ファイナンシャルプランナー
氏家祥美さん
FP事務所ハートマネー代表
セカンドキャリアアドバイザー協会理事
子育て世代に向けた家計相談のほか、近頃はリタイアメント層に向けたお金とキャリアのアドバイスも行う。高校生向けの家庭科の教科書で経済パートを執筆するなど金融リテラシーの普及にも尽力している。
両立支援 ミドルシニア 多様な働き方 「人生100年時代! お金と働く お役立ちコラム」
お金と働くことは、充実した人生を送るために重要であり、密接にかかわっています。働く時間は人生において大きな割合を占めますし、生活していくためにはお金が必要です。 人生100年時代、働く期間はより長くなり、必要なお金も増える傾向にあります。
このシリーズでは、「お金」と「働く」について、それぞれの視点から世代ごとに気を付けるべきポイントやアドバイスを専門家に伺いました。
ファイナンシャルプランナー
氏家祥美さん
FP事務所ハートマネー代表
セカンドキャリアアドバイザー協会理事
子育て世代に向けた家計相談のほか、近頃はリタイアメント層に向けたお金とキャリアのアドバイスも行う。高校生向けの家庭科の教科書で経済パートを執筆するなど金融リテラシーの普及にも尽力している。
40代や50代は、働き盛りであると同時に、親の介護が身近になってくる世代でもあります。ここ数年は、コロナ禍で実家に帰るのもなかなか難しく、ふと気がついたら親の介護が現実的なものとなっていたという話も聞こえてきます。
高齢者人口が増え、親の介護と仕事の両立に悩む人もこれからますます増えてくるでしょう。
『高齢社会白書』によると、75歳以上の高齢者の23.0%が要介護状態にあります。さらに、介護までは必要としないものの日常生活において何らかの支援を必要とする要支援状態にある人も8.8%います。親が70歳を超える40代以降では、まさに親の介護が現実的になってきたなぁと感じる人も多いのではないでしょうか。
(図表1)「要介護等認定の状況」
介護生活が始まったらどの程度お金がかかるのか、仕事は続けられるのかなど不安は尽きません。
こちらの記事では、介護にかかる費用、介護離職を防ぐ方法や支援制度について解説していきます。現在介護に悩んでいる方、将来に備えたい方も、ぜひ最後までお読みください。
生命保険文化センターが、過去3年間に介護経験がある人に行った調査によると、介護の初期費用(住宅改造や介護ベッドの導入など一時的な費用の合計)は平均74万円、月々の介護費用は平均8.3万円となっています。また、介護期間は平均で61.1ヵ月(5年1ヵ月)で、これらをもとに計算すると、介護全期間にかかる費用は平均で580万円となります。
(図表2) 「介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)と介護期間」
一方でそれぞれの内訳をみてみると、介護の初期費用については平均で74万円に対し、「かかった費用はない」が15.8%、「15万円未満」18.6%と、それほどかけていない人も結構な割合でいます。
月々の介護費用の平均は8.3万円ですが、「1~2.5万円未満」が15.3%いる一方で、「15万円以上」と答えた人も16.3%います。
介護期間については、「4-10年未満」と答えた人が31.5%と最も多く、「10年以上」と回答した人も17.6%います。 また、介護期間の平均は、最新の調査では61.1ヵ月(5年1ヵ月)でしたが、これは前回2018年度の調査54.5ヵ月(4年7ヵ月)から、半年以上長期化しています。
この調査により、介護期間が長期化していること、人によって介護費用に差があることが見て取れます。
では、なぜ介護費用に差が出るのでしょうか。その理由は主に2つあります。
1つは「要介護度のちがい」です。月額の介護費用を要介護度別に調べた調査では、要介護5の場合、平均で月額10.6万円を自己負担しています。介護保険制度を活用しても、要介護度が高いほど必要とするケアが多いため、やはり費用がかかる傾向にあります。
(図表3) 「要介護度別介護費用(月額)」
2つめは「介護をする場所のちがい」です。
下の表にあるように、在宅での介護は、月7.5万円未満が全体の約6割を占め、平均費用は4.8万円となっています。それに対し、施設での介護は、月10万円以上が全体の7割、平均費用は12.2万円となっています。
