全ての人が自分らしい“WORK”を見つけることを目的としたリクルートの就労支援プログラム『WORK FIT』 。このプログラムは、リクルートが直接受講者に向けて実施するだけでなく、全国の地域若者サポートステーション(以下、サポステ)などの就労支援機関やNPO法人に向けて、プログラムを無償提供しています。今回は、ファシリテーター養成の取り組みについて紹介するとともに、実際にサポステ で『WORK FIT』を活用しているファシリテーターの声もお届けします。
プログラムの無償提供で、これまでに全国で約100名のファシリテーターを養成
就職したくても就職できない若者たちの就労問題が社会問題化したことをきっかけに誕生した『WORK FIT』。リクルートが人材事業で培ってきたノウハウを活用したこのセミナープログラムは、当初は大学生向けの就労支援としてスタートし、支援の対象を広げる中で現在では地域若者サポートステーションや就労支援団体などでも活用いただいています。
就労支援にかかわる皆さん自身にファシリテーターを担ってもらうことで、就職に悩む方に総合的な支援が実現できると考え、リクルートでは無償でプログラム提供、及び、ファシリテーターの養成を行っています。
ファシリテーターの養成講座(無償)では、講座の理解を深めることだけでなく、ファシリテーターとして大切にしたいスタンスを身に着けることを重視。特に『WORK FIT』では、受講者同士がグループワークを通じてお互いにアドバイスやフィードバックをしあうことで、自分一人では気づいていなかった自分らしさや自分の強みに気づいていく「グループダイナミクス」を大事にしています。そのため、ファシリテーターを務める支援者の皆さんには、「受講者一人ひとりの可能性を信じる」「多様性を尊重し、公平に扱う」「答えを教えるのではなく、気づき合う・学び合うための支援をする」といった取り組み姿勢を学んでもらいます。
こうした講座を経て、現在ファシリテーターとして活動するのは全国に約120名(2022年12月時点)。リクルートは上記の養成講座以外にも、セミナーを初回実施する際に講師をオブザーブ役として現地に派遣したり、『WORK FIT』を実施する団体の方々が情報交換できる交流会を実施したりと、さまざまなサポートを通じて社外の支援者の皆さんとともに、一人でも多くの人たちが自分らしく働ける未来の実現を目指しています。
~養成講座受講者アンケートより~
受講者の多様な悩みを解消するためには、支援者により多くの学びの機会が必要
では、実際に全国各地で就労支援に取り組む支援者の皆さんは、どのような想いで受講者の方々へ向き合っているのでしょうか。ここでは、2022年度の『WORK FIT』ファシリテーター養成研修参加者アンケート結果から見えてくる就労支援現場の一端をご紹介します。
<支援者として困っていること>のトップは、「就労に向けた支援のコツなどを学ぶ機会が少ない」。続いて、「他の支援団体の取り組みを知る機会が少ない」「利用者の課題にあった支援が見つけづらい」が上位になっており、支援ノウハウについての要望が多いことが分かります。
こうした傾向を踏まえ、『WORK FIT』ではプログラム内容の改良や支援者をサポートする取り組みの検討を進めており、支援者と受講者皆さんにとってより良いあり方へと進化を続けています。
<受講後アンケートの一部をご紹介(抜粋)>
- 普段の業務では自分のやり方を見ていただく機会がなく、独りよがりになっているのではないかという不安がありました。ロールプレイを通してフィードバックをいただけたことで自信につながりました。
- 自分は与える側、頼られる側であるとの驕りがあったと気づきました。
- 「見守ること」の難しさ、大切さに気づけました。ついせっかちに言ってしまうことが多いので、利用者さんの「気づき」を待つことも、支援する側にとても重要なことだと再認識しました。
~ファシリテーターの声~
『WORK FIT』で垣間見えたその人らしさを、継続的な支援のヒントにしています
三条地域若者サポートステーション 北澤 則夫さん
私は、新潟県三条市で厚生労働省委託事業の「三条地域若者サポートステーション(以下、三条サポステ)」に在籍し、就労支援を約7年担当しています。利用者の皆さんは、10代20代の若者から就職氷河期世代まで幅広く、就業経験がある人もいれば、はじめての就業を目指す人まで実にさまざま。「対人コミュニケーションが苦手で、面接で上手く話せない」という人もいれば、「働きたい気持ちはあるけれど、自分に合った仕事が何か分からない」といった悩みを持つ人もおり、前向きに就職活動ができるようになるには、単に求人紹介や就活トレーニングを行えば良いというものではありません。
そこで、就活に至る前の段階からの支援を強化するために三条サポステが導入したのが、『WORK FIT』でした。私がファシリテーター研修を受講して良かったと感じたのは、第一に体系化されたノウハウを学べたこと。就活を始める前の「はじめの一歩」を踏み出すためのワークから、自分の強みに気づいて応募先の視野を広げたり、1分間スピーチなどを通して面接力を高めていったりするような実践的なワークまで、利用者の皆さんそれぞれの状況にあわせたプログラムに整理されているのが、活用する側としてはありがたかったです。
また、研修を通して私が学んだのは、支援者として利用者の皆さんに向き合うスタンス。私は三条サポステ以前に仕事でコンサルティング業務やプレゼンテーションの機会が多く、人前で話すことには慣れていましたが、『WORK FIT』のファシリテーターに求められることは、似て非なるものでした。自分が一方的に話して教えるのではなく、参加する皆さんが前向きに楽しく話せる場をつくることや、参加者同士で学び合える場にすること。良かれと思って強制したり誘導したりしても、本人のためにはらないというキャリアコンサルティングの原則に立ち戻らせてくれた気がします。
こうした学びを経て、私がファシリテーターとして受講者に向き合う際は、「期待する」「待つ」「ほめる」の3つを意識しています。受講者は必ずしも話をするのが得意という人ばかりではありません。むしろ苦手な人も多い。そこでセミナー中に私から質問をするときは、たとえスムーズに答えられなくても、安易にヒントを出したり急かしたりせず、笑顔で待つようにしています。話したくなるまで、考えがまとまるまでじっくり待ち、いざ話してくれたときは思いきりほめる。こんな風に、ファシリテーター養成講座での学びを活かし、一人ひとりのペースの違いを尊重しながら、少しでも前向きになってもらうようにしています。
受講者の中には、『WORK FIT』のプログラムをきっかけに自信をつけ、求人へ積極的に応募できるようになった人や、面接でハキハキと受け答えられるようになったことで就職を実現した人もいます。ただ、もちろんプログラムに参加したからといってすぐに成果が表れるとは限りません。プログラムでは、自分の良いところをみつけて、一歩踏み出せる自信をつけてくれたらそれで良い。『WORK FIT』は前向きに就活に臨むための変化のきっかけのようなもので、数週間~数ヶ月後に芽が出てくることを期待して、私たちは日々サポステの利用者に向き合っています。
このように就労支援は継続的な支援が前提だからこそ、『WORK FIT』には、利用者一人ひとりの個性をより深く理解し、私たち支援者と利用者の信頼関係を深める効果も感じています。『WORK FIT』のプログラムを受講中に垣間見える利用者それぞれの強みや弱点を支援者も把握し、その後の求人紹介や面接対策などのサポートに活かして、本人が納得する就労を実現すること。一人ひとりに寄り添った支援の起点として、これからも『WORK FIT』を推進していきたいです。