく、社会全体や地球環境に対して貢献していくことですよね。その意味で言えば、事業者である私たちだけでサステナビリティに取り組むというよりも、マンションに入居する皆さんと一緒になって取り組める状態が理想ではないでしょうか。この物件で暮らすことが地域社会との共生や貢献のきっかけになり、住むことで地球環境に貢献できるような、そんな仕組みにしていくことも大切だと考えています。

また、サステナビリティへの関心が高まっているのはお客様だけではありません。近年は、仕事の社会貢献度や環境負荷を判断基準にして就職先を検討している人も増えていますよね。企業として優秀な人材を獲得し、発展していく意味でも、社会的価値を創出し続けることがこれまで以上に重要な時代だと感じます。

森本: マンション購入検討者や社員などのステークホルダーとともにテーマに向き合うことが大切だということですよね。たしかにリクルートでも、社会的価値を意識した意見を述べてくれるメンバーが増えてきたことを感じます。ただ、その価値観が組織全体で成熟しているかと言えば、まだまだ足りない部分もあります。これはぜひ、クライアントの皆様と一緒に、相互に働きかけながら意識を高めていきたいですね。

― デベロッパーとプラットフォーマーで立場が異なるからこそ、お互いに期待したいことはありますか。

高橋: 私は若いころからリクルートとお付き合いをしてきたので、時代に合わせた掲載基準のアップデートや、掲載情報の信頼性を高めるためのルールづくりなど、不動産マーケットの常識をつくるような『SUUMO』の取り組みを、クライアントの立場で見てきました。それに、『SUUMO』はマンション購入を検討する人なら誰もが一度は目にする存在。だからこそ、サステナビリティも『SUUMO』の取り組み次第で、世の中の変化は一気に加速していくはずだと期待しています。

森本: 旭化成不動産レジデンス様は、分譲マンションマーケットのサステナビリティにおけるトップランナー。本日高橋さんとお話しして、御社の活動が突然のひらめきで生まれたものではなく、グループのDNAに刻まれている考え方だということがよく分かりました。これからも新しい取り組みに果敢にチャレンジされるのだと思いますので、御社で生まれる先行事例がマーケット全体に伝播していくことを期待したいです。業界全体で切磋琢磨しながらサステナビリティのレベルを高めていくことが、マーケットの活性化につながるはず。取り組まれた事例を『SUUMO』で発信していくような連携をしながら、ぜひこれからも立場を超えて一緒にマンション業界の進化に向けて取り組んでいきたいですね。

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