(図表4) 「介護を行った場所別介護費用(月額)」
以上のことから、要介護度や介護する場所によって、介護にかかる費用には差があることがわかります。
また、介護費用をだれが負担するかもケースバイケース。親が自分たちの介護費用を用意している場合もあるので、介護の必要に迫られる前に、介護の希望や費用について親子で話し合っておくとよいでしょう。
親の介護や生活で気になることがあったら、まずは地域包括支援センターに相談しましょう。
地域包括支援センターはその地域に住んでいる65歳以上の高齢者と、その支援に関わっている人が利用できる公的な窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネージャーという3つの専門家が必ず配置されていて、介護全般に関わる相談や手続きをワンストップで行えます。要介護認定の申請や介護サービスの利用手続き、介護事業所の紹介などもしてもらえます。
親と離れて暮らしている人は、帰省した際に、実家近くの地域包括支援センターを訪れてみてはいかがでしょうか。
実際に親の介護の必要性を感じたら、「公的介護保険の利用申請」をしましょう。介護保険被保険者証が交付されます。公的介護保険を利用することで、対象となる介護サービスを自己負担1割(所得により、2割負担、3割負担)で利用できます。
次に、親が暮らしている市区町村の窓口に、介護保険被保険者証を持参して、「要介護認定」の手続きをしましょう。後日、調査員やケアマネージャー等が自宅を訪問して、心身の具合から介護の必要性をチェックします。この調査結果と医師の意見書を参考に、要介護度 (非該当、要支援1~2、要介護1~5のいずれか)の判定がなされます。
判定された要介護度ごとに公的介護保険の利用枠が設定されています。図表5は、在宅で介護サービスを受けた場合の要介護度別の支給限度額の一覧です。限度額の範囲内であれば自己負担1割(所得によって2割、3割)で介護サービスを利用できます。ただし、限度額を超えて介護サービスを利用した場合、超過分は全額自己負担となります。
(図表5) 「要介護度別支給限度額」
親の介護が必要になったら、支援制度を確認しましょう。
介護をサポートするための公的な制度や、働いている会社独自の制度もあります。
遠く離れている親に介護が必要になったとしても、親を呼び寄せたり、仕事を辞めて親元に帰ったりすることを考える前に、まずは遠距離でもできることから考えていきましょう。
介護休業制度は、働きながら要介護状態の家族の介護をする場合に取得できる休業制度です。その対象となる家族には、配偶者、親、祖父母、子どものほか、配偶者の父母、兄弟姉妹、孫なども含まれます。家族が要介護2以上もしくは、2週間以上の期間にわたって介護が必要な場合に、対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。パートやアルバイトなどでも一定要件を満たせば取得できる可能性があります。介護休業中は、「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」の介護休業給付金が支給されます。
詳しくはこちら
介護休暇制度は、対象家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで。通常の有給休暇とは別に利用できます。こちらは1日単位もしくは時間単位で取得可能です。病院の付き添いやケアマネージャーとの打ち合わせなどにも使いやすい制度です。なお、有給とするか無給とするかは特に規定がないため、勤務先に確認しましょう。
詳しくはこちら
企業によっては、大切な社員の介護離職を防ぐため、家族の介護が必要になった従業員に対して、独自の制度や相談窓口を用意している場合があります。一人で悩まず勤務先にも早めに相談してみましょう。
介護をしながら仕事を続けている人は多い反面、「仕事と介護の両立が難しい」「職場の人に迷惑をかけたくない」などの理由から、退職を考える人も少なくないのではないでしょうか。しかし、こういった介護離職には、次のようなリスクが伴うこともあります。
