2020年までに女性が指導的地位に占める割合を30%以上にする、という政府目標がある中、総務省「労働力調査」(2012年)によるとその割合は11.6%に留まっていると言われています。さらに現状では62%の女性が妊娠・出産を機に仕事を辞めるといわれ、子育てをしながら働いている女性の8割が仕事と家事育児の両立を負担であると回答(弊社調査)しています。
こうした中、米国に本社があり世界100カ国で医薬品の開発および営業支援など、製薬企業に総合的なサービスを提供するクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社(以下クインタイルズ)の、 医薬品開発業務支援(CRO)を行う臨床開発事業本部(プロダクト・ディベロップメントサービス=PDS)では約2,000人の従業員のうち、 女性管理職比率が52%となっており、そのうち育児中の女性が約半数を占めます。
クインタイルズではどのように妊娠・出産を機に女性が辞めないようにケアし、 制約のある社員も同様にキャリアアップを目指せる環境を整備しているのでしょうか。 企業の採用支援を行うリクルートキャリアを通じて同社臨床開発事業本部長の品川氏と、 同社に転職し現在子育てをしながら管理職として業務を行う木暮氏に話を聞きました。
「女性社員にとって」ではなく全社員がパフォーマンスを発揮できるよう
プロダクト・ディベロップメントサービス 臨床開発事業本部長 品川丈太郎氏。 大学病院で医師としての勤務を経て、製薬メーカーにてメディカルドクターとして従事。2010年より現職。
「臨床開発事業本部で働く従業員のうち約7割が女性であることに鑑みると、本来は女性管理職も約7割となるべき。 女性管理職比率が52%という数値は決して十分だとはいえないし、まだまだあがっていくはず」 と話すのはクインタイルズで臨床開発事業本部を率いる品川丈太郎氏。
品川氏は女性管理職比率をあげるために努力してきたというよりは、従業員が活躍してもらいやすいよう制度を整えることが、 結果的に従業員の多数を占める女性にとっての就業の続けやすさにつながっているのではないか、と言います。 2010年に品川氏が同社臨床開発事業のトップとして事業部を率いるようになってからは、 法定期間より長い育休制度や週2回まで誰でも利用できる在宅勤務制度など、より従業員のパフォーマンスが発揮できるよう日本法人独自、 事業本部独自の活躍支援施策を実施してきたそうです。最近では早期復職の際の保育園手当や ベビーシッター利用補助制度の導入もはじめたとのこと。
「やはりパフォーマンスが重要なんです。ビジネスにとって一番大事なことはその勢いを殺さないことですので、 会社としてより成果をあげやすいように制度を整えることは当たり前だと思っています。 優秀な人材が個人的な事情で仕事を辞めてしまうというのは会社のパフォーマンスにとっては大きな損失です。 また、われわれがスケールメリットが活かせているのか、と感じています。日本法人だけでも2,000人の従業員がいて、 世界中にビジネスを展開していれば、個人の状況に合わせて、ポストも働き方の選択肢もキャリア形成の機会も いかようにも作っていくことができますから。」(品川氏)
実際に従業員が配偶者の仕事の都合で同社の支店がない地域に同行する際には完全在宅勤務制度を導入したり、 配偶者が海外に赴任する際には、海外のグループ法人に仕事を作ったりしたこともあったそう。 柔軟に制度を作る一方で、利用しやすさ、使いやすさは非常に重視していると言います。
例えば在宅勤務ひとつをとっても、多くの企業が事前に書類で申請し、在宅明けに業務内容をレポートにまとめて報告させる、 といった運用を行なっている中、同社では当日9時までに在宅の旨を上長に連絡すれば良い、という運用のみにしているそうです。
「この制度を作ったんだからいいでしょ、というスタンスは嫌いで、絶えず見直しをかけているつもりです。 もっとよくなるのか、それともダメだったらやめるか、改善する。僕たちが携わる臨床開発というのは、やはり楽な仕事じゃないですし、 働く社員の価値観や哲学は多様である、というのが大前提であるんですよ。だから、楽じゃない大変な仕事をする以上は、 それ以外のところは、それぞれが選べる納得のいくきちんとした制度にしたいな、と思っています。」(品川氏)
環境に合わせて「選べる」ことの重要性