公的介護保険などの制度を活用することで自己負担は減らせますが、それでも介護にはお金がかかります。仕事を辞めた場合、収入がない中で、生活費と介護費用を負担し続けることになります。介護はいつまで続くか先が読みにくいだけに、お金の不安が、精神的にも大きな負担になることも。
離職期間が長くなればなるほど、いざ働こうと思った時には、再就職先がなかなか見つからないという状況に。また、介護に支障が出ないペースで働ける環境を探すのも難しく、復職のハードルは高くなります。
退職すると、仕事をしていた時に比べて、関わりを持つ人が家族や一部の人に限られ、社会から孤立したような気持ちになることも。介護は、肉体的にも経済的にも負担が大きいため、それが精神的負担につながります。介護うつなどにならないよう、介護する側の心身のケアも大切です。
親の介護をしながら仕事をしている人は、実は多いもの。75歳以上の3割以上が要支援・要介護状態になっていることを考えると、あなたの周りにも親の介護をしている人はいるはず。子育てと違い親の介護は先が見えにくい上に、外部サービスなどの利用により、ある程度のお金もかかります。慌てて仕事を辞めてしまうと、あなた自身が経済的にも精神的にも行き詰ってしまうことも。
「親の介護が必要かな」と思ったら、まずは実家近くの地域包括支援センターに相談してみましょう。介護休業や介護休暇、介護保険制度などを上手に活用して、今の仕事を続けながら親の介護を始めるヒントが見つかるはずです。併せて勤務先にも早めに相談することで、職場の理解も得やすくなります。
親の介護が必要になった時、一人で考えて結論を出す前に、まずは周囲の人や介護支援窓口などに相談し、あなた一人の負担が重くならないようにしていきましょう。
気づいたら現実的なものになっていたという人も多いのが親の介護。「今の仕事と両立していけるかな?」「介護が必要になる前に準備しておいた方がいいことは?」そんな不安や疑問を抱えている方に向けて、今回は仕事と介護と育児の3つの両立に悩んだ実体験からのアドバイスを伺いました。
私の場合は、母が70代前半で認知症を発症しました。実家で母と一緒に暮らす父を中心に、家族で協力しながら在宅(実家)で介護を行うことになったのです。当時、私の子どもは3歳と5歳。仕事と育児の両立に追われる毎日の中、さらに週1日は実家に帰省して介護を手伝う日々へ。約5年間の在宅介護を経て、現在は母の症状が進行したため施設に入所しています。私が実体験から感じる、介護に向けて準備しておいた方がいいと思うことをご紹介します。
介護とひとくちに言っても、調べてみると介護の方法にはさまざまな選択肢があることがわかります。在宅介護と施設介護のどちらを希望するのか、また施設と言ってもそれぞれ種類や特徴がありますので、どういった生活を希望するのかによっても異なります。もちろん心身の状態や金銭的な状況によっても介護の方法は変わってきますが、本人がどんなことを希望しているのか、事前に知っておくことは大切だと思います。我が家の場合は、母が意思表示できる状態の時にきちんと会話をして、「子どもたちに迷惑をかけるよりも施設に入りたい」という方向性を確認していたので、認知症が進行した際に迷うことなく施設での介護を選択できました。
家族でもお金に関する話はしにくいものですが、介護にかけられる費用は明確にしておくことが大切だと思います。我が家でも、親はどれくらいの蓄えがあるのか、子どもは三きょうだいなので、それぞれがどれくらい出せるのか、腹を割って話し合いを行いました。そこで介護にかけられる金額を家族で共有できたことで、施設探しがスムーズに進んだと思います。施設探しにあたっては、民間の介護施設紹介センターを利用しました。そこは、無料で相談でき、身体状況やケア内容、介護にかけられるお金、エリアなどの希望条件を伝えると、専門知識を持ったスタッフが希望に沿った施設を紹介してくれます。その後、施設の見学に行って、設備やスタッフのクオリティなどを本人と家族の目でチェックし、入居の際には、入居金と月額利用料の試算なども細かく行いました。 介護はいつ終わるかわからないため、施設選びはもちろん費用の面が大きな条件となってきますが、母がどんな生活をしたいかなどの希望も含めて施設を選ぶことができ、施設選びはうまくいったかなと感じています。
「実家じまい」という言葉を知っていますか?親が他界した時や施設に入る時などに、住んでいた実家を処分することを言うそうです。うちは父がまだ実家に住んでいましたが、母が施設に入る前から少しずつ始めることにしました。その中でも最も大変だったのが荷物の整理です。「捨てる・残す」の判断をして、売却の手配やゴミ処分も一苦労です。母の希望もあり、主に娘である私がやることになり、毎週末実家に通って「実家をコンパクトに畳む」ことに取り組みました。何気なく置いてある荷物であっても、母に聞くと「これは大切な貰いものだから、あの人に譲りたい」「これはあなたに使ってほしい」ということも。母の認知症が進む前に、母の要望を聞きながら進めたことで、ものや人への想いも引き継ぐことができたと感じています。ただ、一軒家にある荷物の量は想像以上で、かかった期間は約半年。とにかく大変でしたので、できるうちから親と相談しながら、少しでも荷物を減らしておくことをおすすめします。
私の仕事と介護の両立方法は、働き方を変えたことです。それまでのように正社員としてフルタイムで働くのではなく、週3日・週4日勤務などの「時短勤務」に切り替えることで、うまく仕事・介護・育児を両立できるようになりました。 私はもともと新卒で入社した会社で正社員として16年勤務し、仕事と子育ての両立をしてきたので、介護が始まった当初は何とかこのまま続けていけるのではないかと考えていました。しかし、実家との距離が少し離れていること、介護に加えて実家じまいも同時に行っていたことから、どうしても週1日は介護に使える日が必要になったのです。最初は週末に実家に帰っていましたが、その分、子どもと過ごす時間が減ってしまい、さらに心身の疲れによるストレスで子どもに対しても怒りっぽくなってしまうという悪影響も。このままではダメだと思い、今何が一番大切なのかを考えた結果、家族を優先するために思い切って正社員を辞めることにしました。ただ、そんな状況の中でも可能な範囲で仕事は続けたかったので、正社員を辞めることを決めてからすぐに仕事探しを始めました。こだわったのは、介護で平日実家に帰れる時間を作るため「週4日勤務」ができること。この条件で仕事探しをするのはなかなか大変でしたが、その中で見つけたのが「ZIP WORK」という短い時間でも勤務日数が限られていても、身につけたスキルや能力を活かせる働き方。フルタイムの正社員ではなく、派遣スタッフとして1日5時間、週4日勤務の企業広報の仕事を始めることができました。
派遣スタッフとして働き始めた当初は「週4日・時短勤務で、周りに迷惑をかけないだろうか」と不安を感じていました。しかし私が配属された職場には、私と同じように、フルタイムではなく変則的な勤務時間で働く人もいて、スムーズな仕事の進め方などを学ばせてもらいました。正社員として働いていた頃はそれ以外の働き方を意識したことはありませんでしたが、いざ自分が正社員以外の立場になってみると「こんな働き方もあるんだ」「短時間でもイキイキと成果を出している人がいるんだ」と驚かされることも多く、自分の視野が大きく広がったと感じています。 さらに現在は、その時のご縁から業務委託へと働き方を変えました。業務として請け負うので、働く時間は個人の自由。プライベートとのバランスがより取りやすくなり、子どもとの時間が増えたので、家族も喜んでくれています。また、介護については、現在はコロナ禍のため母が入所している介護施設への訪問が難しい状況ですが、今後状況が変わっても今の働き方なら、臨機応変に対応できて介護とも両立しやすいのではないかと思います。
社会や企業にもさまざまな支援制度があり、そういった制度を使って介護と正社員としての働き方を両立している人も多いと思います。ただ、もし今の働き方で両立に難しさを感じているとしたら、一度これからの働き方について考えてみてもいいのではと思います。 私自身、介護との両立をきっかけに働き方を変えたことで、正社員時代には思ってもみなかった道を歩んでいます。介護や育児と両立しながら働くことは大変ですが、今の自分にとってどんな働き方ならできるのかを考え、できる範囲で働き続けることが大事だと思います。特に最近は、働き方の選択肢が広がっているように感じます。一歩踏み出すことで、想像もしていなかった道が見つかることも。人生100年時代、働き方もライフサイクルに合わせて変えていってもいいのかもしれません。私自身も、これからも子どもたちの成長や介護などの状況に合わせた働き方を考えていくつもりです。