クリニカルプロジェクトマネジメント統括部 クリニカルプロジェクトマネジャー 木暮晴美氏。
大学病院で薬剤師をしていた前職からクインタイルズに転職し、 現在子育てをしながら5人のメンバーをもつ試験を担当する木暮氏は育休明けも抵抗なく管理職の業務に適応することができたと話します。 木暮氏は「選択できること」、つまり働き方の自由度が高いことや、複数のメンバーを管理するヒエラルキー型の管理職だけではなく スペシャリスト型のキャリアパスも用意されていることが、復帰しやすさに繋がっていると話します。
「産休育休明けの1年間は時短勤務で現在の仕事の補佐をしていたので、フルタイムに戻る際もそこまでのハードルはありませんでした。 『やってみてダメだったらまた時短に戻せばいいんだよ』という上長の受け入れ態勢もあったので、まずはやってみよう、 という心づもりでやってみて、現在違和感なく出来ているという状況です。最初はどうしても『もっと子供を見たいのに』 と感じながらの仕事だったので、時短や在宅をいつでも選択できる、挑戦することを上長が受け入れてくれるというのは 復帰するにあたって心強かったです。」(木暮氏)
復帰して育児と仕事を両立する上では、自身が仕事をやりたくてやっているという気の持ちようが大事だと話します。 「自分が選んでいる」と納得することで、より短い時間でより良い成果を上げられるよう時間にこだわるようになったそうです。
「家庭も仕事も一生懸命やりたいんですけれども、両方共に完璧を目指してしまうと、結局仕事を辞めなきゃ、 となってしまうと思うんですね。なので、両方とも完璧を求めない、あえて求めないようにしています。 もちろん手を抜くわけではなくて、きちんと重きを置く仕事を見極めて、そこに重点を置くことで、 全体のクオリティは下げないということですね。それは仕事を続けていくための手段としてやっています。」(木暮氏)
「公平さ」と向き合っていくことは事業責任者としての永遠の課題
従業員にとって如何に働きやすい環境を作っていくか、ということについては細かな点まで改善を適時行っているそうです。 例えばオフィススペースでは、女性従業員が多いことから各フロアの女性トイレの数を増やしたり、 社内の自販機では、出張が多いという業務特性から持ち運べるように全て紙コップからペットボトルに切り替えたり、 支給するノートPCは、日本人の体格に鑑みて日本法人だけは海外より小さいサイズを導入したりと、 既存の与えられた状態が当たり前の状態だと思いがちなところまで、従業員の普段の仕事のやり方に合わせて改善していっているといいます。
より柔軟性の高い在宅勤務制度を取材時に品川氏(左)に提案する木暮氏(右)。約2,000人と大規模な組織にも関わらず、事業責任者と従業員との距離感の近さは外資系の中でも珍しいといいます。
「社員の意見を聞くためにもなるべく交流の機会を増やそう、としています。隔週で、僕自身が講師を勤める勉強会をずっと開催しており、 交流会という名の誕生日会は毎月開いています。加えて4年ほど前からファミリーデーという家族親戚も参加できる企画を始めたのですが、 こうした直接の交流機会を持つことで、すごく良いヒントが貰えるんですね。 早期復職の際の経済的なサポートなどもまさに社員の声で導入しています。たまに『お母さんをあまり働かせないで!』 とお子さん達に半ば悪者扱いされることもありますが。」(品川氏)
こうした直接のコミュニケーションを通じて制度の拡充を図る一方で、「公平感」をどう担保するか、 という点については改善し続けていかなければいけないと話します。例えば女性の上長で女性の部下、 部下にはお子さんがいて育児中の場合に「私の上司は結婚もしていない、子供もいないからわかってくれない」と 上長に指摘するケースは逆差別ではないか、と思うこともあるそう。
「あまりにお母さんばかりを優遇する制度はいいとは思っていないんです。 本当の公平感はどこにあるかというのは難しくて、毎回のさじ加減だと思うんです。 ケースに応じて常に見直し続けなければいけない。一つ一つのケースを吟味しながら 『難しいね』といって僕らが頭を悩ませていくしかないと思うんですよね。それは僕がこのポジションに居る限りの永遠の課題だと思っています。」(品川氏)
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